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グリフォンを買う、山賊退治をする理由、善行が悪行になる事もある
しおりを挟むラミアをさらった連中のアジトは東方辺境連合の西側のモンテ王国ににあり、オレとアシュもまだそこに居た。
例の凍らせた屋敷の厩舎に飛獣が居なかった所為だ。
居たのは陸獣だけ。
無論、貰っていったさ。
馬よりもチョイ大きめのサイズの陸亀を。
えっ?
空飛ぶホウキを使わないのかって?
確かに魔石は補充出来たが、ホウキは『見られると拙い。騒動になる』と遅蒔きに気付いたからな。
人が居る場所では封印だ。
よって、陸亀に乗って現在、街道を移動中って訳だが、
「ご主人様、丘の向こうで商隊が山賊に襲われてるぜ」
馭者席に居るアシュがそう教えてくれた。
やはり、この身体は不便だな。
いくら強くなろうと嗅覚や聴覚が人間並みで。
因みにラミア親衛隊のビキニ鎧はもう装備していない。
というか、最初から装備していない。
アースドラゴンの防具一式の方が防御力が高かったので、最初から変身魔法でそっちを装備してるように偽装していただけだから。
アシュもレオタードに着替えてる。
「仕方ない。助けてやるか」
そんな事を言って、山賊に襲われてる商隊を助けに向かったのだが、
◇
「おまえら、この奴隷を殺されたくなかったら、さっさと武器を捨てろっ!」
「くっ、汚いぞっ!」
悪徳奴隷商に仲間を奪われた獣人達が襲い掛かり、奴隷商が商品の獣人の奴隷に刃を向けて獣人達を脅してる場面だった。
どう見ても山賊が善良な商隊を襲う図とは程遠い。
「どうするんだ、ご主人様?」
「素通りでいいんじゃない?」
「了解」
そんな訳で、人質を取った緊迫した睨み合いをしてる間を陸亀でノロノロと移動した訳だが、
「ちょ、アンタラ、冒険者か? 助けてくれっ! 襲われてるっ!」
アクドイ顔をした奴隷商の方がオレらに助けを求めてきた。
ん?
戦闘力390の人間?
獣人よりも強いのにどうしてオレに助けを求めるんだ?
無駄な戦いを他人に押し付けるタイプか?
それとも相手の戦闘力が分からずに慎重になってる?
「襲ってるんじゃないだろっ! そっちが無理矢理奴隷にして・・・」
「手続きは正当な物だ。借金のカタなんだからっ!」
「ふざけるなっ! あんな暴利があって堪るかっ!」
と何やら睨み合ってるが
「ごめんなさいね、急いでるから」
相手にせず通り過ぎようとしたオレに、
「礼はするから」
奴隷商がそう言い放った。
ピクリ。
今、懐は潤ってるから別にいらないんだけどなぁ~。
「【雷麻痺】っ!」
仕方なくオレは魔法を使った。
狙いは奴隷輸送隊を襲ってる獣人8人だ。
「ぐああっ!」
「ぎゃあ」
痺れて動けなくなる。
「うわぁ~、そっちを助けるんだぁ~」
アシュが呆れてるのは無視して、
「これでいい?」
「ありがとうございます。これは些少ですが」
そんな訳で奴隷商がアイテムボックスから銀の延べ棒1個をお礼として出してきた。
さすがは奴隷商。
金を持ってる。
堂々とオレは銀の延べ棒を受け取って、
「じゃあね」
「はい、ありがとうございます」
痺れた獣人達が奴隷商の手下に捕縛される中、オレ達は街道を進み、
少し離れたところで、
「あっちを助けるのかよ、ご主人様?」
「当然でしょ。獣人側を助けたら襲った連中の仲間認定されて面倒な事になるだけなんだし」
それがオレの人生観だった。
◇
結構大きな街に着いた。
別に戦争中じゃないので街に入るのに一々、身分証を提示する必要はない。
通行税も取られなかった。
だが、問題があった。
陸亀を厩舎に預ける際に所有確認をされたからだ。
「それがないのよ。前に夜に魔物に襲われた時に荷物を置いてきたから」
さらっと嘘をついたオレに対して、厩舎係が、
「再登録をされるように」
と言ってきて、
「はぁ~い」
愛想良く返事をしておいた。
街の名前はナントス。
街の見学などはしない。
速攻でグリフォンを購入した。
結構お高い。
洞窟でゲットしたお宝の大半を支払う破目になった。
「どうされたんですか、このお金?」
大金なので飛獣屋のオッサンが探るように質問してくる。
「もちろん貯めたわ。大変だったのよ」
などと言いながら、グリフォンをゲットした。
ちゃんと権利書も貰ってな。
それでようやく陸亀を売って(権利書がないので安く買い叩かれて)、グリフォンで移動した。
空でグリフォンの操縦席に座るアシュが、
「何もそんなに急がなくても。一泊すりゃよかったのに」
「ラミアをさらったあの屋敷は少し変だったからね。この国からはさっさと離れた方がいいわ」
そんな訳で、オレ達はモンテ王国のナントスの街を後にした。
◇
グリフォンはいいぜ。
空を飛べて、地上が見渡せるから。
山にある山賊のアジトの入口も一目で分かる。
そんな訳で山賊のアジトを襲っていた。
何故かって?
金だよ、金。
グリフォンを購入して懐具合が今、少し寂しいから。
「・・・オレらが何をしたって言うんだよ?」
負傷して噂った山賊の頭がそう言う中、
「ごめんねぇ~。討伐依頼を受けちゃったの(大ウソ)」
赤毛ショートの姿のオレはムカツク顔をそう答えたのだった。
山賊がアジトに集めたお宝を掻き集める。
ここでのポイントは金貨、金塊、魔石に絞る事。
他は捌くのに手間が掛かる。
正直相場とかは分からないからな。
そんな事を3回続けて、懐もどうにか温まったのだった。
◇
夕刻の事である。
1頭のグリフォンとその乗り手が、モンテ王国の国旗を掲げる飛獣部隊に追われていた。
先頭を逃げるグリフォンの飛翔速度は最高スピードだ。
その後、飛竜やグリフォン、100頭以上が追跡していた。
オーケイ。
そこまでだ。
追われてるのがオレだと思ってるんだろ、みんな?
チクショウ。
その通りだよ。
だが、今回はいつもと毛色が少し違った。
何故かというと、
追われる理由が分からない。
のだから。
どうしてこんな事になってるんだろ?
「国の兵士に追われるって。ご主人様、何したんだ?」
操縦席で必死にグリフォンを飛ばして逃げるアシュが呆れる中、
「ひどい、アシュ。私は何もしてないのに」
赤毛ショートのオレは回想する事もなく不思議がった。
◇
夜になっても追われ続けた。
国境を越えてモンテ王国からその西隣のヨーク連合に入ってもだ。
訳が分からない。
いい加減、追いかけっこにはウンザリしたオレは、
「【氷の矢】っ!」
国境を越えてヨーク連合の領空だったのを確認してから攻撃に転じた。
あっさりと100頭を超える飛竜とグリフォン部隊を撃ち落とす。
何人かは生きてたので、オレはグリフォンの後部席から飛び降りて、
地上に墜落した騎士を締め上げた。
「ねえ、どうして私を追ってきたの?」
「将軍を殺したんだから当然だろうが?」
「将軍? 何の事?」
「山賊を潰したろうが?」
そう言われて、ようやくオレは思い当たった。
3つ潰した山賊の1つに、最高戦闘力が610で『こりゃ期待出来るぞ』とアジトを探ったが全然、お宝を持ってなかったのが居た事を。
仕方なく連中が不釣り合いにも持ってた高価なマジックアイテム類を多数没収したが。
確かその際の命乞いは、
「待て、オレ達は正規軍なんだ。これは任務で・・・」
「はいはい、次からはもう少しマシな嘘をつきましょうね、【氷の矢】っ!」
プチッと潰していたが、
まさかの本物の正規軍の作戦行動中だった?
山賊に扮装しての作戦って何だよ?
どうせ、後ろ暗い非合法な任務だろ?
「そんなの、山賊の恰好をしていたそいつらが悪いのよ」
オレは堂々とそう言い切って夜空に浮かぶグリフォンに大跳躍して戻り、
「何だって?」
「ただの言いがかりだったわ」
オレはなかった事にして夜空を移動したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
登場人物。
奴隷商・・・悪玉。暴利の金貸しとグル。
獣人・・・善玉。ロザリアに倒される。
厩舎の係員・・・ナントスの入口にある。
飛獣屋のオッサン・・・ロザリアの足元を見て吹っ掛けた。
山賊1・・・本物。ロザリアに狩られる。
騎士・・・ナントス王国の聖騎士。
山賊2・・・偽装中の将軍。魔十教団の積み荷を襲う隠密作戦中だった。
国名。
モンテ王国・・・東方辺境連合の西側に位置する。元首は国王。
ヨーク連合・・・モンテ王国の西側の国家。元首は議長。
地名。
ナントスの街・・・モンテ王国所属。
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