リス獣人の溺愛物語

天羽

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17さい

110話 久しぶりの

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「リツくん、次移動みたい。一緒に行こう?」



「うん行こっ!ちょっと待ってて!」



俺はそう言って鞄から次の授業で使う教本を取り出して廊下で待つミロットの元へ駆け足で向かう。



「ミロット、おまたせーーーーーーーー」



「おっ、リツー!!!!!」



聞き覚えのある活発なその声に俺は視線を向ける。
昔と変わらずベージュの髪を後ろで1つに結び、黒を基調とした制服を着こなすその存在は嬉しそうに俺に手を振り、その長い足であっという間に近付く。



「わぁ!ヘレス久しぶりっ!!!」




俺は久しぶりに会うヘレスに感極まってギュッと抱きつく。


約1年前、アカデミー入学が決まっていたヘレスに別れの挨拶をした時……その時には既に俺の入学も決まっていたから、ヘレスとはアカデミーでまた会う約束をして別れた……それから1年、1度もヘレスには会う事は無かった。
だから俺は、ここでヘレスに会うことも楽しみにしていた1つなのだ。




「ちょ、リツ!お前無闇に抱きつくな!」



ヘレスは慌てたようにそう言って俺を引き剥がしながらキョロキョロと周りを確認する。

そこ様子に、俺と隣に居るミロットがコテン首を傾げる。


「はぁー良かった。タイミング悪かったら俺の命は無かった……リツ!俺に抱きつくの禁止な、分かったか!」


「え、なに?いきなり…」


いきなりそんな事を言われて唖然とする俺に、ミロットが何かに気づいた様で「あっ」と呟く。


「リツくん、取り敢えず分かったって言っておこう?」


「え?ミロットまで!?……むぅ、分かったよ」



俺が渋々コクリと頷くと、ヘレスは満足気に微笑み、ミロットへと視線を向ける。




「はじめまして、俺はヘレスって言うんだ!入学前はグラニード公爵家の庭の手入れを手伝っていて、コイツとは幼馴染みたいなもんだ!よろしくな!」



「はじめまして、リツくんと仲良くさせてもらってます1年のミロットです。よろしくお願いします!」


俺の頭をガシガシと撫でて自己紹介するヘレスは礼儀正しく返すミロットを見つめ、もう一度ニカッと微笑んだのだった。




「そうだ!ミロット、この前植物に詳しい知り合いが居るって言っただろ?それがこのヘレスだよ!」



「そうなんだ、ヘレスさんが……」



俺がそう言ってヘレスを紹介すると、ミロットの目がキラキラと輝く。



「ん?もしかしてミロット君も植物に興味があるの?」


ヘレスが腕を組み首を傾げると、ミロットはコクコクと頷き、可愛い白い耳が一緒にユラユラと揺れた。



「はい!僕、薬学を学びたくてアカデミーに入学しました。それで先ずは植物の育成について学びたくて……」


真剣な表情でそう伝えるミロットは、いつもの遠慮がちなミロットとは違ってやる気に満ち溢れていた。



「そうかーーーーーよしっ!じゃあミロット君、今日の放課後俺達が借りてる温室に来るといいよ!」


ミロットの真剣な表情を見たヘレスはぐっと親指を立ててはにかんだ。
だが、その誘いに表情を暗くするミロットは小さく呟く。


「で、でも……僕は……」



……ミロットの言いたいことは何となく分かった気がした。


あれからも度々、小型獣人である事を揶揄われる俺達は、一緒に居ることで初日以上に注目されているのだ。

まぁ、冷徹人間と噂されるラディを恐れて、暴言や暴力を振るう人は居ないんだけど……。



「み、ミロット……」


俺は俯くミロットを心配して背中を擦る。






「ーーーーーー大丈夫だよ」



その優しい声音と共に、ヘレスが腰を屈めミロットに視線を合わすと、ポンッと手を置きミロットの頭を撫でた。


「……へぇ!?」


「あ、ごめんごめん…よくリツにもやってたから癖になってんな」


「あ、だ…大丈夫、です……」



驚き耳を立てたミロットを見て直ぐに手を離したヘレスは眉を下げて笑い、俺はその光景に何故だか胸がふわっと温かくなった。



「ミロット君、もし種族の事を気にしているなら心配いらない。俺の友人は植物バカばっかりだから、そんな小さな事でぎゃあぎゃあ言う奴らじゃないし、きっと君の事も歓迎してくれる」


「ヘレスさん……」


「ーーーー何より、植物に興味があるなら絶対楽しいと思うぜ!俺が保証する!」



そう言って胸を叩くヘレスの表情は自信に満ち溢れていて、ミロットはぷっ……と吹き出して笑った。



「ヘレスさん、ありがとうございます!是非お邪魔させて頂きます!」


「おう!よろしくな!」


頬を淡く染めたミロットの笑顔を見て、ヘレスもニカッと明るく笑ったのだった。




「……じゃあ俺も一緒に……」


「お前はダメだ」



ミロット1人だけじゃ心細いだろうし、俺だって温室を見てみたくて口を開くも、直ぐにヘレスに拒否されて俺は目を見開く。



「な、何でだよ!ミロット1人じゃ心配だろ!!」


「ミロット君の事は俺が責任もって部屋まで送り届ける……だからお前はダメ」


「意味わかんないよ!なんでかはっきり言えよバカ!!」



前のめりでヘレスを睨みつける俺に、はぁーと溜息を吐きながら頭を搔くヘレスは呆れた口調で言い放った。



「俺ここに来る前、中庭でラディアス様を見かけたんだ」


「え?ラディ?」


いきなりこの名前が出て、ポカンとする俺にお構い無しにヘレスは続ける。



「お前は知らないと思うが、ラディアス様…お前と共に食事をする時以外、殆ど簡単な物で済ましているみたいで……さっきも遠征用の非常食である干し肉を食べてたみたいだったぞ」



「え!?それ本当か!!」


衝撃の事実を知って俺はまたも前のめりにヘレスへと問いただす。


「あぁ、他の生徒達に囲まれて話し掛けられてもいたし、体調もあまり良くなさそうだった……」


「そ、そうだったのか……」



ラディと食事をするのは朝と夜。

……と言ってもラディは毎日の様に剣術稽古があって、朝早くに部屋を出て行ったり、夜遅く帰ってきたりと週の半分は一緒のテーブルで食事が出来ない日々が続いているのだ。



……ラディも俺と同じ様にちゃんと食堂でご飯食べてると思ってた……。

でもよく考えたら普段の勉学や稽古の他に騎士科の学科長まで勤めていて大変じゃないわけないし、いくらラディでも体調だって崩すに決まってる……。


俺は俯き、掌を握りしめる。



「ごめんミロット、やっぱり俺一緒に行けない……」


「う、うん…大丈夫だよ!リツくん頑張って!」


「うん、ありがとうーーーーーヘレス!ちゃんとミロットの事頼んだからな!!」


「もちろんだ、任せろ!」


「あ!あとミロット!ごめん先に移動教室行ってて!!俺ちょっとラディの所行ってくる!!」


「リツー転ぶなよ!あいかわらず足短いんだから!」


「うるさい!短くない!!!」



俺は駆け足でそう言い、2人に手を振るとラディの居る中庭へと向かったのだった。







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