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第一章

13 マーシア達への罰ゲーム①

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「うっ、ここは一体……」

 意識を取り戻したマーシアが辺りを見渡すと、そこはまるで監獄の独房室の様な場所だった。ここの壁には扉の様な物は取り付けられておらず、どうやってここから出ればいいのかもわからない。天井はとても高く、壁の至る所には照明が設置されている為、視界に困ることは無い。
 辺りには何かが入ったゴミ袋が散乱しており、そこから今迄に嗅いだ事が無い程の強烈な腐臭がこの場を漂っている。

「うっ!!」

 辺り一面から漂う腐臭に、マーシアは思わず鼻を手で塞ぐ。そんな時、マーシアは近くで倒れている二人の令嬢の姿が目に入った。それは彼女の取り巻きのエルザとマーシャの二人だった。
 マーシアは慌てた様子で二人の元へと駆け寄り、起こそうとする。

「ちょっと、貴女達、起きなさい!!」
「マーシア様……?」
「一体ここは何処ですか……?」

 そして、彼女達も目を覚ますがここが何処かは二人も分からない様子だった。

「「うっ!!」」

 だが起き上がった直後、二人もこの場を漂うあまりの腐臭に思わず鼻を手で塞いだ。

「マ、マーシア様、ここは一体どこなのですか!?」
「それにこの匂いは一体!?」
「っ、それはわたくしが聞きたいわよ!!」

 エルザとマーシャは疑問を口にするが、マーシアのあまりの剣幕に二人はそれ以上言葉を紡げなくなってしまった。
 しかし、マーシア達をここまで連れてきたのは間違いなくアメリアだろう。ならば、アメリアは今後、何かのアプローチをしてくるのは間違いない。
 ここが何処か分からない以上、彼女達はアメリアからのアプローチを待つ事にしたのだった。



 それからしばらく時間が経過し、マーシア達が空腹感で倒れそうになり、アメリアがこのまま自分達を餓死させるつもりではないのかと疑い始めた頃だった。

「ふふっ、どうですか? その場所の住み心地は」
「アメリアっ!!」

 唐突に、アメリアの声がこの場所全体に響き渡る様な音となって聞こえてきたのだ。しかし、マーシア達にはアメリアが何処にいるのか全く分からない。唯一分かるのは、マーシア達の声がアメリアに届いているという事だけだった。

「アメリア、一体ここは何処ですの!?」
「見て分かるでしょうが、そこはゴミ廃棄場ですよ」
「なっ、ゴミ廃棄場!?」

 そう、彼女達が今いる場所はゴミ廃棄場だった。彼女達が感じている腐臭はそのゴミが原因だったのだ。

「ど、どうしてわたくし達がこんな場所に!?」
「貴女達はゲームに負けたのですから、敗者は罰ゲームを受けるのが普通でしょう? そこは罰ゲームの会場ですよ」

 そう言ってアメリアはクスクスと笑った。それが嘲笑の類と感じたマーシア達は苛立ちを隠せなくなるが、当のアメリアが何処にいるか分からない為、その苛立ちをぶつける相手がいなかった。

「さて、罰ゲームの内容を説明しましょう。貴女達にはこれから一生をそのゴミ廃棄場で過ごしていただきます」
「なっ……、こ、こんな何もない場所で一生を過ごせと言うんですの!?」
「ええ、その通りです。……ですがそれでは面白くありません。なので、救済措置を設けたいと思います。そのゴミ廃棄場の上から光が漏れ出ていますよね。あそこ、実は窓になっています。あの窓から外に出る事が出来ればその人だけは助けて差し上げましょう」

 だが、アメリアの言う窓までは高さはかなりある。それこそ、成人男性五人分の高さがあるだろう。貴族令嬢三人が力を合わせても到底届くとは思えなかった。

「ああ、そこにあるゴミは好きに利用してもらっても構いませんよ。有効に使える物が入っているとは思えませんが……」

 ここにあるのは正真正銘のゴミだ。特にその大半はこの場所に漂う腐臭の原因である生ゴミなのだ。三人はこの中に有効に使える物が入っているとはとても思えなかった。

「あとは……。そうですね、飢えの事を心配しているかもしれませんが大丈夫ですよ。一日三食、飲食物を支給いたします。こんな風にね」

 アメリアがそう言うと地面に大きな魔法陣が浮かび上がる。そして、その魔法陣からは大きな箱が現れた。

「毎日、朝昼晩とそのようにして貴女達に飲食物を支給します。ですので、飲食物に関してはご安心ください」

 現れた箱の中に入っているのが飲食物だと知ったマーシア達は、自分の空腹感からその箱の元へと駆け寄った。
 三人は箱を取り囲む様に周りに立つと、全員が顔を見合わせて頷く。そして、箱を勢いよく開いたが、箱の中身を見た瞬間、三人は思わずドン引きしてしまう。

「ま、まさかこれを食べろと言うんですの!?」
「ええ、それが何か?」
「こんな物、貧民の残飯じゃない!!」

 そう、アメリアが用意したという食べ物は明らかに貧民街に住まう貧民が食べるような残飯だったのだ。しかも、それが盛られているのは小奇麗なお皿では無く、バケツの様なものに盛られている徹底振りだ。

「わたくし達にはこんな貧民が食べる様な物は食べられませんわ!!」
「文句があるなら食べなければいいのでは?」
「くっ!!」
「空腹で倒れそうなのでしょう? 食べないのですか?」

 しかし、マーシア達は自分のプライドが邪魔をして、中々残飯に手を付けようとしない。だが、食欲というのは人間の三大欲求と呼ばれる最も大きな欲求の一つ、そう簡単に我慢は出来ないのだ。
 そして、目の前にある食べられなくもない物のせいで彼女達の空腹感は更に増していく。その増した空腹感は彼女達にこの残飯を食す覚悟を固めるのには十分だった。

「……ナイフとフォーク、スプーンは何処にあるのかしら?」
「そんな物、ありませんよ?」
「だったらこれをどうやって食べればいいのよ!?」
「それは、手掴みで食べればいいのでは?」
「なっ!?」

 いわずもがな彼女達は高位の貴族令嬢だ。そんな礼儀作法に反した、はしたない下品な行為、出来る筈がない。そんな事をすれば一瞬で社交界の笑いものになるだろう。そもそも、そんな食べ方を生まれて一度もした事が無かった。
 だが、アメリアは支給した残飯を食べようとしないマーシア達に追撃する様に無慈悲な言葉を告げる。

「食べないというのなら、それらは返していただきますが」
「っ、わたくしにこんな事をさせるなんて許しませんわよ!!」
「どうぞお好きに。別に貴女の許しは求めていませんので」

 マーシア達は嫌悪の表情を浮かべながらも、空腹に耐えきれず、支給された残飯を手掴みで口に運んでいく。だが、その光景を見て嗤うのはアメリアだ。

「ふふふっ、公爵令嬢様ともあろうお方が、そんな下品な食べ方をするなんて……」
「くっ、絶対に許しませんわ!!」

 聞こえてくる声から、アメリアの嘲笑する姿が容易に思い浮かび苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、飢えには勝てない。三人はアメリアのクスクスという笑い声をBGMにさせられながら残飯を手掴みで食していくのだった。
 因みに飲み物の方も濁った水の様な物だった為、マーシア達はアメリアに再び文句を言ったが、彼女がそれを聞き入れることは無かった。
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