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36. 真夜中の巡り逢い1

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気がつくと、アイリスはドレスや宝飾品などそのままの姿で自室のベッドで眠っていた。
今がどういう状況なのか、記憶を辿ってみても、天幕の裏でレナードを見送ったところで記憶は途切れていて、それ以降のことが思い出せなかった。
恐らく自分は魔力切れを起こして倒れたのだと理解した。

(けれども自室に居るってことは誰かが運んでくれたってことよね……?)

キョロキョロと周囲を見渡してみても部屋に人の気配は無かった。

とりあえずアイリスは楽な格好に着替えると、魔法で染めていた黒い髪も銀に戻した。

それから、起き上がった時に少しふらつきを覚えたので、魔力がまだ十分に回復していないと感じて月光を浴びる為に窓を開けてバルコニーへ出たのだった。

空は晴れ、月が闇夜を照らしている。
アイリスは、空に浮かぶ月を静かに見上げると、その月の光を身に受けた。
月の魔力回復にはこれが一番手っ取り早いのだ。

ふと、アイリスは今が何時なのかが気になって、時計を見た。
夜も更けて、普段レナードと待ち合わせている時刻はとっくに過ぎていたのだが、それでもアイリスは、何故だか行かなくてはいけないと感じて、気づいたら中庭に向かっていたのだった。

(もしかしたら殿下を待たせてしまっているかもしれないし、居なかったとしても、それならそれで待たせてしまっていない事が確認できていいわ。)

アイリスはまだ気怠さの残る身体でいつもの道を通った。そうしてたどり着いた中庭は、夜のしんとした静寂の中で噴水だけがコポコポと音を立てて動いているだけで、そこには誰もいなかった。

(居ない……まぁ、そうよね……)

アイリスはホッとしたような、寂しいような複雑な感情が胸に芽生えた。

彼を待たせてしまっていなかったことに安堵したのだが、毎夜会っていた二人の時間が本日は無い事に寂しさも覚えたのだ。

アイリスは空を見上げると噴水の縁に腰をかけて一人月光を浴びた。
ここに来る時は、いつもレナードが待っていてくれたので、一人でこうしてこの噴水に座っていることが、何とも不思議な気分だった。

それからしばらくの間、アイリスは噴水に腰をかけながら、頭上の月を眺めてぼんやりとその場に留まった。

雲ひとつない夜空に浮かぶ明るい月の光は、まるでアイリスの事を包み込んでくれる光のカーテンのようで、見ていると心が落ち着いたのだ。

そうしてそのまま暫く一人で月光を浴びていたのだが、不意に誰かに名前を呼ばれたのだった。

「……アイリス?」
こんな夜中に人など居るとは思っていなかったのでその呼びかけにドキッとしながら声の方を向くと、アイリスは更に目を丸くして驚いたのだった。

「殿下……?!」
居ないはずのレナードが、そこに立っていたのだ。
今夜はもう会えないと思っていただけに、レナードに会えてアイリスは嬉しく思ってしまった。

この想いは手放さなくてはならないのに、けれどもやはり、彼の姿を見ると自分の中の浮き立つ気持ちを誤魔化せなかった。
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