24 / 24
スピンオフ集
制服に胸が高鳴るアレクサンダー
しおりを挟む
「えぇ、実は今回の刺繍には私と、それからジェンも手伝わせて頂きました」
返ってきた言葉につい頬が綻んでしまう。昔から早く私達も王家の刺繍に携わりたいって言ってたからな。その第一歩が私の制服なのだと思うと嬉しくて仕方が無い。ふふ。おじい様よりも先にジェンとジェラの初めてを貰ったのは私だ!後で自慢するんだ! ふふ。
私の反応に軽く微笑んだ後にジェンが近くに置いてあったであろう、黒で塗装され、黄色のリボンが巻かれている1メートルはある箱を机にゴソリと置いた。目で開けるように促されたから、そっと手にとって中身を見てみると……ずっと憧れだった制服が、私の制服が綺麗に収納されていた。
「……とても美しい。胸元に王家の刺繍なんてあるのか。んふふ。 お父様のは見た事はあったけど自分のとなると、より一層輝いて見えるよ。」
「えぇ。アレクサンダー王子、王族の学生にだけ適用されるデザインだそうですよ。それにしても本当に見事でしょう、その刺繍はジェラが縫ったんですよ」
ジェラはやんちゃな性格の反面、昔から異常な程に器用だったからな。ある意味では神様からの贈り物なのかもしれない。一方でジェラは家族に比べると不器用な反面、誰よりもしっかり者だということで父親のキャンデーによく商談に連れていかれるのだと言う。
ジェラ? ジェラはいつもならお留守番らしい。 あの性格なら無闇矢鱈に連れて回さないのが賢明な判断であろう。 今回だって私達が幼馴染だったから、ジェラも着いて来させて貰えたのだろうし。
そんなことを思いつつ、一番上のジャケットを手にスっと撫でてみる。 どことなくヒンヤリとした感じがして心地よい。
「うん、手触りも最高だ」
「伊達に王家御用達の仕立て屋は名乗っていないですからね……自慢の最高級品です」
ふと見た帽子に縫われている学園の名前。丁寧に金色の刺繍糸で「academy royal」と施されていた。これはきっとジェンが縫っているんだろうなと直ぐに気が付いた。
気付いてないと思っているのだろうが、さっきから不安げにチラチラと帽子を見ているからだ。家族に比べて不器用だといつも彼は悲しそうに言っている、だけれど私にとってはとても繊細でジェラにもキャンデーにだって劣らない出来映えだとさえ思う。
そもそもの話、本当にジェンが仕立て屋の一員の中で一番不器用だったとするのならきっと、仕立て屋としてのプライド魂が人一倍に高いキャンデーに刺繍を手伝わせて貰えないはずだ。
その言葉に笑いながら、また最後に着用しようと帽子を丁寧に机の上に戻した。戻してから一つのシャツを見つめてジェンに尋ねてみる。
「早速、着替えても良いかな?」
「えぇもちろん。」
そのジェンの言葉に安心して、微笑みながら首元まである黒い下着と足首まである黒いタイツを先に着用してから真っ白なワイシャツに袖を通す。その後に紺色の太ももらへんが少しふっくらとして、ふくらはぎの真ん中辺りで裾が絞られているズボン。絞られている所には黄色のリボンが巻かれている。うん、王家を表す素敵な装飾だ。
しかし、慌ててズボンを脱いだ。タイツを履いた事に安心をして膝上までの白いソックスを履き忘れていたらしい。 ジェンが慌てたようにそのソックスを見せてきた。私とした事がうっかりとしていたよ。
そして手元にある黒光りしている革靴もカッコイイ。履いた時にかかとで地面をコンコンとしてみると心地良い音が響いた。 ジェンには不満気な表情で見つめられてしまったが。べ、別に良いじゃないか。
それから最後に紺色のジャケットを着用し、白いマントを肩に装着してから先程の帽子を被る。全て整えたのを確認した後に急いで鏡の前まで走ると……思わずニマニマと笑ってしまい片手で口元を抑えてしまった。
「アレクサンダー王子、お似合いです。昔からこの制服に憧れてましたからね。入学しても私達を何時でも頼ってくださいね」
「ん、んふ。 あ、あぁ……頼りにしているぞ、ジェラ」
ジェンとそんな他愛もない話をいくつか続けていると扉のノック音と共にウィンストンが戻ってきた。どうらやキャンデーが遅れてやってきてジェラはいま別室でこっぴどく叱られているとのこと。
――まぁ今は、そんなことよりも。
「ウィンストン! どうだ! 早速着てみたのだが、似合う?あ! そうだ、城の皆にも見せてこよ……ウィンストン? 」
戻ってきたウィンストンの元へ駆け寄りながら話しかけると、いつも着用しているモノクルをゆっくりと外して両目を摘んでいた。泣いているのか?あのウィンストンが? んなわけないか、、?
「アレクサンダー殿下……いえ。なんでもないです。それにしてもとてもお似合いですございます」
どことなく釈然としない答えだったが、今はただ早く皆に制服を見せて回りたかった。この時間だと、母上は自室のテラスでおばあ様と共にお茶でも飲んでいるころだろうか?
おじい様は……会議の時間だろうから晩餐の時に見せる事が出来たら嬉しいな。あ! そうだ、ウーロンとセバスチャン、それからジャンの元にも行こう。
それにしてとジェンとジェラとジャン、あまりにも名前が似ていて時折間違えて呼んでしまいそうになるし何度も間違えてきた。
きっとルーフはもう帰ってしまったのだろうか、まだ居るのなら今度こそいっぱい話したいな。私の制服をみたらルーフも来年の入学を楽しみに頑張れるはずだ。あぁ……そうだ。忘れるところだった。メイド長のシュルアにも見せて、それからそれから――
誰に会いに行こうかな、なんて事を考えながら客間から出ようとドアノブに手をかけた直後、何となく気になってちらりと見たウィンストンはいつも首元にかけている両開きのペンダントを取り出していた。確かそれには私の父親の幼少期の姿絵が入っていたはずだ。
随分と前に、父親の願いでウィンストンと二人きりの姿絵を特別に画家を呼んでその小さな紙に先生に描き出してくれたのだと嬉しそうに見せて貰った記憶がある。
「まぁいいか……それじゃあ私は先に母上の所にいってくるから。ジェラも今日はありがとう! ジェンとそれから来ているらしいキャンデーにもよろしく伝えておいてくれ!」
最後に手を振りながらそう言えばジェンも勢いよく手を振って応えてくれた。
――早く入学式の日が来ればいいのに……そんな事を思いながら駆け足で母上とおばあさまがいる場所に向かった。
……後日談になるのだが、ジェラが父親の朝食に悪戯した事が原因でキャンデーは遅れていたそうだ。
返ってきた言葉につい頬が綻んでしまう。昔から早く私達も王家の刺繍に携わりたいって言ってたからな。その第一歩が私の制服なのだと思うと嬉しくて仕方が無い。ふふ。おじい様よりも先にジェンとジェラの初めてを貰ったのは私だ!後で自慢するんだ! ふふ。
私の反応に軽く微笑んだ後にジェンが近くに置いてあったであろう、黒で塗装され、黄色のリボンが巻かれている1メートルはある箱を机にゴソリと置いた。目で開けるように促されたから、そっと手にとって中身を見てみると……ずっと憧れだった制服が、私の制服が綺麗に収納されていた。
「……とても美しい。胸元に王家の刺繍なんてあるのか。んふふ。 お父様のは見た事はあったけど自分のとなると、より一層輝いて見えるよ。」
「えぇ。アレクサンダー王子、王族の学生にだけ適用されるデザインだそうですよ。それにしても本当に見事でしょう、その刺繍はジェラが縫ったんですよ」
ジェラはやんちゃな性格の反面、昔から異常な程に器用だったからな。ある意味では神様からの贈り物なのかもしれない。一方でジェラは家族に比べると不器用な反面、誰よりもしっかり者だということで父親のキャンデーによく商談に連れていかれるのだと言う。
ジェラ? ジェラはいつもならお留守番らしい。 あの性格なら無闇矢鱈に連れて回さないのが賢明な判断であろう。 今回だって私達が幼馴染だったから、ジェラも着いて来させて貰えたのだろうし。
そんなことを思いつつ、一番上のジャケットを手にスっと撫でてみる。 どことなくヒンヤリとした感じがして心地よい。
「うん、手触りも最高だ」
「伊達に王家御用達の仕立て屋は名乗っていないですからね……自慢の最高級品です」
ふと見た帽子に縫われている学園の名前。丁寧に金色の刺繍糸で「academy royal」と施されていた。これはきっとジェンが縫っているんだろうなと直ぐに気が付いた。
気付いてないと思っているのだろうが、さっきから不安げにチラチラと帽子を見ているからだ。家族に比べて不器用だといつも彼は悲しそうに言っている、だけれど私にとってはとても繊細でジェラにもキャンデーにだって劣らない出来映えだとさえ思う。
そもそもの話、本当にジェンが仕立て屋の一員の中で一番不器用だったとするのならきっと、仕立て屋としてのプライド魂が人一倍に高いキャンデーに刺繍を手伝わせて貰えないはずだ。
その言葉に笑いながら、また最後に着用しようと帽子を丁寧に机の上に戻した。戻してから一つのシャツを見つめてジェンに尋ねてみる。
「早速、着替えても良いかな?」
「えぇもちろん。」
そのジェンの言葉に安心して、微笑みながら首元まである黒い下着と足首まである黒いタイツを先に着用してから真っ白なワイシャツに袖を通す。その後に紺色の太ももらへんが少しふっくらとして、ふくらはぎの真ん中辺りで裾が絞られているズボン。絞られている所には黄色のリボンが巻かれている。うん、王家を表す素敵な装飾だ。
しかし、慌ててズボンを脱いだ。タイツを履いた事に安心をして膝上までの白いソックスを履き忘れていたらしい。 ジェンが慌てたようにそのソックスを見せてきた。私とした事がうっかりとしていたよ。
そして手元にある黒光りしている革靴もカッコイイ。履いた時にかかとで地面をコンコンとしてみると心地良い音が響いた。 ジェンには不満気な表情で見つめられてしまったが。べ、別に良いじゃないか。
それから最後に紺色のジャケットを着用し、白いマントを肩に装着してから先程の帽子を被る。全て整えたのを確認した後に急いで鏡の前まで走ると……思わずニマニマと笑ってしまい片手で口元を抑えてしまった。
「アレクサンダー王子、お似合いです。昔からこの制服に憧れてましたからね。入学しても私達を何時でも頼ってくださいね」
「ん、んふ。 あ、あぁ……頼りにしているぞ、ジェラ」
ジェンとそんな他愛もない話をいくつか続けていると扉のノック音と共にウィンストンが戻ってきた。どうらやキャンデーが遅れてやってきてジェラはいま別室でこっぴどく叱られているとのこと。
――まぁ今は、そんなことよりも。
「ウィンストン! どうだ! 早速着てみたのだが、似合う?あ! そうだ、城の皆にも見せてこよ……ウィンストン? 」
戻ってきたウィンストンの元へ駆け寄りながら話しかけると、いつも着用しているモノクルをゆっくりと外して両目を摘んでいた。泣いているのか?あのウィンストンが? んなわけないか、、?
「アレクサンダー殿下……いえ。なんでもないです。それにしてもとてもお似合いですございます」
どことなく釈然としない答えだったが、今はただ早く皆に制服を見せて回りたかった。この時間だと、母上は自室のテラスでおばあ様と共にお茶でも飲んでいるころだろうか?
おじい様は……会議の時間だろうから晩餐の時に見せる事が出来たら嬉しいな。あ! そうだ、ウーロンとセバスチャン、それからジャンの元にも行こう。
それにしてとジェンとジェラとジャン、あまりにも名前が似ていて時折間違えて呼んでしまいそうになるし何度も間違えてきた。
きっとルーフはもう帰ってしまったのだろうか、まだ居るのなら今度こそいっぱい話したいな。私の制服をみたらルーフも来年の入学を楽しみに頑張れるはずだ。あぁ……そうだ。忘れるところだった。メイド長のシュルアにも見せて、それからそれから――
誰に会いに行こうかな、なんて事を考えながら客間から出ようとドアノブに手をかけた直後、何となく気になってちらりと見たウィンストンはいつも首元にかけている両開きのペンダントを取り出していた。確かそれには私の父親の幼少期の姿絵が入っていたはずだ。
随分と前に、父親の願いでウィンストンと二人きりの姿絵を特別に画家を呼んでその小さな紙に先生に描き出してくれたのだと嬉しそうに見せて貰った記憶がある。
「まぁいいか……それじゃあ私は先に母上の所にいってくるから。ジェラも今日はありがとう! ジェンとそれから来ているらしいキャンデーにもよろしく伝えておいてくれ!」
最後に手を振りながらそう言えばジェンも勢いよく手を振って応えてくれた。
――早く入学式の日が来ればいいのに……そんな事を思いながら駆け足で母上とおばあさまがいる場所に向かった。
……後日談になるのだが、ジェラが父親の朝食に悪戯した事が原因でキャンデーは遅れていたそうだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
この作品の感想を投稿する
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる