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にじゅうよん
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「おや?早いお戻りで」
教会の門の中にいたエミルが片眉を上げルーカに問うような視線を向けた。
「出たんだ。」
まるで幽霊に出くわした様に言うのでエミルが益々困惑して眉間の皺を深くしている。
「エミル様はカイヤさんのことご存知なんですか?」
「カイヤだと?…」
まるで天敵の名を上げられたかのような不快をあらわすその顔が怖い。いったいカイヤさんって…
とミーアも困惑していた。
「そうですか、まぁ、できればミーアが行く前に排除したかったですが出くわしてしまったものは仕方ないですね。それで、きちんと巻いてきたのですか?」
「まぁね、でもミーアをしっかり敵認定したみたいだったから。やっぱり泳がす、から、つぶ……」
つぶ?
ミーアが耳をすまして聞き耳を立てていると途中で言葉が途切れた。
あれ?と思いミーアが見上げるといつもの笑顔を浮かべたルーカが見下ろしていた。
「ううん、何でもない。」
気にするなとばかりに頭をポンポンとされて腑に落ちないミーアであった。
けれど午後からはザヌーゾ伯爵の領地にある屋敷に行くのだからとミーアは追撃をやめた。
「行きましょうか。」
「あ、行く前にひとつ。ミーア、あちらでどんな事態になっても俺やエミル司祭の側を離れない様にしてね?」
「はい!」
ミーアの緊張した面差しにルーカが良しと頷き移転の魔法を発動する。
毎度の事ながら見事な移転魔法だ。魔術師団の師団長よりも発動までにかかる時間が短い。
更に1人で建造物の移転まで行えてしまうのだからルーカが如何に規格外であるかがわかる。
移転魔法は本来なら数人の魔術師が協力して発動する魔法なのだが師団長様は1人でやるんだと冒険者協会に訪れた警邏の人から驚きとともに聞いたことがあるがルーカはその更に上を行く能力の持ち主の様だ。
リア婆ちゃん、私の雇い主はどうやらとんでもないお方の様です。
ミーアの視界には先程とは全く別の景色が映っていた。
長閑な住宅街はけれど人が出歩いている様子は無く、商店も無人のように見える。きっと忙しい時間帯に来てしまったんだろう。
「魔法が張り直されている」
「…若しかすると既に餌にありつけたのかもしれないね。」
二人で会話をするのでミーアは何のことだろうと首を傾げる。
「ミーアは俺が抱いて行くから、エミル先に行ってくれるよね?」
「仕方ないですね。しかし、高く付きますよ?」
にやりと笑うエミル様は相当に人の悪い笑みを浮かべているのに金の瞳はどこまでも綺麗で悪魔の微笑を彷彿とさせる美貌だった。
きっと受付嬢のキャルさん達がいたら卒倒したことだろう。
「それで?借りられたの?」
「はい。ちゃんと屋敷の見取り図ともしもの時の精霊水晶もバッチリですよ。」
「え?いつの間に」
そう言えばエミル様は王宮に避難なされた大主教様達にお話しがあって王宮に向かったんだった。と思い出したと同時にどんな手を使ったら精霊教会の宝と言われる精霊水晶を借りてこれるのかと驚くしかない。
「あれがザヌーゾ伯爵の屋敷かぁ、なんか禍々しいね」
ルーカの声は軽い調子だが眼差しは厳しい。全く笑えないとその目が言っている。
闇に囚われし魔物は瘴気と呼ばれる毒であり有害物質である黒い靄を出し小さな動物であれば瘴気で皮膚が朽ちて死んでしまう。
その瘴気に覆われた屋敷は瘴気に意志でもあるのかと思うほど揺れ動きこちらを警戒する様に引いていく波の様に蠢いた。
「行きますか。ミーア、怖かったら眼を閉じといて良いからね」
ルーカが地を蹴り浮かび上がると眼下に広がる辺り一帯に向けた六方の陣を発動させた。
六角形の星の様な形をとる魔法陣が発動と同時に屋敷の方で音が鳴った。魔法がパン!と音を立てて弾けたのだ。
それと同時にエミル様が動いた。
流れる様に移動して行くエミル様の後を追う様にルーカが続く。
屋敷の門の中は荒れ果て、庭や枯れた噴水が見える。
足を進めると屋敷の中では使用人らしき人達がものも言わぬ石像となっていた。
そして2階に続く階段へと向かった時だ。
エミル様の足が止まった。
階段の上に何かがいる。
ひっ!とミーアは息を呑む。
ゆらりと揺れた黒い物体がうごうごと蠢いて階段を落ちる様に降りてくる。
ずり、ずりっ、と動く物体は良く見れば人の形をしていた。
『あん、たは、死ねばいい…わたく、しが、ルがぐ、が…』
人が喋った様には聴こえなかった。
けれどもそれは、たぶん人なんだ。
「ねぇ、ルーカさん、あれ、ルーカさん、あれ…」
「うん、たぶんパオラって娘だろうね?大丈夫、苦しまない様に殺してあげるから。」
どこが大丈夫なのか分からないがミーアは話が理解できないままルーカに抱きついた。
サクッと殺す発言のいったいどこが大丈夫なのかわからない。
ルーカの頭の中でどんな結論になったのか全く理解できなかった。
「だだだだめ!わ、わたし、が、やってみるから!お願いルーカさん」
ルーカは知らっとした顔で瘴気ときっと中にいるだろうパオラさんと邪黒の蛇の方を見てからミーアを見て、また、瘴気の方を見てミーアを見て頭を掻き毟る。
「なんで、なんであんな自己中な女の為にミーアを危険に晒さなきゃならないんだ!?くそっ」
と蹲って唸りだした。
教会の門の中にいたエミルが片眉を上げルーカに問うような視線を向けた。
「出たんだ。」
まるで幽霊に出くわした様に言うのでエミルが益々困惑して眉間の皺を深くしている。
「エミル様はカイヤさんのことご存知なんですか?」
「カイヤだと?…」
まるで天敵の名を上げられたかのような不快をあらわすその顔が怖い。いったいカイヤさんって…
とミーアも困惑していた。
「そうですか、まぁ、できればミーアが行く前に排除したかったですが出くわしてしまったものは仕方ないですね。それで、きちんと巻いてきたのですか?」
「まぁね、でもミーアをしっかり敵認定したみたいだったから。やっぱり泳がす、から、つぶ……」
つぶ?
ミーアが耳をすまして聞き耳を立てていると途中で言葉が途切れた。
あれ?と思いミーアが見上げるといつもの笑顔を浮かべたルーカが見下ろしていた。
「ううん、何でもない。」
気にするなとばかりに頭をポンポンとされて腑に落ちないミーアであった。
けれど午後からはザヌーゾ伯爵の領地にある屋敷に行くのだからとミーアは追撃をやめた。
「行きましょうか。」
「あ、行く前にひとつ。ミーア、あちらでどんな事態になっても俺やエミル司祭の側を離れない様にしてね?」
「はい!」
ミーアの緊張した面差しにルーカが良しと頷き移転の魔法を発動する。
毎度の事ながら見事な移転魔法だ。魔術師団の師団長よりも発動までにかかる時間が短い。
更に1人で建造物の移転まで行えてしまうのだからルーカが如何に規格外であるかがわかる。
移転魔法は本来なら数人の魔術師が協力して発動する魔法なのだが師団長様は1人でやるんだと冒険者協会に訪れた警邏の人から驚きとともに聞いたことがあるがルーカはその更に上を行く能力の持ち主の様だ。
リア婆ちゃん、私の雇い主はどうやらとんでもないお方の様です。
ミーアの視界には先程とは全く別の景色が映っていた。
長閑な住宅街はけれど人が出歩いている様子は無く、商店も無人のように見える。きっと忙しい時間帯に来てしまったんだろう。
「魔法が張り直されている」
「…若しかすると既に餌にありつけたのかもしれないね。」
二人で会話をするのでミーアは何のことだろうと首を傾げる。
「ミーアは俺が抱いて行くから、エミル先に行ってくれるよね?」
「仕方ないですね。しかし、高く付きますよ?」
にやりと笑うエミル様は相当に人の悪い笑みを浮かべているのに金の瞳はどこまでも綺麗で悪魔の微笑を彷彿とさせる美貌だった。
きっと受付嬢のキャルさん達がいたら卒倒したことだろう。
「それで?借りられたの?」
「はい。ちゃんと屋敷の見取り図ともしもの時の精霊水晶もバッチリですよ。」
「え?いつの間に」
そう言えばエミル様は王宮に避難なされた大主教様達にお話しがあって王宮に向かったんだった。と思い出したと同時にどんな手を使ったら精霊教会の宝と言われる精霊水晶を借りてこれるのかと驚くしかない。
「あれがザヌーゾ伯爵の屋敷かぁ、なんか禍々しいね」
ルーカの声は軽い調子だが眼差しは厳しい。全く笑えないとその目が言っている。
闇に囚われし魔物は瘴気と呼ばれる毒であり有害物質である黒い靄を出し小さな動物であれば瘴気で皮膚が朽ちて死んでしまう。
その瘴気に覆われた屋敷は瘴気に意志でもあるのかと思うほど揺れ動きこちらを警戒する様に引いていく波の様に蠢いた。
「行きますか。ミーア、怖かったら眼を閉じといて良いからね」
ルーカが地を蹴り浮かび上がると眼下に広がる辺り一帯に向けた六方の陣を発動させた。
六角形の星の様な形をとる魔法陣が発動と同時に屋敷の方で音が鳴った。魔法がパン!と音を立てて弾けたのだ。
それと同時にエミル様が動いた。
流れる様に移動して行くエミル様の後を追う様にルーカが続く。
屋敷の門の中は荒れ果て、庭や枯れた噴水が見える。
足を進めると屋敷の中では使用人らしき人達がものも言わぬ石像となっていた。
そして2階に続く階段へと向かった時だ。
エミル様の足が止まった。
階段の上に何かがいる。
ひっ!とミーアは息を呑む。
ゆらりと揺れた黒い物体がうごうごと蠢いて階段を落ちる様に降りてくる。
ずり、ずりっ、と動く物体は良く見れば人の形をしていた。
『あん、たは、死ねばいい…わたく、しが、ルがぐ、が…』
人が喋った様には聴こえなかった。
けれどもそれは、たぶん人なんだ。
「ねぇ、ルーカさん、あれ、ルーカさん、あれ…」
「うん、たぶんパオラって娘だろうね?大丈夫、苦しまない様に殺してあげるから。」
どこが大丈夫なのか分からないがミーアは話が理解できないままルーカに抱きついた。
サクッと殺す発言のいったいどこが大丈夫なのかわからない。
ルーカの頭の中でどんな結論になったのか全く理解できなかった。
「だだだだめ!わ、わたし、が、やってみるから!お願いルーカさん」
ルーカは知らっとした顔で瘴気ときっと中にいるだろうパオラさんと邪黒の蛇の方を見てからミーアを見て、また、瘴気の方を見てミーアを見て頭を掻き毟る。
「なんで、なんであんな自己中な女の為にミーアを危険に晒さなきゃならないんだ!?くそっ」
と蹲って唸りだした。
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