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扉をあけて

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「聖樹の巫女とは神域へと繋がる扉を開く者です。毎日、聖樹へ祈りを捧げなさい」と書かれている。

そのままなのだろうが、具体的に何をすればいいのか分からない。ただ祈るだけでいいのか、それともなにか作法があるのかも分からない。
そもそも聖樹はどこにあるのかと言えば王の住む城の庭。常に騎士たちが厳重に守っている一本の大木である。広葉樹で冬には枝だけになるが新春には若葉が芽吹き、夏は深く濃い緑色の葉になり美しい色とりどりの花が咲く。秋には葉の色はダークブラウンに移り変わり白い実がなる。この一年のサイクルは魔力の成熟度を示すと言われている。

「マジか。じゃあ、王都に行かなきゃいけないのか?」

「そうなるのでしょうか?でも私達は聖樹の巫女なのに病院にいます。それに神への祈りは場所を問わず届くものです。だから城に行く必要はないかもしれません」

「そうだといいんだけどさ。それよりあたい達の職業が気になるんだよ」

「そうですね。私は『聖樹の巫女』と『ヒーラー』でした。サリサさんは?」

「あたいは『成就の巫女』と『竜騎士』だったぜ。あたいは今、無職なんだぞ。聖樹の巫女は今、押し付けられたから分かっけどよ。竜騎士ってどういうことだって感じでよ。あたいはただの女だぞ?」

「うーん、困りましたね。ステータス表で職業について調べてみれば分かるかもしれませんね」

二人は頭の中で試しに「職業:聖樹の巫女」と念じてみた。すると頭の中に『職業』が現れる。
「職業:聖樹の巫女とは神域へと繋がる扉を開く者。毎日、聖樹へ祈りを捧げる者。
聖樹の巫女とは神域へと続く道を切り開くものなり。
神域へと導く聖女」

「全部一緒の意味じゃねーか」

サリサのツッコミはもっともだが、この神域とは一体何なのか?とカメリアは首を傾げた。普通なら神の世界なのだろうが、物語の聖女は簡単に神の世界に行ったという話はない。

「まぁいいや。考えたら眠くなってきた。とりあえず寝ようぜ」
「ええ。お休みなさい」

カメリアも考えるのをやめ、目を閉じた。眠る前にこっそりと(皆の腹痛の原因がなくなりますように)と祈った。

朝、アンジュに起こされて目を覚ましたカメリアは眠っているサリサを起こした。三人はパジャマのまま食堂に向かうと患者が食堂に入れないと騒いでいた。

「どうしたんですか?」

カメリアが尋ねると看護師が答えてくれた。

「どうしたって、もう朝の7時なんですよ!それなのに調理師が厨房に入った途端に「怖い!」って逃げて患者さんの食事の準備が出来ていないのです!」

「ええっ?」

(もしかして私とサリサが内緒でお掃除して、厨房が綺麗になっていたから怖くなったのでしょうか?)

結局、調理師にかわって看護師が食事を作ろうとしたが食材の殆どが衛生的に良くないことが発覚し、朝ごはんは業者が毎日持ってくる焼きたての丸いパン二個だけだった。

「まあ、厨房に看護師が入ってさ、皆の腹が痛くなる原因が分かったって看護師が言ってたし、これからは皆が安心して飯が食えるようになるだろうし良かったよな」
「本当?もうお腹が痛くなったりしない?」

アンジュが不安そうにたずねた。

「ええ、きっと大丈夫よ。今度は普通の調理師さんが来てくれるはずよ」

「なあ、毎日「おいしいご飯が食べたい」って聖樹に叶えてくれって祈ったら「毎日祈れ」の今日のノルマ達成になっかな?」

真面目な顔でサリサがそういうのでカメリアは吹き出してしまった。

「ぷふっ、なるほど。それは良い考えですね。私は聖樹に大事な人達が今日も無事に過ごせるようにと祈りますわ」

「じゃあ、あたいは安全で美味しい元気の出るご飯を食べれるようになりたいって祈る」

「私もお父様が元気でいますようにってお祈りするの」

二人が巫女になったと知らないアンジュは単純に食事前の祈りのことを話しているのだと思っていた。

カメリアは心の中で今日も「皆の腹痛が治りますように」と祈った。他の二人もそれぞれ祈りを捧げていた。
それからカメリアとサリサ、アンジュは笑いながら朝食を食べた。
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