1 / 46
プロローグ
しおりを挟む私は父の執務室に向かった。
夕方になっているため、館の空気は少し緩んでいる。夕食にはまだ時間はあるはずだが、酒の準備が進んでいるためだろう。
幸いなことにまだ父は執務室にいて、見た限りではまだ酒も入っていなかった。
そのことに少しほっとしたが、私はすぐに顔を引き締めて父の机の前に立った。
「父上にお話があります」
「そなたは、用がなければここには来ないだろう?」
まだ執務中だったようだが、父は嬉々として羽根ペンを投げ出した。書記官が密かにため息をつくのを無視し、何かあるのかと興味深そうな顔で私の言葉を待つ。
最後の迷いを断ち切るために大きく深呼吸をして、私は口を開いた。
「マユロウの一族を招集してください」
父の表情が変わり、眉が動いた。私は何も気付かないふりをして言葉を続けた。
「定めの儀式を行いたい」
「……なるほど。そなたの夫を運命の告げるままに選ぶのか」
低くつぶやいた父は、顎をなでる。眉間に皺を寄せて少しだけ何かを考え込み、それから立ったままの私を見上げて首をかしげた。
「だが、それでいいのか? 定めの儀式を行えば、そなたの意にそわぬ男が選ばれてしまうかもしれんのだぞ」
「あの方々なら、どなたでも問題はありません」
「ふむ……そなたがいいのなら、まあいいか」
そうだ。
私は誰になろうと構わない。
誰もが次期領主の夫として相応しく、私に対してそれなりの執着を示してくれる。私がそばに置いても負になることはない。それどころか、我がマユロウのためになってくれるだろう。
私は誰であろうと構わない。
……もう、ハミルドは手に入らないのだから。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
161
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる