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【本編】5さい
17話 俺のために
しおりを挟む「……じゃあリツ、僕は行ってくるから」
「ピィッ!!」
(うん!がんばれよ!!)
「いい子にしてるんだぞ」
「ピッ!」
(わかった!)
「お菓子は食べ過ぎたら駄目だからね」
「ピ~」
(わかってるって~)
「あと絶対に知らない人にはついて行かないこと」
「ピーィ」
(わかったって……)
「それと母様とライオネルに嫌なことをされたらーーー」
「ビィィィ!!」
(しつこい!わかったってば!!)
屋敷の前でお見送りをと、執事の爺ちゃんの手の中にいる俺の小さな手をキュッと優しく握りながら、何度もしつこく同じ事を繰り返すラディ。
そんな、なかなか馬車に乗らないラディに俺は苛立つ。
「ほほほ、ラディアス様そろそろ出発しなくては稽古の時間に間に合いませんぞ。リツ様の事は私が責任をもってお預かりさせて頂きますので、御心配なさらず行ってきてください」
落ち着いた表情で言うこのお爺ちゃん執事はバセスさんと言うらしい。
白髪の髪をオールバックに固め、鼻下の髭は綺麗に切りそろえられている。高身長と姿勢のいい立ち姿も相まってすごくかっこいい。
「ピッピッ!!」
(そうだぞ!ラディはけいこがんばれよ!)
俺は最後にラディの指に頬ずりして名残惜しそうにするラディを見送った。
ラディの馬車が見えなくなると、バセスさんは俺を目線の高さまで持ち上げ笑みを浮かべる。
「ラディアス様のあの様な表情は初めて見ました。これもリツ様のお陰ですね。さぁ、奥様の元へ参りましょうか」
「ピュ?……ピィッ!!」
(おれなにもしてないけど?……まぁいいや、おねがいします!)
俺はビシッと敬礼ポーズをとって大きな返事をした。
。。。。。。
「いらっしゃい、リツちゃん!待ってたわよ!」
「ピュイ!」
(こんにちは!)
バセスさんにラディの母ちゃんの部屋まで連れていってもらうと、温かい笑顔で迎えてくれたラディの母ちゃんはやっぱりすごく綺麗な人だ。
部屋では数人の侍女がお茶とお菓子の準備をした後、テーブルに薄いクッションを置いて部屋から出ていった。
「バセス、リツちゃんをこちらに」
「かしこまりました、奥様」
そう言うと先程テーブルに置いた薄いクッションに俺を座らせる。
「夕刻にまたリツ様をお迎えに上がります。それでは、失礼致します」
「ええ、ありがとう」
「ピピ!!」
(バセスさん!ありがと!)
俺が手を上げるとニコッとしてからお辞儀をして部屋を後にする。
バセスさんを見送ると、俺はテーブルに置かれた目の前のお菓子達に目を輝かせる。
「ピュキュ~」
(うまそぉ~)
そんな俺の様子にラディの母ちゃんは「うふふっ」と口元を手で押え明るく笑った。
「今日は来てくれてありがとうね。そのクッション昨日私が作ったのだけれど座り心地はどうかしら?」
前世で言うと座布団の様なものだろうか……薄いのにすごくフカフカで座り心地の良いクッションは、俺の為にラディの母ちゃんが作ってくれたらしい。
俺のために……。
それが嬉しくてぴょんぴょんジャンプしながら喜びを伝えると、綺麗な人差し指で優しく撫でてくれたのだった。
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