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贈り物は 流行りの物を

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ロアンヌは クリス救出するためにレグールの家まで やってきた。
私の無事な姿に、スペンサー伯爵夫妻が実の娘のように喜んでくれた。
後は、犯人からの連絡が来るのを待つだけ。そんな中、レグールが武器庫に私達を連れてきた。

喜んでるディーンと違って私は、そんな気分になれない。
男の人は女が剣を持つのを嫌がる。
" 女は守られるもの " そういう考えが根強く残っている。お父様だって、いい顔をしなかった。
(レグール様は、どう考えているんだろう。何でも許してくれるけど……)

****

レグールはロアンヌの真正面に立つとその背の高さを測る。
剣といっても 種類も長さも いろいろだ。使うなら自分に合ったものを持たないと。
「ちょっと見繕ってくるから、ここで待ってて」
「 ……… 」
そう言うと、その場にロアンヌを残して武器庫の奥の部屋から 自分が少年のとき使っていた剣を持ってきた。身長を考えたらこれ位だろう。
「振ってみて」
「 ……… 」
ロアンヌが言われた通り剣を振ると、ヒュッと風を切る音がする。
「ひゅう~」
思わず口笛が出る。
なかなかどうして経験者だ。
ひらりと他人の手を借りずに馬に跨ったときから、そんな感じはしていたが、これなら大丈夫だ。
足手まといになるようなら、ここへ置いて行くつもりだったが、連れて行って問題ないだろう。
「丁度良いみたいだね」
「 ……… 」
さっきから頷くだけで返事をしない。 ロアンヌらしくない。
無言で私を見ているから、何か言いたいことがあるらしい。
しかし、自分から口を開く気配がない。
(珍しい)
何時も疑問に思った事はすぐ口にするのに。

「どうした?」
言いたい事があるなら言えば良いと促す。
「あの……その……女が剣を……」
ロアンヌが 口を開いたが途切れ途切れ。いつのまにか俯いている。
その言葉からロアンヌが何を聞きたいのか察しがついた。
一般的に女性が剣術を習うことを
良く思わない人間が多い。その事も知っている。
ロアンヌのかわりに、その後を続けて 返事をする。ロアンヌが、驚いたように顔を上げる。
「振り回すのを 気にしないよ」
「本当ですか?」
世辞なら止めて下さいと言うように疑いの眼差しを向けて来る。
嫌な経験をしたことがあるらしい。
その まなざしに薄く笑う。


私はどちらかといえば寛容なうだ。
それに戦場では女の騎士もいたから、レグールに偏見は無い。 実力が伴えば問題なし。
「本当だよ。嘘はつかない。だけど……」
「だけど?」
ロアンヌが身を乗り出す。その緊張した顔に、ついからかいたくなる。
「私より強かったら、ちょっと考えるけどね」
そう言ってウインクした。
するとロアンヌが ピタッと一瞬固まる。しかし、その目が弧を描く。
クスリと笑ったかと思うと、真剣な顔でシゲシゲと渡した剣を見る。
「それは大丈夫です。レグール様が
少年時代 真面目に鍛錬に明け暮れた事は、この剣が証明してますから」
「っ」
と言って、剣先からゆっくりと刃を撫でる。
自分が使ったものだと見抜かれた。
気恥ずかしくて口をつぐむ。
刃は何度も研いた。柄の所のには指の形が残るほど努力した。
これ以上何か言われたら赤面してしまいそうだ。

レグールは逃げるように話を変える。
「 ロアンヌは剣術を習った事がるだろう」
それは疑問ではなく確信だ。剣を振ってるところを見たこが、癖がない。
「はい。クリスの付き合いで……」
そう言うとまた俯いてしまった。 どれだけ クリスはロアンヌを傷つけてきたんだ。無性に腹が立つ。
「分かるんですか?」
ロアンヌの問いに頷く。 強さを見極めるのは戦場で生き残るために必要なスキルだ。
「ああ。こう見えても十年前までは、最前線で戦ってたからな。この中で一番強いのは、彼ディーン」
そう言ってディーンを指差してから、自分を指さす。
「次は私かな? ここ十年ほどは剣をペンに持ち替えてるから、腕が鈍ってるはずだ」
ストレス解消や 体が鈍らないように嵐で遠出をしたり鍛錬をしているが、実践からは随分遠ざかっている。
(いざと言う時体が動けばいいが……)
そう考えていると使用人が慌ただしく入って来た。
「レグール様。手紙が届きました」
「分かった。直ぐ行く」
ディーンに声を掛ける。
「ディーン。行くぞ」
ロアンヌと頷き合うと、手と手を取り合って部屋をでた。

*****

ロアンヌ様のために持ち込んだ荷物の中から、ルーカスは木箱の蓋を開けて中から大きな化粧箱を取り出した。
この箱の中には初めて買ったドレスが入っている。
水色の生地に白いレースが たくさん付いた可愛らしいドレスだ。
そっと蓋を撫でる。
自分が一目惚れしたドレス。
( 気に入ってくれるだろうか?)

小屋の中に入ると、意を決してロアンヌ様の前に箱を置く。
どんな反応するのかと思うと、緊張している喉が鳴る。
すると、問うようにロアンヌ様が箱と自分を交互に見る。
「きっ、着替えのドレスです」
「えっ?」
驚いて瞬きする。 そりゃそうだ。
 知りもしない男からのプレゼントなんて、気持ち悪い。 だけど、どうしても受け取って欲しい。
「昨日から同じ服だから…… その……汚れてしまったし……」
しどろ もどろになりながら、言い訳を言うと、ロアンヌ様が自分の服を見る。大きな襟のついたドレスシャツは、飲み物の汁や土埃で薄汚れている。強引に勧めるのは躊躇われる。
だから、言葉を探すように話しかける。
「べっ、別に……気に入らなければ着なくても……いいんだけど……できたら……見るだけでも見てくれたら……」
 売り子が、このドレスなら誰でも喜ぶと言っていた。その言葉に後押しされて買ってしまった。

開けてさえくれれば自分の気持ちも伝わる。化粧箱を無言でロアンヌ様に向かって、さらに押す。
機嫌を損ねて、帰ると言い出されたら自分になす術はない。
監禁すれば絶対許してくれない 。両親が知れば結婚できなくなる。
だからと言って帰したら、あのジジイと結婚する。
(ただ自分が選んだドレスを見て欲しいだけなのに……)
難しい状況にジレンマに陥る。
眉をひそめて箱を見ていたが ロアンヌ
様が蓋に手を伸ばす。

ルーカスはそれを、手に汗握って見守る。
(ドレスを見てどう思うだろう? 喜ぶ? がっかりする?)
「うわぁ~」
ドレスを見たロアンヌ様が驚きの声を上げて、ドレスを取り出す。
( 気に入ってくれたみたいだ)
ドレスを両手で掲げて喜ぶ姿に 自分も嬉しくなる。
これなら着てくれる。
「凄い。 このレースマルミアでしょ。
これ今一番人気なんだよ。複雑な模様で編むのに時間がかかるし」
一気にロアンヌ様のテンションが上がって饒舌になる。
(やっぱり可愛いものが好きなんだ )
裏返しにしてドレスの縫い目を念入りに、指でなぞっている。
「なるほど……こうなってるんだ……」
さすが伯爵令嬢。
チェックするところが玄人だ。
「着替え終わったら声をかけてください」
「うん。 分かった」
すっかりドレスに夢中で、生返事しか返ってこなかったが満足だった。



小屋から出たルーカスは キョロキョロと辺りを見回す。
「あれ? もう一人は?」
「えっ、あっ……水汲みに行っています」
「へー、気が利くな。昼食の用意をするから手伝ってくれ」
「はっ、はい」
 初めて用心棒を雇ったけど、こんなにいろいろしてくれるなら、贔屓になってもいいかもしれない。
自分の手足となって働いてくれる者が居る。なんだか本当の騎士になった気分だ。
「あっちの木箱に野菜に入ってるから皮を剥いて」
「はい。かしこまりました」
 言われた通り野菜を取り出してるのを見て、気分を良くしたルーカスは昼食のメニューを 肉料理に決めた。

*****

同席したいと申し出たが、子供から私がここに居る事が漏れるのは不味いと断られてしまった。
仕方なくレグールが手紙を届けてくれた子供から話を聞き出している間、ディーンと 二人で応接で待つことにした。
( 大丈夫。きっとレグール様なら上手に聞き引き出してくれる)

ロアンヌは落ち着かない気持ちを抱えたままドアを開けると、 伯爵が同じ年頃の男性と話をしていた。
(あの人……何処かで……)

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