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スピンオフ集
私の父上であって欲しい人
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それでも渋っていたから、早くと促せば渋々、全員が退室をする。それからしばらくたって、メイド長がやってきた。メイド長まで顔面蒼白にして謝っているからもう一度気にするなと言って、再度、髪の毛を梳かし始めてくれる。優しい慣れた手つきにまた眠ってしまいそうになる。
「ウィンストンは?」
「ウィンストンは……えーと。先程のメイドをお叱りになられてるかと……」
その言葉に深くため息をつく。本当にウィンストンは私のことになると頭に血が上るのが早いな。まあ私が罰する必要は無いと言ったし、命令に背くやつではないからそこは安心出来るだろう。
「シュルア……ふと気になった事があるんだ」
「どうされました?」
騎士隊長にも家族がいて、シェフのジャンとアンリも結婚している。それに加えてメイド長のシュルアの指にも指輪が着いているから結婚はしているのだろう。だから一週間に何日間は休みで不在なのは知っている。
でもよく考えてみると、ウィンストンは毎日のように僕を起こしてくれて、毎晩のように僕にお休みのキスをしてくれるのだ。彼はいつ休みを取っているのか、指輪は着いていないけど家族はいるのか、今更だけど気になってしまった。
「ウィンストンに家族は居るのか?」
「言っていいのか……悩みますね。うん。でもウィンストンも結婚はして子どももいらっしゃったはずですよ……確か。あまり彼からそう言った話は聞かないのでよく分からない事も多いのです」
その言葉に何故だか胸がチクリと痛んだ気がした。当たり前だ、ウィンストンに家族が居るのは当たり前なはずなのに、どうしようもなく苦しくなる。ウィンストンの血を継いでいる本当の子どもを羨ましく思ってしまう自分が居るのだ。
それは私が幼い頃から求めていたことだったから。ウィンストンの子どもだったら良かったのにと何度も思っていた時期があったし、今でも時折そんな事を考えてしまう。
「今更な質問だったかな」
「いいえ、そんなことはありませんよ。結婚や家族について考えるようになるのは自然なことですから」
そんな話をしていると、髪の毛も綺麗に整ってちょうどウィンストンが戻ってきた。その顔には疲労が映っているようにも思えた。
「ウィンストンも家族が居たのだな」
戻ってきて早々に尋ねてみると予想とは反してウィンストンがシュルアの方を見て舌打ちをしつつ怖い顔をしていた。どうして、そんな怖い顔をするんだ?それにしても立場的にはシュルアもウィンストンも同じだからなのか怯まないシュルアは凄い。私でさえ時折、ウィンストンからの遠回しな圧に怯むと言うのに。
「アレクサンダー王子、突然そのようなことを聞いてどうなさったのです?」
「いや、ただ単に気になっただけだよ。あとたまには休みをとるんだよ。私の事は気にしなくていいから」
そう言えばウィンストンは休みは取っていると言い放つ。その言葉に首を傾けていると、シュルアが、「ウィンストンは休みの日にもアレクサンダー殿下に仕えているのですよ。だから週に何日間かは書類仕事が無いからずっと傍に付いている日もありますでしょ?」と説明を加えた。
言われてみると思い当たる節しかなかった。ウィンストンが私のことをそれだけ思ってくれていることは嬉しい、嬉しくて顔が赤くなってしまいそうである。
「その調子だと、何年も家族と会ってないんじゃないか?」
「……まぁ、そうでね。 殿下が気にされるような程の問題ではございません。 さぁ、準備を整えて陛下に今朝のご挨拶に伺いましょう」
違和感は感じたものの、ウィンストンに流されるままに部屋を出る事になった。廊下に出ると少し肌寒さがあるものの、それが反って気持ちよさを与えてくれる。
「私もいつか父上のような立派な王子様になりたいな」
ふと立ち止まって、目の前に飾られていた幼い頃の父上とおじい様、それからおばあ様の肖像画を横目にそう呟いた。 その隣には産まれたばかりの私と父上の肖像画があったようだが、おじい様が頑なに私室に飾ると言って聞かないため、寂しい空間もある。
「アレクサンダー王子は、アレクサンダー王子です。レオン王子もとても素晴らしかったのは私がいちばん知っていますから。だからこそ殿下は無理をせずに焦らず。私は貴方様だけをしっかりと見ていますから」
何にも言っていないのに、彼は隣で微笑むと、私が一番欲しい言葉をそうやって的確に伝えてくれるのだ。それを聞いた私もウィンストンに微笑み返してからまた歩みを進めた。
……だから私は、何か隠し事があったとしても、ウィンストンのことが大好きなのだ。本当の私をみて、いつも私を引っ張ってくれるから。
(そんな、お父様が大好きなんだ)
「ウィンストンは?」
「ウィンストンは……えーと。先程のメイドをお叱りになられてるかと……」
その言葉に深くため息をつく。本当にウィンストンは私のことになると頭に血が上るのが早いな。まあ私が罰する必要は無いと言ったし、命令に背くやつではないからそこは安心出来るだろう。
「シュルア……ふと気になった事があるんだ」
「どうされました?」
騎士隊長にも家族がいて、シェフのジャンとアンリも結婚している。それに加えてメイド長のシュルアの指にも指輪が着いているから結婚はしているのだろう。だから一週間に何日間は休みで不在なのは知っている。
でもよく考えてみると、ウィンストンは毎日のように僕を起こしてくれて、毎晩のように僕にお休みのキスをしてくれるのだ。彼はいつ休みを取っているのか、指輪は着いていないけど家族はいるのか、今更だけど気になってしまった。
「ウィンストンに家族は居るのか?」
「言っていいのか……悩みますね。うん。でもウィンストンも結婚はして子どももいらっしゃったはずですよ……確か。あまり彼からそう言った話は聞かないのでよく分からない事も多いのです」
その言葉に何故だか胸がチクリと痛んだ気がした。当たり前だ、ウィンストンに家族が居るのは当たり前なはずなのに、どうしようもなく苦しくなる。ウィンストンの血を継いでいる本当の子どもを羨ましく思ってしまう自分が居るのだ。
それは私が幼い頃から求めていたことだったから。ウィンストンの子どもだったら良かったのにと何度も思っていた時期があったし、今でも時折そんな事を考えてしまう。
「今更な質問だったかな」
「いいえ、そんなことはありませんよ。結婚や家族について考えるようになるのは自然なことですから」
そんな話をしていると、髪の毛も綺麗に整ってちょうどウィンストンが戻ってきた。その顔には疲労が映っているようにも思えた。
「ウィンストンも家族が居たのだな」
戻ってきて早々に尋ねてみると予想とは反してウィンストンがシュルアの方を見て舌打ちをしつつ怖い顔をしていた。どうして、そんな怖い顔をするんだ?それにしても立場的にはシュルアもウィンストンも同じだからなのか怯まないシュルアは凄い。私でさえ時折、ウィンストンからの遠回しな圧に怯むと言うのに。
「アレクサンダー王子、突然そのようなことを聞いてどうなさったのです?」
「いや、ただ単に気になっただけだよ。あとたまには休みをとるんだよ。私の事は気にしなくていいから」
そう言えばウィンストンは休みは取っていると言い放つ。その言葉に首を傾けていると、シュルアが、「ウィンストンは休みの日にもアレクサンダー殿下に仕えているのですよ。だから週に何日間かは書類仕事が無いからずっと傍に付いている日もありますでしょ?」と説明を加えた。
言われてみると思い当たる節しかなかった。ウィンストンが私のことをそれだけ思ってくれていることは嬉しい、嬉しくて顔が赤くなってしまいそうである。
「その調子だと、何年も家族と会ってないんじゃないか?」
「……まぁ、そうでね。 殿下が気にされるような程の問題ではございません。 さぁ、準備を整えて陛下に今朝のご挨拶に伺いましょう」
違和感は感じたものの、ウィンストンに流されるままに部屋を出る事になった。廊下に出ると少し肌寒さがあるものの、それが反って気持ちよさを与えてくれる。
「私もいつか父上のような立派な王子様になりたいな」
ふと立ち止まって、目の前に飾られていた幼い頃の父上とおじい様、それからおばあ様の肖像画を横目にそう呟いた。 その隣には産まれたばかりの私と父上の肖像画があったようだが、おじい様が頑なに私室に飾ると言って聞かないため、寂しい空間もある。
「アレクサンダー王子は、アレクサンダー王子です。レオン王子もとても素晴らしかったのは私がいちばん知っていますから。だからこそ殿下は無理をせずに焦らず。私は貴方様だけをしっかりと見ていますから」
何にも言っていないのに、彼は隣で微笑むと、私が一番欲しい言葉をそうやって的確に伝えてくれるのだ。それを聞いた私もウィンストンに微笑み返してからまた歩みを進めた。
……だから私は、何か隠し事があったとしても、ウィンストンのことが大好きなのだ。本当の私をみて、いつも私を引っ張ってくれるから。
(そんな、お父様が大好きなんだ)
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