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39. 誘拐1
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レナードと話し込んでいるうちに、三十分はあっという間に過ぎてしまった。
「殿下、もう十分に月光を浴びましたから大丈夫ですわ。付き合っていただき、有り難うございました。」
頃合いを見計らってアイリスは話を切り上げて立ち上がると、レナードに向かって丁寧にお辞儀をした。
名残惜しい気持ちもあるが、夜も遅い時間なのだ。これ以上彼の睡眠時間を奪う事は出来ないと、今夜の月光浴のお開きを申し出たのだった。
「そうか。もう夜も遅いしね。おやすみ、アイリス嬢。」
「はい、失礼いたします。おやすみなさいませ、殿下。」
アイリスはもう一度深々とお辞儀をしてから、自室へと立ち去ろうと踵を返した。すると、後ろからレナードに声をかけられたのだった。
「アイリス嬢!明日は、会えないのだろうか。」
「はい、明日は新月ですから魔法をおかけする事が出来ないので、ここには来ないつもりです。」
「そうではなくて……」
レナードは何かを言おうとして歯切れ悪く口籠もっているので、そんな彼の様子をアイリスは不思議そうに眺めた。
「いや……分かった。残念だけど明日はゆっくり休んで。おやすみ。」
「はい、かしこまりました。殿下も加護が無い間は十分にお気をつけ下さい。……何事もなければ良いのですが……。なんとなく、嫌な予感がするんです……」
結局レナードが何を言いたかったのか分からなかったが、彼が労りの言葉と眠る時の挨拶を投げかけたので、アイリスは改めてお辞儀をすると、最後に何となく不安に思っている事を忠告したのだった。
まさかその嫌な予感が当たってしまうとは考えたくはなかったのだが、魔力のある者が言うこういった事は最悪な事に実際に当たってしまう事が多く、そして残念なことにアイリスの予感も当たってしまった。
……ただしそれは、殿下の御身にではなく、アイリス自身に災厄は降りかかったのだった。
「う……」
アイリスが気がつくと後頭部がズシリと痛んだ。
周りを見ても見覚えがない風景で、どこだか分からない部屋のベッドに寝転がされていてるようだった。
アイリスは歩いていたら後ろからいきなり殴られた所までは覚えているので、恐らく自分は誘拐されたのだろうと今の状況を少ない手がかりからそう判断をした。
(身体は拘束されてないけど……この部屋に監禁されてるって事よね……)
ふと、ドアの前に立つ一人の女性と目があった。メイドの格好をしているが、その腰には剣を帯同していてどうやら騎士のようだった。その女性はアイリスが目を覚ました事に気づくと、そっと彼女に近づいて、恭しく跪き、敬意を持ってアイリスに謝罪したのだった。
「アイリス・サーフェス様、手荒な真似をして申し訳ございません。」
「……貴女……は?」
長い黒髪を高い位置で一つにまとめている、凛々しくも美しいその女性は、初めて見る顔だった。
「私はカリーナと申します。今はこれしか言えません。」
「私をどうするおつもりなんですか?」
「それは……私にはお答え出来ません……」
「ここはどこなんですの?」
「尖塔の一室でございます。ですので、窓から逃げるなどと考えないでくださいね。死にますよ?」
カリーナの言葉を確かめる為に、アイリスは窓に近寄って外を眺めた。すると確かに地面がとても遠くに見えたので、ここが高い塔の一室である事を認めざるを得なかった。
「殿下、もう十分に月光を浴びましたから大丈夫ですわ。付き合っていただき、有り難うございました。」
頃合いを見計らってアイリスは話を切り上げて立ち上がると、レナードに向かって丁寧にお辞儀をした。
名残惜しい気持ちもあるが、夜も遅い時間なのだ。これ以上彼の睡眠時間を奪う事は出来ないと、今夜の月光浴のお開きを申し出たのだった。
「そうか。もう夜も遅いしね。おやすみ、アイリス嬢。」
「はい、失礼いたします。おやすみなさいませ、殿下。」
アイリスはもう一度深々とお辞儀をしてから、自室へと立ち去ろうと踵を返した。すると、後ろからレナードに声をかけられたのだった。
「アイリス嬢!明日は、会えないのだろうか。」
「はい、明日は新月ですから魔法をおかけする事が出来ないので、ここには来ないつもりです。」
「そうではなくて……」
レナードは何かを言おうとして歯切れ悪く口籠もっているので、そんな彼の様子をアイリスは不思議そうに眺めた。
「いや……分かった。残念だけど明日はゆっくり休んで。おやすみ。」
「はい、かしこまりました。殿下も加護が無い間は十分にお気をつけ下さい。……何事もなければ良いのですが……。なんとなく、嫌な予感がするんです……」
結局レナードが何を言いたかったのか分からなかったが、彼が労りの言葉と眠る時の挨拶を投げかけたので、アイリスは改めてお辞儀をすると、最後に何となく不安に思っている事を忠告したのだった。
まさかその嫌な予感が当たってしまうとは考えたくはなかったのだが、魔力のある者が言うこういった事は最悪な事に実際に当たってしまう事が多く、そして残念なことにアイリスの予感も当たってしまった。
……ただしそれは、殿下の御身にではなく、アイリス自身に災厄は降りかかったのだった。
「う……」
アイリスが気がつくと後頭部がズシリと痛んだ。
周りを見ても見覚えがない風景で、どこだか分からない部屋のベッドに寝転がされていてるようだった。
アイリスは歩いていたら後ろからいきなり殴られた所までは覚えているので、恐らく自分は誘拐されたのだろうと今の状況を少ない手がかりからそう判断をした。
(身体は拘束されてないけど……この部屋に監禁されてるって事よね……)
ふと、ドアの前に立つ一人の女性と目があった。メイドの格好をしているが、その腰には剣を帯同していてどうやら騎士のようだった。その女性はアイリスが目を覚ました事に気づくと、そっと彼女に近づいて、恭しく跪き、敬意を持ってアイリスに謝罪したのだった。
「アイリス・サーフェス様、手荒な真似をして申し訳ございません。」
「……貴女……は?」
長い黒髪を高い位置で一つにまとめている、凛々しくも美しいその女性は、初めて見る顔だった。
「私はカリーナと申します。今はこれしか言えません。」
「私をどうするおつもりなんですか?」
「それは……私にはお答え出来ません……」
「ここはどこなんですの?」
「尖塔の一室でございます。ですので、窓から逃げるなどと考えないでくださいね。死にますよ?」
カリーナの言葉を確かめる為に、アイリスは窓に近寄って外を眺めた。すると確かに地面がとても遠くに見えたので、ここが高い塔の一室である事を認めざるを得なかった。
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