男装の悪役令嬢は、女嫌いで有名な騎士団長から執着されて逃げられない

第一話 転生悪役令嬢は男装の騎士となる

０６－２０．

　アデラインの提案である座って話をする時間は終わりを告げた。

「では、寝室の確認をしてもらおうか？」

　メルヴィンの言葉の裏をアデラインは気づかなかった。

　差し出された手を借りて、アデラインは立ち上がる。

　……緊張していらっしゃるのかしら。

　差し出されたメルヴィンの手に力が籠っていた。立つのに支えるだけだ。それほどの力が必要になるほどにアデラインの体重は重くはない。

「先ほども気にかけていらっしゃいましたものね。それほどに大切なことですの？」

　アデラインはメルヴィンの手に捕まったまま、歩き出す。

　寝室に繋がる扉へと誘導されていることに対する危機感は、なにもなかった。

「とても大切なことだ」

　メルヴィンは断言する。

「問題があっては困るだろう？」

「それはそうですが。不具合なんて起きることがありますの？」

「そうではない。肌触りは好みがあるだろう？」

　メルヴィンの言葉を聞き、アデラインはそういうものなのだろうと納得した。

　……手作業で作られていると聞いたことがありますわ。

　高級品質を保つ為には魔法は最低限しか使うことができない。魔法を使ったとしても、家具の装備品を長持ちさせる為に使われる程度である。

　魔法を使った量産型の製品は金額が下がる。

　しかし、熟練の職人が手作業で作り上げたものよりも、品質が悪く、壊れやすい。

　問題は魔法にあるのではない。

　貴族の血を持たないものの、魔力に恵まれた平民の多くは魔力の質が悪く、質の悪い魔力を使った魔法の練度はどうしても低くなりやすい。

　魔法学院を代表とする専門機関が存在するのは、魔力の質を高める為でもある。しかし、入学料を初めてとして授業料、教材費、寮費など多大な金銭が必要となる場所に平民が通うことなど夢のまた夢だった。

　……なにかの間違いが起きるかもしれませんものね。

　熟練の職人でも間違うことはある。

　それを危惧しているのだろうと、アデラインは思い込んでいた。

「……一つなのですわね」

　寝室に移動し、アデラインは初めて言葉を発した。

　夫婦の寝室となるのだから、当然、ベッドは一つだ。特注のキングサイズのベッドが用意されていた。