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37. 真夜中の巡り逢い2

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「部屋から外を見たら君の姿が見えたので。もう起き上がっても平気なのかい?」
寝巻き姿のまま、レナードはこちらへゆっくりと近づいてきた。
彼は中々寝付けそうになくて外の空気を吸おうとバルコニーに出たところで、中庭に居るアイリスに気づき急いで駆け付けたのだった。

「はい。あ……、もしかして私を部屋に運んでくださったのは殿下なのですか?」
「いや、実際に運んだのは私では無いのだが……。貴女の様子が気になって、ルカスに天幕の中の様子を確認して貰ったら、貴女がそこで倒れていたのでカーリクスとルカスの二人に運んでもらった。その……本当にすまなかった……」
「何故殿下が謝るのですか?謝る事など何もありませんわ。」

レナードはアイリスの横に腰を下ろすと、非常に申し訳なさそうな顔をして、今夜の事を丁寧に謝った。
けれども、アイリスには彼から謝られるような事は何一つないのだから、レナードの謝意を認めなかった。全て呪いの所為なのだから。

「いいや、貴女には謝らねばならぬ事が多すぎる。……まず、緊急時だったとはいえ、許可なく貴女の居室にルカスとカーリクスが立ち入った事とか……」
「……大丈夫です。寧ろそれは私の方がお礼を述べるべきかと。」
一瞬考えてしまったが、一ヶ月という短い期間なので物も少なく片付いた状態であるし、見られて困るものがある訳でも無かったので、一般的には女性の居室に立ち入る事は好ましく無いが今のアイリスには問題がなかった。

「それに、貴女が倒れたのは、ダンスを踊っている最中に私に魔力を注いだからなのだろう?貴女にそのような無茶をさせてしまうなんて、本当に自分が不甲斐ない。」
「殿下は被害者なんです。ご自分を責めないでください。それに、私がやりたくてやった事なんですからお気になさらないで。貴方を、あの場所で倒れさせたくなかったのです。」

レナードはずっと苦しそうな顔をしている。アイリスを魔力切れで倒れさせてしまった事が一番堪えているみたいだった。
そんな彼の心情を察して、アイリスはこれは自分の意思でやった事だからと伝えて彼の心を軽くさせようとしたのだった。

「このお役目は、確かに契約に基づいての事ですが、そんな契約など無かったとしても、私は同じことを進んでしましたわ。この数週間の間一緒に過ごして殿下のお人柄に触れたことで、貴方をお守りしたいと思ったからこその行動なのですよ。」
アイリスはレナードを安心させる為にニッコリ微笑んでそう言った。

この言葉に、嘘偽りは無かった。

「それは……有難う。」
アイリスの微笑みに応えるように、レナードもやっと笑みを見せた。
けれどもその微笑みは少し弱々しい感じであったので、アイリスは自分自身を責めているレナードに、これ以上かける言葉が見つからなかった。

なのでアイリスは、話題を変えていつもの日課を行うことにしたのだった。

「殿下、折角なんで今日の分の月の加護の魔法をかけますね。」
「今日はしなくていい!貴女はまだ本調子では無いのだろう?!」
アイリスからの提案を、レナードは強く拒否した。魔力切れで倒れたばかりの人間に、再び魔法を使わせるなんて、考えられなかったのだ。

それは、彼なりにアイリスを思っての言葉であったが、けれどもアイリスは、全く平気そうな顔で、そんな事は気にしないでくださいと、彼を宥めるように自分の魔力について説明をしたのだった。

「大丈夫です。月光を浴びて大分回復しましたし、この後も暫くここで月光浴していきますから。私の魔力は月明かりの下に居たら回復が早いんですよ。」
「そうなのか……?」
「はい。それに、明日の新月は、月明かりの下という条件が整わないのでこの月の加護の魔法は使えないのです。だからせめて、今日は加護をかけさせて下さい。」

そう言って、アイリスはレナードからの返事を待たずに彼の手を握って、いつもと同じ古語の呪文を唱えたのだった。
こうなってしまっては、レナードも流石に手を振り解くまではせずに、アイリスの体調を気にかけつつも、大人しく彼女に魔法をかけられるしかなかった。

時間にしてほんの数分
いつもと同じこの儀式が、たまらなく愛おしく感じた。

「終わりましたわ。」
「あぁ、有難う……。体調は大丈夫なのか?」
「はい、少し気だるいけれどもこれくらい大丈夫ですわ。今は月も出ていますから、このままここで月光浴すれば、すぐに回復出来ますわ。」
そう言ってアイリスは微笑んでみせた。先程からずっと月明かりの下に居るので、自分で思ってたよりも消耗していないのだ。これならもう暫くここで月光を浴びていれば、明日にはすっかり元通りになりそうだった。

「月光浴とは、どれくらい行うものなんだ?」
「そうですね……大体一時間位でしょうか。」
「そうか、ならばそれまで私もここに居よう。」
「えぇ?!どうしてですか?!」
レナードからの意外な申し出に、アイリスは彼がここに残る理由が分からなくて、思わず聞き返してしまった。夜も遅い時間にわざわざ自分に付き合わせるなんて申し訳ないのだ。

「……私がここに居たいと思ったからだよ。ダメかい?」
アイリスの反応にレナードはまるで捨てられた仔犬のような少し悲しそうな顔をして、彼女の顔を覗き込みながらもう一度そう問いかけた。

「ダメでは無いですけど……しかし、もう夜も遅いですし、お休みにならないとお体に障ります。」
レナードに見つめられて、アイリスは恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。
彼とのこの時間がもう暫く続くのは勿論嬉しいが、時刻は既に普段ならベットの中にいたであろう遅い時間である。レナードをこれ以上付き合わせる訳にはいかないのだ。彼にはきちんと休んで貰いたいから。

そう思って、自分の気持ちとは裏腹に、アイリスはレナードに休むようにと勧めたのだが、彼はそんな説得では引き下がらなかった。

「大丈夫だよ。気遣いありがとう。」
そう言ってレナードはアイリスの横に座ったまま、ニッコリと彼女を見つめている。どうやらこの場から動く気はないらしい。

「……分かりました。では、三十分だけ……」
レナードの表情から、彼が考えを曲げる事が無さそうだと感じ取って、アイリスは自分が折れることにしたのだった。
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