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Prolog
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(……まただ。また、心臓が、騒がしい……)
カナのその笑顔に、万里の心臓はまたしても騒がしく音を立て始めていく。
(何なんだよ、これ。何でカナが笑うと、こんなにも心臓が騒がしくなるんだよ……?)
自分の事なのに原因が分からず困惑する万里。
万里の心を騒がせている当の本人はそんな事など知る由もなく、彼に対して信頼の眼差しを向けていた。
だからだろうか、カナには『芹』という偽りの名前じゃない本当の名前を知って欲しくなったのか、
「……葉瀬 万里」
「え?」
「俺の本名。今後、店の外で会った時は、万里って呼べよ」
気付けば万里は、普段自分からは絶対に教える事のない本名を口にしていたのだ。
「……万里……さん?」
カナは教えられた名前を確認の為に呟くと、彼女が自分の名前を口にした、たったそれだけの事に反応して嬉しさを滲ませる万里。
(何だろ、コイツに呼ばれただけで、名前がすげー特別なモンに思える……)
本人は全く気付いていないようなのだが、出逢った瞬間から万里はカナに惹かれているのだ。
けれど恋愛経験も無い、異性に興味の無い万里は自分が異性に惹かれているとは思いもしない為、それに気付けないでいた。
「えっと、それじゃあ、私は笹垣 環奈なので、環奈って呼んでください」
そして、万里が本名を教えたからか、カナは迷うこと無く自身の本名を名乗り、万里に自分の事も本名で呼んで欲しいと言う。
「おいおい、そんな簡単に本名教えるなよ……」
「誰にでも教える訳じゃないですよ? 万里さんなら信用出来るから教えたんです。それに私だけ教えて貰うのは不公平じゃないですか。だから、いいんです」
まさかカナの本名を知れるとは思いもしなかった万里は嬉しい反面、彼女はやっぱり危機感が足りないと改めて再確認する。
そんなさなか着信でもあったのか、バッグからスマホを取り出した環奈はそれを確認すると、表情は一気に曇っていく。
「どうかしたのか?」
「い、いえ! 大した事じゃ無いので!」
「そうか? ならいいけど。つーかお前の顔色もだいぶ良くなったし、そろそろ帰るか」
「あ、そうですよね。付き合わせてしまってすみませんでした。私はこっちなので……」
環奈の表情が曇った事は気になるものの本人が何でもないというなら深くは聞けない万里は理由を聞く事を諦め、彼女の顔色が戻ってきたのと時間も遅い事から、そろそろ帰ろうと告げる。
時刻は午前三時を過ぎた頃。
当たり前だが、周りに人は歩いていないし車すら通らない。
そんな中を環奈は一人で帰ろうと自宅のある方角を指差してそちらへ歩いて行こうとする。
「待てよ。送る」
「え? 万里さんもこっち方面なんですか?」
「いや、俺は逆方向」
「それじゃあ、送ってもらうなんて出来ません」
「阿呆か。こんな時間で人も居ねぇ中、女を一人で帰せる訳ねぇだろーが」
「で、でも……私の家、ここからだと徒歩で二十分くらい掛かりますし……。それなら私、タクシー呼びますから」
「いいから行くぞ。二十分くらい、話してればすぐだろ? その程度の距離でいちいち金使うのは勿体ねぇって。どうせ俺の家もここから少し距離あってタクシー拾おうと思ってたからお前を送ったらタクシー呼ぶよ」
「でも……」
「良いから、行くぞ」
「万里さん……すみません、ありがとうございます」
いくら異性に興味は無くとも深夜に女性一人で帰す事など出来ない万里は環奈が気にしないで済むよう言い聞かせると、これ以上何か言われないうちにさっさと歩き始めてしまう。
そんな万里に感謝しつつ、環奈も彼の後を追って歩いて行く。
こうして万里が環奈を家まで送る事になり、着くまでの間、二人は他愛の無い話を楽しんでいた。
カナのその笑顔に、万里の心臓はまたしても騒がしく音を立て始めていく。
(何なんだよ、これ。何でカナが笑うと、こんなにも心臓が騒がしくなるんだよ……?)
自分の事なのに原因が分からず困惑する万里。
万里の心を騒がせている当の本人はそんな事など知る由もなく、彼に対して信頼の眼差しを向けていた。
だからだろうか、カナには『芹』という偽りの名前じゃない本当の名前を知って欲しくなったのか、
「……葉瀬 万里」
「え?」
「俺の本名。今後、店の外で会った時は、万里って呼べよ」
気付けば万里は、普段自分からは絶対に教える事のない本名を口にしていたのだ。
「……万里……さん?」
カナは教えられた名前を確認の為に呟くと、彼女が自分の名前を口にした、たったそれだけの事に反応して嬉しさを滲ませる万里。
(何だろ、コイツに呼ばれただけで、名前がすげー特別なモンに思える……)
本人は全く気付いていないようなのだが、出逢った瞬間から万里はカナに惹かれているのだ。
けれど恋愛経験も無い、異性に興味の無い万里は自分が異性に惹かれているとは思いもしない為、それに気付けないでいた。
「えっと、それじゃあ、私は笹垣 環奈なので、環奈って呼んでください」
そして、万里が本名を教えたからか、カナは迷うこと無く自身の本名を名乗り、万里に自分の事も本名で呼んで欲しいと言う。
「おいおい、そんな簡単に本名教えるなよ……」
「誰にでも教える訳じゃないですよ? 万里さんなら信用出来るから教えたんです。それに私だけ教えて貰うのは不公平じゃないですか。だから、いいんです」
まさかカナの本名を知れるとは思いもしなかった万里は嬉しい反面、彼女はやっぱり危機感が足りないと改めて再確認する。
そんなさなか着信でもあったのか、バッグからスマホを取り出した環奈はそれを確認すると、表情は一気に曇っていく。
「どうかしたのか?」
「い、いえ! 大した事じゃ無いので!」
「そうか? ならいいけど。つーかお前の顔色もだいぶ良くなったし、そろそろ帰るか」
「あ、そうですよね。付き合わせてしまってすみませんでした。私はこっちなので……」
環奈の表情が曇った事は気になるものの本人が何でもないというなら深くは聞けない万里は理由を聞く事を諦め、彼女の顔色が戻ってきたのと時間も遅い事から、そろそろ帰ろうと告げる。
時刻は午前三時を過ぎた頃。
当たり前だが、周りに人は歩いていないし車すら通らない。
そんな中を環奈は一人で帰ろうと自宅のある方角を指差してそちらへ歩いて行こうとする。
「待てよ。送る」
「え? 万里さんもこっち方面なんですか?」
「いや、俺は逆方向」
「それじゃあ、送ってもらうなんて出来ません」
「阿呆か。こんな時間で人も居ねぇ中、女を一人で帰せる訳ねぇだろーが」
「で、でも……私の家、ここからだと徒歩で二十分くらい掛かりますし……。それなら私、タクシー呼びますから」
「いいから行くぞ。二十分くらい、話してればすぐだろ? その程度の距離でいちいち金使うのは勿体ねぇって。どうせ俺の家もここから少し距離あってタクシー拾おうと思ってたからお前を送ったらタクシー呼ぶよ」
「でも……」
「良いから、行くぞ」
「万里さん……すみません、ありがとうございます」
いくら異性に興味は無くとも深夜に女性一人で帰す事など出来ない万里は環奈が気にしないで済むよう言い聞かせると、これ以上何か言われないうちにさっさと歩き始めてしまう。
そんな万里に感謝しつつ、環奈も彼の後を追って歩いて行く。
こうして万里が環奈を家まで送る事になり、着くまでの間、二人は他愛の無い話を楽しんでいた。
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