黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩

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第二章 シヴァール国の黄金の実

アン婆さんの孫

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「ギルドから連絡をもらってアガサまで来たら、アン婆さんはついさっき入院したって言うじゃない? だから急いで来たのに…、一体どういう事?」
「君は?」
「エレナ・ハリオ。父の姓よ。でもアン婆さんの本物の孫!」

 ギロリとにらまれて、声が出なくなった。美人がにらむと怖い。
 おばあちゃんの本当の孫が帰ってきたら正直に話そうと思ってたのに。

「ほうほうほう、これは、これは…」

 廊下の向こうから、今度は変なおじさんがニヤニヤしながらやって来た。
 先を細く整えたくちヒゲに太い黒縁の丸眼鏡。コブのついた竹でできた細身のステッキを持ち、高級そうな三つ揃いのスーツを着ている。

「アン婆さんの孫が2人…ですか。婆さんからは死んだと聞いてたんだがね。どっちが本物かい? 両方でも構わないがね? 借金さえ返してくれれば」
「「 ええっ!? 」」

 おじさんはニヤリと笑ってくちヒゲをなでつける。

「婆さんは有能な薬師であらせられるから?、ワシも特別に返済を伸ばしてやってたんだがね。死んじまうなら話は別だ。遺族に返済してもらわんと、な」
「ひどい! おばあちゃんは死んでなんかいないよ!」
「そうよ! この唐変木とうへんぼく! おとといおいで!」
「フシャァァァーッ!!」

 ミーナとエレナ、それにラルの反撃を一斉に食らって変なおじさんは一瞬ひるむ。
 しかしすぐに立ち直り、ふところから折りたたんだ紙を取り出すと広げて見せた。

「うやむやにしようたって、そうはいかん。ほれこの通り借用書もある」
「どれ?」

 ゴッツが借用書を取り上げ、目を通す。

「10年ほど前か。………100万シエル!? 何だってこんな大金を貸したんだ?」
「ひゃ、ひゃくまん!?」

 100万シエルって、日本円にするとーーー約1億円!?

「ちょっと! 返しんさい!」

 おじさんはあわてて借用書を取り返す。

「何でも外国の珍しい薬草を買うんだとか、おっしゃってましたよ? ええ、ええ。病気を治す薬を作るんだとか。この10年、細々と返してくれてはいたんですがねぇ。なにせ利息も大きいですから、まだ半分は残ってますよ」
「病気の薬…」

 顔をこわばらせるエレナ。

「何に使おうとね、貸したのは確かなんですよ。どんな方法でも返してくれさえすりゃ構いませんよ。何ならお嬢さんに金払いのいい特殊な店でも紹介しましょうか? ぐふっ、ぐふぐふっ…」

 変なおじさんはエレナの体をいやらしい目でながめ回して気持ち悪い笑い声を立てた。間に割って入ったゴッツがおじさんを締め上げる。

「てめえ…」
「何するんですか! あ~れ~、助けて~!」

 ワザとらしく大騒ぎするおじさん。

「黙れ!」

 キレたのはゴッツではなくナグモ先生だった。

「ここは病院だ。騒ぐなら外でやってくれ。送るぞ」

 その言葉が終わるや否や、レース編みのような光に包まれ、周りの景色が一変する。
 転移魔法だ。
 軽く乗り物酔いのような感覚が残っている。目の前にはギルドのビル。どうやら冒険者ギルド裏手の空き地に飛ばされたらしい。
 雨は小降りになっていた。
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