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スピンオフ集
ルーフは料理長の息子
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ある日の午前の家庭教師との授業を終えた私は、ウィンストンが部屋に迎えに来るのを待たずに逃げ出すように庭園へと向かった。
後から色々と言われてしまうだろうけど、悪いことをしている自覚 はあるから、それについては甘んじて受けようと思っている……少しだけ。
そして庭園に到着し、いまの季節にふさわしい色とりどりの花々を眺めながらのんびりと散歩をしながら今日の授業を振り返る。
「アレクサンダー王子、その調子ですよ。 貴方の父上は本当に立派でしたからな」
「レオン王子はこの問題、十歳の頃に解かれておりましたよ」
「レオン王子は」
「レオン王子」
「レオン王」
「レオン」
「レオ」
家庭教師であるウェルト先生の言葉を思い出していたらついむしゃくしゃとした気持ちに抗えずにその場で大の字で寝転んだ。
王子、それも王太子たる振る舞いが出来ていない自覚はもちろんある。 けれど、今はただ何ものにも囚われない時間が欲しかった。
「当たり前じゃないか……」
お父様が優秀なのは当たり前じゃないか……お父様は小さい頃から病弱で勉強をするかヴァイオリンをするかの二択しかないような人だったのだろう?
そこまで思って私はハッとした。 私は今何を考えた?私は父上を侮辱するような事を少なからずとも考えてしまったのか? 慌ててるネガティブな思考を律するように深く深呼吸をする。
「私は……私だ」
ウェルト含む家庭教師達は決して悪気で私と父上を比べている訳では無いのだろう。 でも、それでもたまには父上と比べずに、私を私として見て欲しいと思ってしまう時だってある。もしかしたら私は人一倍に、その欲求も強いのかもしれない。
「うわぁ……」
そんな事を鬱々とした気持ちで考えてながら地面に寝転がったまま、城の方をみていると、たまたま三階の執務室で作業をしていたであろうウィンストンが窓を開け、深呼吸をしていた所でバッチリと私と目が合ってしまった。……あってしまった。
ウィンストンはニッコリとそれはそれは綺麗な程の笑みを浮かべ、開けたばかりの窓を閉めた。
あれは……かなり怒っている。 それに今、私はお行儀悪く寝転がっている。 ただでさえウィンストンの迎えを待たずに逃げ出してきた身だ。
ドッドッドと心臓が強く波立っているのが分かる。 まさかこんなに早く見つかるだなんて思いもしなかった。
そんな事を考えながら私は最後の悪あがきをしてみようと、ウィンストンが来る前に急いで起き上がり、厨房に向かう事にした。
しかし庭園の裏口から入り込もうと移動していると、厨房の方から料理長であるジャンの怒鳴り声が聞こえてきた。
ジャンが怒鳴るのは珍しいな。 そう思って、他のシェフにも見つからないように壁に沿ってしゃがみ、窓から覗き込むようにこっそりと顔を出した。窓が開いていたため、ハッキリと様子が伺える。
そこには私と年端も変わらなさそうな、髪を後ろに束ねている見習いの制服をきた男の子が立っていた。
見た事ない顔をしている。 そう、見たことの無い顔はしているが、見た事のある顔のような気もするのだ。
……自分でも何言っているか分からないのは理解している。 しかし、なんと言うかジャンにそっくりなのだ。 薄青色の髪の毛と、紺色の瞳でタレ目な所など。
しかし顔立ちや背格好などはアンリにも似ているようにも思う。 これはまさか、まさかなのか?
「お父ちゃん……そんな怒ることないじゃんか」
「見学をするだけだっつうから、連れてきたのに勝手にシェフの手伝いを始めた挙句に皿を割った阿呆は誰だ」 「うぅ、でもだって」
やっぱりジョンとアンリの子どもなのか!? 二人と会話をする頻度はそこそこ多いと思っていたけれど、一言も子どもが居るだなんて聞いたことないぞ。
そうやって、一人で慌てながら考え事をしていると私の頭に違和感が。
「ジャンもルーフをそんなに怒らないでくださいな。 ほら、お客さんですよ。 ね? 覗き見している王子様?」
「う、へへ? バレるとは思わなかったな」
頭の違和感の正体はアンリが私の頭に手を乗せたかららしい。 観念して上を見るとニヤニヤとしたアンリと、こちらを見たまま固まったジャン。
それから……ルーフ?もジャンと同じようなポーズをしながら固まっている。
「あ、、、あ、アレクサンダー王子!? 」
そうしてしばらく、再度アンリがジャンに声をかけると声をかけると皆して窓の方へ集まってくる。
他の人達からすると異様な光景だろうな。
「その子、ジャン達の子ども?」
皆の興奮が落ち着く前に、そう尋ねるとジョンはわしゃわしゃと自分の頭をかきながら悔しそうな、困ったような顔をしていた、アンリも肩を竦めながらやれやれといった風に首を振っていた。
「本当は来年の入学式まで隠そうと思ってたんだがなあ……長年の計画が」
「だから私は城に来させるの反対してたんですよ……ほら!ルーフ。 このお方がアレクサンダー殿下だよ。 挨拶をしなさい」
「あ、?あ!え!?父ちゃん母ちゃん……あっいっっで! 何するんだよ父ちゃん」
ルーフ?は慌てたように、ジャンとアンリの方を何度も見ながら戸惑っているとジャンがルーフの頭を引っぱたいていた。
あまりに爽快な音に自分の頭をさすってしまいそうになる。
「早く挨拶をしないか!」
痺れを切らしたアンリもルーフを急かすように背中を押していた。
そのやり取りにクスクスと笑っていると、ルーフが被っていた帽子を取りながら私の前にやってきた。
後から色々と言われてしまうだろうけど、悪いことをしている自覚 はあるから、それについては甘んじて受けようと思っている……少しだけ。
そして庭園に到着し、いまの季節にふさわしい色とりどりの花々を眺めながらのんびりと散歩をしながら今日の授業を振り返る。
「アレクサンダー王子、その調子ですよ。 貴方の父上は本当に立派でしたからな」
「レオン王子はこの問題、十歳の頃に解かれておりましたよ」
「レオン王子は」
「レオン王子」
「レオン王」
「レオン」
「レオ」
家庭教師であるウェルト先生の言葉を思い出していたらついむしゃくしゃとした気持ちに抗えずにその場で大の字で寝転んだ。
王子、それも王太子たる振る舞いが出来ていない自覚はもちろんある。 けれど、今はただ何ものにも囚われない時間が欲しかった。
「当たり前じゃないか……」
お父様が優秀なのは当たり前じゃないか……お父様は小さい頃から病弱で勉強をするかヴァイオリンをするかの二択しかないような人だったのだろう?
そこまで思って私はハッとした。 私は今何を考えた?私は父上を侮辱するような事を少なからずとも考えてしまったのか? 慌ててるネガティブな思考を律するように深く深呼吸をする。
「私は……私だ」
ウェルト含む家庭教師達は決して悪気で私と父上を比べている訳では無いのだろう。 でも、それでもたまには父上と比べずに、私を私として見て欲しいと思ってしまう時だってある。もしかしたら私は人一倍に、その欲求も強いのかもしれない。
「うわぁ……」
そんな事を鬱々とした気持ちで考えてながら地面に寝転がったまま、城の方をみていると、たまたま三階の執務室で作業をしていたであろうウィンストンが窓を開け、深呼吸をしていた所でバッチリと私と目が合ってしまった。……あってしまった。
ウィンストンはニッコリとそれはそれは綺麗な程の笑みを浮かべ、開けたばかりの窓を閉めた。
あれは……かなり怒っている。 それに今、私はお行儀悪く寝転がっている。 ただでさえウィンストンの迎えを待たずに逃げ出してきた身だ。
ドッドッドと心臓が強く波立っているのが分かる。 まさかこんなに早く見つかるだなんて思いもしなかった。
そんな事を考えながら私は最後の悪あがきをしてみようと、ウィンストンが来る前に急いで起き上がり、厨房に向かう事にした。
しかし庭園の裏口から入り込もうと移動していると、厨房の方から料理長であるジャンの怒鳴り声が聞こえてきた。
ジャンが怒鳴るのは珍しいな。 そう思って、他のシェフにも見つからないように壁に沿ってしゃがみ、窓から覗き込むようにこっそりと顔を出した。窓が開いていたため、ハッキリと様子が伺える。
そこには私と年端も変わらなさそうな、髪を後ろに束ねている見習いの制服をきた男の子が立っていた。
見た事ない顔をしている。 そう、見たことの無い顔はしているが、見た事のある顔のような気もするのだ。
……自分でも何言っているか分からないのは理解している。 しかし、なんと言うかジャンにそっくりなのだ。 薄青色の髪の毛と、紺色の瞳でタレ目な所など。
しかし顔立ちや背格好などはアンリにも似ているようにも思う。 これはまさか、まさかなのか?
「お父ちゃん……そんな怒ることないじゃんか」
「見学をするだけだっつうから、連れてきたのに勝手にシェフの手伝いを始めた挙句に皿を割った阿呆は誰だ」 「うぅ、でもだって」
やっぱりジョンとアンリの子どもなのか!? 二人と会話をする頻度はそこそこ多いと思っていたけれど、一言も子どもが居るだなんて聞いたことないぞ。
そうやって、一人で慌てながら考え事をしていると私の頭に違和感が。
「ジャンもルーフをそんなに怒らないでくださいな。 ほら、お客さんですよ。 ね? 覗き見している王子様?」
「う、へへ? バレるとは思わなかったな」
頭の違和感の正体はアンリが私の頭に手を乗せたかららしい。 観念して上を見るとニヤニヤとしたアンリと、こちらを見たまま固まったジャン。
それから……ルーフ?もジャンと同じようなポーズをしながら固まっている。
「あ、、、あ、アレクサンダー王子!? 」
そうしてしばらく、再度アンリがジャンに声をかけると声をかけると皆して窓の方へ集まってくる。
他の人達からすると異様な光景だろうな。
「その子、ジャン達の子ども?」
皆の興奮が落ち着く前に、そう尋ねるとジョンはわしゃわしゃと自分の頭をかきながら悔しそうな、困ったような顔をしていた、アンリも肩を竦めながらやれやれといった風に首を振っていた。
「本当は来年の入学式まで隠そうと思ってたんだがなあ……長年の計画が」
「だから私は城に来させるの反対してたんですよ……ほら!ルーフ。 このお方がアレクサンダー殿下だよ。 挨拶をしなさい」
「あ、?あ!え!?父ちゃん母ちゃん……あっいっっで! 何するんだよ父ちゃん」
ルーフ?は慌てたように、ジャンとアンリの方を何度も見ながら戸惑っているとジャンがルーフの頭を引っぱたいていた。
あまりに爽快な音に自分の頭をさすってしまいそうになる。
「早く挨拶をしないか!」
痺れを切らしたアンリもルーフを急かすように背中を押していた。
そのやり取りにクスクスと笑っていると、ルーフが被っていた帽子を取りながら私の前にやってきた。
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