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5巻
5-2
「ダメなお姉さんでごめんね~」
「ん。大丈夫」
「……これ以上は、気付かれる」
さすがにこの距離で外したら怪しまれるというところまで、獲物に近付いた。
「よーし、それじゃあお姉さん、当てちゃうんだから!」
そう言って、フィオランは矢を放つ。
それは当然のごとく魔物を射貫いたわけだが――
「やったー! 当たったー!」
「ん。えらい」
大喜びするフィオランを、サーラが撫でる。
すると、フィオランは感極まったようにサーラに抱き着いた。
「サーラちゃん、ありがとう~! それにしても本当に可愛いね~! お姉さんがお姉さんになってあげる!!」
「……苦しい、離れて」
「そんなこと言わずに、もうちょっとだけ。お姉さんがお姉さんになってあげるから!」
「や」
……フィオランのやつ、警戒心をなくしてないか? いやいや、さすがに演技だよな? 自分の命が掛かってるもんな? 大丈夫だよな?
軽く疑念を抱きつつも、俺は口を開く。
「リリ、獲物を川まで運ぶのを手伝ってくれるか?」
「分かりました!」
「マルリアは周囲の警戒を」
「任せなさい!」
そうして川まで魔物を運び、解体してから新たな獲物を求めて上流に向かって歩く。
それから少しして、俺はあることに気付いた。
サーラの歩き方が不自然なのだ。
具体的には、砂利道を進む時にわざと音を立てて歩いている気がする。
どういうことだ――と内心疑問に思っていると、視線を感じてだろう、サーラがこちらを向く。
「……ん? どうかした?」
「いや。なんだか、お腹が空いてきたなーと思ってさ」
「ん。カレー、楽しみ」
無邪気で素直な良い子。
そう思いたいが、見れば見るほど疑念は深まる。
そんなふうに思いつつ横を向くと……マイロくんの様子がおかしい。
「マイロくん、大丈夫か?」
「え? あっ、はい! 平気です!」
時折マイロくんは、自分の両手を見下ろして、不思議そうな表情を浮かべていた。
何かを気にしているのか? でも、サーラがいる中で聞くのは不用心かもしれないな。
「困ったことがあったら言ってくれよ。無理はしないこと」
「はい! ありがとうごさいます!」
念のために鑑定してみたが、ステータスに異常はない。
ただの疲れか? 杖の素材を探しに行った前回とは、荷物の量も危険度も段違いだからな。
なるべくこまめに休憩を取ろう。
そう結論付けつつ、歩き続ける。やがて――
「アルト様! すっごく綺麗な湖が見えてきました!」
勢いよく振り向いたリリの背後には、コバルトブルーの水面が揺れている。
確か、湖の付近が野営地だったはず。
地図を見て予想していたよりずいぶんと神秘的な場所だな、と感じた。
「夕暮れには間に合ったな」
鑑定を使えば暗闇の中でも移動や作業はできるが、危険ではある。素直にホッとした。
「フィオランは、テントの設営も得意って話だったよな?」
「冒険者時代はず~っと雑用係だったからね~! 雑用ならお姉さんに任せて!」
「あー……うん」
返答に困る発言をありがとう。
まぁ理由はともあれ、頼らせていただくとするか。
「設営に関して、指揮を執ってもらってもいいか?」
「もっちろん! お姉さんが、みんなのお姉さんになってあげるね~!」
誇らしげに胸を張るフィオラン。
いつもの行動を考えると不安を覚えるが、大丈夫だろう……たぶん。
「あっ、そうそう。テントは一つしか張れないけど、いいよね?」
何気なく明かされた衝撃の事実に、俺は思わず聞き返す。
「え……? 一つ?」
「うん。テントを張るのに適した場所が、意外に少ないんだよね。だから今日は、みんなで仲良く、同じテントに入ることになるかな~?」
テントを二つ建てて、男女で分かれることを想定していたのだが……
夜は二人一組で、交代しつつ見張りを立てる予定だ。
それ故、一度に寝るのは四人。
テントは広いから物理的に一緒に寝るのは可能だが、サーラはそれでいいのだろうか。
スパイかもしれないからという視点ではなく、女の子だという視点で考えて。
リリたちは付き合いが長くなってきたから今更気にしないだろうが、サーラとは何度か任務を共にした程度だ。
俺は不安を胸に問う。
「どうする? もっとよさそうな場所を探すか?」
「ん? ここでいいと思う。問題ない」
サーラの表情を見る限り、無理をしている訳でもなさそうだ。
リリたちは当然のように問題なし。
「それじゃあ、みんなでテントを建てるか」
そう口にする俺の裾を、サーラが引く。
「狩りに行きたい。私だけでいい」
「……テントを建てている間に一人で獲物を探しに行きたい、そういうことか?」
「そう」
確かにテントの設営にこれだけの人数は必要ないが、辺りはすでに暗くなり始めている。
このタイミングでの進言としては、あまりにも不適当だが……
「一人でいいのか?」
「ん。強いから一人で大丈夫」
『味方と合流して俺たちを襲う』『味方に合図を出しに行く』、そのための言葉、行動に思えてしまう。
「ずっと見てたから、それは知ってるんだが……」
これは、どうするのが正解だ? このまま泳がせて、モチヅキ隊長たちに探ってもらうのが無難だとは思うが、簡単に認めてしまうのもかえって不自然か?
「なんでこのタイミングで狩りをしたいのか、理由を聞いてもいいか?」
「ん。ここなら干し肉にできる。持ち帰りたい」
「なんで持ち帰りたいんだ?」
「施設の子供たちに差し入れ」
悪意のない純粋な目に見える。
俺はマルリアの方を振り向く。
「許可しても大丈夫だと思うか?」
「いいと思うわよ? 暗くなっても、サーラなら余裕で動けるでしょ?」
「ん。大丈夫」
俺はそれを聞いて、頷いた。
「……分かった。でも無理はしないこと。いいね?」
「ん。約束」
俺と指切りをしてから、サーラは森の奥に目を向ける。
もしかすると、本当に敵じゃないのか?
そんな思いが頭を過る中、サーラは森の中に消えていった。
彼女の姿が見えなくなったタイミングで、フィオランが言う。
「アルトくん、こっちを持っててくれる~?」
「了解。これでいいか?」
「ありがと~! お姉さんの本気をみんなに見せてあげるね~!」
うりゃりゃー、とテントを建てるために杭を打つフィオラン。
俺はそれを横目に見ながら、心地いい風にほっと息を吐く。
隣を見ると、マイロくんが木の幹に体を預けて、小さなあくびを噛み殺しているのが目に入る。
ぼんやりと開いた目を擦り、今にも眠ってしまいそうな感じだ。
「マイロくん、ちょっと休憩しようか。荷物も適当な場所におろしていいからさ」
ぬかるんだ森の中を歩き、サーラの挙動を絶えず監視する任務。
危険な場面こそなかったが、気を休める暇はなかったからな。
正直な話、俺もくたくただ。
「あっ、いえ。任務中にすみませんでした! 気が緩んでました! もう大丈夫です!」
「気にしなくていいよ。授業の主な目的は森に慣れることがメインみたいだし、無理しない程度に頑張ればいいさ」
マイロくんは任務なんて気にせず、授業に集中して欲しい。
俺が変に目を付けられたせいで、知らぬ間に巻き込んでしまったような形だしな。
「えっと……でも……」
マイロくんの表情から、自分だけが休むことに引け目を感じていると分かる。
確かに、全員で休んだら日没までに拠点を築けるか怪しいのは確かだ。
さて、どう説得するか――そう思っているとマルリアと目が合った。
「ほんと、私の弟のくせにバカなんだから」
マルリアの右手がマイロくんの額をペチンと弾く。
リリはマイロくんが背負っていたリュックを下から持ち上げて、そのまま奪い取った。
「カレーの材料、いただいていきますね!」
リリはそう言うと、カレー粉、にんじん、玉ねぎ、じゃがいも……リュックからカレーの食材を抜き取って木の陰に置く。
それを横目に、マルリアがマイロくんの頭に手を伸ばした。
「意地を張っても仕方ないでしょ? 疲れたら素直に休む。分かったわね?」
「……うん。ごめんね、姉さん」
マイロくんはそう言って木の陰に行き、リュックを枕にして横になる。
「仕方ないわよ。上司があれだもの」
ん……? あれ? 何故俺に矛先が向いたんですかね?
マルリアは俺に視線を移してから言う。
「そこの自覚なく無理するダメ上司も、マイロと一緒に休憩しなさい」
「……何故に?」
「何故に? じゃないわよ! あんたも相当疲れた顔してるじゃない!!」
力強く手を引かれ、俺はマイロくんの隣へ連れていかれる。
マルリアは腰に手を当て、不安そうにこちらを見下ろしていた。
「状況把握、指示出し、索敵……色々やりすぎでしょ! 自覚してるわよね!?」
「いや、それは……まあ、そうなんだが……」
状況把握と指示出しは、俺が上司らしさを出せる唯一の仕事だからな。
それにサーラの素性を探る任務に関しては、俺のせいで部下を巻き込んでしまっている。
確かに疲れてはいるが、それくらいは我慢しなくては。
マルリアたちだって疲れているだろうし。
「いや、これが上司としての俺の仕事だ。それにせめて――」
休憩はテントの準備が終わってから。
そう続けるはずだったのだが、マルリアに額をペチンと叩かれた。
「いいから休むの! そこの変態と私でテントを建てるから、あんたの仕事はないわよ!」
「ふん!」と吐き捨てるように言ったマルリアの耳は、真っ赤に染まっている。
周囲を見ると、リリもフィオランもマルリアの意見に大きく頷いていた。
「マルリアちゃんのお仕事は、お姉さんのことをお姉さんって呼ぶ――」
「そんなわけないでしょ、変態! バカなこと言ってないで、ちゃっちゃとテントを建てるわよ!」
「…………あい。ぐすん」
そんなやり取りをしてから、フィオランたちは早速動き出した。
俺は、マイロくんを流し見る。
よほど疲れていたのか、マイロくんはすでに夢の中だ。
重い荷物を持ってあれだけ歩いたのだ。無理もない。
それじゃあ俺も休ませてもらうか。ただ、その前に一報入れておかねば。
そう決めて、俺は連絡用の端末を手に取った。
数回のコールを挟み、ミルカの声が聞こえる。
『もしもーし、どうかしたのー?』
「いや、大したことじゃないんだが、少しだけ落ち着いたからさ。その報告だな」
しかし俺が連絡したのは、それだけが理由ではない。
実はサーラが去ってから、俺は霧状の魔力を彼女に向け続けている。
サーラが進む方向、速度、移動範囲――どれを取っても異常はない。
鑑定結果を見る限りだが、サーラは普通に狩りをしているようだ。
それが本当に正しい情報なのか、音から状況判断ができるミルカにも聞いておきたい。
俺は尋ねる。
「サーラの音は追えているな?」
『うん! 今のところは、怪しくないかなー?』
モチヅキ隊長から連絡が来ていないことも踏まえて考えると、本当に差し入れ用の肉を狩りに行っただけ……なのか。
「引き続き、よろしく頼むよ。どんな些細なことでも、気付いたことがあったら教えて欲しい。大変だと思うけど任せたぞ」
『はいはーい! ボクの大活躍に、乞うご期待だよ!』
俺は「よろしく頼む」ともう一度言ってから、通信機を切った。
そして小さく息を吐いてから、周囲を見る。
「このまま何も起きずに、終わればいいんだがな……」
マルリアとフィオランは湖のほとりにテントを建て、リリが楽しげにカレーを混ぜている。
任務さえなければ、ただただまったりとした時間を過ごせたはずなんだよな。
そう思いながらぼんやりしていると、サーラが木々の陰から姿を見せた。
「ただいま」
「お帰りなさい! どどど、どうしたんですか、その姿!?」
リリが大慌てで駆け寄るのも無理はない。
サーラの制服がどろどろに汚れているのだ。そして背には大きなタスク・ドッグ。
身長の低い彼女では背負いきれなかったのか、タスク・ドッグの太ももから下は地面についてしまっていた。
サーラが歩いてきた方向には、獲物を引き摺った跡がある。
運ぶのに相当無理をしたらしい。とはいえ怪我している様子はないから、ひとまずは安心か。
「獲物を倒した。持ってくる時に、転んだ」
「解体しなかったのか?」
骨や皮など、食べられない部位を置いてくれば、ずいぶんと軽くなっただろうに。
そう考えての質問だったが、サーラは首を横に振る。
「洗わないとダメ」
「あー、それもそうか……」
サーラが言う通り、解体はできるだけ清潔な状態でするべきだ。
特にこの肉は、孤児院の子供たちの口に入るわけだし。
ビーコンを使って連絡すれば、回収班に獲物を持って行ってもらうこともできるが、その場合、現金だけで肉はもらえないから、こうなったのは当然と言える。
「何はともあれ、無事で良かった」
俺はそう口にしてから、フィオランの方を向く。
「フィオラン、頼んでばかりで悪いが、解体を任せてもいいか?」
「もっちろん! お姉さんに任せて!」
むふん! と胸を張り、フィオランは嬉しそうに笑う。
そして呆然としているサーラに近付き、泥まみれの髪をよしよしと撫でた。
「上手に解体できたら、お姉さんのことをお姉さんって呼んでくれる?」
「……ダメ。私に勝てたらって言った」
「なんで!? 今の流れでダメなの!?」
フィオランは両手両膝を地面について、肩を落とす。
何故いけると思ったのか疑問だが、聞くと長くなりそうだからやめておこう。
俺は今一度、周囲に目を遣った。
カレーはくつくつと煮えているようだし、テントは完成間近。マイロくんも起きたみたいだな。
「サーラは水辺で泥を落としてから着替え。リリはサーラの護衛を頼むよ」
サーラは頷き、リリは「はい! 任せてください!」と答えてくれた。
万が一を考えると、俺も同行したいところだが、さすがに無理だな。
代わりに――
「周囲の安全確認もかねて、フィオランもサーラたちと同じ場所で作業をして欲しい」
「はいは~い」
サーラが不審な動きを見せたとしても、リリとフィオランの二人なら対処できるからな。
「マイロくんも起きたことだし、テントの設営はマイロくんとマルリアの二人に任せる。カレーは俺が引き継ぐよ」
薪を使ってカレーを煮込むなんて初めてだが、焦げているかどうかと温度くらいなら鑑定で分かる。サーラやリリたちに全力の鑑定を向けながらでも、楽勝だ。
そう思っていると、サーラが俺の顔をぼんやり見上げて言う。
「着替えの許可、ありがと。服も乾燥させたい。許可が欲しい」
「乾燥?」
「ん。ここは森の中。弱めに炎系の魔法を使う」
「……あー、うん。なるほど」
浄化の魔法に続いて、乾燥の魔法か。
これも鑑定には出ていない技術だな。
それに疑問点がもう一つ。
「使える魔法は浄化魔法だけで、その他は練習中。そう言っていなかったか?」
「ん。乾燥は炎魔法のなり損ないみたいなもの。実戦にたえるレベルじゃない」
「なるほどな」
濡れた服を乾燥させるだけ――確かに炎魔法とまでは言えないような気はするが、鑑定結果には『炎魔法(弱)』のように記載されるはず。
そう考えると、やはり怪しい。
「分かった、許可するよ。ただし、俺が見てる前で使うこと」
「ん」
気にしすぎだとは思うが、油断して取り返しのつかない事態になるよりはいい。
着替えを持ったサーラとリリが並んで、湖の方に向かって歩いていく。
「むむー、お姉さんには重くてあがらない! マルリアちゃーん! 手伝ってー!」
フィオランはタスク・ドックを持ち上げようとしたものの、引き摺ることすらできなかったみたいだ。
それを見てマルリアが溜め息をつく。
「……はぁ。ほんと頼りがいのない年長者よね。仕方がないから、ちょっとだけ手伝ってくるわ」
「ああ。よろしくな」
その後も、サーラは目立った動きを見せなかった。
カレーを食べ終わった今、夕日は木々の奥に消えている。
パチパチと爆ぜる焚き火が、リリたちの顔を淡く照らす。
マイロくんが持っている袋の中にはライトやランタンも入っているが、まだ温存しておこう。
「見張りを立てて交代で休息を取り、日の出と共に行動開始する。それでいいかな?」
俺の言葉に全員が頷いた。
最初の見張りはリリとフィオラン。次に俺とマイロくん。そして最後がマルリアとサーラという順だ。
リリとフィオランだけを残し、それ以外のメンバーはテントの中へ移動した。
☆★☆★☆
(……ルト様、……アルト様、起きてますか?)
(……ん?)
体が揺れる感覚に、ゆっくりと目を開ける。
見えたのは、俺の顔を覗き込むリリの瞳。
俺の肩を揺らしていたのは、リリだったのか。
(ごめんなさい。交代の時間なので起こしに来ました)
(……あー、ああ。ごめんな。ありがとう)
テントで軽く目を閉じるだけのつもりが、そのまま寝てしまったらしい。
マイロくんもフィオランに揺すられ、眠そうに目をこすっている。
マルリアは綺麗な姿勢で、サーラは猫のように丸くなって眠っていた。
どこまで信用していいか不明だが、サーラの鑑定結果には『熟睡状態』の文字が見える。
(それじゃあ、見張りに行ってくるよ)
(はい。よろしくお願いします)
そうしてマイロくんとともにテントを出ると――
「うわ、さむっ……」
「これは、聞いていた以上ですね」
マイロくんも身を縮こまらせている。
焚き火があるとはいえ、夜の森は冷える。
冷たい風が吹き抜け、体から熱を奪っていく。
空には大きな月が浮かび、無数の星が輝いていた。
「支給品のコートです」
「ああ、ありがとう」
荷造り時に『嵩張るからいらないのでは?』なんて思っていたコートが、今はとても有難い。
「寒いのは気合いが足りないからだ、って言われて育ったからね。そこまで気が回らなかった。助かったよ」
「いえ、お役に立ててよかったです」
ふわぁー、と大きなあくびをするマイロくんを横目に、周囲に視線を向ける。
虫の声がしきりに聞こえてくる。
そして、遠くから響くこの声は……フクロウか?
そんなふうに益体もないことを考えつつ、俺は無線機を耳に当てた。
「アルトです。今から見張りの任務に就きます」
すぐさま、ルルベール教官の声がする。
『うむ。了解したわい。こちらは異変はなし。モチヅキのところも問題なしじゃな』
「分かりました。次はサーラたちと交代する時に連絡します」
『モチヅキの隊にも、注意を呼び掛けておくわい』
「ありがとうございます。それでは」
そして通信を切った。
サーラが寝ている演技をしていたとは思わないが、当たり障りのない言葉を選んだつもりだ。
寒い空を見上げて、大きく息を吐く。
冷たい風を肺いっぱいに染み渡らせ、俺はサーラが寝ているテントに目を向けた。
「ん。大丈夫」
「……これ以上は、気付かれる」
さすがにこの距離で外したら怪しまれるというところまで、獲物に近付いた。
「よーし、それじゃあお姉さん、当てちゃうんだから!」
そう言って、フィオランは矢を放つ。
それは当然のごとく魔物を射貫いたわけだが――
「やったー! 当たったー!」
「ん。えらい」
大喜びするフィオランを、サーラが撫でる。
すると、フィオランは感極まったようにサーラに抱き着いた。
「サーラちゃん、ありがとう~! それにしても本当に可愛いね~! お姉さんがお姉さんになってあげる!!」
「……苦しい、離れて」
「そんなこと言わずに、もうちょっとだけ。お姉さんがお姉さんになってあげるから!」
「や」
……フィオランのやつ、警戒心をなくしてないか? いやいや、さすがに演技だよな? 自分の命が掛かってるもんな? 大丈夫だよな?
軽く疑念を抱きつつも、俺は口を開く。
「リリ、獲物を川まで運ぶのを手伝ってくれるか?」
「分かりました!」
「マルリアは周囲の警戒を」
「任せなさい!」
そうして川まで魔物を運び、解体してから新たな獲物を求めて上流に向かって歩く。
それから少しして、俺はあることに気付いた。
サーラの歩き方が不自然なのだ。
具体的には、砂利道を進む時にわざと音を立てて歩いている気がする。
どういうことだ――と内心疑問に思っていると、視線を感じてだろう、サーラがこちらを向く。
「……ん? どうかした?」
「いや。なんだか、お腹が空いてきたなーと思ってさ」
「ん。カレー、楽しみ」
無邪気で素直な良い子。
そう思いたいが、見れば見るほど疑念は深まる。
そんなふうに思いつつ横を向くと……マイロくんの様子がおかしい。
「マイロくん、大丈夫か?」
「え? あっ、はい! 平気です!」
時折マイロくんは、自分の両手を見下ろして、不思議そうな表情を浮かべていた。
何かを気にしているのか? でも、サーラがいる中で聞くのは不用心かもしれないな。
「困ったことがあったら言ってくれよ。無理はしないこと」
「はい! ありがとうごさいます!」
念のために鑑定してみたが、ステータスに異常はない。
ただの疲れか? 杖の素材を探しに行った前回とは、荷物の量も危険度も段違いだからな。
なるべくこまめに休憩を取ろう。
そう結論付けつつ、歩き続ける。やがて――
「アルト様! すっごく綺麗な湖が見えてきました!」
勢いよく振り向いたリリの背後には、コバルトブルーの水面が揺れている。
確か、湖の付近が野営地だったはず。
地図を見て予想していたよりずいぶんと神秘的な場所だな、と感じた。
「夕暮れには間に合ったな」
鑑定を使えば暗闇の中でも移動や作業はできるが、危険ではある。素直にホッとした。
「フィオランは、テントの設営も得意って話だったよな?」
「冒険者時代はず~っと雑用係だったからね~! 雑用ならお姉さんに任せて!」
「あー……うん」
返答に困る発言をありがとう。
まぁ理由はともあれ、頼らせていただくとするか。
「設営に関して、指揮を執ってもらってもいいか?」
「もっちろん! お姉さんが、みんなのお姉さんになってあげるね~!」
誇らしげに胸を張るフィオラン。
いつもの行動を考えると不安を覚えるが、大丈夫だろう……たぶん。
「あっ、そうそう。テントは一つしか張れないけど、いいよね?」
何気なく明かされた衝撃の事実に、俺は思わず聞き返す。
「え……? 一つ?」
「うん。テントを張るのに適した場所が、意外に少ないんだよね。だから今日は、みんなで仲良く、同じテントに入ることになるかな~?」
テントを二つ建てて、男女で分かれることを想定していたのだが……
夜は二人一組で、交代しつつ見張りを立てる予定だ。
それ故、一度に寝るのは四人。
テントは広いから物理的に一緒に寝るのは可能だが、サーラはそれでいいのだろうか。
スパイかもしれないからという視点ではなく、女の子だという視点で考えて。
リリたちは付き合いが長くなってきたから今更気にしないだろうが、サーラとは何度か任務を共にした程度だ。
俺は不安を胸に問う。
「どうする? もっとよさそうな場所を探すか?」
「ん? ここでいいと思う。問題ない」
サーラの表情を見る限り、無理をしている訳でもなさそうだ。
リリたちは当然のように問題なし。
「それじゃあ、みんなでテントを建てるか」
そう口にする俺の裾を、サーラが引く。
「狩りに行きたい。私だけでいい」
「……テントを建てている間に一人で獲物を探しに行きたい、そういうことか?」
「そう」
確かにテントの設営にこれだけの人数は必要ないが、辺りはすでに暗くなり始めている。
このタイミングでの進言としては、あまりにも不適当だが……
「一人でいいのか?」
「ん。強いから一人で大丈夫」
『味方と合流して俺たちを襲う』『味方に合図を出しに行く』、そのための言葉、行動に思えてしまう。
「ずっと見てたから、それは知ってるんだが……」
これは、どうするのが正解だ? このまま泳がせて、モチヅキ隊長たちに探ってもらうのが無難だとは思うが、簡単に認めてしまうのもかえって不自然か?
「なんでこのタイミングで狩りをしたいのか、理由を聞いてもいいか?」
「ん。ここなら干し肉にできる。持ち帰りたい」
「なんで持ち帰りたいんだ?」
「施設の子供たちに差し入れ」
悪意のない純粋な目に見える。
俺はマルリアの方を振り向く。
「許可しても大丈夫だと思うか?」
「いいと思うわよ? 暗くなっても、サーラなら余裕で動けるでしょ?」
「ん。大丈夫」
俺はそれを聞いて、頷いた。
「……分かった。でも無理はしないこと。いいね?」
「ん。約束」
俺と指切りをしてから、サーラは森の奥に目を向ける。
もしかすると、本当に敵じゃないのか?
そんな思いが頭を過る中、サーラは森の中に消えていった。
彼女の姿が見えなくなったタイミングで、フィオランが言う。
「アルトくん、こっちを持っててくれる~?」
「了解。これでいいか?」
「ありがと~! お姉さんの本気をみんなに見せてあげるね~!」
うりゃりゃー、とテントを建てるために杭を打つフィオラン。
俺はそれを横目に見ながら、心地いい風にほっと息を吐く。
隣を見ると、マイロくんが木の幹に体を預けて、小さなあくびを噛み殺しているのが目に入る。
ぼんやりと開いた目を擦り、今にも眠ってしまいそうな感じだ。
「マイロくん、ちょっと休憩しようか。荷物も適当な場所におろしていいからさ」
ぬかるんだ森の中を歩き、サーラの挙動を絶えず監視する任務。
危険な場面こそなかったが、気を休める暇はなかったからな。
正直な話、俺もくたくただ。
「あっ、いえ。任務中にすみませんでした! 気が緩んでました! もう大丈夫です!」
「気にしなくていいよ。授業の主な目的は森に慣れることがメインみたいだし、無理しない程度に頑張ればいいさ」
マイロくんは任務なんて気にせず、授業に集中して欲しい。
俺が変に目を付けられたせいで、知らぬ間に巻き込んでしまったような形だしな。
「えっと……でも……」
マイロくんの表情から、自分だけが休むことに引け目を感じていると分かる。
確かに、全員で休んだら日没までに拠点を築けるか怪しいのは確かだ。
さて、どう説得するか――そう思っているとマルリアと目が合った。
「ほんと、私の弟のくせにバカなんだから」
マルリアの右手がマイロくんの額をペチンと弾く。
リリはマイロくんが背負っていたリュックを下から持ち上げて、そのまま奪い取った。
「カレーの材料、いただいていきますね!」
リリはそう言うと、カレー粉、にんじん、玉ねぎ、じゃがいも……リュックからカレーの食材を抜き取って木の陰に置く。
それを横目に、マルリアがマイロくんの頭に手を伸ばした。
「意地を張っても仕方ないでしょ? 疲れたら素直に休む。分かったわね?」
「……うん。ごめんね、姉さん」
マイロくんはそう言って木の陰に行き、リュックを枕にして横になる。
「仕方ないわよ。上司があれだもの」
ん……? あれ? 何故俺に矛先が向いたんですかね?
マルリアは俺に視線を移してから言う。
「そこの自覚なく無理するダメ上司も、マイロと一緒に休憩しなさい」
「……何故に?」
「何故に? じゃないわよ! あんたも相当疲れた顔してるじゃない!!」
力強く手を引かれ、俺はマイロくんの隣へ連れていかれる。
マルリアは腰に手を当て、不安そうにこちらを見下ろしていた。
「状況把握、指示出し、索敵……色々やりすぎでしょ! 自覚してるわよね!?」
「いや、それは……まあ、そうなんだが……」
状況把握と指示出しは、俺が上司らしさを出せる唯一の仕事だからな。
それにサーラの素性を探る任務に関しては、俺のせいで部下を巻き込んでしまっている。
確かに疲れてはいるが、それくらいは我慢しなくては。
マルリアたちだって疲れているだろうし。
「いや、これが上司としての俺の仕事だ。それにせめて――」
休憩はテントの準備が終わってから。
そう続けるはずだったのだが、マルリアに額をペチンと叩かれた。
「いいから休むの! そこの変態と私でテントを建てるから、あんたの仕事はないわよ!」
「ふん!」と吐き捨てるように言ったマルリアの耳は、真っ赤に染まっている。
周囲を見ると、リリもフィオランもマルリアの意見に大きく頷いていた。
「マルリアちゃんのお仕事は、お姉さんのことをお姉さんって呼ぶ――」
「そんなわけないでしょ、変態! バカなこと言ってないで、ちゃっちゃとテントを建てるわよ!」
「…………あい。ぐすん」
そんなやり取りをしてから、フィオランたちは早速動き出した。
俺は、マイロくんを流し見る。
よほど疲れていたのか、マイロくんはすでに夢の中だ。
重い荷物を持ってあれだけ歩いたのだ。無理もない。
それじゃあ俺も休ませてもらうか。ただ、その前に一報入れておかねば。
そう決めて、俺は連絡用の端末を手に取った。
数回のコールを挟み、ミルカの声が聞こえる。
『もしもーし、どうかしたのー?』
「いや、大したことじゃないんだが、少しだけ落ち着いたからさ。その報告だな」
しかし俺が連絡したのは、それだけが理由ではない。
実はサーラが去ってから、俺は霧状の魔力を彼女に向け続けている。
サーラが進む方向、速度、移動範囲――どれを取っても異常はない。
鑑定結果を見る限りだが、サーラは普通に狩りをしているようだ。
それが本当に正しい情報なのか、音から状況判断ができるミルカにも聞いておきたい。
俺は尋ねる。
「サーラの音は追えているな?」
『うん! 今のところは、怪しくないかなー?』
モチヅキ隊長から連絡が来ていないことも踏まえて考えると、本当に差し入れ用の肉を狩りに行っただけ……なのか。
「引き続き、よろしく頼むよ。どんな些細なことでも、気付いたことがあったら教えて欲しい。大変だと思うけど任せたぞ」
『はいはーい! ボクの大活躍に、乞うご期待だよ!』
俺は「よろしく頼む」ともう一度言ってから、通信機を切った。
そして小さく息を吐いてから、周囲を見る。
「このまま何も起きずに、終わればいいんだがな……」
マルリアとフィオランは湖のほとりにテントを建て、リリが楽しげにカレーを混ぜている。
任務さえなければ、ただただまったりとした時間を過ごせたはずなんだよな。
そう思いながらぼんやりしていると、サーラが木々の陰から姿を見せた。
「ただいま」
「お帰りなさい! どどど、どうしたんですか、その姿!?」
リリが大慌てで駆け寄るのも無理はない。
サーラの制服がどろどろに汚れているのだ。そして背には大きなタスク・ドッグ。
身長の低い彼女では背負いきれなかったのか、タスク・ドッグの太ももから下は地面についてしまっていた。
サーラが歩いてきた方向には、獲物を引き摺った跡がある。
運ぶのに相当無理をしたらしい。とはいえ怪我している様子はないから、ひとまずは安心か。
「獲物を倒した。持ってくる時に、転んだ」
「解体しなかったのか?」
骨や皮など、食べられない部位を置いてくれば、ずいぶんと軽くなっただろうに。
そう考えての質問だったが、サーラは首を横に振る。
「洗わないとダメ」
「あー、それもそうか……」
サーラが言う通り、解体はできるだけ清潔な状態でするべきだ。
特にこの肉は、孤児院の子供たちの口に入るわけだし。
ビーコンを使って連絡すれば、回収班に獲物を持って行ってもらうこともできるが、その場合、現金だけで肉はもらえないから、こうなったのは当然と言える。
「何はともあれ、無事で良かった」
俺はそう口にしてから、フィオランの方を向く。
「フィオラン、頼んでばかりで悪いが、解体を任せてもいいか?」
「もっちろん! お姉さんに任せて!」
むふん! と胸を張り、フィオランは嬉しそうに笑う。
そして呆然としているサーラに近付き、泥まみれの髪をよしよしと撫でた。
「上手に解体できたら、お姉さんのことをお姉さんって呼んでくれる?」
「……ダメ。私に勝てたらって言った」
「なんで!? 今の流れでダメなの!?」
フィオランは両手両膝を地面について、肩を落とす。
何故いけると思ったのか疑問だが、聞くと長くなりそうだからやめておこう。
俺は今一度、周囲に目を遣った。
カレーはくつくつと煮えているようだし、テントは完成間近。マイロくんも起きたみたいだな。
「サーラは水辺で泥を落としてから着替え。リリはサーラの護衛を頼むよ」
サーラは頷き、リリは「はい! 任せてください!」と答えてくれた。
万が一を考えると、俺も同行したいところだが、さすがに無理だな。
代わりに――
「周囲の安全確認もかねて、フィオランもサーラたちと同じ場所で作業をして欲しい」
「はいは~い」
サーラが不審な動きを見せたとしても、リリとフィオランの二人なら対処できるからな。
「マイロくんも起きたことだし、テントの設営はマイロくんとマルリアの二人に任せる。カレーは俺が引き継ぐよ」
薪を使ってカレーを煮込むなんて初めてだが、焦げているかどうかと温度くらいなら鑑定で分かる。サーラやリリたちに全力の鑑定を向けながらでも、楽勝だ。
そう思っていると、サーラが俺の顔をぼんやり見上げて言う。
「着替えの許可、ありがと。服も乾燥させたい。許可が欲しい」
「乾燥?」
「ん。ここは森の中。弱めに炎系の魔法を使う」
「……あー、うん。なるほど」
浄化の魔法に続いて、乾燥の魔法か。
これも鑑定には出ていない技術だな。
それに疑問点がもう一つ。
「使える魔法は浄化魔法だけで、その他は練習中。そう言っていなかったか?」
「ん。乾燥は炎魔法のなり損ないみたいなもの。実戦にたえるレベルじゃない」
「なるほどな」
濡れた服を乾燥させるだけ――確かに炎魔法とまでは言えないような気はするが、鑑定結果には『炎魔法(弱)』のように記載されるはず。
そう考えると、やはり怪しい。
「分かった、許可するよ。ただし、俺が見てる前で使うこと」
「ん」
気にしすぎだとは思うが、油断して取り返しのつかない事態になるよりはいい。
着替えを持ったサーラとリリが並んで、湖の方に向かって歩いていく。
「むむー、お姉さんには重くてあがらない! マルリアちゃーん! 手伝ってー!」
フィオランはタスク・ドックを持ち上げようとしたものの、引き摺ることすらできなかったみたいだ。
それを見てマルリアが溜め息をつく。
「……はぁ。ほんと頼りがいのない年長者よね。仕方がないから、ちょっとだけ手伝ってくるわ」
「ああ。よろしくな」
その後も、サーラは目立った動きを見せなかった。
カレーを食べ終わった今、夕日は木々の奥に消えている。
パチパチと爆ぜる焚き火が、リリたちの顔を淡く照らす。
マイロくんが持っている袋の中にはライトやランタンも入っているが、まだ温存しておこう。
「見張りを立てて交代で休息を取り、日の出と共に行動開始する。それでいいかな?」
俺の言葉に全員が頷いた。
最初の見張りはリリとフィオラン。次に俺とマイロくん。そして最後がマルリアとサーラという順だ。
リリとフィオランだけを残し、それ以外のメンバーはテントの中へ移動した。
☆★☆★☆
(……ルト様、……アルト様、起きてますか?)
(……ん?)
体が揺れる感覚に、ゆっくりと目を開ける。
見えたのは、俺の顔を覗き込むリリの瞳。
俺の肩を揺らしていたのは、リリだったのか。
(ごめんなさい。交代の時間なので起こしに来ました)
(……あー、ああ。ごめんな。ありがとう)
テントで軽く目を閉じるだけのつもりが、そのまま寝てしまったらしい。
マイロくんもフィオランに揺すられ、眠そうに目をこすっている。
マルリアは綺麗な姿勢で、サーラは猫のように丸くなって眠っていた。
どこまで信用していいか不明だが、サーラの鑑定結果には『熟睡状態』の文字が見える。
(それじゃあ、見張りに行ってくるよ)
(はい。よろしくお願いします)
そうしてマイロくんとともにテントを出ると――
「うわ、さむっ……」
「これは、聞いていた以上ですね」
マイロくんも身を縮こまらせている。
焚き火があるとはいえ、夜の森は冷える。
冷たい風が吹き抜け、体から熱を奪っていく。
空には大きな月が浮かび、無数の星が輝いていた。
「支給品のコートです」
「ああ、ありがとう」
荷造り時に『嵩張るからいらないのでは?』なんて思っていたコートが、今はとても有難い。
「寒いのは気合いが足りないからだ、って言われて育ったからね。そこまで気が回らなかった。助かったよ」
「いえ、お役に立ててよかったです」
ふわぁー、と大きなあくびをするマイロくんを横目に、周囲に視線を向ける。
虫の声がしきりに聞こえてくる。
そして、遠くから響くこの声は……フクロウか?
そんなふうに益体もないことを考えつつ、俺は無線機を耳に当てた。
「アルトです。今から見張りの任務に就きます」
すぐさま、ルルベール教官の声がする。
『うむ。了解したわい。こちらは異変はなし。モチヅキのところも問題なしじゃな』
「分かりました。次はサーラたちと交代する時に連絡します」
『モチヅキの隊にも、注意を呼び掛けておくわい』
「ありがとうございます。それでは」
そして通信を切った。
サーラが寝ている演技をしていたとは思わないが、当たり障りのない言葉を選んだつもりだ。
寒い空を見上げて、大きく息を吐く。
冷たい風を肺いっぱいに染み渡らせ、俺はサーラが寝ているテントに目を向けた。
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