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終章 冬が好きになった少年

ミノルのやりたかったこと

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 『カランっカラカラ……』
「あい、らっしゃい。――お、王様ン所の新しいメイドさんじゃねえの。もう風邪は治ったのかい?」

 そう気さくに話しかけてきたのは、ボクのお気に入りの雑貨店の店主さんだった。体が大きくて、筋肉とお髭が凄いことから、ボクはこの人のことを頭の中で『ミスター熊』と呼んでいる。

 仕事で使う備品や食材、調味料なんかは、大抵ここで買い揃えられるから。ボクはよく利用していた。……ま、まあ半分くらいは、奥の方に飾ってあるぬいぐるみコーナーを見るためでもあるけど……。
 
「い、いや。だからあのボクはメイドじゃなくて、ただの小間使いで。どちらかと言えば執事の方で……」
「細かいこと気にするなって! にしてもこんなに可愛いメイドさんなら、ウチでも働いて貰えねぇかなぁ。看板娘ってやつだ、売れるぜ絶対」
「あ~はは兄ちゃんこの人面白いこと言ってるよ。絶対下心あるよ今のうちにシメちゃおうか」
「落ち着けマサト。まだ未遂だ。気絶させるくらいにしとけ」
「いやほんの冗談だかんな!?」

 とにかく街を暫く回っていたボクは、何気ないフリを装ってこのお店まで来ていた。適当に雑貨を見て回りながら、こっそりと隙を見て店長さんの所に近寄り…… 

「まあ何にせよ元気そうでよかった、んで今日はどうしたんだい? 王子様お二人も揃ってご来店たぁ、回復祝いでもやるのけ?」 
「いやその。今日はなんて言うか、あの。ま、前に頼んでたアレのことで……」
「ああアレか! ってことは初任給入ったのか、良かったなぁ。通りでホクホク顔なわけだ」
「ちょ、声が大きい……!」
「おっと悪い悪い。はは、じゃあそういうことなら用意しとこうか? 少し時間はかかるが」
「お、お願いします……。今のうちに……」

 と、ボクは二人の目を盗み……予約分のお金を渡す。それを受け取った店長さんはいそいそと裏方へと消えて、何かしらの物音を立てた。

 よし、これで後は待つだけ。とりあえず後は何とかして、準備が整うまで二人を店内に引き止めておかないと……。は、話でも長引かせてみるか。

「ねえねえマサト……。なに見てるの?」
「ん~? 大したものじゃないよ。ほら、これ」

 するとマサトが見せてくれたのは、瓶詰めされた化粧水とか美容クリームらしきもの。『肌を守るために』とか、『これでスベスベ肌に!』とかそういう売り文句が書かれているや~つ……。

「はえ……。マサトこういうの使ってるんだ?」
「や、おれじゃないよ。ミノルお姉ちゃんにと思って」
「……へ? ボク?」
「そ! だって乾燥する時期だし、こういうのつけたほうがいいって聴いたから。それに水仕事とかしてると手が荒れちゃうし、背中とかお腹だって色々さ……」
「マサト……。だ、大丈夫だよっ。まだそんなに荒れてないし……! そこまでしなくても、まだ……」
「いやっ! こういうのは油断した頃に来るからねっ。これからはキチンとおれが、夜にでも肌ケアしたげるから……! 任せといてっ!」
「え、ええっ……?? あ、ありがとう……?? ……ううん。でも、そこまで荒れてるかなぁ……」

 ふと自分の肌具合が気になり、ボクは上着をめくってお腹を出してみる。

「んッッッ……!?」
「うーん、まだザラザラとかはしてないと思うけど。どうなんだろ……。マサト、どう?」
「へっ……!? ど、どうって、何がっ……!?」
「え? いや、荒れてるかなって……」 
「ああっ……はい……うん……!? そ、そうだね……えっと、そのっ。じ、じゃあちょっと失礼して……」

 なぜか妙にオドオドしたマサトは、恐る恐る手を伸ばしてボクのお腹に触れる。おヘソや胸元の辺りを撫でるようにして、肌触りを確認……。

「……す、すべすべ……。お風呂の時も思ったけど、や、やっぱりめちゃめちゃすべすべ……」
「ほっ。よかった……。でも、そうだね。こういうのはケアが大事って言うし、今のうちからやっといたほうがいいのかな……」
「う、うん……。……だね……」
「……ん? マサト?」

 するとマサトは、なぜかおヘソの辺りをジッ……と見つめた。お腹に両手を当てて、軽く押し込んでみたり、撫でてみたり……。

「……ここに、おれのが入ってるんだよね……」
「おれの?」
「な、なんていうかさ。改めてこうして見てみると、本当に華奢だなって。細くて、柔らかい肉つきなんだけど。やっぱりこんな小さな体の中に……おれのを挿れてるって思うと、な、なんか……」

 そしてマサトが意識していることを理解した瞬間、ボクの顔は急速に沸騰して真っ赤に燃えたヤカンのようになってしまうっ……。

 な、何やってるんだろボク。肌の話してるのに、なんでお腹見せてんのっ……!? こういうのはあの、わかんないけど……腕とか手のひらを見せるもんじゃ……!?

「……ね、ねぇ。ミノルお姉ちゃん。……おれのって、いつもどうなってるの?」
「ど、どうなってるって……。あの、その……」
「……」
「だから……。は、入ってくるんだよ。お尻の奥に……。ごりゅっ……ってボクの中をかき分けながら、ずぷぷって感じで……奥の奥まで、マサトで満たされて……」
「……(ごくっ)」
「それで、その。マサトが腰を引いて、一回半分くらい抜けて……。それからまた思いっきり腰を打ち付けるからっ。い、いっきに、その。……この、オヘソの辺りまで、ごりゅっ……って……」

 ……そういえば、結局この二週間は一度もセックスしていない。風邪のせいでそういう余裕が無かったから、マサトを慰めてあげることも……。

「何やってんだオメーら」
「「うわぁっ!?」」

 しかしそんな久しぶりの甘い雰囲気も、突然聴こえてきたラフィールの声によって中断されてしまう。慌ててボクはお腹を隠し、理由もわからずその辺にあった商品を手に取って、今までのことを誤魔化そうとしていた。

「いや無理だって。バレてんだってもう。ったく、他に客が居ないからいいものの。誰かに見られたらどうすんだって」
「うぐぅ……。し、仕方ないでしょっ。久しぶりだったんだから……。ていうか邪魔しないでよ兄ちゃん、良い雰囲気だったのに……!」
「そういうのは帰ってからしなさいっての。俺だって我慢してんだから。ほら、俺が声かけるの遅かったら店主に見られてたぞ?」

 すると振り返ってみると、丁度さっきの店主さんが荷物を抱えて戻ってきた。どうやらボクらの触れ合いは見られていなかったようで、荷物を整理しながら何かを用意している最中……。

「ぐぬぬ……。……はぁ。仕方ない……。つ、続きは帰ってからにしよ? ミノルお姉ちゃん……」
「そ、そうだね……」
「お~い、メイドさん。用意出来たぞ~」
「あっ、は、はい……! ……危なかった……」

 ま、まあともかく。どうやら準備が出来たらしいので、ボクはマサトとラフィールの手を引っ張って店主さんの所へと。

「ん……? これって……〝カメラ〟か?」
「そ! どうだい、ウチの自慢の最新式だぜぇ。高かったんだコイツぁ。ま、お陰でウチの財布担当に大目玉くらったけどな……はぁ……」

 店主さんが用意したもの。それはこの世界のカメラだった。当然ながらボクが知っているような(地球で見るような)、簡単に持ち運び出来るようなものではなく。大昔に使われていたような大きなものだけれど。

「えへへ……。じ、実はその。この人に頼んで〝写真撮影〟の予約してたんだ。このお店が副業で、撮影と現像のサービスもやってるって聴いたから……」
「え、そうだったの!?」
「おうよ。ま、プロのカメラマンとまではいかねぇがな。その分料金は手頃にしてるし、若い恋人さんやら……爺さん婆さんの写真撮ったりなんかで、結構ひいきにしてもらってるんだぜ」
「はえ、知らなかった……。ていうか、そっか。じゃあつまりミノルお姉ちゃんがバイト頑張ってたのって、もしかしてこのため……?」

 ボクは、コクリと頷く。

「二人にその、何か贈り物をしたいと思ったんだ。でも二人って、あまり物欲ないから……何をあげたらいいのかわかんなくて。……でも写真なら思い出になる。今までの思い出を残すために、そしてこれからまた写真をいっぱい撮って、沢山の思い出を増やすためにって……」
「ミノル……」
「……ああいや、ご、ごめん。やっぱりアクセサリーとかの方がよかったのかな……? あまり人に贈り物をしようと思ったことがないから、慣れて無くて、そのっ……わっ!」

 そうしてボクが落ち込もうとしていると、突然ラフィールが頭を撫ででボクの思考を掻き乱した。しかもマサトも一緒になって、ボクの顔をむぎゅっとしながら……。

「嬉しいに決まってんだろ。ったく、すぐ落ち込んじゃう所は変わらねぇのな。オメー」
「そうそう! ま、それがミノルお姉ちゃんの良い所なんだけどねっ。可愛いっていうかさ……!」
「わっ……! むぐっ。あ、あはは。そっか、よかった喜んでくれて……!」
「ありがとう、ミノルお姉ちゃんっ……! いっぱい撮ってこ! もうここが破産するくらい連写してやろうよ!」
「いやっ、さ、さすがにそこまでのお金は……」
「気にすんなって。俺も出すからよ。……ありがとな、ミノル」
「ラフィール……。……う、うんっ……!」

 そんなこんなで。こうしてボクらは、初めて想い出を形として残すことが出来た。壁際に立って、三人で並びながら……(めちゃめちゃはしゃいだポーズで)写真を一枚、パシャリと。

 とはいえ流石に時代が時代なので、今日すぐに写真が現像出来るというわけではなく。何日か経った後に写真は受け取れるらしい。

 だけど嬉しかった。だってこれは、始まりだから。これからまだまだ沢山増えていく写真の中の、最初の一枚。

 ……もっと沢山撮ろう。想い出を作ろう。後悔する暇もないくらい、沢山。そしていつかアルバムが出来る頃には、もしかしたら……。
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