リス獣人の溺愛物語

天羽

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【本編】5さい

23話 ハビーという男

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あれから一月が過ぎたーーー。


最初の頃こそぺちゃんこに凹んでいたお腹は、今ではリス本来の可愛くふっくらとした状態に戻り、毛並みは毎日ラディがブラシをしてくれる事もあってか村にいた頃よりも毛艶が良く、サラサラになった。




そんなある日の朝食で、ラディ父ちゃんは俺に向かって口を開く。


「リツくん、先日冒険者ギルドの魔導師がこちらに帰ってきたと連絡があってね。本日の昼過ぎにその魔導師が訪ねてくるので昼食後私の書斎へ来る様に。
ラディアス、本日昼からの剣術稽古は中止するからリツくんと一緒に書斎へ来なさい」


威厳のある強い声音ではあるもののその中には何処か優しさが滲む様なラディ父ちゃんの言葉に俺は「ピィ!!」と返事をする。


「分かりました。父様……ありがとうございます」


(あ、ラディわらった……)


ほんの少しの変化だが、無表情の顔がふわりと和らいだ気がした。

それは、ラディ父ちゃんも気付いたみたいで目を見開いて驚くと……少し笑った。


「とう様!おれもいっちゃだめですか?」



「ラオは普通に剣術稽古があるでしょう?」
「ライオネルは普通に剣術稽古を受けなさい」


ビシッと父ちゃんと母ちゃんに言われたライオネルはガクリと肩を落とす。


「はぁーい、とう様、かあ様……」



(……なんかこういうの、あったかくていいなぁ……)


ダイニングルームには優しい空気が流れていた。





。。。。。。



朝食を食べ終えた後は、ラディと一緒に勉強をした。

俺が獣人と分かってからというもの、ラディの父ちゃんと母ちゃんはラディの傍で勉学をする様俺に勧めたのだ。

もちろん書く事や実践的な事は出来ないから先生の話を聞くだけなんだけど、それでも今まで勉強などした事ない俺にとって何もかもが新鮮で、先生の話も夢中で聞いてしまうほど楽しい。

獣人になって、字を書いたり声に出して読んだり出来たらきっと今よりももっと楽しいんだろうなと思いながら、獣人化が早く出来ればいいと強く思うのだった。





そう考えている内に到着したのか、俺を肩に乗せて歩いていたラディは扉をコンコンとノックした。


「父様、ラディアスとリツが参りました」


「ーーーーー入りなさい」


朝食の時より重厚感のある声音に俺は緊張した。


「失礼致します」


「ピュ……」
(し、しつれいします……)


いつもの元気はどこ行った?と思うくらい借りてきた猫の様な大人しさを見せる俺にラディか少し笑う。

ラディ父ちゃんの書斎に入ると中は思った以上に広く、あまり家具が置かれていない簡素な内装がまたそれを引き立てていた。


ラディ父ちゃんは書類仕事を見事な手さばきで一瞬の内に片付け立ち上がると、俺達に歩み寄る。


「よし、では時間もあまりない事だし始めるとしようか。先ずは先日私が言っていた魔導師がーーーー」

「初めまして~!君がカオンの言ってた噂のリスちゃんだねぇ!あ!かぁ~、想像以上に綺麗な瞳をしてて……かぁわいいなぁ、これはいい研究ができるかも……」



話を進めようとしたラディ父ちゃんと俺達の間に、気配を感じることも無くニョロリと入ってきた一人の男は、いきなりマシンガントークを始め、俺を見つめて目をキラキラさせていた。


いきなりの事で驚いた俺の毛並みは逆立ち、本能的な危険はないとわかっていても何処か身体がゾワゾワと震える。
ここの人達はいい人ばかりだし、ラディに心を開くまでは自分1人で頑張らないとって気を張っていたから忘れていたが、元々俺は人見知りなんだ。
そう思い出しながら俺はラディにこれでもかと言うほど引っ付く。


「あれぇ~、リツちゃんは恥ずかしがり屋さんなのかな?大丈夫だよ~怖くないから!!!」


如何にも不審者っぽい言動をしながら、俺の方へと手を伸ばす目の前の男から瞬時に距離を置き、震える俺を優しく撫でるラディ。


「あの、リツが怖がってるのでやめてください……リツを傷付ける奴は誰であろうと許しませんよ」


今まで1度も聞いた事ないラディの怒りを含んだ声音に俺自身も驚くが、同じように目の前の男やラディの父ちゃんまでも目を見開いていた。


「おぉ~これはこれは、ははっ……血は争えないねカオン」


「……なんの事だか」


目の前の男は無邪気な笑顔を浮かべると俺達に向き直る。


「いやぁ~、さっきはごめんね!ついテンション上がっちゃってね……。改めまして、僕はハビー……ハビー・ラエリス。一応これでも魔導師ギルドのギルドマスターやってるよ!元々は孤児院出の平民だったんだけど、沢山魔獣倒して、魔法の研究していたら何故か爵位貰って名ばかりの子爵やってます。堅っ苦しいの嫌いだから普通にハビーって呼んでね!よろしく!」


見事なウィンクをキメて自己紹介を終える目の前の男……基、ハビーさんは、先程まで驚いていて気づかなかったが、とても綺麗な男性だった。
深い緑色の髪は肩辺りで切り揃えられ、瞳は黄緑色。
キメの細かい肌は白く、ラディの父ちゃんと同じくらいの長身でスタイルも良く姿勢も良い。

ラディの父ちゃんと友達みたいだけど、圧倒的にハビーさんの方が若く見えた。


「ハビーは一見頭悪そうに見えるが、これでも国一番の魔導師だ。世界でも五本の指に入るほど知識は豊富で魔力も強い。魔力が多いと歳も取りにくいらしく、こんな見た目をしているがハビーは私よりも10歳以上年上だ」


「ビィィ!?」
(えぇ!?うそー!)


驚いたのは俺だけだったらしく、ラディは魔力量が多いと歳を取りにくい事を知っていたのか冷静だった。

……と言うより、まだハビーさんを睨んでいた。


「ちょっと~余計なこと言わないでよカオン!!
恥ずかしいじゃん!」


そう言って顔を少し赤らめるハビーさんがラディ父ちゃんよりも年上だなんて信じられなかった。


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