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2章 再会
20.捜索
しおりを挟むアラン様が帰ってからしばらくして、大きな商店の奥さまがお店に慌てて入ってきた。
カララン! 勢いよくベルが鳴った。
「ああ、ルカ! うちの子、お店に来なかった?」
そうとう急いでいるのか、いつも身ぎれいにしている奥さまが髪の毛を乱しながら早口で話しかけた。
「いえ、ミル君なら来てませんが……」
ミル君はこの奥様のお子さんだ。
「どうしましょう! ちょっと目を離した隙に家から出てしまったみたいなのよ!」
まだミル君は小さかったはず。それに子供達は一人で外に出ないようにと、騎士団から通達があったのに。
「ご近所さんも探してくれてるの。心当たり無いかしら? ルカ!」
奥さまの心配そうな顔を見たら、放っておけない。
「心配ですね。僕も一緒に探します!」
「ああ……。ありがとうルカ。助かるわ!」
探す人は多いほどいいだろう。お店のドアの看板を『お休み』に変えて鍵をかける。いつものように結界も張る。
奥さまに家で連絡待ちをするように言ってから、僕は皆が探さないような所を探してみる。
やんちゃな子は、大人が思いもかけない所に居たりする。大人が通らない場所、行かない場所、狭くて取れない場所など探してみる。
日が高くなってお昼頃になった。一度、商店街の皆と合流して情報を共有した。
「まだ見つからない」
騎士団の方にも連絡して、探してもらっているにもかかわらずまだ見つかってなかった。
「皆お昼を食べて、午後からしっかりと探しましょう!」
商店街の皆さんは疲れていたので、いったんお昼ご飯を食べてからまた捜索することになった。
知らせず、誰かのお家で遊んでいて見つかるとかなら良いけれど。
重い気持ちで家に戻ってきた。
家の鍵をポケットから取り出した。
カチャ……という鍵の金属の音の他に、コツン……と僕の背後から人の気配を感じた。
「やあ……。お店は今日はお休みかい?」
ふいに声をかけられて、バッと振り向いた。
僕より高い身長、明るい金髪。僕の白いローブと正反対の、黒いローブをはおっている。
顔は逆光で良く見えない。
でもこの声は知っている。
「は、い。今日はお休み、です」
僕は、それを言うのが精いっぱいだった。
「そう。残念だ」
それだけ言って、その人は去っていった。
僕は急いで鍵を開けて家の中に入った。結界をいつもより頑丈に張って床に座り込んだ。小刻みに震えている。
何で? 何であの人がここに?
僕はお昼ご飯を食べずに床に這いつくばった。
「う……気持ちが悪い」
そのまま僕は目をつぶり、気持ち悪さが良くなるまで我慢した。
しばらくして……。お店の時計がポーンとなった。お昼休みは終わりだ。
僕は、よろよろと立ち上がってキッチンに行きお水を飲んだ。
「ミル君を探しに行かないと」
僕はふらつきながらミル君を探しに外に出た。
途中で見回りの騎士さんに会ったので見つかったか聞いてみた。
「いや、まだです。実は他の区で未遂事件があって、この区の担当騎士数人がそちらに行きまして人数が減っています。お気を付けください」
またさらわれる事件が? なんてこと……。
「分かりました。見回りよろしくお願いします」
僕は騎士さんが向かった反対側を探すことにした。
地図を取り出して探した場所に印をつけていく。配達に使っていた地図が役に立った。
人があまりいない倉庫が多いこの辺を探そう。ミル君の家からかなり遠いから、ここにはいないと思うけど何のため探す。
一つずつ倉庫の周りをぐるりと回って探してみる。
けれどいない。入り込むような場所もない。
「あれ? あんな所に倉庫が……」
鉄柵に囲まれた大きな倉庫があった。
誰かいないかな……?
あたりを見回して出入り口を探す。
「あっ! すみません!」
人が倉庫から出てきたので声をかけた。気がついてくれたようでこちらに来てくれた。
「何だね?」
首に、汗を拭くための布をかけていた。中で働いている人かな?
「子供がいなくなって皆で探してます。子供が迷い込んだとか、見かけたとか聞いてませんか?」
僕と、その人は鉄柵越しに話をしていた。
「子供? う――ん。見かけたような? ワシは今日配達に来たばかりで、よく知らないんじゃ」
配達に来た人か……。首を傾げた。
「見かけたような? それはどこで?」
鉄柵を握りしめて聞いた。
「ああ。見かけたのではなくて、声が聞こえたんだった」
配達に来た人は、布で汗を拭きながら言った。声が聞こえた?
「そうそう。広い倉庫で、物がごちゃごちゃ置いてあって地下もあるようでそこから聞こえた。何だろうと思ったっけ」
「地下」
あやしいな。
「あ、そろそろ行かなきゃ。じゃあ」
「ありがとう御座います」
配達の人は戻って行った。
どうしよう。騎士団に知らせてからの方がいいか……。とりあえず、裏に回ってみよう。
広い敷地をぐるりと囲む鉄柵。何を保管しているのか? それとも何か作っているのかな?
大きな倉庫の裏側に回ってみた。
従業員用の出入り口だろうか? 人の気配はなく、柵が開いていた。
……入ってみようか。
少し中を見て、人がいたら尋ねてみればいい。
出入り口から歩いて倉庫の中に入った。扉に鍵などかけて無くて、さっきの配達の人とかが出入りしていたのだろうか?
乱雑に置かれた箱や袋。何か嫌な臭いがする。何だろう?
口と鼻を手のひらで覆って進む。倉庫の中は、薄い壁で仕切られているようだ。
「……誰か、ゃ……」
え? かすかに声が聞こえた。働く人達の声だろうか? 配達の人が話してくれた『地下から聞こえた』ようだ。
地下への入口はどこだろう?
僕は入口を探していて、後ろに気がつけなかった。
「うっ!」
背後から口と鼻を布で塞がれた。なに……?
意識が朦朧としてきた。薬?
「こんな所にネズミが。何者だ?」
僕の視界に見えたのは、獣人の子供を助けた時に騒いでいた男達を雇って、賃金を渡していた貴族風の男だった。
意識が薄れる中、僕はアラン様を思い浮かべた。
「檻に入れておけ」
「はい」
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