63 / 78
第3章学園入学
サイコパスとお姉様とヒロインのお茶会1
しおりを挟む「貴女も、前世の記憶持ちってやつなのかしら?」
ルイスとライザが退出後ー…足を組んでゆらりと揺らした紅茶の波紋を見ているベルンに突然問いかけられて、一連の成り行きを見ているだけだったイリンは、はっとした。
「は、はい」
「あれ?兄上は前世の記憶なんて信じていないって言ってなかった?」
「ぇえ。あんただけが言う分には信じてなかったわ。だけど、私の友達が言うのだから信じざるを得なくなったのよ」
そう言ってベルンはそっとカップを置いた。
「あはは、僕って信用ないんだなぁ」
「そりゃあね。何時も真面目な顔して嘘をついては、周りを引っ掻き回す様な貴方の言葉に信用性があるとでも?」
「…兄上は相変わらず僕にだけは辛辣ですね。
兄弟なんですから、仲良くしましょうよ」
「そう言いながら、何度も私の命を狙っておいて良く言うわね」
ベルンの言葉に、イリンはギョッとしてウルクを振り返った。
「仲良くなりたいのは、本当ですよ」
「貴方が皇帝になるのには邪魔だから消えて欲しいけど?
うふふっ。残念ね、1番お邪魔な私だけはこうして生き残っちゃって」
「そんな…誤解ですよ。兄上はほら、子孫を残せないので特段驚異でもありませんしね」
ウルクは無害な笑顔で肩を竦め、イリンは額から汗を流しながら俯いている。それも無理からぬ事だった。目の前で行き交う会話は、耳にして良いものでは無い。
聞いてしまったら不味いものだということは、分かっているようだった。
「貴女は、ゲームとやらで知ってたんでしょ?第2王子がどんな人物なのか」
「…その…全てを知っている訳では…ましてやこんな。皇太子殿下のことを…」
〝殺そうとしていたなんて情報は知らない〟ーー…そう言いたかったのだろうが、口にするのは恐れ多いことであり、言いかけて閉ざした。
異様な雰囲気の中で、ウルクだけは朗らかに笑う。
「大丈夫だよ、それが本当なのだとしても、僕は裁かれないから」
ウルクの母、第2妃は既に亡くなってはいるが、国の根幹に関わる宰相や大臣、官僚を家門から多数輩出している実家の大きな後ろ盾は未だ健在。
同盟国の王女であった母を持つ皇太子のベルンよりも、大きな後ろ盾。
加えて、厄介なのがウルク自身も派閥を拡大する立ち居振る舞いが、自然と出来ており、派閥に入ってくれた者が旨い汁を吸えるよう、環境が整っている。
ウルクが何か悪事を行ったとしても、周りが証拠を消してくれるようになっていたことが、よりサイコパスな行動に拍車をかけていた。
「…第2妃の侍女がまずは行方不明になっていたわね」
「ん?何の話ですか?」
「貴方の周りで、不自然に人が居なくなっているという話しよ。始まりは数年前に消えた1人の侍女。その次は…あんたと同腹の弟で、まだ赤子だった第3王子」
「そうでしたっけ?」
「そうよ。不自然な死の始まりは第2妃…」
2人の話を聞いているうちに、イリンの顔色は青ざめて、ブルブルと震え出した。
「やっと気がついた?貴女が関わっているそいつが、どれだけヤバい奴なのか…ー。まぁ、今気付いたところでなんだけど」
「やだなぁ、その言い方じゃ、まるで僕が何かしたみたいじゃないですか。全部偶然ですよ。僕が何かした証拠なんか1つも無いですよね?」
「侍女はともかく、赤ん坊だった第3王子が行方不明なのよ」
「偶然、警備が手薄だったんじゃないですか?」
ベルンはその様子を見て、はぁ…と溜息をつく。
「そうね、貴方と、こんな話を今更しても不毛だわね」
「そろそろ、お帰りになられますか?」
「いいえ、わざわざ私が此処に来て、貴方とこうしてお茶をしているのよ?何かある事くらい、察しはついているでしょう?」
「では、何の用事があってきたんですか?」
「貴方と、最後の語らいでもしようかと思ったのよ。これでも一応、兄弟だったものね」
「ーー…」
「先刻、皇族会議で可決されたわ。
貴方の皇位継承権無効化。皇族からの除籍が決定したの」
「ーー…まさか、そんなことが簡単に出来る訳がない」
「いいえ、貴方は皇帝の血を継いでいないから。皇位継承権を持つ資格がそもそも無いわ。知っていたでしょ?」
30
あなたにおすすめの小説
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~
春風由実
恋愛
お城の庭園で大泣きしてしまった十二歳の私。
かつての記憶を取り戻し、自分が物語の序盤で早々に退場する悪しき公爵令嬢であることを思い出します。
私は目立たず密やかに穏やかに、そして出来るだけ長く生きたいのです。
それにこんなに泣き虫だから、王太子殿下の婚約者だなんて重たい役目は無理、無理、無理。
だから早々に逃げ出そうと決めていたのに。
どうして目の前にこの方が座っているのでしょうか?
※本編十七話、番外編四話の短いお話です。
※こちらはさっと完結します。(2022.11.8完結)
※カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる