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2章

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 将来の夢。
 ゆいちゃんの将来の夢は大学卒業してすぐにお嫁さんになることです。
 世界一可愛いゆいちゃんは、きっとイケメンでお金持ちの男性と結婚できると想います。そして幸せな家庭を築きます。可愛い子供にめぐまれ、孫にも可愛がられるおばあちゃんでいたいです。
 最期までみんなの人気者でいたいです。
 私は世界一可愛いので会社勤めは似合わないと思っています。
 今からおしゃれや体型維持のためにエステに通ったり、女子力をあげたいと思っています。
 高校生になったらまずは将来の旦那さん探しをしたいと思います。
 世界一可愛いゆいちゃんなら絶対できると思います。
 もしこれが叶ったら、みんなを結婚式を呼んであげます。
 結婚式の会場は海が見えるチャペルで、お色直しは3回ぐらい。和装とあとはドレスが2回。
 みんなに余興やってもらいたいです!
 世界一可愛いゆいちゃんのためならみんな動いてくれると思います。そして美味しい料理を食べさせてあげたいとおもいます。
 それにゆいちゃんのドレス姿は絶対可愛いと思います。
 だから自分の夢を叶えるために、少しずつ可愛いゆいちゃんを続けたいと思います。

 朗々と読み上げる私に対して、教室の凍りついた表情は今でも覚えている。外より寒かった。
 同じクラスの親友も目を丸くしていた。
 担任に原稿用紙を提出したあと「本気でおもってるのか?!」「真面目に書きなさい」と呆れまじりの怒りからの保護者面談になった。
 私は本気だった。夢を叶えるために高らかに宣言しただけ。
 ほら、自分の願いや目標を口に出すだけで叶う確率があがるってよく言うじゃない?
 書くだけで80パーセント叶ったようなもの。
 面談の時母は「うちの可愛い娘の将来の夢を否定するのか?!」と怒ってくれた。
 この頃から専業主婦願望はあった。
 人にしてもらって当たり前。
 旦那さんを支えると言っているけど、ただ単に働きたくないから。
 私は自分の容姿に自信があるから、すぐに結婚できるし、将来の旦那さんになるだろう人は私の可愛さで、惚れた弱みで何でも言うこと聞いてくれると思っている。
 今の段階で男子に少しぶりっ子しただけで、なーんでも言うこと聞いてくれる。可愛い可愛いとチヤホヤしてくれる。
 自分以外の女子が可愛いと言われているのを聞くと、男子を使って嫌がらせさせたり、陰でそのターゲットとなる女子に2人っきりにして、容姿をけなす。
 イケメンの彼氏がいる同級生や先輩や後輩の仲を邪魔した。
 要は略奪だ。
 自慢の容姿でその彼氏に私を振り向いてもらえるようにスキンシップや甘えたりしていた。それで別れたカップルが何組かいる。
 でも飽きたらその彼氏も捨てる。
 邪魔をしている時が一番楽しいから。
 魅力ないあんたが悪いと。
 泣いている彼女を見るのが楽しかった。優越感に浸れて。
 私は女子から評判悪いけど、男子から人気があった。
 同性は邪魔だ。私より可愛い人がちやほやされるのがなんとしてでも許されないんだから。
 あれは確か中学校2年の時に、自分のキャリアを見つける的な、興味ある職業を探すみたいな授業で将来の夢の作文を書いたと思う。
 そして22歳の時に宣言通り結婚した。
 作文通り同級生を呼ぶことは出来なかった。いや、来なかったに近い。
 女子で来たのは親友の磯崎望海だけ。
 あとは母が呼んだ”サクラ”達だ。
 同性の友達がいなさすぎるのは性格に難あり、地雷率が高いと言われているのを、母のおかげでごまかすことができた。
 残りは私や母が無理やり呼んだ人たち。
 夢を叶えてもう10年以上経つ。
 私は37なった。中学生の娘がいる。
 夫は優しいし言うことを何でも聞いてくれる。
 私に対して言い返そうものなら、強く出て黙らせる。
 でも物足りない。
 夫はローカルスーパーの経営や現場仕事で忙しい。
 仕事は朝早く、夜は11時前に帰ってくる。
 休みも不定期だからすれ違いがちょくちょく起きる。
 私と娘が可愛くないのかと思う。
 夫が忙しい代わりに、私と実家の母で一緒に娘を色々連れて行っている。 
 家のことは多少やっているものの、家事は苦手だからお手伝いさん達にお願いしている。
 普段は何してるって?
 母やママ友や親友の望海と一緒にランチや買い物に出かけている。
 日中は娘もいないから寂しい。
 仕事をすればいい? そんなの無理無理。
 私は世界一可愛いから働かなくていいの。
 そう夫と約束したんだから。
 母は夫を婿養子にさせたかったけど、夫はそれを断った。
 夫は家業があるし、それに私には兄と姉がいる。そのどちらかが呉松家を継げばいい……なはずだが、母としては可愛い私にさせたかった。
 結婚の条件としていくつかあるが、その中の一つが私を専業主婦にさせることだった。働かせるのはだめと。
 そんな無理難題でも夫は可愛い私のために誓約書にサインをしてくれた。
 前に私に働けと言われたことがある。
 義理の母が仕事中に転倒したから、穴埋めとして代わりに入って欲しいと。
 私は誓約書を引き合いにして即拒否。
 母に泣きついて夫を懲らしめてもらった。
 夫が母に嫌味を言われながら頭を下げている姿は最高だった。
 私に逆らおうものなら母を呼んでとっちめる。
 罰として夫のお小遣いを1000円引いた。
 月のお小遣いが3000円だ。夫はかなり落ち込んでいたが、私としてはたかが千円でなに凹んでいるのか分からない。
 ちなみに今でもお小遣いは変わっていない。
 そんでもって、趣味のクイズサークルに月1回顔だすから、一体どこからお金が出ているのやら。
 独身時代のお金? 誰かが援助してるの?
 もしかして義理の両親?
 援助するぐらいなら、私と娘にお金援助しなさいよ!
 可愛い可愛い私と娘が大事じゃないのか!

 今日も母とお手伝いの柿本さんを呼んで、朝からのんびりティータイムを楽しむ。
 夫と娘は7時前に家を出た。ここから夕方の六時まで私が好き勝手できる時間だ。
 娘は私が卒業した春の台中学校に通わせている。これは私の意向だ。
 私の地元は教育熱心なエリアで保護者から人気がある。親もそれなりにきっちりしたお家が少なくない。
 夫の実家も同様に教育熱心でレベルが高い。私が卒業した春の台中学校と夫が卒業した西南中学校は一二を争うぐらいだ。
 窓ガラスが割れてるとか、不良が乗り込んでくるなんてファンタジーだと思っている。お菓子の紙くずが出ただけで騒ぎになるレベルだ。
 部活もやっているので、帰りは夜の7時過ぎだけど、今日は塾があるので、結局家に戻るのは夜の10時過ぎ。
 春の日差しが入って穏やかな気分になるが、今はそんな気分じゃない。
 テレビでは人気女優がイケメンの俳優と結婚する話題がやっている。
 芸能記者の質問に対して嫌な顔ひとつせず丁寧に答えていく。
 ショートカットで顔が小さく大きな目は人をひきつけそうな雰囲気。
「どうせすぐ離婚するよ。年いったらね」
 テレビの前で吐き捨てるように呟く。
 女優は顔だけ。年いったら捨てられるに決まってる。
 相手の俳優はここ数年女子高生が好きな俳優ランキング上位常連だ。
 爽やかな雰囲気、背は180あって子犬のような顔なのに、悪役や変なキャラの役やシリアスな役まで何でもやっているから人気がある。
 自分以外の人間がちやほやされているとムカつく。
 それがテレビ越しだろうが関係ない。
 私は世界一可愛いんだ。
 今でも街中に出るとナンパされるし、SNSのフォロワーは男性が多い。
 いつも可愛い可愛いと言ってくれる。
 40前だけど、未だに20代で通用する。
 毎日のスキンケアを入念にしているのと、もとから可愛いから。
 夫と娘がいない間、母とお手伝いさん呼ぶか、親友と遊ぶか、マッチングアプリで知り合った男性達と飲み歩いている。

 だって寂しいもん。
 夫は家業がいそがしく、休みがカレンダー通りじゃない。
 私が一緒にいたい日に限って休みが合わない。
 娘は娘で中学に入ってから、友人や部活を優先するようになった。
 小学校の時はいつも私のそばにいつもいたのに。
 家族一人ぼっちだから、いつも母とお手伝いの柿本さんを呼んで、楽している。
「あれ? 陽鞠ちゃんは?」
「今日、朝練あるから早く出た。コンクール近いからって」
 切り捨てるように母に返す。
 娘が入っている吹奏楽部は近隣でコンクール強豪校で知られている。
 毎日朝のホームルーム前、放課後、休みも日曜日、年末年始、お盆休みの数日間以外ほとんど練習漬けだ。
 それでもって上下関係や暗黙のルールなど色々厳しい所がある。
 娘は吹奏楽部のカッコいい演奏をしてる姿を見て入部したいと言った。
 夫は賛成したが、私は反対した。
 家帰るの遅くなるし、他の習い事もあるからと。
 でも本当は娘と過ごす時間がなくなってしまうから嫌だった。
 娘が私以外の世界を知ってしまうのが嫌だった。
 小学校はなんとか放課後習い事や塾でコントロールすることが出来た。
 夫は娘が珍しく自分のやりたいことを言ったんだから、応援してやれと。
 だから条件として部活関係の出費は全て夫が行うようにさせた。
 私は賛成したわけじゃないから。
 でも無関心な親とレッテルを貼られるのも嫌なので、コンクールがある時は家族で見に行っている。
 他の保護者達にマウント取れなくなっちゃうし。
「そうか、コンクールねぇ。大変だねぇ……」
「そうよ! 私大変なのよ! 朝の準備やんないといけないし! 早く起きないといけないから!」
 机をどんどん叩きながら母と柿本さんに訴える。
「陽鞠お嬢様頑張ってるじゃないですか。吹奏楽部ってだいたいどこも上下関係や身内でのルールがとても厳しいですからね。うちの息子と娘もそれでよく悩んでいました」
「あんたのとこ息子吹奏楽だったの?」
「ええ。確かトランペットやってました」
「へぇー。男子が吹奏楽入るなんて珍しいわね。女子目当てでしょ?」
 柿本さんの話に鼻で笑う。彼女が少しムッとした顔をしても気にしない。
「そんなことありませんでしたよ。むしろ女子から理不尽な嫌がらせを受けることがよくありました。トランペットって、吹奏楽の花形ですからね。それでもって男子がやるとなると、余計でしょうね」
「部活以外でも、同じクラスの部員にノート破られたり、悪口書かれた手紙が息子に渡されたり……何度も学校と話し合いになったけど、結局表向きは解決したけど、根っこが変わらなかったわ」
 柿本さんは私の嫌味に怯むことなく懐かしむように話す。
「そうね。いじめられるなんて自業自得じゃない? だって女子ばっかの部活に男子が入ってきてさ、その上目立つポジションの楽器なんてやられたら、そりゃムカつくよ」
 私は柿本さんとこの息子さんより、嫌がらせした女子の気持ちの方がわかる。
 あんな地味な奴が目立つ楽器なんて、実力あっても調子乗ってるって〆てやりたいもの。
「加害者の子も結花お嬢様と同じようなことを仰ってました。お嬢様は嫌なことから全て逃げてきたし、加害者と同じようなことしてきましたからね。全てご両親に責任押し付けてね。あなたには私たちの事が到底理解も気持ちも分からないでしょうね」
 私の顔をしっかり見るかのよう。じっと見るように。
 私はすぐ目線をそらす。
 お説教がうざい。話聞くんじゃなかった。
 あの人私に偉そうに言うけど、何様かしら?
 あーっ、昔の話引き合いにされて腹立つ!
 もう終わったことじゃない! 何で?
 いっっつも嫌味ったらしいわ! お手伝いの癖に!
「柿本さん、コーヒー淹れなおししてくださる? 二人分ね」
 母が穏やかな声でお願いして、柿本さんは「分かりました」と淡々と返事する。
「柿本さん酷いわねぇー」
 母が寄ってきて私の肩を叩く。
「そうよ! あのババア早くくたばらないかなー」
「もう終わったことなのにね。今更蒸し返されてもねぇ」
 コーヒーを淹れる柿本さんに視線を向ける。
 柿本さんは私たちの会話は聞こえないと言わんばかりに、せっせと淹れる。
「はい、お待たせしました」
 声に張りがないというか冷めたような口調。
「なんなの? その態度。顔ムカつくわ。ただでさえブサイクなのに、さらにひどいわ」
 難癖つけてやろう。私をイラつかせた罰として。
「あら、さようでございますか? 見た目だけのお嬢様はおっしゃることが違いますねー」
 柿本さんは私の嫌味に反応せず「私は風呂掃除してますので」と淡々と告げてリビングを後にした。
「態度悪いわ。あのババアさ、クビにして!」
「柿本さんは優秀な方よ。他にやるのはもったいないから」
 母は頬に顔をあてる。遠回しにやめさせないでと言っている。
 私は言い返されたり、注意されるのが非常に不愉快だ。
 私は世界一可愛いんだから。何しても許される。
 何で昔のことを蒸し返されなきゃいけないのよ!
 もう終わったことじゃない!
「結花ちゃんは気にしなくてもいいの。あなたが好きなようにするのが仕事なんだから。気晴らしにカフェ行きましょ」
「ごめん、今日望海とランチなんだー」
 申し訳なさそうに手を合わせる。
「あら、そうなの? 残念ねー。じゃぁ柿本さんがサボらないか見ておくわ」
 いたずらっぽく笑う母に「じゃぁそうして」と突き放すように言った。
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