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第2章
第9話(羊水栓塞)
しおりを挟む子宮切開部の縫い合わせた糸のところから出血がある。通常、糸のところから出血することはない。しかも出血は縫合部全体に及んでいる。
執刀医「出血傾向があるようなのでチェックをお願いします」
麻酔医「直ぐに血液検体を検査室に送ります。全麻 に切り替えますので準備をお願いします」
看護師と看護ロボ「了解です」
執刀医(出血量は幾らになってますか?」
麻酔医「600mLです。意識レベルも下がっているので輸血の準備もします」
執刀医「DICが起こっているようなので非常呼集をお願いします」
麻酔医は気管内挿管による全身麻酔に切り替えた。血液検査の結果は、やはりDICが発症している。輸血を行いながら、何とか帝王切開を終えた。
出血傾向をきたす重篤な病態として播種性血管内凝固症候群DICがある。血管内で血液が固まって血栓症を起こし手色々な臓器の血流障害をきたすと伴に、血液を凝固させる物質であるフィブリノーゲンが使い果たされ、これによって出血傾向が起こってくる。
このDICの原因には、重症感染症や悪性腫瘍などのほか、妊娠分娩関連として常位胎盤早期剥離 や羊水栓塞が挙げられる。羊水栓塞は、羊水が母体の血管内に入って出血やショックを起こす病態であるが、原因は分かっていない。羊水には胎児の蛋白成分が含まれているが、これが母体に入って免疫異常を起こすと考えられている。胎児は夫由来の蛋白成分も持つのでアレルギーの原因になりうるのだ。
すぐに採取した血液を検査室に提出すると伴に、麻酔医は気管内挿管による全身麻酔に切り替えた。医師は、通常の対応だけでなく、常にもっとも重篤な事態を想定して準備する必要がある。
非常呼集で緊急医療体制がとられた。輸血を行いながら何とか帝王切開を終える。出血傾向だけでなく、肺機能、腎機能など多臓器に障害をきたしている。血液検査やMRIなどの画像診断から「羊水栓塞による播種性血管内凝固症候群」と診断された。
2018年の厚生労働省報告によれば、出生児数は91万8400人で、周産期死亡 2999例、妊産辱婦死亡33例が報告されている。『日本の周産期医療は世界最高レベル』といって過言ではないが、このように妊娠出産は、母体も赤ちゃんも大きなリスクを抱えている。」
医療チームの献身的な努力もあり、産褥婦の病状は奇跡的に回復した。まだ詩歩理はICUのベッド上で赤ちゃんと会えていない。赤ちゃんは1563gと小さかったが呼吸状態も安定しており、保育器で観察するだけで特別な治療は必要ないそうだ。
詩歩理と嘉音のあいだに生まれた女の子は暮羅と名付けられた。
【脚注】
DIC 播種性血管内凝固症候群:血管内で血液が凝固し、色々な臓器障害を起こすと伴に、この凝固によって止血に必要なフィブリノーゲンが減少し出血傾向が起こる
全身麻酔:気管内挿管による全身麻酔。意識はなくなり、呼吸管理も必要になる。
常位胎盤早期剥離:胎児娩出前に胎盤が子宮付着部位から剥がれる病態。胎盤を通して酸素などを供給されている胎児にとっては極めて危険な状態であり母体にとっても危険な状態である
MRI:核磁気共鳴画像診断法
周産期死亡:妊娠22 週以降の死産と出生14日目までの早期新生児死亡
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