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自分の幸せは 他人の不幸で出来ている

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予定通りお芝居を見た後、ロアンヌはレグールに連れられて レストランに来ていた。

この前の店と違って、こじんまりとした家庭的な雰囲気だ。
これなら 落ち着けそうだ。
しかし、店に入った時から 客が少ないのか物音がしない。
人気のない店?
デートなのに、そんな店に わざわざ連れてくる?
チラリとエスコートしてくれているレグールを見上げる。
普段と変わらない。

内心、首をひねりながら 案内係の後に着いていくと、お店の中央に一席だけテーブルセッティングされている。
他のテーブルには何もされてない。(これは……)
物語など読んだ、初デートやプロポーズのシチュエーションでは?
だけど私たちは、ただのデートだ。
こんな凝った演出をしていいのだろうか?

ウェイターが一礼して去っていく。
姿が消えたのを確認すると、身を乗り出して 水を飲んで料理が来るのを待っているレグールに小声で尋ね。
確かめないと落ち着かない。
「レグール様、もしかして貸切にしたんですか?」
すると" そうだ" と、おうよう頷く。
(やっぱり……)
 周りの人達に見せつけるみたいに、こんな事をしてもらうと、自分が特別なんだと実感する。
でも、こういうことは慣れてなくて 恥ずかしくなる。

「この前は人が、ひっきりなしに来て嫌だっただろう。だから貸切にしたんだ」
その気持ちは分かる。
私も同じだったし、迷惑だった。
でもだからと言って、普通のデートに  お金を使っていいのだろうか?
「やりすぎです。それでなくても結婚で出費がかさむのに……」
「たまの贅沢じゃないか」
気にしなくて良いと、レグールが手を揺らす。
「でも……」
言いたいことがあったが、ウェイターが最初の料理を持ってきので 口をつぐむ。


食事を楽しんでいると、突然ふくらはぎを何かに擦られた。
ビクッとしてフォークを落としそうになる。
なに? 何が触ったの?
原因を探ろうと食事を中断してテーブルクロスをめくろうたした時、またふくらはぎを撫でられた。方向からして正面が怪しい。
私の前にいるのはレグールだけ。
あなたが犯人でしょと、視線を向ける。するとレグールが、当たりとワイングラスを掲げる。
(まったく……ここはお店の中なのに)
マナーが悪いと睨みつけると、レグールが肩を揺らしている。
私の反応を見て楽しんでいた。
( ……… )
文句を言いたいところだけど、従業員の目がある。我慢するしかない。

無視して食事を続けていると、今度は靴を脱がされた。思わずフォークが止まる。怒ってキッと見据えると、もう片方の靴も脱がされた。
 「なっ」
席を立つわけにいかない。なにより、まだデザートを食べてない。
靴を履き直すと、脱がされないように、 足を遠くへずらした。
それでも、しつこくからんで来る。
そっちがその気なら、私だって、靴を脱ぐとレグールのふくらはぎをゆっくりと撫でる。
(ふふっ)
反撃に出ると思ってなかったらしく、動物に噛みつかれたみたい驚く。
その顔があまりにも、おかしく吹き出してしまった。
「ぷっ」
すると、レグールもふくらはぎを撫でかえしてきた。

お互いにじゃれあいながら料理を食べ進める。
こうして、ゆっくりしていられても今日だけ。明日からお互いに、婚約式の準備が本格化するから、しばらくは会えそうにない。
そう思うと、この時間が大切だ。
ロアンヌは、自分のデザートのアイスクリームをすくうと「あ~ん」と
言って、レグールに差し出す。
何のためらいもなく、パクリと食べる。そして、私の番だとスプーンを差し出した。私もパクリとスプーンを口に含む。

いつのまにか私もレグールに感化されて、恥ずかしさのハードルが下がってる。  

***

時はまたたく間に流れ婚約式の前日。



使用人の誰もがロアンヌ様とレグール様の事を祝福しようと、完璧を求めて仕事に励んでいた。 ディーンも蜂の巣をつついたような騒ぎのなか休む間もなく忙しく働いている。
厨房に3個目の酒樽を運んだディーンは額の汗を拭う。
(準備は 今日中に終わるのか?)
やってもやっても、次の指示が飛んでくる。そんなこと思ったそばから、次の指示が飛んできた。
「ディーン、薪が足りない。持ってきてくれ」
「はい!」


「ちっ」
空っぽの薪置き場を見て舌打ちする。一から作るのかと思うと面倒くさいとイライラして頭をかいた。が、仕方ない作るかと諦めて肩を落とす。他に頼める人が居ない。


裏山にある木材を抱えて下山しようとしていると、どこからか泣き声が聞こえる。
「うっ、うっ、うっ、……はぁ~うっ、うっ」
「 ……… 」
声のする方を見るとクリスが膝を抱えて泣いている。その姿に足を止めた。
朝から見かけなかったけど、ここにいたのか。
見る影もないほど意気消沈している。泣いているところを見ると、とうとうクリスもロアンヌの事を諦めたみたいだな。
でもなんで、こんなところに?
いつもは、みんなに慰めてもらおうと、一目のあるところで泣くのに。
(主にお菓子目当てだけど)
そう言えば……あの後もロアンヌの気を引こうと、一人で色々と行ったようだが、全然相手にされなかったらしい 。
失敗するたび、みんなに八つ当たりして 煙たがられてたな。
気を紛らわそうと街を徘徊していたと耳にした。

声をかけようとが止めた。
(失恋したばかりでは、祝福する気にはなれないからな)
クリスに婚約式の為の手伝いをさせるのは酷というものだ。抜け出したことを誰も責めないだろう。クリスにも心を整理の時間が必要だ。そっとしておこうと、その場を立ち去った。



夕方になり仕事もひと段落。
あれからずいぶん時間が経つのに一度もクリスも姿を見かけてない。
様子を見に行こうとまかないのサンドイッチを包む。
(腹を空かせてるだろう)
自暴自棄になって、何かやらかしてないといいけど……。
一抹の不安を覚えがら、探すと俺が
作った薪に座ってぐずぐず言いながら、涙を両手で何度も拭っている。
(まだ泣いてる)
よく目が溶けないものだ。

「うっ、ぐっ。血が繋がってないのに……どうして、男として見てくれ無いんだよ……」 
まだ、そんなこと言ってるのか?
(全く理解してないな)
それは容姿のせいだ。そして、子供じみた性格。何よりロアンヌに対して精神的に頼ってる。
泣きながら薪を蹴りつけたりして当たり散らしている。

そばに行こうとしたが、見守ることにした 。人間、挫折を知って大人になるんだ。自分で乗り越えた方が良い。
「好きな気持ちならアイツに絶対負けないのに……うっ、うっ……馬鹿ぁ~」
腹立ちまぎれに、俺が折角積んだ薪を辺りに放り出した。
後で仕事が雑だと怒られるのは俺だ。
「おい!」
止めようと一歩踏み出そうとしたが踏み戻す。覗き見してた事がばれてしまう。何より成長のためだ。我慢。
「………5歳の時からロアンヌに尽くして来たのに……結婚なんて嫌だ!」
(確かに、寝ても覚めてもロアンヌ、ロアンヌと言って、よく後ろを追い掛け回していたな……)

懐かしい思い出だ。
クリスはロアンヌに気に入られようと、どんな無茶や我儘を言われても笑って言われた通りにして、機嫌を取っていた。好かれる努力をしたのは認める。しかし、 だからと言って相手がそれを受け入れるとは 限らない。
それが人の心だ。
幼馴染は、もう一人の家族のようなものかもしれない。兄弟になるのか、夫になるのか……。
クリスが女で 、ロアンヌが男なら 明日の婚約式 ロアンヌの横に並んでいたのはクリスだったかもしれない。


気が済んだのかクリスが、トボトボと歩き出した。
何をしでかすか分からない。気になって後を付けることにした。
立ち止まったかと思うと、両手を口に当てて空に向かって叫んだ。
「レグールなんか嫌いだ!」
クリスの12年にわたる初恋が終わろうとしている。
「明日なんか、来なければいいのに!」
(叫べ。叫べ。いっぱい叫べ)
そんなクリスの姿を見て 深々と何度も頷く。

それから、玄関前の噴水で顔を何度も洗い出した。きっと涙を洗い流してるんだろう。心に残った恋心を涙と一緒に消し去るんだ。
「レグールなんて、どっかへいっちゃえば良いんだぁ……うっ、うっ」
クリスがそう言うと、その場にへたり込んで自分の胸を押さえている。見ているこちらの方が胸が痛む。
これ以上見るのが耐えられないと顔をそむけた。
居た堪れなくったディーンは、その場を後にした。



ディーンが去って暫く経った頃、大きなズタ袋を担いだ二人組が、若い男の手引きでアルフォード伯爵の家の外へと出て行った。

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