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戦争終了、動物使い(海洋タイプ)、運の悪い女

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 ナガン諸島連合とタンテト連合の戦争は10日で終戦した。

 勝敗はナガン諸島連合の勝利。

 まあ、それも当然か。

 タンテト連合は欠陥軍船82隻全部が沈み、

 ナガン諸島連合の前議長が追放者となって暴れた際に中枢で幹部数名が死亡。

 ナガン諸島が海域に進出しても軍船がなくて海域に遠征出来ずに劣勢。

 更にはナガン諸島連合軍の幹部達の中に実力が急激に上がってるのがいて、ナメてかかったタンテト連合側の名うての実力者達が殆ど討ち取られてるのだから。





 それだけではなく、同盟国のイエロ将国は上将2人を失う中、メシコス王国の第2王子を擁して兵を起こしており、仕方なく海軍の援軍を送るも初戦で大敗し、それ以上の援軍は送れず、

 更にはタンテト連合の北隣接国で険悪関係のモンス戦士国がタンテト連合に兵を挙げる動きを見せており、2国同時に戦争するのは不可能と判断。





 こうしてタンテト連合は早期に戦争終結を図るべく、終戦の条件として領土の割譲を申し出て、ナガン諸島連合の方も内陸まで兵を進めるのは食糧事情から無理だったので受けた結果、

 タンテト連合の領土だったボレオトバム半島を丸々、ナガン諸島連合が得たのだった。





 つまりは、タンテト連合はナガン海沿岸の利権を放棄した訳だが。





 ◇





 まあ、そんな事はオレには一切関係なかった。

 オレはこの戦争には何も噛まなかったのだから。






 スレイが引き継いだナルバ家がクロス島に持つプライベートビーチで連日、海水浴ーーで過ごす事はなかったがな。





 オレは勇者なのだ。

 さすがに戦争中に遊んでるのは外聞が悪い。

 なので、スレイがオレに仕事を回してきた。

 タンテト連合の工作部隊の退治だ。





 タンテト連合もさるもの。

 工作部隊を送り込んでる。

 狙いはオレが倒してナガン諸島連合に譲渡した巨大クジラだ。

 戦争開始時点で、譲渡から10日以上が経過してるが、この時点でナガン諸島連合はその巨大クジラの鯨肉や革素材、鯨骨等々を総て手に入れてはいない。

 あの巨体だ。

 1体解体するのに、何十人の専門作業員掛かりでも10日以上掛かる。

 それが40頭(まあ、それはナガン諸島連合の公表数だが)。

 つまりは、解体作業員が足りず、解体まで海に放置していたら、巨大クジラは海に沈んだり、肉が腐ったりする。

 そんな事にならないように、巨大クジラが海に海面に浮かせ続けたり、海流で少しずつナガン諸島に近付けたり、他の海洋系の魔物を近付けないように魔物避けの液体を撒いたり、腐らないように冷凍しなければならない訳だが。

 それをやるのは魔術師の魔法だったり、専用の魔石や薬品だったりする訳だ。

 その解体作業を妨害するだけでタンテト連合にとってはナガン諸島連合の食糧問題に大打撃を与えられる訳だ。

 そんな訳で『工作部隊が送られた』との情報を得て、オレは依頼を受けてそれを狩る為に出動してる訳だ。





 ったく、『戦争には噛まない』って言ったのに。

 スレイの奴は甘え上手なんだから。





 お陰で連日、飛竜ワイバーンで異常がないか巡回だ。

 昼夜問わずにだ。

 これが一番辛い。

 そもそもオレはこの手の敵がどこに居るか分からないタイプの仕事は向いてないんだよ。

 敵の居場所が分かってて特攻して、一撃で『どっかぁぁぁん』がオレの得意分野なのだから。





 ◇





 戦争開始から3日目。

 今日もオレは警備の巡回だ。

 ずっとじゃない。

 飛竜ワイバーンは移動距離も長くて便利だが、永遠に飛べる訳ではないので、休憩が必要だからな。

 まあ、その休憩場所もオレが倒して海面に浮かぶ巨大クジラの上な訳だが。

 もう巨大クジラ47頭(ほら、やっぱり40頭じゃなかった)の全部の位置すら頭に入ってる状態だった。

 徐々にだが、ナガン諸島方面に向かってる。

 というか、一番近いのはナガン諸島にかなり近かった。

「ったく、面倒臭い事を引き受けちゃったわね」

「まったくなのだ。どうして引き受けたなのだ?」

 チャーリーがつまらなそうにしてるが、

「チャーリーの所為でしょうが。アンタがタンテト連合の軍船に捕まったから」

 オレがそう文句を言い、

「ってか、ソイツラ、本当に来るのか、ご主人様?」

 クジラが臭いのか、指で鼻を摘まむのを諦めて鼻栓をしてる犬人のアシュが問う中、

「さあね。でも魔物寄せだけでも効果があるんだから向こうとしたら楽な仕事だからね」

 なんて喋ってた訳だが、





 タンテト連合の工作部隊が巨大クジラを襲ってる現場を空飛ぶ飛竜ワイバーンの上から目撃して、初めてスレイがどうしてオレにこの仕事を振ったのか理解出来た。

 『動物使い』って職業がある。

 相性の良い動物と意志疎通が出来たり、使役出来る訳だが。

 それのクラーケンタイプがタンテト連合に居たらしい。

 30メートル級のクラーケンを3頭使役して巨大クジラを襲っていた。

「ったく、斬空剣」

 オレは上空から遠斬りの斬撃を飛ばして、クラーケン3頭をさらっと撃破して、戦闘力310のオッサンを捕虜にしたのだった。





 当然、次は尋問タイムだ。

 場所は襲われてた巨大クジラの上な訳だが。

「他に工作部隊は何人なの?」

 40代の赤毛のオッサンだった。

 恰好は漁師服。

 何の偽装だ?

 せめてナガン諸島連合の作業員の服装なら分かるが。

 戦闘力310の漁師か。

 居なくもないが、モロバレだろ。

 ってか、種族は人間だったが、コイツ、何か変だ。

 もしかして人間を辞めてないか?

 魚人の種族に似てるが・・・

 いや、どっちかって言うと人間から魚人になった?

 魚と人間の融合体?

 混合生物キマイラか?

 と思ってると、

「ブゥゥゥゥっ!」

 黒いイカスミを飛ばしてきたが、オレは達人だ。

 蹴りの風圧だけでイカスミを弾いて、イカスミは吐いたオッサン自身の顔に全部直撃した。

 イカスミの弾かれた威力は確かに強かったが、それ以上に毒性があったのか、眼に入って、

「ウオオオオ、クソがぁぁぁっ!」

 とか地面、じゃなった、巨大クジラの皮の上を転がって痛がってる。

 何がしたいんだ、コイツ?

 ギャグ要員か?

 オレはその頭をドゴッと踏んで、

「何人なの、お仲間は?」

「知るか・・・ギャアアアアアアっ!」

 否定したので、巨大クジラの皮に押し付けるように踏み付けながらオレは尋ねた。

「じゃあ、そっちは言わなくていいわ。他の事を教えて。おまえのその能力の事を? 普通じゃないわよね? どうやって人間を辞めたの?」

「イダダダダダっ!」

「これは忠告だけど、どうせ喋る事になるんだから早く喋った方がいいと思うわよ?」

「イダダダダ・・・そんな上から目線で問われて誰が喋るかっ!」

「あっそ。良かった、喋らないでくれて。ちょうどクソつまらない仕事を押し付けられてサンドバッグが欲しかったところだったからぁ~♪」

「なっ! おまえ、本当に勇者なのか?」

「うっさい。勇者も人間なのよ、機嫌が悪い日もあるのっ!」

 そんな訳で、サンドバックを手に入れたオレは蹴りに蹴って、

 結構粘ったが、結局は、





「変な爺さんの魔法実験とかで身体を弄られたんだよっ!」





 そうボコボコの面で教えてくれた。

「その爺さんの名前は?」

愚者フールだよ」

 何だ、その名前は?

 ・・・待てよ。確か似たような系統の名前を聞いたな、前に。

「もしかして魔十教団?」

「そうだよ。アンタ、狙われてるぜ、勇者様?」

「あら、教えてくれてありがと。ついでにお仲間は何人?」

「言わなくていいんじゃなかったのかよ?」

「はい?」

 ブーツで踏んでるボコボコの面のイカ男に無詠唱で雷撃魔法を流すと、

「グアアアアアアアアアア」

 と悲鳴をあげながら、

「1人だ。戦争が始まってて自国の海域を守らないとダメだから」

「どんな奴?」

「オレと一緒だよ」

「イカって事?」

「いや、クラゲだ」

「はい? それって強いの?」

「解釈によるな。クラーケンよりもクラゲの方が数が多いからな。それにアイツはエリートで海水呼吸が出来て、その気になれば一生海底で潜水してられるタイプだ。後、操れる距離も長い」

「ふ~ん、それは面倒かもね」

 オレはそう答えたのだった。





 まあ、こんな奴の言う事信用しなかったが。





 えっ?

 リラとシューは居ないのかって?

 ああ、あの2人はクロス島で本国からきた連絡員と何かやってたよ。

 何せ、戦争だからな。

 最新情報の収集は必須だから。





 ◇





 開戦から5日目。

 予告通り、ガナン諸島連合の作業員が今度はクラゲに襲われ始めた。

 クラゲといっても魔物のクラゲだ。

 最大5メートル級だが、ともかく数が多い。

 30体は襲ってきていた。

 というか、遠隔で術者が現場に居ない。

 オレだけだったら魔物を撃退するだけで、後手を踏んで完全にお手上げだったが。

 こっちにはチャーリーが居る。

 オウムの聖獣で、非戦闘員だが、眼がいい。

 聖眼持ちのオレがえないのに、

「操ってる意識の糸が見えるなのだ。あっちなのだ」

 とか教えてくれて、何もない海に飛竜ワイバーンを先導されて、

「その海底に居るなのだ」

 と言ったら本当に戦闘力200の奴が居て、

「斬空剣」

 を放ったら海が斬れて、海が割れた。

 ふふん、凄いだろ?

 オレはこれが出来るんだぜ。

 まあ、剣圧が続かなくて2秒だけだったがな。

「嘘、マジでか? ご主人様って凄いんだな」

 アシュがいいリアクションをしてオレを讃える中、オレは海底に居た奴を見た。

 20代の根暗そう女だった。

 肩からザックリと斬られてるが、チッ、死んでないな。

 後、3発遠斬りを放ち、

「ギャアアアアアア」

 と完全に斬ったが、クラゲなら再生能力がある。

 ふむ、仕留めたか微妙だな。

「どう、チャーリー? 死んだ、あの女?」

「生命力は微かだが残ってるなのだ」

 と言ったが、すぐに、

「あっ、蟹の魔物が血を嗅ぎ付けて寄ってきたなのだ」

 実況を始めやがった。

「このおバカ。チャーリー、止めて。蟹が食べられなくなるでしょ」

 グロイのは御免だ。

 小心者?

 繊細だと言ってくれ。

 そんな訳でオレは巡回に戻ったのだった。





 ◇





 これで終わりじゃない。

 巨大クジラに異常がないか巡回して、解体中の巨大クジラの隣の巨大クジラに着陸して飛竜ワイバーンを休憩させてた時だった。

「クソ女めぇぇぇっ! 死ねぇぇぇっ!」

 解体作業をしてた巨大クジラからオレ達が居る巨大クジラに突進してきた女が居た。

 戦闘力490。

 18歳前後、ピンク髪の猫人の女だった。

 恰好は作業着服だったが。

「誰が死ぬか」

 オレはそう言いながらカウンターの上段回し蹴り(マイブーム)でソイツの顔を蹴って、

「ニャアア」

 海にドボンッと落としたのだった。





 ◇





 そんな訳で、ずぶ濡れで作業服が身体に張り付いて妙にエロイ猫人を回収させてから、更に縛ってエロくなってる猫人を座らせて、

「誰?」

 と質問したら、

「はあ、覚えてないの? ホテルの屋上から西の果ての大瀑布まで私を投げたのに?」

「?」

 マジで覚えていなかったので不思議そうにオレがソイツを見ると、

「3人組の殺し屋の1人よっ! モンロー島のホテルの屋上に居た。ほら、アナタ、裸コート姿だったでしょ?」

 そう必死に言われて、ようやく思い出した。

「ああ」

 へぇ~。

 生きてたんだ、コイツ。

 西の果てまで投げたのに。

 相当運が強いな。

「誰に頼まれたの? 私の暗殺依頼?」

「知らないわよ、姐さんがそういう小難しいのを全部やってたんだから」

「ふ~ん。じゃあ、もう1回お星様の刑ね」

「いやいやいや、勘弁してよ。ほら、この耳を見てって。サメ系の魔物に齧られたんだからね」

 片耳が本当に齧られてた。

 ふむ。

 どうするかな?

 正直、こんな奴、もうどうでもいいから。

「私をもう狙わない?」

「ええ」

「私の友人もよ?」

「姐さんと合流するまではね。約束するわ」

「仲間の能力も教えて貰おうかしら」

「ヴァンパイアハーフと竜玉移植成功体だって聞いてるけど?」

 えっ?

 あの竜気って不正ズルだったのかよ。

 なぁ~んだ、興味が一気に失せたな。

 だが、別の興味が湧いた。

「誰が移植したの、その竜玉?」

「魔十教団の幹部でしょ」

 さらりと言った。

 おいおい。

「どういう関係なの、その魔十教団と?」

「お得意様らしいわよ」

 と言った瞬間、

 こんな奴、野放しに出来るかっ!

「もう1回、お星様になりなさいっ!」

 首根っこを捕まえて、グルングルンと回ったオレは、

「はあああああああ」

 とハンマー投げのように投擲して、

「ちょ、嘘でしょ・・・ハニャアアアアアアアっ!」

 3秒後には猫人は真っ昼間からお星様になったのだった。

「ちょ、ご主人様」

「最悪なのだ」

 それを見ていたアシュとチャーリーが呆れ、

「いやいや、アイツ、暗殺者だったから。前にも狙われた事あるし。本当よ」

 オレはそう言い訳する破目になったのだった。





 その後、戦争が終わるまで警邏は続いたが、もうタンテト連合の工作部隊が巨大クジラを襲撃する事はなかった。





 なのに、昼夜問わずに飛竜ワイバーンで巡回したんだぜ?

 結果論だが、馬鹿らしいったらなかったぜ。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 登場人物。





 イカ男・・・人間とイカの融合体。戦闘力310。クラーケン使い。30メートル級のクラーケンを3体同時に使役出来る。戦闘力以上に強い。

 クラゲ女・・・戦闘力200。人間とクラゲの融合体。クラゲ使い。無数のクラゲを使役出来る。海での呼吸も可能で、再生能力もあり。 チャーリーとの相性が悪過ぎ、その死は悲惨な物もなった。





 国名。





 モンス戦士国・・・タンテト連合の北側に位置する。元首は総督。





 地名。





 ボレオトバム半島・・・大陸北西部の海側に出っ張った半島。
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