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 部屋の戻るとしばらくしてグラハムがやって来た。

 「失礼します」

 「はい、どうぞ」

 私は窮屈なドレスを脱いでもと着ていたコットンのドレスを着ていた。

 「先ほどはとてもご立派でした。シャルロット様」

 「とんでもありません。私など…」



 「それで、先ほどのお話の事ですが、ご無理をなさらなくてもいいんですよ。あなたがそんな事をしなくても…」

 「いいえ、私はどうしてもやりたいんです。カロリーナの事もお母様の事も…このまま見過ごすわけには、そんな事をすれば自分が許せなくなりますから」

 「ええ、お気持ちはごもっともです。わかりました」

 グラハムはエストラード皇国にいる反乱組織<義士隊>についてわかっている事を教えてくれた。

 それはもとコステラート皇の宰相だったラッセル・ジェルディオンのご子息たちが中心となっているらしい。

 レオン・ジェルディオンとヨーゼフ・ジェルディオンのご兄弟は、ランベラート皇王とエリザベートの悪事を暴くために、元ブランカスター領地の領主様だったブランカスター公爵や、元リシュリート領地の領主様だったリシュリート公爵とも連携を取ってランベラート皇王の悪事を暴く計画を立てているらしい。



 元々エストラード皇国はエストラード領地の領主様のエストラード家。

 ブランカスター領地の領主ブランカスター家。

 リシュリート領地の領主リシュリート家。

 この3つの領地が一つの国になって出来た国だった。

 その3つの領地をまとめたのが初代皇王となったジョセフコールで、彼はコンステンサ帝国との戦いで素晴らしい勝利を勝ち取りエストラードに勝利をもたらした。それにアウストリア帝が感銘を受けてジョセフコールが王となるなら戦いをやめると言い出したのだ。そしてアウストリア帝から任命を受けて皇王となった。

 ジョセフコールはアウストリア帝の娘であったカロリーナを聖女に迎え3つの領地の統合に成功をする。

 そしてカロリーナを妻に迎えた。

 子供のいなかったジョセフコールは次の皇王はもともと領主だったエストラード家の人間になってもらうつもりだったが、エストラード家の者に毒殺されてしまった。

 カロリーナはアウストリア帝に呼び戻されて仕方なくコンステンサ帝国に帰った。

 というのがエストラード皇国に関する歴史だった。



 

 「それで、シャルロット様には皇都のデルハラドのヨーゼフ様のところに行っていただければと思います。カロリーナ様があのようなことになってあちらもきっと新しい魔女を探しておられると思いますので、アドリエーヌ様の娘であることは伏せておかれまして、そうですね…カロリーナ様のお弟子だったということにしてはいかがかと…」

 「ええ、そうですわね。お母様の事は誰にも言いません、カロリーナもそう望んでいるでしょうし、カロリーナの弟子。そうですよね。それが一番わかりやすくていいですわね」

 私はぎくりとなる。

 弟子?私は封印は解いてもらったとはいえ魔力なんてほとんど使ったことないのに…

 あっ、そう言えばアルベルト様に…でもあの時は夢中だったから、またあんな事が出来るかもわからないし、困りましたわ。グラハム様にこんな事言っていいの?



 「ええ、シャルロット様なら魔力も大きいでしょうし、カロリーナ様と一緒だったのですから心配ないでしょう」

 当然のようにそう言った。

 王族の方は魔力があるのが当然だと聞きましたけど、そう思われても不思議ではないですが、何しろ私、初心者なので…

 とも言えず見つめて来る彼に頷くしかない。



 そう言えば<義士隊>のヨーゼフ様ってジェルディオンと言ったわよね?

 ヨーゼフ様とレオン様の兄弟はお父様のカールと関係が?

 「あのヨーゼフ様たちはジェルディオンと申されるのでしたよね?もしかしてカール・ジェルディオンと関係があるのですか?」

 「ああ、そうでした。ヨーゼフ様のお兄様がカール様でして…と、言うことはヨーゼフ様があなたの叔父さまということに…」

 「噓みたいですけど。そう言うことになりますね。何という偶然というかやっぱり運命なんでしょうか…」

 私は驚くしかない。



 グラハム様は言いにくそうにしながらも話をつづけた。

 「まあ、そんなこともあってでしょうか彼らが義士隊の中心的存在になったのではないかと…ヨーゼフ様は医者をしておいでとか。レオン様は白ユリ騎士団で副隊長をされていて同じ騎士団の第一部隊の隊長がアルベルト様と聞いております」

 えっ?アルベルト様って白ユリ騎士団の第一部隊所属なの?そしてヨーゼフ様とレオン様って言う人がお父様の弟で…

 またしても驚きの連続!これって、もう運命としか思えないわ。



 「…」

 「とにかく今はすべて秘密にして頂いて」

 「ええ、そうでしたわ。私はアドリエーヌとは関係ない者。となれば孤児という事にでも…両親は赤ん坊のころ亡くなって全く分からないとしておけばいいですわね」

 「はい、完璧です。では私はこれで、でもいつでもやめてかまいません。くれぐれもご無理はなさいませんように。それから旅に必要なものはこちらでご用意しますので、着替えやお金などご心配なさらないように。では後程、また晩餐の準備が整いましたらお呼びに上がります」

 「はい、ありがとうございます」

 私は深々とお辞儀をしてグラハム様にお礼を言った。



 「あっ!大事なことを忘れるところでした。アドリエーヌ様は皇帝陛下から守護の宝輪を言う腕輪を持たされたのですが、それは返されていないんです。”守護の宝輪”は持ち主に危険が迫ると光を放って身を守るという特性がありまして、攻撃は出来なくても防御の役目を果たすそれは優れたものでして、それに持ち主が自分から手放す意思を持たない限り外れない仕組みなのですが…次の聖女になったエリザベートの腕にあるらしいのです。なのでエリザベートに接近する際には充分気を付けて下さい。あの腕輪は本当ならシャルロット様のものになるはずだったのに…」

 グラハム様が悔しそうな顔をした。



 「その方がそのようなものまで…きっと取り返します。お母様の形見なんですもの」

 「ええ、でもくれぐれも気を付けてください」

 「はい、色々教えて下さりありがとうございました。あの…もしよければお母様のお墓にお参りしたいのですが…」

 「ああ、そうでしょうね。私としたことが気が付きませんで…お墓は宮殿の裏にあります。後で案内いたしましょう」

 「ありがとうございます」

 「とんでもありません。では、のちほど…失礼します」



 グラハム様が出て行くと、どっと疲れが出た。

 四中式の立派なベッドにどさりと身体を横たえた。

 もうこれは心を決めるしかなさそうだ。

 エストラード皇国に行って義士隊のお手伝いをする。魔力は心配だが、それは何とかなるのではないだろうか。

 魔女見習いで、まだカロリーナから本格的な魔法は教わってないとでも言えばいいだろう。

 王族としてではなく平民の見習い魔女としての扱いだと思えば気も楽になった。

 それにしてもお母様もカロリーナもあのランベラート皇王とエリザベートのせいで…絶対あのふたりを倒さなきゃ。

 それにアルベルト様を必ず次の皇王に、彼もきっとそれを目指してるわ。

 私、頑張るから…お母様、カロリーナお願い力を貸してね。

 私は心の中で祈った。



 しばらくしてグラハム様がお母様のお墓に連れて行ってくれた。

 お母様のお墓は、コンステンサ帝国の初代の王フィリップ・フォン・イシュビックのお墓から代々の王族がすべて祀られてある王墓の中にあった。

 お母様のお墓は一番端にある小さなお墓だった。

 『アドリエーヌ・フォン・イシュビックとその子供 ここに眠る』



 私はそのお墓を見るとおかしいほど泣き崩れた。

 「おかあ…さ、ま…うぐぅ…グスッ…」

 逢ったことも、声すら聞いたこともないお母様。でも、お父様も殺されてたったひとりで私を生んでくれたお母様。

 ここに書かれているその子供とは私の事なのだ。お母様は何か身代わりのものを子供に見立てて私を守ろうとしたのだろう。

 私を守るため命をかけてくれた人だとはっきりわかった。

 そして何より私を残して死んでしまうのがどれほど辛かっただろうと思ってしまった。

 もしお母様が機転を利かせていなかったら私も一緒に死んでいたのかもしれない。

 気づけばお母様のお墓にすがりついていた。



 グラハム様が「大丈夫ですか?」と声を掛けて下さりそっと私の背中をさすって下さった。

 そして私にニオイイリスの花を手渡してくださった。

 「この花はアドリエーヌ様が大好きだったお花です。それにこの花はこの国も紋章にも描かれているんですよ。シャルロット様の指輪にも」

 「もしかしてニオイイリスですか?」

 「ええ、ご存知ですね」

 「カロリーナに教えてもらいました。健胃や利尿効果があるんですよね、他にも高級な香水にもなると…それに花は大きく25㎝にもなるらしいですが見たのは初めてです」

 私は照れくさくてたわいもないことをベラベラとしゃべった。



 「さあ、お母様に…」

 「はい、グラハム様ありがとうございます」

 私はその小さなお墓の前にニオイイリスの花を手向けた。

 その花は甘美なスミレの匂いがした。

 鼻腔をあまやかな香りで満たされて私は手を合わせた。

 心の中でそっとお祈りをする。

 ”お母様やっとお会いできましたね。私はカロリーナに立派に育てていただきました。きっとお母様のご無念を晴らしますから、どうか安心してお休みくださいね”



 「グラハム様願いを聞いてくださってありがとうございました。ではそろそろ支度がありますので失礼します」

 「ええ、そうですね。侍女がお手伝いに伺いますのでどうかご安心ください」



 その夜はクレティオス帝と晩餐を共にして、素晴らしいごちそうを頂いた。

 緊張のあまりほとんどその素晴らしい味を感じることは皆無だったが、とにかくクレティオス帝はすこぶるご機嫌がよかった事だけは印象に残った。



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