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60最終話
しおりを挟むムガルに着くとどうした事かどの宿も部屋がいっぱいで最後の宿でとれたのがふたり用の部屋がふたつだった。
「仕方がない。今夜は俺とシャルロット、レオンとリンデンに別れて寝よう」
「ああ、俺達はいいですけど、アルベルト殿下シャルロット様はまだ…その、あれですよね?一緒の部屋でいいんですか?」
リンデン様たちが驚いた顔をした。
あっ、でも私たち。その…初めてというわけでもないんですけど…心の中で突っ込んでみる。
「俺がそんなひどい男に見えるのか?シャルロットはさっきひどく恐ろしい目に遭ったんだ。今晩はずっとそばで彼女に付いていたい。それだけだ。シャルロット安心しろ、君はゆっくり休めばいいから」
「ええ、アルベルト様…もちろんですわ」
私はぎこちない笑顔を浮かべた。
「ほら、やっぱり…シャルロット様何かあったら大声を出してくださいね。俺達がすぐに駆け付けますから、結婚前に一緒の部屋に寝たなんてクレティオス帝が知られたら大変なことになります。もしかするともう孫娘は嫁にやらん!なんてことにもなりかねませんから…そこのところわかってますよね陛下?」
「も、もちろんだ。安心しろ!」
アルベルト様の顔が強張り言い放った声も微かに言いよどみが…
とにかく部屋はそこしかないので宿の主人に部屋を頼んだ。
空いていた部屋は向かい合わせの部屋で廊下の前でまたレオン様たちが何か言いたげな様子だ。
アルベルト様はそんな雰囲気を察したかのように私に優しく声を掛けた。
「疲れただろうシャルロットとにかく早く休んだ方がいい。さあ、部屋でゆっくりするといい」
「はい、ありがとうございます」
アルベルト様は彼らを睨みつけ、私の腰に手を回すと身体を気遣いながら中に入って行く。
部屋はこじんまりとした部屋で、ぐるりと見まわすとテーブルと椅子が二脚、ベッドはふたり用なのか広い大きなベッドがあり、きれいに洗濯されたであろう敷布が掛けてある。すぐ向こうにドアがあった。きっとお風呂があるのだろうと思った。
ほんとに寝るためだけの宿のようですね。
「シャルロット風呂に入るか?準備して来よう」
「あ、私が…」
「いいんだ。君は疲れてるだろう?それに煙に巻かれたせいで身体もきれいにしたいだろう。ここに座ってて…あっ、それからおかしなことはしないと約束する。きみはとても疲れているんだ。そんな時に…その、いいんだ。だから何も心配しなくていい」
アルベルト様はしゃべりながら上着を脱いで椅子に掛けた。
「はい、ではお願いします」
アルベルト様は私を椅子に座らせると、きびきびと動かれてそれはもう流れるような身のこなしでお風呂場に消えました。
食事は簡単に近くの食堂で済ませていたので後はもう寝るだけですので…
ええ、もちろんお風呂には入りたいです。
髪はスモークチップのようなにおいがしているし、身体もすっきりしたいですけど、この後の事を考えるとどうしていいかわからなくなります。
だって今夜は彼と一緒のベッドに寝るんですから。
でもあの様子だとわたしに指一本触れる気はなさそうですよね…
アルベルト様はあんな風に言われましたけど…
実は私…馬に乗って、その…間が擦れたせいか、彼とピタリと身体を合わせていたせいか、初めて身体を重ねた時の事を思い出してしまいまして、身体の奥がずくりと疼いてしまい。
でも、彼は私がまだとても疲れていると思われているご様子ですが…
でも、私あの腕輪のせいか、身体はもうすっかり元通り元気なんです。が…そんな事言えそうにありません。
「シャルロット準備できた。さあ、ゆっくり入って来て」
「でも、アルベルト様こそ疲れていらっしゃるんでしょう?先に入って下さい。私はここで待ってますから、どうぞお先に」
「ばかだな。そんな事気にしなくていい。さあ、入っておいで。それともひとりで入るのは無理そうなのか?」
ギクッ!
そうです。その手がありました。私から誘うなんてとても出来そうにはありませんが、一緒にお風呂に入れば…アルベルト様もその気になるかも知れませんわ。
「そ、そうですか。では遠慮なく先に入らせていただきますね…」
私は椅子から立ち上がった。
おかしなことを考えたせいで動揺してしまった。
そして一歩脚を踏み出したその瞬間。ふらり身体が揺れて床に倒れて込みそうに…
「危ない!シャルロット大丈夫か?やっぱりひとりでは無理そうだ。そうだ。やっぱり俺が一緒に手伝おう」
「そ、そんなの…アルベルト様恥ずかしいですから、もう、大丈夫ですから、私ひとりで入れますから…」
恥ずかしい。すごく恥ずかしいです。こんなのやっぱり無理かも…
彼の身体がピタリと密着して私の髪をクンクンと。
「でもシャルロット髪も洗わなくてはならないだろう、やっぱり俺がついて行こう。もちろん俺は裸にもならない。安心してくれ!」
はっきり何もしない宣言、こんな時まで彼は紳士です。
何だか、私に魅力がないみたいに思えてきました。
もう彼の言う通りにした方がいいかもしれません。
そこまで私に触れたくないと言われるのであれば今夜はそんなはしたない事を考えるのは諦めます。
「わかりました。私はあなたを信じてますから…」
彼のひたむきな黒水晶のような瞳を見つめると彼にすがりついた。
だって、私は彼の腕に絡めとられていてひとりでは起き上がれない状態でしたから。
「も、もちろんだ。さあ、俺の腕につかまって」
アルベルト様は私をたくましい力で抱き上げられると、お姫様抱っこでお風呂場に連れて行かれました。
「脱いだら言ってくれ。風呂場まで運ぶから」
「はい」
私はその場で着ているものを一枚ずつ脱いで行きます。彼は後ろを向いてじっと待っています。
いえ、はいていたトラウザーズは脱がれて上はシャツ一枚になられました。
こうなったら彼の言う通りにした方が良さそうです。
「あ、あるべると様、準備出来ました」
私はおずおずと何もつけていない裸体になるとそう告げた。恥ずかしくて腕で胸を隠して脚をすり合わせて姿で。
「ああ」
アルベルト様が振り返って私の裸体を見た。
私は見る見るうちに身体じゅうが、かぁっと熱くなってまるで火あぶりの魔女みたいに全身が赤くなってますが。
とても彼を見てはいられませんので顔は下にうつむいたままです。
「シャルロット大丈夫、心配ない。君の裸は前にも見ただろう?恥ずかしがることなどない。なのにこんなに赤くなって君は本当に…いや、何でもないんだ。コホン」
彼は顔を逸らして私に近づいてこられます。
「さあ、風邪をひくぞ、早く風呂に入った方がいい」
私はまたお姫様抱っこされてお風呂場に入ります。
「まず、温まった方がいい」
「はい」
私を浴槽に中にそっと立たせるようにさせるとアルベルト様はさっと出ていかれようと。
「髪を洗うときは俺を呼べ。ひとりではふらつくかもしれんからな」
「いえ、もう大丈夫ですから、髪もひとりで洗えます」
「いや、さっきもふらついた。今日の君はいつもの君ではないんだ。あんな目に遭って普通でいられるはずがないだろう?」
ええ、そうかも知れませんが…私はもうすっかり元気になってますとも言えず…それに彼がそんな優しくしてくれるのもうれしくて。
「わかりました。言う通りにします」
私は湯船に肩までしっかり浸かって身体を温めました。そして湯船から出て身体を洗い始めました。
身体を洗ってから髪を洗うのを手伝ってもらうよう頼むつもりでした。
なのに勝手の違うお風呂場。薄暗い明かり。
さっきまで疼いていた身体の一部に触れてしまって。
ああ…また下腹部がじわじわ引くついてしまって。
もぉぉ、いけない身体。
それでいきなり立ち上がって私は間違って脚を滑らせて危うく転びそうになってしまい。
「きゃー!」
大声を張り上げてしまいました。
慌ててアルベルト様が飛び込んで来られました。
「シャルロット…目を離すんじゃなかった。大丈夫か?怪我は?痛いところはないか?」
すっ裸の私を上から下まで眺められて。
とはいっても体には泡がいっぱいでしたが…
ああ…なのにナカがきゅぅんと疼いてしまいました。
「あ、あるべると様…疼くんです。もうたまらないほど…」
「どこが?どこが疼くんだ?」
アルベルト様は真っ青な顔色で私を見つめて。
「そんな事…い、いえません。あるべると様のいじわるぅ」
私はとっさに半分泣きそうな顔で彼に抱きついてしまいました。
「シャルロット、それではわからない。一体どこが疼くんだ?」
慌てたアルベルト様は私の肩や背中や触れて来られて。
「やっ……ぁあっ…ぁああっ」
彼の大きな手のひらで触れられてまるで電流が流れたかのように肌がゾワリとしてしまい、おかしな声が漏れ出てしまう。
そんな声を出したことで私は思わず唇を彼のはだけた胸元に押し付けてしまい。
「ど、どうした?そんなにつらいのか?とにかく泡を流そう。それから痛いところを…」
彼は急いで体の泡を流し落とすと、少し私から離れて私の肌を見回されました。
「はて?どこにも怪我はないようだ。それとも脚をくじいたか?」
「ち、違うんです。う、疼くのはナカで…」
「ナカ?ナカとは?お腹か?」
「も、もぉぉ、何でもないですから。アルベルト様はやっぱり意地悪です!いいからもう出て行って下さい。ひとりで大丈夫です!」
本当はもっと違う意味なのに、わからないの?このおたんこなす!
じれじれの皇太子じゃなかったじれじれの皇王のばかやろうです!
心の中で吹き荒れる想いなど全く気づく様子もないなんて…
「でも…そうか大丈夫なら、君が心配なだけで…じゃあ何かあったらすぐに呼んでくれ」
「はっ?」
「だってそうだろう?君を心配してるのに意地悪だなんて心外だ。俺は傷ついた。もう手出しはしないから好きにしたらいい!」
えっ?ちょ、ちょっと待って下さい。まさか怒ったのですか?
いえ、違うんです。私はただあなたともっと…ぐぅぅぅぅ。
本当は私だってもっと素直になりたいのです。
でも…もう少し女心というものをわかっていただきたいのです。
そう思ったら何だかまた腹が立ってきました。
「アルベルト様はあの…あの時の事は過ちだと思われてるんですか?嫌だったのですか?私と、その、契りを交わしたのが」
つい思ってもいない言葉が口から飛び出してしまいました。
「何を言ってるんだシャルロット。私はあの時君が好きだからあんなことになったんだ。例え媚薬を飲んだからと言って好きでもない女性にそんな事をするほど俺は困ってなどいない。君の方こそあの時はただ媚薬のせいであんなことになったのを後悔してるんじゃないのか?だから仕方なく俺との結婚を承諾したんじゃないのか?」
「酷い!ひどすぎます。いくら何でも好きでもないのに結婚するはずがないじゃありませんか!私だって半年前に会った時からあなたの事が好きだったから後悔なんかするはずがありませんわ!」
「あっ!」
「えっ?」
互いの声が重なり合う。
お互いにあの時にはもう好きになっていたと言ってしまった。
「シャルロット今言った事本当か?」
「当たり前じゃありませんか。アルベルト様こそ本当なのですか?」
『当たり前だ。好きに決まってる。決まってますわ』ふたりの声が揃って言う。
「もう、私たちって息ぴったりですね」
「ああ、本当に…今夜本当は君を抱きたかった。でもあんな事があった後で無理を強要したら嫌われるんじゃないかと思うと言い出せなかった。でも君は本当に疲れているようだし…早く身体を拭かないと、髪はまだ洗ってないのか、じゃあ俺が…」
「私もうすっかり元気です。腕輪の魔力をもらったせいで体力がすっかり回復したみたいで、それで…本当は…恥かしいですけどあなたと一緒のベッドに寝ると思うとまたあの日のようなことが起こるのではないかと期待してしまって、それで疼いてたんです。なのにあなたは違う心配ばかりで、それでつい…
「シャルロット…じゃあ今夜君を求めても嫌じゃないのか?」
「…」
それに応えなくてはいけませんか?恥ずかし過ぎて死んでしまうかもしれません。
私はゆでだこみたいに全身真っ赤になってますから。
でも、何か言わないと…私はおずおずを顔を上げます。
アルベルト様の唇が重なって来ました。言葉なんかいりませんでした。
あっという間に引き寄せられ胸は彼の胸に押し付けられました。
大胆に彼の舌が私の唇をこじ開けて中に入って来ると、そのまま私の口の中を貪り粘膜を這いまわり、舌をちゅうと吸われた。
お尻のあたりから甘美な痺れが這い上がってきてたまらず彼の舌に自分の舌を絡めます。
「シャルロット好きだ。ずっとキスしたかった。君に触れたかった」
彼の囁く甘い言葉に私の身体はすぐに熱くなって、もう、頷くしかありません。
それに身体が触れ合った時、その…アルベルト様も私と同じだったのかってわかってほっとしたんです。
愛していますアルベルト様。
応援ありがとうございます!
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