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すげー高い買い物だ

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 セイコーは黒鹿毛の3歳牝馬で30万ヤン。大型の農耕馬で農耕の他にも、脚は遅いが商隊の馬車馬としても使える。装備一式に比べるとだいぶ安いが農耕馬なのでこんなモンだ。超高級な軍馬なんて村では作れないしな。即決で買えるが宿に置けないので留め置きしてもらった。

「ブルブルブル…」

「明日迎えに来るからね。ご飯いっぱい食べて力を溜めといとくれ」

 名残惜しそうに顔をなすり付けて来るセイコーを馬房に収めて前金15万ヤンを払い、店員に教えてもらった店に向かっていると、タララが腕を絡めて来た。

「ねえ、ゲイン。あのセイコーって馬、ゲインしか見てなかったんだけど」

「女の顔をしていましたね」

 反対側はカウモア。馬も牛も、そして熊も体を擦り付けるのが好きなのだな。しかしとっさの時対処出来ないのでやめて欲しい。

「女と言うか、牝馬だな」

「ゲインさん、モテモテですねー」

「仔馬の頃から見てる子だから、妹みたいなもんさ」

「血の繋がってない妹、良いと思います!」

「種族すら違うけどな」

「ゲイン、馬人っグラシアン て、好き?」

「見た事もないんだが」

 タララ曰く、どうやら顔が馬っぽい獣人が居るらしい。鉱山労働者に1人居たのだと。

 そんなこんなで馬車屋に着いて、お店の人にご挨拶。

「お客さぁん、こっちも遊びじゃないんでねぇ、冷やかし相手はちょっと遠慮したいんだがぁ」

「よし、殺せ」「了解です」

 店の中でカウモアがツーハンドソードを振りかぶると店員も心を入れ替えたようだ。

「5~6人用の箱馬車見せてよ。一頭立てで4輪が良いな。幌馬車はダメね」

「そ、それじゃあ速度が出ませんぜぇ?」

「急いでないし、敵は皆殺しにするから構わないよ。良い馬が居なかったら諦めるけど、良いのを見繕ってよ」

「最悪、ゲインが曳くわ。ムチを用意して」

「ムチもそうですが予備の車輪や水と飼葉桶、水樽なんかも必要ですぜ?」

「水は大丈夫、魔法で出せるから」

 少し腰の引けた店員に連れられて車庫へと向かう。

「出来上がりの姿で売ってるのね?」

「何だそれ?買ってから組み立てるのか?」

「ゲインさん、貴族は注文してから作り始めるんですよ」

「へ~」

「そ、そちらのお客様は貴族様でございやしたか。それならそうと…」

「聞かれなかったもの。ゲイン、アレなんてどう?」

「ああ言っているが、見せてもらって良いか?」

「へ、へい…」

 アントルゼのお目に適った箱馬車は、緑に塗られた木製で、車輪も太くて丈夫そう。装飾も無くシンプルだが、軸受に鉄を使ってて、車軸に触れるシャフト部分も金属でコーティングがなされてた。中はそれなり。6人横になって密着したらどうにか寝られそうな広さ。これで35万ヤン。

「揺れそうね」

「そりゃあなあ」

「お尻痛いのに35万なの?」

「へ…へへっ、へい……。クッションをおまけさせてもらいやすので、どうか一つ…」

「そんなのより予備の車輪とか飼葉桶を付けなさいよ」

「え?いやぁ、それは…」

「まあ待て。一見さんでそれは厚かましいだろ」

「なら車輪だけで良いわ。買ってあげなさい」

「お買い上げありがとうございやす」

「馬を見て、明日取りに来るわ。買う価値も無い駄馬ばっかりだったらお金返してもらうけど、良いわよね?」

「へっ、へい!それはもう。この街の馬ならお嬢様のお目に適う馬が見つかりやしょう」

 半金の17万を払う。馬屋の時もそうだが、ミスリル貨を見せると途端に態度が変わる。店の外まで着いて来て頭を下げる店員であった。ちなみにミスリル貨は俺のだ。後で立替分徴収する。

「ゲイン…、高い買い物だったね…」

「よく耐えたな、偉いぞ?」

 静かにしていたタララは高額の買い物に涙目になっていたのだ。それをカウモアが隠し通していた。

「取り敢えず家名を聞かれなくて良かったわ」

「お忍びに見られていましょうから無いとは思いますが、その時は私の叔母の家名を名乗りましょう」

「そうね。私達のよりはずっと良いわ」

 買い物を終えてそろそろ昼だ。一度宿に戻って昼食を摂り、俺の予定は終わった。この後は女達だけで教会に行く事になっている。

「んじゃ、行ってくんね」

「ゲインさん、良い子でお留守番しててくださいね~」

「特に出かける予定は無いよ。気を付けて行っといで」

 食堂に残された俺も用事を済ませるか。宿の女将さんに許しを得て、風の来なそうな裏庭の一角を使わせてもらう。

 竈を取り出しそこらに落ちてる枯れ草や枯れ枝を細かくしてこんもりまとめ、周りに石炭を並べてく。カチカチやって種火を付けたら枯れ草、枝、石炭と火を移してく。最初に置いた石炭に火が付いたら追加の石炭を放り込んで火を強め、竈に火が入った。
 次に取り出すのは鍋寸胴に木ベラとマタル粉。そう、水飴を作るのだ。鍋に水と粉を入れて混ぜ、火にかける。後は火の調節をしながらひたすら混ぜる。混ぜ続ける。宝箱を椅子にしてぐるぐるねりねり。空が赤くなり始めた頃にタララ達が帰って来たようで、メロロアが迎えに来た。

「ゲインさん、居なくなったのかと思って心配しましたよ~」

「出かけては無いだろ?」

「んんー。そうですが、宿の人に聞かなかったら探しに出ちゃう所でした」

「感知系スキルですぐに見つかるじゃないか」

「そうですけど!で、何作ってたのですか?」

「みんなの好きな物だよ」

 窓を開ければ部屋でも出来るし、片付けをしたら二人で部屋へと向かった。

「あ!ゲイン~っ」

「ゲイン様、お待ちしてました」

「ほら、探す事無かったじゃない」

 ドアを開けると駆け寄って来るタララを手で制す。まずは部屋に入らせろ。

「なんか、心配させたようだな?」

「何してたのよ~」

「水飴作ってたんだよ」

「あ~は~ん、ゲインだいすき~」

「はいはい好き好き」

 撫で散らし、抱き抱えてベッドに座らせる。腹が減って落ち着かなくなってるな。

「まだ出来てないんでしょ?甘いの飲みたいわ」

「風呂と飯がまだだが先に飲むか?」

「……2回飲む」

「半分ずつな」

「女の子に甘味は必要なのよ?」

「半分と1杯な」

「それで妥協するわ」

 4人のコップに半分程入れて飲ませると、甘いお湯が染み渡ってふぁ~ってなってた。早く飯風呂行こうぜ?

 食堂で飯を食い、公共浴場で湯に浸かり、部屋へと戻る。今夜のメロロアは飲酒しないようだ。

「あ、ゲインさん。食費とか用意しましたので納めてください」

「助かるよ」

 竈を出してる俺に、メロロアが金を出す。アントルゼがかき混ぜると言うので交代し、金箱を出して入れ替えた。俺が出したミスリル2枚分を回収し、明日払う2枚を追加した。

「お、メロロア偉い。全部銀貨と銅貨じゃないか」

「頑張りました」

 ずっしりしてたので結構両替して貰えたようだとは思っていたが、全部銀銅にして来るとはさすが元ギルド職員だ。

「だけど明日の支払いをすると金貨が心許ないな」

「また両替して来ましょうか?」

「明日の分を払っても54万はあるし、何とかなるよ」

「長居はしたくないけど、お金稼ぐのも良いかも知れないわね」

「掲示板をチラッとしか見ませんでしたが、儲かりそうなのは常設のサハギン退治くらいでしたよ」

「水辺何だよな?」

「冒険譚のネタにはなりますが…剣が届きにくいですね」

「槍とか投げて来るらしいです。それが主な収入源ですかね。後はウォーターバレットも使うそうです」

「小石も水に潜られると威力無くなるからなぁ」

「おっきい石なら?」

「避けられちまうべ」

「毒でも撒く?」

「そんな事したら干し魚が食べられなくなっちゃいますよ。地元の漁師の稼ぎ場なんですから」

「水中だと倒しても魔石とか取れないしなー」

「そんな相手を無双するのだから、冒険譚のネタにもなるって訳なのね」

「…無い知恵絞って見るかねぇ」

 金箱を仕舞ってベッドに横になる。まだ寝る訳ではないのでタララもカウモアも襲って来ない。鍋の周りに集ってる。

 槍は1本。ウォーターバレットは魔力を使うなら12発と予想して考える。この2つを奪えば敵は戦えなくなる訳だ。

「なあメロロア」

「はい。添い寝ですか?」

「サハギンって夜は寝るのか?」

「夜戦した話なんて聞きませんね。そもそも夜になれば狼や猪が闊歩するんですから、おいそれと夜戦は出来ませんよ」

「サハギンが寝るって前提で、夜の野獣を何とかしたら、何とかなるかも…」

「なるの?ならないの?」

「ただなぁ、常設依頼って事は他のパーティーも来る訳じゃん?ドロップをパクられたり真似されたりしそうなんだよなー」

「なるほど。ゲイン様は籠城戦をなさりたいと」

「よく分かったな」

「ドロップを奪われるのは取りに行けない時間がある、と。真似されるのは、ある程度の準備が必要なのかと予想しました」

 対人戦の得意な騎士ならではの発想だが、俺も同じ発想で考えてたので正解を導き出せたようだ。

 マジックバッグにブロックを詰めるだけ詰めて、槍が飛んで来ても壊れない砦と建物を作っての籠城戦。これが俺の考えた作戦だ。だが問題もある。俺達が籠城してる隙に人や敵が槍を回収してしまう可能性があるのと、敵が槍を投げないでウォーターバレットしか使って来ないパターンだ。

「あー、やめやめっ!長期で滞在するならありだけど馬車買っちゃったし停める所無いから止める!」

 5人で何とかできる作戦じゃないや。それに敵の数が少なければこんな作戦要らないし、移動の妨げになるならやるのも良いが、ルートが違うのだからやるだけ無駄だ。

「ゲイン~、そろそろ隣行ってい?」

 鍋の中身に見惚れてただけじゃ無かったようだ。

「甘いのの水分飛ばしてから寝ようか」

 鍋を見るととろみが増して嵩が減ってる。水飴用の寸胴に中身を移し、元いた水飴とかき混ぜる。デリートウォーターをかけると横にしても流れない、しっかりした水飴となった。

「量が半分になっちゃったわ…」

「水分が抜けて甘味が増してるぞ、きっと」

「あ、ちなみにですがゲインさんの考えた作戦って、どんなですか?」

「売るのか?」

「売れそうなら、ですけどね。ちゃんとパーティー資金に入れますよ?」

「ブロックを作って運べるのが大前提だから、無理じゃないか?それだったら街道の横に壁でも作った方が簡単だよ」

 メロロアは情報を売るべきだと言ってくれるが、スキルの使い方から説明しなきゃならん。それはそれで金にはなるが、だったらお前等先頭に立ってやれ、なんて言われても面白くない。俺達が居なくなった砦で知らん奴等が好き放題稼げるってだけだからな。

「ゲイン、教えてやりなさいよ」

 アントルゼが珍しくメロロアに付いた。

「その心は?」

「簡単よ。貢献度を高められるじゃない。それに、体を使わずお金を稼げるって良い事よ?」

「ブロックの切り出しや移動は人力でも出来ますし、良いかと」

「なるほどな。砦の構想だけ教えるのか」

「街道沿いなので人が襲われる事が多いですし、恩を売っても良いと思いますよ?ねっ?ねぇ?ゲインさぁ~ん」

「はぁ…。明日は馬車の取り回しの練習も兼ねて水場まで行くぞ。ギルド寄って話を聞いたら馬車買って移動だ。馬車置き場を聞くのも忘れないようにな」

「あ~い」「分かったわ」「「了解です」」

 竈等を片付けて寝巻きに着替える。皆が俺の方を向いて服を脱ぎ出すので俺は背中を向けて着替えたよ。

「明かり消すからなー」

 灯りを消してベッドに潜る。みんなそれぞれのベッドに居たハズなんだが、誰だ?まあ大人の3人の誰かだろ。気にせず寝ようとしてあれ?っと思った。

 何がとは言わんが大きくない。アントルゼだ。俺の脇に抱きついて、あったかーいとか言ってるよ。お前もそこそこ温かいぞ?

「布団もう1枚どうした?」

「2枚合わせにしてるわ」

「寒がりなんだな」

「足とか特にね」

 脚を絡めて肩を枕に超密着して来る。これなら重ねた毛布でも平気だな。

「今日ね、避妊魔法を受けたの」

 蚊の鳴くような声が耳元で聞こえる。

「あんたのソレって、ソコに使うのね」

「ん」

「こんなの…、入らないと思ってたわ。今も、正直怖いもの…」

「そか」

「今は、ごめんなさいね?おやすみなさい」

 気づいたら抱き合って、そのまま寝てしまっていた。


 朝になり、視線を感じて目が覚める。

「あ、ゲイン起きた」

「おはようございます、ゲイン様」

「昨夜はお楽しみでしたね」

「ん…、普通に…寝たぞ…」

「ちんちん出して?」

「え…?」

 一瞬で覚醒した。ズボンとパンツがずり下がり、顕になった俺のアイツが上に乗って寝てるアントルゼのお股に挟まっていたのだ。アントルゼのパンツは…履いてるようだな。寒がりなんだからズボンなんて脱がなきゃ良いのに。

「んぁ…。寝坊したわね」

「おはよう、アントルゼ。何で俺のナニが股に挟まってんだ?」

「温かかったのよ」

「着替えて飯にするぞ?」

「そうね」

 寝巻きを脱いで鎧に着替える。外に出るから金属鎧だ。みんなもそれぞれ着替えだす。

「んぐ~…、ゲインはアントルゼちゃんに甘いと思う」

「私達も似たような事しておりますけどね」

「ゲインさん明日こそは私と寝てもらいますからね?」

 タララのボヤきを聞きながらベッドの位置を直す。

「洗濯するならしてしまおうか。昨日使った鍋も洗わにゃならんし」

「それなら寝巻きと下着、洗いたいかな」

「早く言ってくだされば…。下履を洗いたいと思っておりましたのに」

「ああ、ごめん。鍋洗ってる間に準備してくれ」

 昨日までに使ってた鍋や食器を取り出して、バケツに入れてウォッシュ&デリートウォーター。乾いた炊具を仕舞ったら、みんなが服を洗ってく。俺も洗い物出そう。

「ゲイ~ン、デリートウォーターだけお願~い」

「一気にやるから伸しとけ」

「あ~い」

 アントルゼの板に…肉汁染みてるんだよな。もう乾いてるけど肉食を寄せたくないのでひっくり返して使う。後でコイツも洗わなきゃ。

 洗って伸された服をデリートウォーターでパリパリに乾かす。塊になるので持ち運びはしやすいが、洗いが足りないのかも知れないな。

 もろもろ片付け、着替え直して食堂へ。みんなとシェアしながらちょっと多めにご飯を食べた。昼飯のソーサーも買っておこう。

 チェックアウトし、まずはギルドだ。朝だから結構混んでる。俺とカウモアは掲示板、タララとアントルゼは壁際に退避してもらう。メロロアは消えた。

「ん~、依頼書だけだと数や詳しい場所までは書いてないな」

「大雑把にこの辺り、ですものね。湖の周りですか…」

「討伐部位は顔に付いてるヒレ一対か」

「ここで得られる情報はこのくらいでしょうかね」

「へへっ、情報が欲しいなら融通してやんよ」

「要りません。行きましょうゲイン様」

 腕を絡めて離れようとするカウモアが動きを止める。混んでるのに刃物を抜いたな此奴等…。

バチッ!ガッ!ぎゃっ!いでっ!!ガツッ!うぎっ!何だ?おまっナイフだ!この野郎!ドカッゲシゲシッ!

 俺とカウモアは武器を持つ手に小石を撃つ。カウモアも手をかざさずに撃てるようになってて一安心。武器を落として歪んだ顔に更に一撃射出すると、それに気づいた周りの者がボコボコしたり拘束しだす。こんな所で抜き身にしたらこうなるのは当たり前だ。そっと離れてタララ達に合流した。

「怪我は無いか?」

「はい、問題ありません。出来ればゲイン様に隅々まで確認して頂きたいです」

「背中なら見てやるよ」

「ゲイン、何があったのよ?」

「ナンパだな」「ですね」

「皆さんお待たせしましたー」

互いに体と鎧のチェックをしていると、どこかに消えてたメロロアが帰って来た。もうギルドに用は無いって事で外に出て馬屋に向かう。

「資料でも盗んでたのか?」

「許可を得て書き写してたんです!詳しくは馬車を買って移動しながらでもしましょうか」


「ヒヒッ!ヒヒーン!」

「呼んでるよ?」「そうだな」

 馬屋に近づくと馬が嘶いた。タララでも分かるくらいセイコーの声だ。待たせても無駄に疲れさせるだけなので急いで向かう。

「どうも、セイコーの受け取りに来たよ」

「いらっしゃいませ。好かれてますね」

「はは、元々家の馬だしね」

 受付の職員に15万ヤンを支払い、セイコーの元へ…、もうドアの前に来ちゃってるし。

ガツッガツッガツッ

「ぶるるるるるる」

 だいぶ待ちかねてたようだ。駆け寄って首元を抱きしめる。

「おはようセイコー。待たせてごめんな~よーしよしよし」

「ゲインは馬にも甘いと思う」

「馬は人の言葉が分かると言います。家族として扱えば理解し合えると聞いた事がありますね」

「私はアントルゼよ。よろしくね」

「ぶるるる…」

 言葉をかけながらセイコーのほっぺたを撫でるアントルゼ。馬の扱いに慣れてるな。

「上手いなアントルゼ。みんなは馬触った事あるのか?」

「育てて売る程まで触ってないけど、嗜み程度にはね」

「一応騎士でしたので、売る以外の一通りは」

「あたい触った事もな~い」

「乗るだけなら。買い取りした事もありません」

 残る3人がセイコーと挨拶を交している内に装具を着けて、手綱を引いて馬用の出入口から外に出た。そしてその足で車屋へ向かう。店員に馬を連れて来たと言うと、裏口を案内されてそこから入る。客車を取り付けてる間に金を払うと、予備車輪2つにに飼葉桶と水桶、さらにクッションまでオマケで付けてくれるって。値切らず即金で買ってるし、ありがたくもらっとく。

 それらと3人を客車に乗せて、馭者席には俺とメロロアが座る。

「中に居ても良いんだぞ?」

「道案内、必要ですよね?」

「そう言う事ならまあ」

「では、このまま北の突き当たりまで行って外周を回って南門に向かいましょう」

「遠回りだな」

「仕方ないですよ」

「セイコー、よろしく頼むよ」

「ブヒヒ」

 チラッとこちらに目をやると、ガッポガッポと歩き出す。箱の中からわ~っと声が上がる。出ると一言言えば良かったな。

 メロロアの案内のまま、北門を抜ける。セイコーは自分で考えて右に曲がった。

「セイコーに任せちまったが、どっちに曲がった方が良かったんだ?」

「どちらでも構いませんよ。日当たりの良い方を選んだんですかね?」

「暖かい事は良い事だ。セイコー、ありがとな」

「ぶるるる…」

 乗合馬車の並ぶ東門を横切って、南門へ。こちらも乗合馬車が列を成していた。勝手に左折し街道に入った。

「ゲイ~ン、馬操るの上手いね~」

「まあな」

「タララさん、ゲインさんは手綱持ってるだけですよ。全部セイコーちゃんに任せっきりです」

「言うなよ」

「すごいねセイコーちゃん」

「速度の調節や細かい取り回し以外は触る事なんて無いんだよ。馬が疲れちゃうからな」

「ヒヒーッ」

「名前で呼んでって」

 熊は馬の言葉が解るようだ。

「本当か?セイコー、お前は素晴らしい子だよ。頭が良くてキレイで働き者だ。大好きだよセイコー」

「ブッヒヒヒッヒヒーン!!」

 嬉しいのか?

「そう言うの、あたいにも言って良いんだよ?」

「はいはい可愛い」

「なんか気持ちがこもってな~い」

 何時もの移動速度よりは遅いけど、疲れる事無く1つ目の休憩地に到着した。サハギンが居ると言う場所はここと、次の休憩地の間くらいにあるらしい。セイコーとみんなに水を与え、しっかり休ませ再出発。

「情報によると、湖に巣食って居るそうで、ここを通る馬車は猛ダッシュで駆け抜けてくようです」

 馬に当たったら不運だが、馬車に槍でも刺さったら儲けもんってか。

「みんな、感知系スキルは使ってるな?」

「あーい」「はい」「使ってるわ」

「俺は前、みんなは後ろと左右を頼む。メロロアは近くまで来たら斥候を頼みたい」

「了解です」

 ガッポガッポと移動して、湖まで数100ハーンと言った所でメロロアが斥候に出た。大体200ハーン程前に出て、更なる先を調べてる。これだけ離れると声は届かないが、感情を察知できるので何とかなる。今は好き好き~って感情がたれ流されている。俺はイライラした気持ちになった。あ、感情を殺しやがった。

「右よ~し」「左問題ありません」

「後ろも何も来ないわ」

「前は500ハーンに敵影無し。その先はメロロアがふざけてて分からん」

「ゲイ~ン、湖っぽいのがあるっぽい」

森の中を進んでいるので目視では見えないが、タララが湖を探知したようだ。俺達の右側だな。

「敵は見えるか?」

「居ないと思うよ。水の中もちゃんと見えてたら、だけど」

「ダンジョンの溜まり水も見えなかったからなぁ。注意はしておこうか」

「あ~い」

「ぶるる…」

 一言発してにわかに速度を上げたセイコーに、俺もみんなもビクッとした。

「どうしたセイコー。異常でもあったか?」

「ゲイン、後ろから来るわ。多分馬車ね。500ハーン以内よ」

「猛ダッシュで駆け抜ける、だったな」

「あたい乗った時もだいぶ走ってたよ」

「森を抜ける所まで走ったら脇に逸れてやり過ごそう。セイコーもそれで良いか?」

「ぶるる」

 どっちなんだい!徐々に早くなる馬足に尻が痛い。しばらくしてメロロアが帰って来た。よく走ってる馭者席に飛び乗れるな…。

「ひとまず森を抜けた先まで敵は居ないようです。馬足が早いのは…。ああ、来てますねぇ」

「ゲイン、直線で300を切ったわ」

「何とかなるでしょう。セイコーちゃん、頑張ってくださいね」

「バフッ!バフッ!」

 逃げ切ったセイコーが森を抜ける。俺はすぐに道を逸れて欲しかったがしばらく走ってから減速し、湖とは反対側に向かって歩き出した。丈の短めな草が生い茂る草原だ。

「お疲れ様。水を用意するから待ってれ」

「私は草を刈り集めて来ましょう」

 セイコーの水を用意してると後続の馬車が森を抜けた。そのまま走り去るようで、こちらを見ずに走ってく。迷惑極まりないな。

 カウモアがツーハンドソードを振り回し、広い空間が出来た。刈った草は集めて毒草を選り分ける。死ぬような草は無いが可哀想だからな。それに売れるし。食べられる方の草をマジックボックスで細かくし、飼葉桶に入れてやる。少し早いが俺達も飯にしよう。

「飯を食べたら少し探してみよう。不思議な程居ないからな」

「常設に貼られるのですから確実に居るハズですもんね」

「案外、誰かが先に狩っちゃったのかもね」

「ゲイン様。湖の近くを見ておりましたが人も敵も居ませんね」

「狩り過ぎて絶えたのか、場所を変えたのか。まずは飯飯」

 干し肉6枚と買って来たソーサー、そして水。日当たり良くて敵も無し。ピクニックにでも来た気分だ。

「ちょっと暑いくらいね」

 アントルゼがラメラーの裾をパタパタしてる。はしたないぞ?

「風が無いからな。もしかして、暑いから水の中に籠ってるとか?」

「有り得そうです」

 食事を終えて、片付けて、馬車を湖側に寄せる。

「私はお留守番なのね?」

「いざと言う時駆け付けてくれ。周囲の警戒も頼んだぞ。セイコーも頼んだ」

「重大な役目ね」「ぶるるる」

 セイコーとアントルゼを残して湖に近付くが、水の中に居るのは分かった。けどじっとしてたりこっちに寄っては来ないようだ。馬車に戻ろう。

「お休み中みたいですね」

「無駄足だったな。帰って報告したら先に進もう」

「今夜って、キャンプ?」

「そうなるな。休憩地で寝る事になると思う」

「異常は無かったわ。そっちはどう?」

 俺達が歩いて来るのを見て馬車を寄せてくれたアントルゼが問い掛ける。馭者席に座って無駄足だったと答えた。

「そんな事もあるわ。今夜はキャンプって聞いたけど?」

「ああ。買い忘れは無いよな?」

「お茶が欲しいけど…、気にする程でも無いわ。ゲインやタララは飲まないのでしょ?」

「飲んだ事な~い」「俺もな~い」

「ゲインさん、薬湯くらいは飲んだ事ありますよね?」

「あれはお茶なのか?」「お茶ですよ?」

 お茶だったようだ。

「ゲイン様、街に着く頃には夜になってしまいますが、いかがしましょう」

「え!?ああ…。何時ものペースなら戻れるから戻れると思ったが、セイコーの足だと足りないのか」

「ブヒッ!」

「セイコーのせいじゃないよ。俺の計算ミスだ」


 湖に引き返したくても轍を跨ぐのが大変で戻れない。かと言って街の前で泊まるのは危険だ。魔物より怖い、人と言う敵が現れる。仕方無く、すぐそこの休憩地で野営する事になった。

 休憩地には誰もおらず、森の中に広い空き地が広がっている。森との境は頼りない木の柵が刺さってて、ゴブリンでも狼でもお好きにどうぞな状態だった。

「カウモアは俺と来てくれ。みんなはセイコーの護衛と休憩だ」

 カウモアを連れて柵を越え、すぐそこの森の際へ。

「木を切って平地を広げるぞ」

「斬り倒します」

「スキルで切れ。剣が壊れる」

 ツーハンドソードを仕舞わせて、マジックバッグでスパッと切った。ちゃんと森の側に倒さないと最悪死ぬぞ?

 切った木は枝を払い、1本なりにする。これは後で使おう。俺達が泊まる場所の周りだけだが、10ハーン程の余白が出来た。

「さて、壕を掘るかな」

「ゲイ~ン、暇ぁ~」

「じゃあ壕と壁、頼んで良いか?」

「あ~いよ」

「外側には壕と壁。野営地の横にも壁が欲しい。頼んだぞ」

「大きさはどんくら~い?」

「テントと馬車と竈とセイコーが入るだけ」

「デカくね?」

「私もやるわ」「ありがと~」

「ゲインさぁん、私サボってるみたいじゃないですかやだー」

「警戒頼む。後馬車外して壁に横付けしてくれ。人は後部側にテント張るから、セイコーの寝床は反対側な?寝返り打たれるとテントぶっ壊れるぞ」

 みんなで作業し寝床が出来た。




現在のステータス
名前 ゲイン 15歳
ランク C/D
HP 100% MP 90%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D

所持スキル
走る☆☆ 走る☆☆ 走る 走る 走る
刺突☆☆ 刺突
硬化☆☆ 硬化 硬化
投擲☆☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆☆ 噛み付き 噛み付き
肉体強化 肉体強化☆ 肉体強化☆
腕力強化☆ 腕力強化 腕力強化
脚力強化☆ 脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆ 体力強化 体力強化
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆ 短剣剣術☆
避ける☆
魅力☆
鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ
マジックボックス

鑑定☆ 鑑定
魅了
威圧
壁歩き

水魔法☆ 水魔法
|├ウォーター
|├ウォッシュ
|└デリートウォーター
├ウォーターバレット
├ウォーターウォール
└ボーグ

土魔法☆
├ソイル
├サンド
└ストーン

火魔法
├エンバー
├ディマー
└デリートファイヤー

所持品
革製ヘルメット
革製肩鎧
革製胴鎧
皮手袋
皮の手甲
混合皮のズボン
皮の脚絆
水のリングE
水のネックレスE

革製リュックE
├草編みカバン
├草編みカバン2号
├紐10ハーン×9 9ハーン
└布カバン
 ├冊子
 ├筆記用具と獣皮紙
 ├奴隷取り扱い用冊子
 └木のナイフ

革製ベルトE
├ナイフ
├剣鉈
├剣鉈[硬化(大)]
├解体ナイフ
└ダガー

小石中☆500
小石大☆450
石大☆20

冒険者ギルド証 0ヤン

財布 ミスリル貨231 金貨31 銀貨8 銅貨9
首掛け皮袋 鉄貨74
箱中 950,947→539,247ヤン 
ミスリル貨 金貨18 銀貨300 銅貨591 鉄貨147 砂金1250粒



マジックボックス
├猪(頭・皮)燻10ナリ
├戦利品
├箱
|└シルクワームの反物×33
├未購入チップ各種箱
├医薬品いろいろ箱
├食料箱×2
├調理器具箱
├ランタン箱
|└油瓶×10 9.2/10ナリ
├竈、五徳
├蓋付きバケツ大
├テントセット
├マット×4
├毛布×4
├洗濯籠
|├耐水ブーツ
|└耐水ポンチョ
└宝石
鉄兜E
肩当E
胸当E
腰当E
上腕当E
ゲル手甲E
ゲル股当E
帆布のズボンE
脛当E
鉄靴E
熊皮のマント

籠入り石炭0
石炭82ナリ

ランタン
油瓶0.2/0.8ナリ
着火セット
服箱
├中古タオル
├中古タオル
├未使用タオル×2
├中古パンツ
├パンツE
├未使用パンツ×2
├ヨレヨレ村の子服セット
├サンダル
├革靴
├街の子服Aセット
└街の子服Bセット

スキルチップ
ハシリウサギ 0/4521
ウサギS 0/1
ウサギG 0/1
ハシリトカゲ 0/3166
ハシリトカゲS 0/1
ハチ 0/2859
ハチS 0/1
カメ 0/3459
カメS 0/1
ヨロイトカゲS 0/2
石 0/1861
石S 0/1
スライム 0/2024
オオスズメ 0/1573
トンビS 0/4
フォレストモンキー 0/972
ウルフ 0/1070
カラードウルフ 0/1
ワニS 0/1
グラスベア 0/1
ラージアントワーカー 0/100
ラージアントソルジャー 0/100
蝶 0/204
花 0/161
腕 0/541
腕S 0/1
腕G 0/1
脚 0/650
脚S 0/101
脚G 0/1
頭 0/576
体 0/523
体S 0/1
体G 0/1
棒 0/627
ナイフ 0/640
ナイフS 0/1
短剣 0/352
短剣S 0/100
鎧S 0/1
袋S 0/1
箱G 0/1

水滴 0/446
水滴S 0/1
立方体 0/525
火 0/4

魅了目S 0/1
威圧目S 0/1
ドクハキヤモリ 0/1
頭三本線S 0/1
頭三本線G 0/1
眼鏡S 0/100
眼鏡G 0/1
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