【完結】悪役令嬢ライザと悪役令息の婚約者

第2章事前対策

婚約破棄ならぬ雇用破棄します

「ここに、雇用破棄を宣言いたします。」

「は…い？」

　前公爵の代から長らく公爵領の財産管理をしているタウロに雇用関係の破棄を宣言した。

（一回…言ってみたかった。）


　ライザは〝破棄〟というワードをこのファンタジー世界で言えた事に満足して、その瞬間、うっすらと目頭に涙が滲む。転生して恋愛シミュレーションの世界に来れたから出来る事だ。そう思うと感慨深いものがある。

　想像してたのとはちょっと違うけど。言われるのは嫌でも言う方はやってみたかったのだ。これって、いじめっこの心境に近いのかしら？まぁ悪役令嬢だから。仕方ないわよね。



「貴方との雇用関係を破棄します。解雇です。解雇。」

「えと…これは一体？？」

「ですからタウロ、貴方は今日付でクビです。事前に伝えておいた通帳と印鑑は持ってきましたか？借用書を書いたら明日からは来なくてよろしいですよ。ご苦労さまでした。」


 タウロは目を彷徨わせて、壁の際に座っている父と兄を見た。父は〝ライザの言う事だから仕方ない。〟と言う目をしており、兄は眉間にシワが寄っているが一回私とタウロの会話を聞く事にしたらしく腕を組んで黙っている。

　助けが入らない事を悟り、青ざめた顔をしてタウロは言った。

「ラ…ライザお嬢様…何故そのようなご冗談を。」


「冗談ではありません。長きに渡りお疲れ様でした。退職金は渡せませんが、どうか健やかに過ごされる事をお祈り申し上げます。ではそこに座ってー「わ、私は！前公爵様から財政の管理を任されてきました。それなのに、何故私にこのような仕打ちを！？」」

「大丈夫です。ご心配なさらずとも、貴方以下5人の使用人に同じ仕打ちを致しますわ。」

 ライザがにっこり笑ってそう告げると、口をパクパクさせてタウロは兄、グレイの方へとたすけを乞うている視線を向ける。
　グレイは大きく息を吐いてから先日の頭ごなしな口調よりも言葉を選んでライザに聞いてきた。

「何故このような暴挙にでる？きちんと訳を説明しなければ俺はタウロを擁護するぞ。」

「わかりました次期公爵のお兄様がそうおっしゃるのであれば、取り敢えずタウロの解雇理由ですね？」

「ぁあ。」

  最近グレイの視線に前の厳しさが薄れてきている。あいかわらず、互いにツンツンしているやり取りだけれど、悪役令嬢回避の為に努力しているのを認めてくれているみたいだ。
※グレイは領地の為に頑張っているところを認めている。


「例えば、領主であられるお父様が無能であっても良いのです。手足が優秀なら。でも手足が無能は許せませんから。クビなのです。」
　　

　絶望を露わにしているタウロを見下ろしながら、思った。
  私は悪役令嬢が心底向いているのだと。


　ライザの言葉に父が「ライザちゃん！？」と反応していたが、適当に「例えばですよ、例えば。」と言ってかわしておいた。タウロはそんな私の目の前にある机にバン！と手をついた。

「わたくしめが無能ですと！？この35年間、わたくしめがどれだけ公爵家に誠心誠意仕えて働いてきたか、子供で、しかも女である貴方には分からないでしょうが…。」


「ふふふ。なかなか、おかしな事を言うわね？では、貴方は自分が有能でやるべき事をやって来たと？全て公爵家の為に？」

「そうです！わたくしめがいなかったら、明日からこの領地の財政管理は誰が行うと！？」

「大丈夫よ、それは明日の貴方に関係ない事だから。
では、有能な貴方に聞こうかしら。
こちら、公爵家の税収が入る口座の通帳。
そしてそこから、公爵家の運営用途に応じた口座に振り分けているのを統括管理しているのは、タウロですね？」

「はいそうです。…その。ライザ様が…その…。」

　そうね、私が関与してくる前は。よね。