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馬車の中でもちゃんと寝られた。

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 外側には壁と壕、内側三方を壁とした立派な砦が出来た。デカい熊とか出なけりゃ何とかなると思いたい。寝返り打つ熊もだ。ポイントからは多少なりと離れては居るが、健脚なサハギンが来て槍を投げるかも知れないので、切った丸太を板と棒にして、テントとセイコーの寝床を覆う屋根も作った。おかげで魔力がだいぶ減ったよ。

「今日の見張りはすまんが最初にやらせてもらうな?」

 夕飯を食べながらみんなと相談する。少しでも回復させないと後々危険になるからな。

「ん、いーよー」

「俺とアントルゼ、タララとカウモア、最後はメロロアでどうだ?」

「「「はーい」」」「了解です」

「ねえゲイン~、お風呂どーする?」

 そう言えば作って無かったな。板を立ててトイレは作ったが、水浴びスペースまでは用意出来なかったのだ。

「今夜は箱に入って清拭で済ませてくれ。その代わりお湯だぞ」

「わ~い」「わーい」「良かったです」

「仕方ないわね、そこまで広く作れなかったのだし」

 立派な砦の中には客車とセイコーにテント。そして食事スペースを確保したらトイレを作るだけで一杯だった。テントを作らず客車で寝ても良かったか?まあ、作っちゃったモンは仕方無い。簡易コンロから火をもらい、俺の作った竈でたっぷりのお湯を沸かす。グツグツしたらバケツに分けて、水を注いでそれぞれの良き温度にしたら良い。

 そんな訳で最初にお湯を使うのはアントルゼ。その次は俺の番だ。

「後で乾かすから多少濡らしても良いぞー」

「気兼ねなく濡らすわ」

「お手柔らかにな」

 俺の後は3人が体を拭いて、今夜最後の魔法を放つ。3人がテントに入り、俺とアントルゼは毛布を巻いて、感知系スキルに集中する。

「何か居るわね」

 眠気覚ましに薄ソーサーを焼く後ろで、囁く声はアントルゼ。森の奥からこちらを見ているな。数は3。感情は警戒と空腹か。しばらくじっとしていると、3つの気配は遠ざかって行った。

「ふぅ」「行ったみたいね」

 俺は静かに手と指で数と方向を示す。アントルゼは納得した顔で頷いた。

 昼の分までの薄ソーサーを焼き終え、燻し肉の欠片をコンロで温めて2人で食べていると、肉の匂いを嗅ぎ付けた獣が動き出した。

「まだ寝てろ」

 小さな欠片を口に詰め、肌けた毛布をかけてやる。頬を2~3度撫でると、テントから顔を出したまま眠りに着いた。

 限界が来るのを何とか我慢し、目覚めたカウモアと、目の開かないタララと交代した。燻し肉を口に突っ込んだからしばらくすれば覚醒するだろう。俺は寝る。アントルゼは自分の体に毛布を巻いて、俺の毛布の中に入って来る。気にせず寝る。メロロアがくっついて来る。寝ろ、寝る…。

 起きたら朝。体が痛いが寝れるもんだな。メロロアを客車に寝かせ、テントの片付けと朝食の準備をする。

「タララ、カウモア、異常は無かったか?」

「柵の外をウロウロしてたけどほっといたらどっか行っちゃった」

「たぶん猪かと。フゴフゴ言ってましたので」

 テントを片付けながら、昨日の出来事を報告しあう。タララ達は猪か。やはり空間を作っておいて正解だな。

「運が良い猪だな」

「ゲインの方は?」

「こっちは3匹居たけど野獣の何か…、アナグマかタヌキかって所だろうな」

「昨日のはそんなのだったのね。どちらも聞いた事ないけど、どんな野獣なの?」

 焼き鍋で干物を炙るのはアントルゼ。感知系スキルで見えてはいても、何が、までは分からなかったようだ。

「二つ共一つの穴に住んでるけど、どっちかは美味くてどっちかは不味い。そんな野獣だ。そろそろスープも良い頃だろ」

「そうですね。いつでもよそえま…起きたようです」

「んはぁ~、おはようございます」

 飯が出来たと聞いてメロロアが起きて来た。セイコーにも干し草と水を与え、みんな揃っていただきます。昨日の夜から燻し肉をスープに入れているのだが、スープに香りが付くし、塩気もあって美味い。そして今朝はタララが食べたそうにしてた魚の干物を焼いた。とても良い匂いで魔物を寄せてしまいそうだ。タララはテントを畳みながら獲物を狙う目でずっとこっちを見ていたよ。脂があって美味かった。

「ゲイ~ン。ブロックは埋めとく?」

「そうだな。雨が降ると溶けちゃうし、埋め戻した方が良いだろうな」

 炊具と食器を片付けて、残るは壁と木材となる。あるといろいろ便利なので木材は全て持ち帰ろう。材木係はアントルゼとカウモア。俺はセイコーに客車を取り付ける。タララとメロロアは壁の埋め戻しだ。

「セイコー、よーしよし、良い子だ。ちゃんと装具を着けられたねー。今日も頑張ってくれよなー、よしよーし」

「ぶるるる…」

「ゲインさ~ん、私にもデレデレしてくださ~い」

「私にもぜひ」

「メロロア、カウモア、お前等夜に散々抱きついてたろうが」

「ゲイ~~ン、あたい、我慢したの」

「はいはいよしよし。後で撫でてやるから片付け終わらそうぜ」

「あ~い」

 休憩地を出ようとするとちょうど横切る商隊があり、否応なく後ろに付く事になった。挨拶はしたものの、護衛の冒険者からチラチラ見られる。すげー疑ってるよ。

「お前等さぁ、疑うくらいなら道譲って先行させろよ。何で前に出たんだよ」

「俺等に聞くな。それに近過ぎんだよこのデカ馬ぁ」

「ブヒヒー」

「デカいから近くに感じるんだよ。それよりそっちの馬バテバテじゃねーか。荷物乗せてて一頭立てって、馬を潰す気か?」

「へっ、サハギンが出るって猛ダッシュしたんだよ。結局無駄足だったがな」

「こっちは狩れなくて無駄足だったよ」

「ざまぁねぇぜ」

「コラーッ!護衛は無駄口を叩くな!」「へーーい」

「おーい商人、後ろがつかえてんだが道を譲る気は無いかー?」

「はあ!?あぎゃっ!」

 後ろの窓を開けて外を見ようとした商人らしい人物にとって、突然現れたセイコーのドアップはさぞ衝撃であった事だろう。目と歯を剥いてなかなかの強面だ。尻もちを着いたのか姿を消した。小言を言われてた護衛が、黙って笑って親呼びを立てる。俺はドヤ顔で返した。

「ひっ!なっ、なんだ?馬かっ」

「馬車だからな。馬だぞ?」

「農耕馬のクセに偉そうに」

 農耕馬は、馬だ。

「お前本当に商人か?荷を曳かせるならこっちの方が力があって良いんだよ。それにお前の馬車は客車用だろ?その大きさならせめて二頭立てにしないと馬の値段に釣り合わんぞ?」

「この…、アルデール商会を馬鹿にするか!」

「アルデール商会でなくお前を馬鹿にしてんだ。俺の言葉を会頭にでも報告してみろ。笑われるのはお前の方だぞ。お高い乗馬に荷を曳かせて潰してたら大損だよな?笑われるだけで済めば良いな」

「ゲインさん、アルデール商会はギルドとも取引のある商会ですね。それなりにまともな商売をしています。会頭は気さくな良い人ですよ」

「あ、よく見たらメロロアさんじゃねーか!」

「え?メロロアさん?」「なんだって!?」

 メロロアと聞いて、護衛がチラチラこっちを見だす。仕事しろ?

「皆さん、お仕事ですよ?頑張ってくださいねー」

「「「おおー!」」」

 口ポカーンの商人である。護衛達は相談を始め、道を譲る事に決まったようだ。依頼人そっちのけなのは良いのか?こちらとしてはありがたいけどさ。

 カウモアとタララとメロロアが馬車から降りて、轍をキレイに切り取って捨てる。護衛達、驚いてるな。何のスキルか聞いてるが、近々ギルドで紹介しますって感じでメロロアはお茶を濁してた。

 轍が取れて、キレイにツライチになった道を歩かせ商隊を追い越した。道の整備をしないと敵が来た時危険だよな。街の行政に言った所でやらんだろうが。

 客車と御者席に乗り込んで、セイコーに声を掛ける。ぶるぶる言って、ガッポガッポと歩き出し、その後ろに商隊が続く。だがそれもしばらくの間だけ。馬が疲れて離されてった。

「何だか可哀想ね」

「夕方には着くだろ。せめて露払いくらいはしてやるか」

「そうね。外に出たいけど、どうすれば良いかしら?」

「メロロアは遊撃で降りてもらおう。アントルゼは俺の隣に。カウモアは殿な」

「「了解」」「分かったわ」

「あたいは?ねぇあたいは~?」

「竈を出してやるから燻し肉焼いて食って良いぞ。窓を全開にしてな」

「それ、働いてる?」

「匂いで誘う訳ですね」「食べ過ぎたらゲインが怒るわよ?」

「そう言う事だ。好きなだけカリカリに焼くが良い」

「う~ん、分かった~」

 馬足を緩めて竈と燻し肉を出してやると、分厚く切って焼き始めるタララ。おい。窓から良い匂いがすると、メロロアとアントルゼが場所を代わり、メロロアは前へ。カウモアも馬車の後ろに付いた。

 しばらくするとぽつぽつやって来るゴブリンを、前に陣取るメロロアがナイフで殺して道の脇へ蹴り飛ばす。それをカウモアが拾ってく。

「私が仕事してないわ」

「待機するのも仕事だよ。索敵しっかりな」

「そうね」

 しかし俺達中衛の仕事は無かった。追い風が良い仕事をしたな。街道が一直線になり、ミーミンガイの壁と扉が見えて来た。

「そろそろ竈を仕舞え。肉もだぞ?」

「んー」

 南門は空いてるが、ギルドに用があるのでまたぐるりと外周を回って北門へ。馬車を街に入れたくないのでメロロアとタララをギルドに向かわせ、残る3人は門前の端っこで待機となった。セイコーに水をやり、時間を潰す。

「車の中がお肉の香りでお腹が空いたわ」

「竈も燻し肉もタララに預けちまったから干し肉と薄ソーサーしかないが、食うか?」

「ソーサー1枚頂くわ」「私にもお願いします」

 3人で薄ソーサーを齧っているとメロロア達が帰って来た。

「ただいま戻りました。もうお昼ですか?」

「おかえり。ただのオヤツだよ。西の休憩地に行ったら昼飯にしよう」

「ゲイ~ン。あたいも食べちゃ、ダメ?」

「さっき分厚いの食ってたろ。セイコーの水桶を回収したら出るぞー」

「ゲインさん、私、働きました…」

「ソーサー食って良し」「やたっ」

 水桶を回収したら、今度は西に沿って外周を進む。この街はぐるりと森に囲まれて、畑が全然無いみたいなんだよな。食べ物の全てを輸入に頼ってるって事か?飢饉とか来たら絶えてしまいそうだな。

「ゲインさん。一応ですが防衛柵の案は出しておきましたが、お金はこれっぽっちでした。それにこの程度じゃ貢献度も上がらないと言われてしまいました。それと、街道の整備についても進言しておきましたよ」

 金貨1枚1万ヤン。受け取ってギルド資金とした。

「骨折り損だったな」

「貢献度付かないのは~、なんかね~」

「セイコーの運動にはなったから良しとするか…。口出しだけで1万もらえたし」

「儲けたじゃない。不満なの?」

「そうだな。ゴブリンからのドロップもあるだろうし、気張って選別しなきゃな」

 そうこうしているうちに西門へ。こちらの街道は結構行き来があるみたいで、今も外から街へと向かう乗り合い馬車が着いた所だ。乗り合い馬車を躱したら、街道に乗って移動する。


良い街道に魔物は少ない。

 そんな言葉があるように、西の街道は轍が出来にくいように石を埋めて補強してある良い道だ。道幅にはゆとりがあって、脇の草も手入れが入った跡が見える。草藪の奥は森だが、木の間隔が広い。間引きしたのか植林したのか、とにかく整備されている。

「村2つ越えると街ですが、その次は村4つ越える事になります」

「国境か」

「ですね。石壁の前後の村はそれなりに拓けてますので多少の買い物は出来るかと」

「行軍用の道って訳だ」

「今は平時ですが、無いに越した事はありませんね。国境を越えると私も道案内出来なくなっちゃいます。すみません」

「いや、だいぶ頼りになったよ」

「好感度上がりましたかっ!?」

「上がった上がった。撫でてやろう」

「えへ~、って、兜の上から撫でられても~」

 皮鎧でくっ付かれても全然柔らかくない。俺も金属鎧だし。珍しく安全な道を通って1つ目の休憩地に着く。昼飯だ。休憩地には商隊が1つと乗り合い馬車が居て、各々休憩を取っていた。空いてる場所に馬車を寄せ、昼飯の準備に取り掛かる。セイコーには客車から取り出した水と干し草、俺達は干し肉と薄ソーサーとヤカンの水で簡単な昼飯だ。人のいる所には長居は出来ない。つまらんケンカなんてしょっちゅう起こるし、巻き込まれるのも嫌だからだ。

 セイコーを撫でながら警戒は怠らない。みんなもメロロア以外は馬車の中で静かに飯を食う。セイコーは知ってか知らずか、俺にとても懐いて顔を擦り寄せてる。御者に懐いてない馬なんて、馬泥棒の恰好の餌だからな。

 そう。居るのだ。馬泥棒かは分からんが何かを狙って品定めしてる男が。俺達は全員感知系スキルがあるのですぐに警戒して行動したが、他の人等はどうだろうか。自己防衛は自己責任。桶を客車に仕舞ったら、すぐにその場を後にした。

「捕まえたらお金になりましたね」

「街に戻るの面倒だろ」

「確かに。被害が出ない事を祈りましょう」

「察知も探知もかなり有用だったな。買って良かった」

「後は感知だけですね。高いですけどあると世界が変わりますよ」

「メロロアは持ってたか。10万では、買えないよな?」

「安売りされたら良いですね」

 って事は高いんだろうなぁ~。ダンジョンで取れたら…、俺達の力では奇跡次第だろうけど。

「あ、そうだ。今夜はどうやって野営するか考えなきゃ」

「ブロックが使えないって事ね?」

「水浴びも、少し怖いですね」

 アントルゼは聡いな。そして無防備の怖さが分かっているカウモア。武器無し野営装備無しで野宿しただけの事はある。

「板と角材で馬房を作れば泥棒もしにくかろう、とは思う。サハギン狩りが結果的に良かったかもな」

「問題はトイレね」

 それも板と角材で作る事になった。場所取りも重要なので、セイコーには少しだけ足を使ってもらった。

「ありがとうなセイコー。馬房を作ったら水浴びしような?」

「ヒヒッ」

「嬉しそうね」「良かったね~。あたいも水浴びしたいな~」

「客車の中が昨日より水浸しになるが、水浴び場として使うのもありだぞ。だが出来れば客車で寝たい。客車を外したくないからセイコーには立って寝てもらわなきゃならん」

「ゲイン様、セイコーさんは仔馬じゃないのですし、大丈夫でしょう」

「馬にさん付け…」

「さすがに様とは付けられませんでした」


 午後を過ぎて2つ目の休憩地に着いた。先行者は無し!しかも柵が立派だ。まぁ、木は立派だがただの柵なのでゴブリンは普通に入って来そうだけど。入口を正面にした一番奥に陣取ると、急いで板と角材を出して陣地を構築する。他の人が来ない内にマジックボックスを使っておきたいのだ。

 馬房とトイレの分のエリアを角材で囲ったら、細い穴になるよう地面を収納し角材を突き刺す。板を重ねてもう1本角材を刺したら隙間に板を差し込んで上を縛り、壁が1つ出来た。それを三ヶ所でコの字に、中にL字の個室を作り、トイレ分が出来上がる。

「覗いて見てくれ」

 内と外からみんなが覗く。その間にセイコーの装具を外し、セイコーを洗ってやった。首だけ出してのウォーターウォール。干し草で体を擦ったら魔法を解いてデリートウォーター。いきなり水の壁が現れるのだからセイコーも驚くと思ったが、どこ吹く風と言う感じで洗われていたよ。肝が座った馬である。

「ねぇゲイン。トイレの穴、開ける前に水浴びしちゃわない?」

「2人ずつで良いならな。俺は最後でアントルゼとカウモア、先に使え」

「分かったわ」「はい」

 ゆっくり水浴び出来ないが、しないよりは良いのだろう。アントルゼは俺からアクセサリーを借りると、カウモアと素早く水浴びに向かって行った。

 その間に外側の壁を3人で作る。柵はあるけどザルだからな。馬房と重なるようにコの字を作り、皮鎧に着替えた2人とタララとメロロアが交代。少しだけある空間を使って食事の支度をする。

「タララ、燻し肉投げてくれ」

「え!もうすっぽんぽんだよぉ」

「なら後で良いぞ」

「ゲイン様、受け取って参ります」

「よろしく頼む。竈も回収して来てくれ」

 スープを煮込み、薄ソーサーを練り出して俺の番。水浴びよりも金属鎧を脱げる方がありがたい。水浴びを終えたらデリートウォーターして穴を開け、トイレとなった。

「ゲイン、金属鎧なの?」

「警戒しなきゃな」

「あ、来ましたね。ですが敵意等は感じませんよ?」

 メロロアは気付いたな。みんなも意識したら気付けたようだ。

「まだ餌を見てないからだろう」

「性欲の溜まった男共には、私のような美女は餌に見えてしまうのですね」

「頭に残念と言う文字を忘れていますね」「美も余計ね」

「残念女とか酷くないですか?ゲインさぁ~ん」

「みんな可愛いから気を付けてな」

「「はぁ~い」」「気を付けます」

「せいぜい気を付けましょ」

 最初に来たのはミーミンガイから来た乗り合い馬車。空が赤くなりだして、干し肉を焼いてそろそろ食うかと言う頃合になって反対側から1台やって来た。村で昼飯食ったのか?それとも問題があったのか?取り敢えずどちらにも悪意は感じない。板の塊を見て不審に思っているだけだが、野営して煮炊きする音を聞いて安心したようだ。

「ゲイン~、お皿ちょうだ~い」

「あ、アレもお願い」

 よく言葉に出さなかったな。撫でてやろう。水飴の鍋を出して板の上に置く。客車の中だと凄く狭いが外に食う場所作ってないから仕方無い。

「板を小さく切ったらダメなの?」

「そうしたいが、それなら板すら無い方が良いよな」

「確かにね。明るい内に頂きましょ」

 干し肉の炙りに燻し肉と干し野菜のスープ。そして薄ソーサーに水飴と水。今日も上手く出来たな。

トントン、トントン。

「あのー。もし?よろしいでしょうかー?」

 敵意は無い、か。甲高い女の声が板をノックする。これで俺達を呼んでなければ誰を呼ぶと言うのか。食事を置いて外に出る。

「何か用かな?」

「あの、謝礼は致しますのでお助けくださいませんか?」

 板を挟んで問いかけると、そんな事を言って来る。困っていそうではあるな。

「俺達は冒険者だが、それでも良いなら要件を聞こうか」

「よろしければ、本当によろしければなのですが、お水を少々頂けると…」

「馬が2頭に、煮炊きに清拭。水桶いくつ必要よ」

「よ、よくお分かりで…」

「横板は止めてないからずらせば見えるのさ」

 ズズッと1枚ずらしてやると、あれ、居ない。馬房の正面に居たようで、気付いてこっちに寄って来た。何となく、察しは付いてたけどメイド服だ。

「やはり馬車をお使いでしたか」

「馬臭いか?」

「いえ、ぶるぶる鳴いておりましたので。それで…」

「馬の水桶を持って来い。そっちは無料でくれてやるから飲ませてやれ。ただし人が使うのは金を取るぞ?水樽はあるんだろ?どれだけ入る?」

「はい。60ナリです」

「3000ヤンな」

「え?良いのですか?」

「ぼったくって目を付けられたくないんだよ。せっかく作った陣地を片付けるのも嫌だしな」

 安さに驚いてるようだが、宿屋の食堂と値段は一緒だ。あっちは井戸水、こっちは魔法水だがな。

 走って報告に行ったので、外に出て板を閉じてもらう。

「お気を付けて」

「せいぜい気を悪くさせないようにするよ」

 ああ面倒。けどやらなきゃ殺られる可能性まであるので我慢して2頭立ての馬車へと向かう。広々とした陣地を占有して、テントもデカいのが3張りもある。何人で来たんだ?だが詮索はしない。出来ればメイド以外に会わずに済ませたい。

「馬のお水はこちらにお願いします。それが終わりましたら水樽に案内しますね」

 メイドさんから水桶を預かり馬達の元へ。お、鳴かない。よく調教されてる子のようだ。2頭の前に桶を置き、両手でウォーターを注ぎ込む。

「水魔法…」

「うちの子も飲んでるから大丈夫だよ。人も飲んでるしな」

「いえ、使える事に驚きまして…」

「スキル屋に行けば買えるだろ?」

「ここだけの話ですが、雇った冒険者には誰も居ないのですよ」

 メイドさんが寄って来て耳打ちする。

「初級は大した値段じゃないからな、俺みたいなのでも買えるんだ。攻撃用だと10倍はするからね」

 注ぐそばから水を飲む馬達。余程喉が乾いていたのだな。飲み終えて、桶一杯にしてやった。頭を下げて鼻を伸ばして来る。撫でて良し、みたいな仕草。セイコーが嫉妬しないくらいに撫でといた。よしよし。

 次に連れて来られたのは客車。水樽は側面に置かれていて、上蓋を開けて水を注ぐタイプだ。両手で一気に、30ピル程で注ぎ終えた。

「本当にありがとうございました。何とお礼を申し上げたら良いか…」

「この先は街まで川も無いし、大事に使うのが良いよ。そんで水のスキルチップを買うべきだ」

「初級、でしたか」

「中級もあった方が良い。今使ったウォーターは水量が少ないからな。こんなのに貯めてたら死ぬぞ」

 1ピル1ナリで1%減るなら樽一杯で60%かかる。だったらウォーターウォールからバケツ等を使って移した方が効率が良い。

 銀貨3枚もらったら、気配を消して陣地に戻った。絡まれなくて良かったぜ…。

「おつかれ~」

「疲れた」

 冷めてしまった食べかけの食事を平らげて、今夜の当番を決める。俺は眠かったので最後に、メロロアが最初。残りの3人はその次と決まった。

「ゲイン、1人で大丈夫ぅ?」

「子供かよ」

「私も少しだけ見ますので、大丈夫ですよ」

「実質2交代ですね」

「朝食を作る人数が…テントが無いから問題無いわね」

「じゃあメロロア、頼んだよ」

「頼まれましょう」

「ゲイン、マット敷くよー」

 客車の中にマットを敷くと、縦は2枚、横だと3枚並ばない。重ならないよう2枚を敷いたら横に3枚敷いてやる。壁にかかる所は折り曲げて、床面側は重ならぬように敷いて寝床が出来た。

「さあさ、ゲイン。お~いで~」

 横になり、毛布を被ったタララが毛布をめくって俺を呼ぶ。俺は俺の毛布を使うぞ?タララの隣で横になると片腕の自由を奪われた。

「ゲイン様、失礼します」

「毛布は自分のを使えよ?」

 今度はカウモア。毛布を被って隣に寝そべり見つめて来るが、マスク外してないので怖い事この上なし。その隣にはアントルゼが大人しく寝ているようだ。

 寝てる皆が金属鎧なので無闇にのしかかって来ないのはありがたい。両腕を取られて寝返りは出来ないがな。

 カウモアに起こされて目覚めると、メロロアが抱き着いてた。

「メロロア、見張りがあるから離してくれ」

「…ん、んちゅう…」

 軽くキスしたら離れてくれた。カウモアが刺突剣を抜こうとしていたからかも知れない。ソーサーとスープは作ってあると言うのでやる事が無い。暇つぶし用にチップでも買っておけば良かった。燻し肉をしゃぶりながら周りに気を回し続けた。

 良い街道だからか野獣の侵入も無い。人もほとんどが寝ている。起きているのは俺と、護衛の冒険者が二人だな。そんな中、ガラガラと荷車を曳いた馬車がバカッバカッと進んでる。静かな上に、街道には石が混ぜてあるので音がデカい。すっかり目が冴えちゃったよ。音から察するに、セイコーと同じ感じの農耕馬だな。朝の行商に出向くための物だろう。気付けば空も白んでいた。

「ゲインさん…、寝かしつけてくださぁい」

「起きちゃえよ。スープ温めるぞ」

 メロロアが起こされたようでうわ言を呟く。スープの鍋を簡易コンロにかけて温めてると、メロロアが起きて来た。

「おはようございます。スープの番、代わりますよ」

「頼むわ。眠い」

「寝る前と、起きた時に口をゆすぐと良い気分になれますよ」

 スッキリは出来そうだ。コップを出して、水を注いで、トイレに行ってメロロアと一緒にガラガラペッ。まあ、スッキリしたな。これで寝られるかと言ったら…寝られるな、よし。

「ゲインさん、静かに」

「ん?んん…」

 静かにしろと寄って来たメロロアに唇を奪われた。メロロアもまた、溜まっているのかも知らないな。少しだけメロロアの好きにさせてやった。


 食事と撤収を済ませたら早々に休憩地を後にする。板と棒を一々馬車に詰める振りをするのが面倒だった。他の2つは食事を1から作ってるので、そっちに意識が向いている。が、気は抜かない。

 街道に乗って西へ。すぐに対向から乗合馬車が見えて来た。何事も無ければ昼過ぎには街に着くだろう。警戒は解かず、すれ違う。

「ゲインさん。この先の村ですが、素通りしますか?」

「セイコーの休憩以外で止まる必要あるのか?」

 メロロアにはそう言ったが、村に寄ってまで休む必要は無い。ちょっとした草原でもあればそこでも良いのだ。

「素通りすれば昼には1つ目の休憩地に着けますね」

「足は昨日使っちゃったし、それで行こうか」

「街に着くまでお風呂が無いのね」

「お湯で拭くだけでいーじゃーん」

「ゲイン様に枕して貰えなくなりますよ?その時は私が代わりますのでお気遣い無く」

「お風呂、入るよぅ」

「私もしたいです!」

「私も暖かく寝たいのだけど?」

「毛布、もう1枚買おうか…」

 街に着いたら毛布を買う事に決まった。クルクル巻いて抱いて寝てくれ。




現在のステータス
名前 ゲイン 15歳
ランク C/D
HP 100% MP 96%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D

所持スキル
走る☆☆ 走る☆☆ 走る 走る 走る
刺突☆☆ 刺突
硬化☆☆ 硬化 硬化
投擲☆☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆☆ 噛み付き 噛み付き
肉体強化 肉体強化☆ 肉体強化☆
腕力強化☆ 腕力強化 腕力強化
脚力強化☆ 脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆ 体力強化 体力強化
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆ 短剣剣術☆
避ける☆
魅力☆
鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ
マジックボックス

鑑定☆ 鑑定
魅了
威圧
壁歩き

水魔法☆ 水魔法
|├ウォーター
|├ウォッシュ
|└デリートウォーター
├ウォーターバレット
├ウォーターウォール
└ボーグ

土魔法☆
├ソイル
├サンド
└ストーン

火魔法
├エンバー
├ディマー
└デリートファイヤー

所持品
革製ヘルメット
革製肩鎧
革製胴鎧
皮手袋
皮の手甲
混合皮のズボン
皮の脚絆
水のリングE
水のネックレスE

革製リュックE
├草編みカバン
├草編みカバン2号
├紐10ハーン×9 9ハーン
└布カバン
 ├冊子
 ├筆記用具と獣皮紙
 ├奴隷取り扱い用冊子
 └木のナイフ

革製ベルトE
├ナイフ
├剣鉈
├剣鉈[硬化(大)]
├解体ナイフ
└ダガー

小石中☆500
小石大☆450
石大☆20

冒険者ギルド証 0ヤン

財布 ミスリル貨231 金貨31 銀貨8 銅貨9
首掛け皮袋 鉄貨74
箱中 539,247→564,559ヤン 
ミスリル貨 金貨19 銀貨305 銅貨692 鉄貨359 砂金1250粒



マジックボックス
├猪(頭・皮)燻8.6ナリ
├戦利品
├箱
|└シルクワームの反物×33
├未購入チップ各種箱
├医薬品いろいろ箱
├食料箱×2
├調理器具箱
├ランタン箱
|└油瓶×10 9.2/10ナリ
├竈、五徳
├蓋付きバケツ大
├テントセット
├マット×4
├毛布×4
├洗濯籠
|├耐水ブーツ
|└耐水ポンチョ
└宝石
鉄兜E
肩当E
胸当E
腰当E
上腕当E
ゲル手甲E
ゲル股当E
帆布のズボンE
脛当E
鉄靴E
熊皮のマント

籠入り石炭0
石炭80ナリ

ランタン
油瓶0.1/0.8ナリ
着火セット
服箱
├中古タオル
├中古タオル
├未使用タオル×2
├中古パンツ
├パンツE
├未使用パンツ×2
├ヨレヨレ村の子服セット
├サンダル
├革靴
├街の子服Aセット
└街の子服Bセット

スキルチップ
ハシリウサギ 0/4521
ウサギS 0/1
ウサギG 0/1
ハシリトカゲ 0/3166
ハシリトカゲS 0/1
ハチ 0/2859
ハチS 0/1
カメ 0/3459
カメS 0/1
ヨロイトカゲS 0/2
石 0/1861
石S 0/1
スライム 0/2024
オオスズメ 0/1573
トンビS 0/4
フォレストモンキー 0/972
ウルフ 0/1070
カラードウルフ 0/1
ワニS 0/1
グラスベア 0/1
ラージアントワーカー 0/100
ラージアントソルジャー 0/100
蝶 0/204
花 0/161
腕 0/541
腕S 0/1
腕G 0/1
脚 0/650
脚S 0/101
脚G 0/1
頭 0/576
体 0/523
体S 0/1
体G 0/1
棒 0/627
ナイフ 0/640
ナイフS 0/1
短剣 0/352
短剣S 0/100
鎧S 0/1
袋S 0/1
箱G 0/1

水滴 0/446
水滴S 0/1
立方体 0/525
火 0/4

魅了目S 0/1
威圧目S 0/1
ドクハキヤモリ 0/1
頭三本線S 0/1
頭三本線G 0/1
眼鏡S 0/100
眼鏡G 0/1
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