次期女領主の結婚問題

ナナカ

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プロローグ

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 私は父の執務室に向かった。
 夕方になっているため、館の空気は少し緩んでいる。夕食にはまだ時間はあるはずだが、酒の準備が進んでいるためだろう。
 幸いなことにまだ父は執務室にいて、見た限りではまだ酒も入っていなかった。
 そのことに少しほっとしたが、私はすぐに顔を引き締めて父の机の前に立った。

「父上にお話があります」

「そなたは、用がなければここには来ないだろう?」

 まだ執務中だったようだが、父は嬉々として羽根ペンを投げ出した。書記官が密かにため息をつくのを無視し、何かあるのかと興味深そうな顔で私の言葉を待つ。
 最後の迷いを断ち切るために大きく深呼吸をして、私は口を開いた。

「マユロウの一族を招集してください」

 父の表情が変わり、眉が動いた。私は何も気付かないふりをして言葉を続けた。

「定めの儀式を行いたい」

「……なるほど。そなたの夫を運命の告げるままに選ぶのか」

 低くつぶやいた父は、顎をなでる。眉間に皺を寄せて少しだけ何かを考え込み、それから立ったままの私を見上げて首をかしげた。

「だが、それでいいのか? 定めの儀式を行えば、そなたの意にそわぬ男が選ばれてしまうかもしれんのだぞ」

「あの方々なら、どなたでも問題はありません」

「ふむ……そなたがいいのなら、まあいいか」


 そうだ。
 私は誰になろうと構わない。
 誰もが次期領主の夫として相応しく、私に対してそれなりの執着を示してくれる。私がそばに置いても負になることはない。それどころか、我がマユロウのためになってくれるだろう。
 私は誰であろうと構わない。
 ……もう、ハミルドは手に入らないのだから。

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