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第三章【管理局の仕事】

第二幕『亜空間奉仕活動』

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 「はいはーい! 注目ー!」

 ……注目するも何も、お供は私一人しかいないじゃないか。

「サリーさん、動いていない世界に正しい入り方なんてあるんですか?」

 私は部屋の窓から外へ出て、空中をサリーさんと歩いている。
勿論、肉体はベッドでお休み中だ。



 今の状態を意識体、アストラル体、エーテル体、魂魄、体外離脱、幽体離脱、明晰夢、好きなように呼称してほしい。



 「今から管理局ルールに則り、違反者講習及び、亜空間奉仕活動の説明を致しまーすっ!」

なんだろう、この満面の笑みで楽しそうな表情は。それに、違反者講習…?奉仕活動って…?

「まず、亜空間への正しい入り方からねぇー。君、数年前も昨日も間違った入り方してるから要注意だよー! あたし達管理者は、そういう入り方して来た人を真っ先に追い出す仕事でもあるんだからねぇ」

「それで、どうやったら正しい方法で入れるんですか?」

「目を閉じてみてー、色を想像するの!肉体が覚醒しないように注意してねぇ」

 とりあえず、言われるがままに目を瞑ってみた。
意識体で目を瞑るのはハイリスクなのだ。下手をすれば肉体が覚醒する場合がある。

「今、何色を想像してるかなぁ? 教えてくんない?」

 目を閉じた状態で想像する色??

「黒色ですね、あと赤色も少々……」

「うーん、うんうん。はーい、それ却下ぁー。ストップだよー」

 目を開けるとサリーさんは指で小さくバッテンをしていた。

「まずね、目を閉じたら想像する色って黒や赤が多いのね。次に多いのが緑かなぁ」

 いったい何がダメなんだろうか。
想像する色によって成功と失敗が分かれるのか?

「つまり、あっちへ入るときは普通に念じて入ると失敗ってことですか?」

「うん、正解ぃ! もう一回、目を閉じて青空に溶け込むようなイメージをしてねぇー。黒でも赤でも緑でもなく、真っ青な空の色を想像してみて!」

「ああ、なるほど……」

 タワーのポスターが青空の写真だった理由がこれかもしれない。
要するに、侵入者は亜空間が赤や緑のフィルムを通したような色で見えるってこと。

「――亜空間へようこそー……って、君、もう目を開けていいよー」

 目を開けると現実世界よりさらに色彩が濃い世界が広がっていた。

少し、ほんの少しだけ青みがかっている。鮮やかで美しい色彩だ。見慣れた町の色全てが新鮮に見えた。

「こりゃすごいや…。ここって昨日来たとこなんですか? 別世界に見える……」

「ほら、こっちこっちー。もうちょっと上に来てみなよー」

 サリーさんは上空から手招きしている。

「あっ! あれはタワーだ。昨日、村山さんに連行されて行った場所……」

 案内されるまま、タワー内部へと入って行く。

「服装はそのままでいいよん。でも、この上着だけは着ててねぇー」

 と、言い終わらないうちにサリーさんは勢いよく上着を脱ぎ始めた。

「ほいっ!これね!大きめのサイズだから君に合うよ!」

 脱いだ上着をこちらへポイッと投げてくる。

「へぇ……、これが管理局の服か。何色だこりゃ? 虹色? 黄金虫色? うーむ……」

「一応さぁ、正しい入り方は教えたけどねぇ、管理者からはタイムリーパーも排斥対象だから、絶対それ着ててねぇ」

 形容し難い色彩の服だった。
肩口には不細工な太陽っぽいシンボルワッペンが縫い付けられてある。



「それじゃあ、外行くからねぇ!」

 サリーさんは管理局の作業服を私に貸しているので、上に羽織っていた薄手のパーカーを着ている。
パーカーのバックプリントも不細工な太陽らしき物体が描かれている。ここの流行なんだろうか?

「あっ、そうだぁ! 一つ言い忘れてたぁー」

 なんだなんだ、何を忘れていたんだ……。

「ここではね、あたしが君の上司だからねぇ。君と村さんはわたしの部下、ここは現界の年齢は通用しないからねぇ。上司の命令には逆らわないでねー」

現実世界あっちでは上司ぶちょう亜空間こっちでも上司サリーさんか、溜息が出そうだ。



「それでサリーさん、いったい何をすればいいんですか?」

 今、タワーの外へ出てサリーさんの後について行っている。
どうやら町外れの方まで行くようだ。
ここでの移動方法、歩く、走る、飛ぶ。
上空を歩いたり飛んで行ったり、移動は簡単なのだ。

「基本的にはあたしか村さんと一緒に見回って、亜空間のルールを覚えることぉ! これが一つ!」

 前述の違反者講習がそれに該当するってわけですな。

「二つ目ー! 巡回しつつ、亜空間に迷い込んだ人を現界へ戻すお手伝いをするー!」

「なるほど、ここに意図せず迷い込んだ人を元の世界へ戻す仕事ですね」

 二つ目はこの人たちのメインワークとも言えるだろう。







 「君さあ、慣れてるよね? テクニシャンじゃないのぉ?」

 ゆらゆら飛びながら指をウネウネ動かして薄笑いを浮かべるサリーさん……。

「慣れてるって……、小さい頃から夢の中で遊び回ってましたからね。これぐらいの高速移動なんか普通にできますよ。大気圏を突き抜けて宇宙空間まで飛んで行ったりしたこともあります」

 そう言うと、サリーさんは横を向いた。
少し、悲しそうな顔をしたのは気のせいだろうか。

「ふぅーん、そうなんだぁ。君はなんだねぇ……」

 またこっちを振り向いて満面の笑みを振りまいている。

『生まれながらのタイムリーパー』、その一言がずっしりと胸に響いた。






「はぁーーい! 到着ぅー! ここでストップねぇ」

 サリーさんは勢いよく手を上げて私の飛行を制止した。
地上に降り立つと町外れの風景が広がっている。音はない、人もいない。街燈も点いてない。動いていない世界だから当たり前か。

「タワーから随分離れましたね? ここに用があるんですか?」

「ん? こんなの離れたうちに入らないよん。村さんは今頃、隣県の巡回してるよー」

 確かに現実世界での距離は数十キロだけど、ここではそれが通用しない。タワーから町外れまでせいぜい数十秒と言ったところだ。

「じゃ、任務開始するねー。こっちこっち!」

 上空へ飛び上がったので私もそれに続いた。

「あそこに人がいるの解るかなぁ?」

 サリーさんが指差した先に、確かに人がいる。
明らかに不審な動きをしている。

「なんですかあれ? あの人なにをしてるんですか??」

動きがおかしいのだ。見えない壁に向かって体当たりしているような、一人でプロレスごっこをしているようで実に滑稽だ。

「ふふふっ! おかしいよねぇ。まるで昨日の君の動きにそっくりぃー。」

「……え!!」

「解ったかなぁ? あの人、止めないとねぇ。壁壊してタイムリープしちゃうよぉ」

 滑稽な動きは、時間の壁を壊そうとしている動作だったのだ。

「やばいじゃないですか! 止めないと壁が……!」

「君、心配するのはそこなの? 壁は直せば元通りになるよねぇ? でも、あの人はアーカイブ・ホリックになるんだよぉ。止めないと、繰り返し繰り返しタイムリープを続ける因果が待ってるんだ……」








 少しずつ少しずつ、壁を破ろうとしている人に近づいていく。

「君が行って止めてきなよー。ああいうタイプはあたしが言ってもダメなんだ。無理矢理タイムリープしちゃうだろうねぇ」

「――なるほど、そういうことですか。確かに私が止めないと……」

そこで壁を打ち破ろうと必死にもがいているのは、私のよく見知った顔だった……。






 ――そして、私はその男に近づいた……。
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