上 下
30 / 414
一章 純愛…ルート

エドバルド

しおりを挟む
俺の今のペアは子爵家の奴だった。
大人しくて容姿もそれなりに整っていて、綺麗と言うより可愛い系の奴。
付きまとわれることもないし、会話も至って普通。
入学当初はペアの授業に割り切ることができずペアの相手に深入りしたり、されたりとあった。
今の相手はペアの授業に馴れたというか、割り切っている…問題のない奴で、エッチもそれなりにお互い気持ちよくなる術を知っていた。
二年にも成れば初々しい反応もなければ、駆け引きもない。
相手によってはそういう遊びもあるのかもしれないが、俺たちの関係には不要だった。
ペアの行為は授業の一貫でそれ以上に発展するような関係ではない。
相手もそうだし、俺もそれでいいと感じていた。
結婚するなら伯爵家かそれ以上と決めていたからしつこくされるのは面倒だとも思っていた。
俺は今のところ恋愛結婚をする気はなかった。
恋愛したところで子を得られるかどうかは分からない。
子が得られなければ愛人を何人も必要となる。
そうなってくるといくら愛した人が居たとしても、別の人間を抱く必要がある。
頭では理解しても受け入れるのに時間はかかるだろうし、受け入れたと思っていてもある日突然壊れる可能性もある。
そんな人間を何人も知っている。
そういうものだから。
俺の両親は政略結婚では有るがそれなりに仲がいい。
聞いたところによると、すんなり俺が出来たことで自分達は愛称が良いと判断しそこから恋人のような関係になったとか。
子が出来さえすれば夫婦は幸せになれる…。
逆を言えば子が出来なければ愛人や側室が増えていく一方だ。
現実を知っている分学生のうちに恋愛しようとは思わなかった。

友人のライアンやフレデリックも似たような考えたと思う。
どんな結婚観だぁ?なんて聞いたことはないが、積極的に恋愛しようとはしていない。
ペア決めでさえ教師任せで不満なんて一つもないように見えた。
あの日までは。

二年の中頃になりペアチェンジが行われた際に、ライアンのペアがあの公爵令息に当たってしまった。
ライアンは顔には出さなかったが不満だったはずだ。
俺ならどうにかペアチェンジ出来ないか教師を訪ねていたはずだから。
ライアンはそのまま受け入れていた。
俺と似た奴と考えていたが、本当は何も考えていない奴なのか?
一度頭の中を覗いてみたいな。

ライアンのペアは貴族の中で最も爵位の高い公爵家であり、王族の次に権力があると言われている。
その為周囲が彼を特別扱いするため勘違い令息が誕生した。

高慢でワガママ、何をしても許される。国は自分のためにある。

そんな風に思い込んでいるような奴。
そして、特別な自分に最も似合うのは俺たちと同年代の第一王子だと。
王子とペアにならないと何度も教師にも抗議に行っているらしい。
一年の頃からペアが決まる度に飽きずに猛反発する姿が目撃されている。
教師も相手が公爵令息と言うことで強く言えないらしい。
それでも王子とペアにならない所を見ると、王子もきっとペア希望の項目にある避けたい人物として奴の名前を記入しているんだろうな。
多くの人間はペア決めの最も組みたくない相手に公爵令息の名前を記入する。
当然俺もそうしている。
アイツに関わって得になることなど一つもない。
むしろペアになった者は常に不満だったり苛立ちを隠さずにしていた。
本当なら公爵家である彼が伯爵家のライアンがペアになるはずがない。

だが実際はペアとなった。

と言うことは、多くの高位貴族がアイツとのペアを拒絶しているという事だ。
ライアンはそう言うことを気にせず、希望欄には特に無いと書いていたのだろう。
それでライアンが犠牲になってしまった。
ライアンは普通なら断るだろう下位貴族にも下手したら平民がペアになっても文句の一つも言わない男だ。
そんな男だから教師にもあのワガママ坊っちゃんを押し付けられたのだろう。

ペアとして初めての日、俺の方は問題なく終わった。
子爵令息で既に相手も二年目、初めての過剰な妄想もないし授業と割りきっている。
ハッキリいえば楽な相手だ。
ペア継続も強情る事もないだろう。
あっさり俺達は終わり、相手の部屋を出た。
俺は俺の事よりライアンが気になって仕方がなかった。
それはフレデリックも同じようだった。
公爵令息の部屋の前で待つのはあからさまなので、エントランスで待つことにした。

ライアンは思ったより遅かった。
なんか、あったのでは?と不安になった。
どうだった?なんて聞けない。
だけど、気になる。
部屋から出てきたライアンは何事も無いように見える。
答えは何も聞かずとも直ぐにでも分かるだろうと思い、その場はなにも聞かずにいた。
アイツはきっとライアンに対してもペア解消か、当たりが強いのか、存在を認識しないのかどれかだろう。

ライアンはその後もアイツの所に通ってる。
アイツも教師のところにペアを変えろと抗議しに行っているようには見えなかった。
ライアンは確かに顔は良い、体格も辺境騎士として鍛え上げている。
だから気に入ったのか?
以前のアイツのペア達は一度の関係で終わる奴が大半だった。
続いたとしても、アイツの気まぐれで常に振り回されイラついていた。
ライアンもそうなるのかと不安があった。

食堂であった時は驚いた。
アイツの周囲は常に人が寄り付かなかった。
周りの人間が避けていたから。
何かのとばっちりはごめんだから近寄らなかった。
なのに、ライアンが気が付くまでアイツが居たことに俺は気付かなかった。
ライアンはそんなアイツに近付き話しかけた。

「全然食ってねぇじゃん」

ライアンの言葉でトレイを覗けば、殆どが手付かずだった。
少食にも程があるだろ?それとも公爵家の人間には学園の食事はおきに召しませんか?
そんなん続けていたら身体壊すだろ?それとも本当に体調が悪いのか?
それでも、アイツを心配する奴なんて居ないだろうな…。
ライアン以外は。
その後のライアンの行動には驚かされた。
あのワガママ坊っちゃんに手掴みで果物を食べさせていた。
それだけじゃない、アイツも反論すること無く大人しく食べ始めた。
別人か?と思うほど驚いた。
そう感じたのは俺だけじゃなく、その光景を目撃した人間全てが唖然としていた。

ライアン、お前はアイツに何したんだ?

その後も信じられない事が続いた。
誰も泊まったことの無いアイツの部屋にライアンが泊まった。
何事も無かったようにライアンはいつもと変わらず普通だった。
ライアンは真面目でいくらアイツが不快だったとしても脅したりはしないだろう。
力や魔力では勝てても、相手は公爵家だ下手なことをすれば伯爵家のライアンは簡単に潰されるだろう。

…なら、本当にアイツが変わった?
変えたのはライアン?
何がそこまでアイツを変えた?
エッチか?
ライアン上手いのか?
聞いたこと無かったな。

ペアで行う薬の授業があった。
そんなもん本当にあるのかと呆れながら説明を受けた。
この説明は子を宿す側には一切口外禁止と念を押された。
何でも子を宿しやすい人間は薬が効きやすいとか。
その為、婚約を有利にさせるために薬が効いてないのに効いた振りをする者が過去に現れたとかで秘密厳守にされている。
薬の反応は様々で催淫のような効果もあれば、自白剤のように思っていることを公表してしまう効果、そして睡眠薬のように眠ってしまうとか。
大抵の人間は睡眠薬の効果が出るらしい。
催淫や自白剤は珍しく何年も出ていないと聞いた。

今回は十五組毎に授業を受けている。
残念なことにライアンとフィンコックとは別になってしまった。
この目で確かめたかったのだが、叶わず。

俺はフレデリックと第一王子と同じ回だった。
俺のペアに紅茶を進めれば簡単に眠り、きっと子を宿しやすいんだろうと判断した。
用意されていた用紙に睡眠までの時間も記入し俺の本日の授業は終わり、ペアを部屋に送るだけとなった。
周囲を見渡せば半数が眠り残りの半数は微睡んでいたり起きていたりだった。

「僕エッチは恥ずかしいけどテアドール様とするの、とっても気持ちいいです…でも今までペアになった方達の事も…忘れられません」

Eクラスの男爵家の奴が急に立ち上がり宣言した。

そして、すぐに眠った。
あれは…もしや自白剤の効果なのか?
本当にあるんだな…。
アイツのペアは子爵家か。

次、誰があいつのペアになんだろうな。

子供を宿しやすい母体となれば、これから婚約希望者が多数現れる。
偶然とはいえ今この場には第一王子もいる。

側室になる可能性大だな。

可愛い系の顔で、赤みのある茶髪に瞳はオレンジ色だった。
フィンコックは綺麗系だよな、黒髪黒目で…。

アイツはエッチの時どんな表情を見せるんだろうか?

アイツ結構表情豊かだよな。
今まで怒ってるかツンとしてるかだったのに、一緒にいれば色んな表情を見せる。

俺の知らない顔がまだあんだろうな…。

その後、ライアンとフィンコックの方も行われた。

フィンコックはライアンにキスをした。

あのキス嫌いのフィンコックがライアンにキスを…。
教室には他の奴らも居るのを気にせず、ライアンに跨がりキスをせがんだという噂が一瞬にして広まった。
フィンコックには催淫薬の効果が出た。
フィンコックはFクラスだ、睡眠薬以外の効果が出ても不思議ではない…。

それが嘘でなければ…。

どんな風にライアンを誘惑したのか気になる。
その日、フィンコックは初めてライアンの部屋に泊まったらしい。
しかも鍵の登録までしたとライアンから聞いた。

フィンコックが自らの意思で来るとか興奮すんだろ?

それでも、ライアンがよくフィンコックの部屋を訪れているらしい。
それも頻繁に。
最低限の回数か相手に呼ばれないと行かなかったライアンがフィンコックの部屋に頻繁に…。

二人の関係を怪しく感じながらもフィンコックを祭り誘えば嬉しそうに参加していた。

今まで平民の祭りをバカにしていたのは、本当は行きたかったからなのか?誰かに誘ってほしかったとか?

不器用すぎんだろっ。
初めての祭りに浮かれすぎのフィンコックはフラフラと危なっかしく目が離せない。
ライアンも同じように思ったのだろう、手を繋いで歩き出した。
手を繋がれたフィンコックは誰が見ても照れていた。
ただ手を繋いだだけでだ。

授業でそれ以上の事してんたろ?

なんだよ、その反応。
ライアンに導かれるまま歩き串肉を買っていた。
他人の食べる姿をこんなじっくり眺めるなんて普段はしない。
だが、フィンコックの事は見ていたい。
真後ろに立つとフワリと柑橘系の香りがした。
前から思っていたけど、フィンコックって良い香りするよな。

「あぁ、俺(フィンコックの事)好きだな。」

「はい、どうぞ。」
 
串肉を差し出された。
食えってことか?
あのワガママ公爵令息が俺に?

本当に、食っていいのか?

俺が躊躇っていれば、手が引っ込められた。
急にあたふたし始めたフィンコックは目が離せない。
再び尋ねれば肉を進めてくれたので、フィンコックが食べた後に続いた。
以前食べたことあんのに、すんげぇ旨く感じる。
その後、フレデリックにも進めていた。
フィンコックへの認識をあらためつつ、危うさを感じた。

誰にでもこうなのか?

俺の中におかしな感情が芽生え始める。

俺だけにしろ。

そんな事を考え出した自分に驚いた。
その後、見せつけるかのようにライアンがフィンコックとエロい食い方しやがった。

ライアンはこんな奴だったのか?

ペアに対して相手から求められれば応えるが、自分から動くことなんてなかったはず。
ライアンを変えたのはフィンコックなのか?
人前で…いや、俺の前で見せつけるようにイチャイチャしやがった。

あの唇に俺も触れたい。

フィンコックも分かりやすくライアンを意識し始めた。
エッチするとこんな風になるのか?
今まで避けていたのが後悔でしかない。

あの海の虫料理も旨かったな。
公爵家では普通に食べていたのか。
流石公爵家、シェフのレベルも違うな。
それでも調理の仕方を知っているフィンコックにはやはり驚く。
調理場なんて貴族が立ち入る場所じゃないだろう。
それを知っているということは、公爵家のシェフと仲が良いんだろうな。

本当のフィンコックが知りたい。

もうすぐパートナーチェンジだよな?
今度、次の相手にフィンコックの名前を記入してみるか。
誰もフィンコックを指名しないだろう…ライアン以外は。
そういえばライアンとフィンコックの様子がおかしいな。
なんかあったのか?
ライアンは分かりやすく避けるし、フィンコックの方も寂しそうにしてる。

なんなんだよ…この前まで同じ香りを纏ってたじゃねぇかよ。

話を聞く前に泣かれたのは驚いた。
フィンコックはライアンの為に泣くんだな。
俺の前で泣くなよ。
部屋に連れ込みたくなんだろうが。

俺はフィンコックがライアンを好きだという事を思い知らされた。

いや…あれだけ分かりやすくすれば誰でも分かるか。
俺が認めたくなかっただけで。
ライアンの謎の行動に傷つきどうしていいのか分からないか…。
俺もわかんねぇわ。
ライアンはフィンコックに惚れてんのか?
ただのペアの一人じゃなく?
俺はライアンの友人だ。
友人で恋人を共有することも無くはない。
平等に子供を生むことが出来ればなんの問題もない。
本音は俺だけのフィンコックにしたい。
だが、後から間に入ったのは俺だ、でしゃばるわけにはいかない。
子供が生めなければ何人も愛人を取るのは当然だ。
一対一の恋愛は運でしかない。

お前らのすれ違いって単なる誤解だろ?
二人とも意識しまくりじゃねぇかよ。
俺は思いあってる奴らを卑怯な手で引き裂くような事はしない。
弱みに漬け込むのは好きじゃない。
好きじゃないが、フィンコックは欲しい。
フィンコックお前このまますれ違うんだったら、ライアンにフラれて来いよ。
んで、俺んとこに来い。
俺ならそんな顔させねぇから。

キスを拒まれたのは相当ショックだった。
当然、初めての経験だった。
ペアの奴に断られたことなんて無いし、寧ろペアになったら断るという選択肢はない関係だ。
だが俺とフィンコックはペアじゃない。
俺はフィンコックにとって、ペアの相手の友人の一人という立場だ。
全てが悔しくて言い訳しながらキスをした。
フィンコックから漏れる息遣いや喘ぎ声は堪らなく興奮する。
この唇から離れたくない、もっとしていたい。
フィンコック、早く俺の所に来いよ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

なぜか秘書課の情報網に掬い取られるあの人にまつわる内緒事。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:347pt お気に入り:69

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,139pt お気に入り:19

妻が遺した三つの手紙

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,014pt お気に入り:47

体育教師の躾と訓練

BL / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:46

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

BL / 連載中 24h.ポイント:1,107pt お気に入り:301

殿下、それは私の妹です~間違えたと言われても困ります~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,893pt お気に入り:5,288

おかしくなったのは、彼女が我が家にやってきてからでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:8,546pt お気に入り:3,855

処理中です...