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王立貴族学院 一年目

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 講堂には楽団とタキシードやドレス姿の卒業生たちで華やいでいる。
 今まさに卒業謝恩会という名のダンスパーティーが始まろうとしていた。
 主役は卒業生なんだけど謝恩という名目上、制服姿の在校生、先生方も出席している。
 基本はパートナーを伴っての参加となるけど、卒業生にとっては在校生に声をかければ誰とでも踊れるようになっている。
 先輩後輩の付き合いや思い出作り、先生方とも忖度なしで触れ合えるから確かに謝恩といえるのかな。
 在校生もパートナーがいればダンスに参加できるからフロアは凄い状態でごった返していた。
 中央部では卒業生たち、その周りを囲むように在校生たちがパートナーを伴って入場している。
 最初はエスコートの相手とまずは踊ってそれからバラバラの組み合わせになるみたい。
 主にファーストダンスは婚約者同士が多かったりするらしいけど、いない場合は在校生で補充するようで。
 タキシード姿、ドレス姿と制服姿の組み合わせもあり、学年を跨いでのカップリングもあるみたいだし。
 そんな中、わたしは一人、隠れるようにしてポツンと佇む。
 うん、分かってるよ。攻略放棄しちゃったからね。
 ここは本来なら宰相くんを伴って参加するはずなんでしょう、多分。
 でも今、目の前に宰相くんとアイネさんカップルが手を取り合って入場している。
 真面目だから早い入場で背筋をピンと伸ばして姿勢のいい姿で待機という二人らしいっぽい。
 結果的にチョコクレープ作戦は大成功!!!
 読みの通り、二人仲良く食べたらしい。城下にも行って実際に確認したというオチも笑えたけど。
 攻略は失敗しちゃっただろうけど心は満たされている。
 あの位置に乗り気でないのにいてもきっと楽しくないと思えるからねえ。
 残念なことに謝恩会はダンスのみらしい。食事関連は卒業生のみで行われるとかでガッカリ。
 だからパーティーが終わるまでは謝恩の意味でも滞在しておかなきゃならないんだよね。
 エスコート役のいないわたしは早々に会場入りしたわけで踊る相手すらいないから目立たないように引っ込んでいる。
 マリアとメアリはそれぞれ最後まで王子と騎士くんに絡んでいたのを知っている。
 まだ会場入りしていないところを見ると攻略したのかもしれない。
 わたしは放棄しちゃったから仕方ないけど二人には上手くいっていてほしいと思う。
 何せ、あんな可愛いヒロインなんだからね!
 壁に寄りかかりながらぼぉっとフロアの往来を見ているとギュッと右手を握られた気配がした。
 驚いて右側に振り向くと淡赤色の髪を二つに結んだ美少女が微笑んでいた。

「え? マリア?」

「こんなところにいたのね、捜したわ」

 声とともに左手を握る感触で振り返ると濃緑色のポニーテールが揺れている。

「あれ? メアリ?」

 二人とも何でここにいる? 王子と騎士くんはどうした?

「シャルったら私たちを置いて行くんだもの、捜したのよ」

「最近、アイネ様と親しくしているから忘れられているのかと思ったわ」

 ほんの少しプンスカした様子で頬を膨らます二人が可愛い。

「ダンス参加じゃなかったの?」

「誰とファーストダンスを踊るのよ」

「エスコート役がいないのにね」

 混乱していると突然音楽が鳴り始める。ダンスが始まったみたいだ。
 フロアの方を見れば王子とセレーヌさん、騎士くんとソフィアさんが踊っている。

「何で殿下とケラスム様が踊ってるの?」

「もうシャルったら当たり前じゃない!」

「二人とも婚約者同士なんだからね」

 いや、知ってるよ。そうじゃなくてマリアとメアリじゃないのかよ!
 訊けば知らなかった事情がわんさかと。

「ソフィアは私を守ってくれているの」

 風当たりが強いソフィアさんはマリアの失敗から広い範囲で内情がバレたため、矛先がマリア個人に向かないように守っていたとか。
 元々対外的に悪く言われてしまうマリアを自分が戒めることで関心を逸らしていたみたいでそれに対して事情を知る騎士くんがフォローしていたらしい。

「セレーヌ様は負けず嫌いなお方なのよ」

 王家お抱えに近いのにも拘らず、男爵という地位で軽く見られやすい平民だったメアリを侮れないようにするため、以前からセレーヌさんは貴族らしい振る舞いを身に付けさせるために指導していたとか。
 それ以外にも王子とセレーヌさんがメアリの協力を得ながら互いに珍しいものを贈り合うという競い合いに付き合わされて板挟みになっていたらしい。
 恐怖に怯えた対立図。ん、今まで全て勘違いだったの?
 攻略なんて最初から始まってなかった、だけ。
 気が抜けた瞬間、両手で繋がった手をぎゅっと握り返す。
 ファーストダンスは終了。フロアでは達成感が満たされている。
 まあ、それぞれのカップリングが幸せそうだからいっか。
 3人フリーで過ごすダンスパーティー。

「わたしたちも踊ろっか」

 手を繋いだまま、ヒロイン然としてフロアへと駆けていった。


<1年目完結>
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