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第四章
黒野時計堂(2)
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ひっそりした店内に、心地いい時計の音がカチコチと心音のように響く。
床を踏むたび、ギッ……ギッ……っと軋む音が時計の音と混ざり合って、これから演奏会でも始まりそうな気分だった。
狭い廊下を進んでいくと広い部屋に出る。ふと気づくと、みんな口をあんぐりと開けている。部屋の中には、色も形も違う時計たちが、所狭しと並んでいる。
置き時計、壁掛け時計、振り子時計、外国のおもちゃみたいなカラクリ時計……。
「ちょっと、ここ! すごいわね!」
さっきまで絶対中には入らないとおじけづいていた紅葉も、目を見開いて時計たちを眺めていた。さらには中央の立派な柱には、僕たちよりはるかに大きな柱時計まで備えられている。
こんなに時計がたくさん揃っているのを見たことはない。天井からも数えきれないほど、時計が吊り下げられていた。
中央には丸テーブルと椅子が並べられ、先に入っていたジョージが、すでにおじいさんにもてなされていた。
「よお! 早く座れよ! じいさんが出してくれたこの紅茶、抜群にクレイジーだぞ!」
ジョージが上品なティーカップをもって美味しそうにすすりながら笑うと、タイミングを見計らったようにお爺さんが奥から現れた。
「さあ、座ってくれ」
おじいさんが手にしたトレイには、人数分の飲み物がそろっていた。
「あ! マシュマロだ! チッチッチ、おいで! おいでー、マシュマロー」
お爺さんの足もとで、ツンと上をむいて澄ましている白猫に気づいてマルコが声をかけると、白猫は近寄ってきてマルコの膝の上に飛び乗った。
「マシュマロ~、おまえ、フニフニだなー!」
マルコが白猫の体を揉むと、猫もまんざらでもないのか、膝の上ですっかり丸まるとリラックスし始めた。それを見て、ミチルが手さげカバンからカメラを取り出して構える。
「マルコ動かないで。お店の雰囲気と、膝の上でじゃれる猫がとっても素敵だわ!」
ミチルがシャッターを押そうとすると、慌ててお爺さんが止めた。
「おおっと! カメラはやめてくれ」
「えっと、ごめんなさい。お店の中じゃ、写真を撮ってはダメですか?」
確かに映画館とか美術館とかでは、《写真お断り》なんて注意書きをよく見かけるけど、ここにも撮影禁止にしなきゃいけないほど貴重な時計があるんだろうか?
「それもあるがね、ほら? 昔から言うだろう。写真に写すと魂が抜かれるって……」
そう言ってお爺さんがニッコリ笑うと、ミチルもニッコリと笑い返した。
たったそれだけの説明でミチルが納得してしまったことが、いかにも不思議だったけど、この二人にはどこか謎めいた共通のオーラがあって気が合うのかもしれない――そんなことを考えながら紅茶をすすった。
床を踏むたび、ギッ……ギッ……っと軋む音が時計の音と混ざり合って、これから演奏会でも始まりそうな気分だった。
狭い廊下を進んでいくと広い部屋に出る。ふと気づくと、みんな口をあんぐりと開けている。部屋の中には、色も形も違う時計たちが、所狭しと並んでいる。
置き時計、壁掛け時計、振り子時計、外国のおもちゃみたいなカラクリ時計……。
「ちょっと、ここ! すごいわね!」
さっきまで絶対中には入らないとおじけづいていた紅葉も、目を見開いて時計たちを眺めていた。さらには中央の立派な柱には、僕たちよりはるかに大きな柱時計まで備えられている。
こんなに時計がたくさん揃っているのを見たことはない。天井からも数えきれないほど、時計が吊り下げられていた。
中央には丸テーブルと椅子が並べられ、先に入っていたジョージが、すでにおじいさんにもてなされていた。
「よお! 早く座れよ! じいさんが出してくれたこの紅茶、抜群にクレイジーだぞ!」
ジョージが上品なティーカップをもって美味しそうにすすりながら笑うと、タイミングを見計らったようにお爺さんが奥から現れた。
「さあ、座ってくれ」
おじいさんが手にしたトレイには、人数分の飲み物がそろっていた。
「あ! マシュマロだ! チッチッチ、おいで! おいでー、マシュマロー」
お爺さんの足もとで、ツンと上をむいて澄ましている白猫に気づいてマルコが声をかけると、白猫は近寄ってきてマルコの膝の上に飛び乗った。
「マシュマロ~、おまえ、フニフニだなー!」
マルコが白猫の体を揉むと、猫もまんざらでもないのか、膝の上ですっかり丸まるとリラックスし始めた。それを見て、ミチルが手さげカバンからカメラを取り出して構える。
「マルコ動かないで。お店の雰囲気と、膝の上でじゃれる猫がとっても素敵だわ!」
ミチルがシャッターを押そうとすると、慌ててお爺さんが止めた。
「おおっと! カメラはやめてくれ」
「えっと、ごめんなさい。お店の中じゃ、写真を撮ってはダメですか?」
確かに映画館とか美術館とかでは、《写真お断り》なんて注意書きをよく見かけるけど、ここにも撮影禁止にしなきゃいけないほど貴重な時計があるんだろうか?
「それもあるがね、ほら? 昔から言うだろう。写真に写すと魂が抜かれるって……」
そう言ってお爺さんがニッコリ笑うと、ミチルもニッコリと笑い返した。
たったそれだけの説明でミチルが納得してしまったことが、いかにも不思議だったけど、この二人にはどこか謎めいた共通のオーラがあって気が合うのかもしれない――そんなことを考えながら紅茶をすすった。
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