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第五章
短針マシュマロと消えた写真(1)
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魚海町に住んでいるマルコと別れ、今日の出来事について話しながら歩く。
「ところでミチル、お爺さんがマシュマロを使って、あたしたちを時計堂に案内させたってどうしてわかったの?」紅葉が聞く。僕もそこは気になっていた。
「だって紅葉言ってたでしょ? 町の人たちみんな、マシュマロが見えてないみたいだったって。それに、公園で見つけた五人の写真。――きっとマシュマロは、わたしたち以外には見えてないのよ」
お爺さんは〝自分はあの場所から動くことができない〟と言った。時計堂に僕たちを集めるために、マシュマロを迎えに寄こしたと考えるのは自然だ。
「でも、よくあたしが商店街にいるってわかったね」
「紅葉ちゃんがいないときに気づいたのよ。ヒントが写ってたの。写真の右上にね……」
ミチルはゴソゴソと手さげカバンから写真を取り出すと、「あれ?」と声をあげた。「真っ白になってる! なにも写ってない!」
「ええ⁉ なんで消えちまったんだ⁉ 手品か? 確かに俺ら写ってたよな⁉」
ジョージは写真を受け取って、裏表をひっくり返すけどなにも浮かび上がってはこない。ミチルが写真を指さして紅葉に説明する。
「この右上の隅にね、商店街の提灯が写ってるって、マルコが気がついたの。でも……」
みんなが沈黙した。手の中にあるのは、まるで現像する前の写真。掘り起こしたときにはあったはずの僕ら五人の鮮明な姿はすっかり消え去っている。
「ひょっとしたら、これもお爺さんが仕かけたのかもね。現に僕たちは、マシュマロの訴えに気づいて追いかけたけど、結果的に足の速い紅葉だけが先に行ってしまって、残された僕たちは迷って逸れてしまったし」みんなが耳を傾ける。
「だから、僕たちがバラバラになってしまった時のことを想定して、みんなが同じ目的地にたどり着くようにあんな写真を作ったのかも」
もちろん本当のことはわからない。でもこの仮説がよほど真に迫っていたのか、みんなはそれで納得した様子だった。
途中、紅葉とミチルに別れを告げて、僕とジョージは人馬町の自宅へと歩く。帰り道ずっと、ジョージは腕時計を眺めては、早く使いたいとばかりに目を輝かせていた。
「あー……あー……こちらクレイジー1号、マルコ隊員応答願います」
すると、さっそくマルコから通信が返ってきた。『こちらマルコ……今、ご飯を食べてるから、後にしてくれないかなあ?』モゴモゴ話す声の後ろから、マルコのお母さんらしき声がする。『マルコ? なにを一人でブツブツ言ってるの? ご飯のおかわり?』
生活感丸出しの初通信に僕とジョージが大笑いしていると、腕時計から紅葉のケラケラとした笑い声が聞こえてきた。続いてミチルも参戦してくる。
『あんたたち! くだらないことしてんじゃないわよ!』
『マルコ、今日の晩御飯のメニューはなんだった?』
『うんとね、今日はオムそばにポテトサラダに唐揚げだよ!』
ちっともブラジルらしくないそのメニューに、みんなが笑っていると、
『マルコ、具合でも悪いの? さっきから一人でブツブツ言いっぱなしよ?』と心配そうなマルコのお母さんの声が聞こえてくる。僕らの声はまったく聞こえてないんだろう。
「マシュマロが他の人に見えないのと同じで、どうやらこの腕時計やそこから聞こえる声も、僕たち以外にはわからないみたいだね」
『そうみたいね。マルコ? 心配させちゃうから、もうしゃべっちゃダメだよ』
『うん! わかったよ! ミチルちゃん、ありがとう!』
ミチルがたしなめると、マルコは元気に答えた。
「ところでミチル、お爺さんがマシュマロを使って、あたしたちを時計堂に案内させたってどうしてわかったの?」紅葉が聞く。僕もそこは気になっていた。
「だって紅葉言ってたでしょ? 町の人たちみんな、マシュマロが見えてないみたいだったって。それに、公園で見つけた五人の写真。――きっとマシュマロは、わたしたち以外には見えてないのよ」
お爺さんは〝自分はあの場所から動くことができない〟と言った。時計堂に僕たちを集めるために、マシュマロを迎えに寄こしたと考えるのは自然だ。
「でも、よくあたしが商店街にいるってわかったね」
「紅葉ちゃんがいないときに気づいたのよ。ヒントが写ってたの。写真の右上にね……」
ミチルはゴソゴソと手さげカバンから写真を取り出すと、「あれ?」と声をあげた。「真っ白になってる! なにも写ってない!」
「ええ⁉ なんで消えちまったんだ⁉ 手品か? 確かに俺ら写ってたよな⁉」
ジョージは写真を受け取って、裏表をひっくり返すけどなにも浮かび上がってはこない。ミチルが写真を指さして紅葉に説明する。
「この右上の隅にね、商店街の提灯が写ってるって、マルコが気がついたの。でも……」
みんなが沈黙した。手の中にあるのは、まるで現像する前の写真。掘り起こしたときにはあったはずの僕ら五人の鮮明な姿はすっかり消え去っている。
「ひょっとしたら、これもお爺さんが仕かけたのかもね。現に僕たちは、マシュマロの訴えに気づいて追いかけたけど、結果的に足の速い紅葉だけが先に行ってしまって、残された僕たちは迷って逸れてしまったし」みんなが耳を傾ける。
「だから、僕たちがバラバラになってしまった時のことを想定して、みんなが同じ目的地にたどり着くようにあんな写真を作ったのかも」
もちろん本当のことはわからない。でもこの仮説がよほど真に迫っていたのか、みんなはそれで納得した様子だった。
途中、紅葉とミチルに別れを告げて、僕とジョージは人馬町の自宅へと歩く。帰り道ずっと、ジョージは腕時計を眺めては、早く使いたいとばかりに目を輝かせていた。
「あー……あー……こちらクレイジー1号、マルコ隊員応答願います」
すると、さっそくマルコから通信が返ってきた。『こちらマルコ……今、ご飯を食べてるから、後にしてくれないかなあ?』モゴモゴ話す声の後ろから、マルコのお母さんらしき声がする。『マルコ? なにを一人でブツブツ言ってるの? ご飯のおかわり?』
生活感丸出しの初通信に僕とジョージが大笑いしていると、腕時計から紅葉のケラケラとした笑い声が聞こえてきた。続いてミチルも参戦してくる。
『あんたたち! くだらないことしてんじゃないわよ!』
『マルコ、今日の晩御飯のメニューはなんだった?』
『うんとね、今日はオムそばにポテトサラダに唐揚げだよ!』
ちっともブラジルらしくないそのメニューに、みんなが笑っていると、
『マルコ、具合でも悪いの? さっきから一人でブツブツ言いっぱなしよ?』と心配そうなマルコのお母さんの声が聞こえてくる。僕らの声はまったく聞こえてないんだろう。
「マシュマロが他の人に見えないのと同じで、どうやらこの腕時計やそこから聞こえる声も、僕たち以外にはわからないみたいだね」
『そうみたいね。マルコ? 心配させちゃうから、もうしゃべっちゃダメだよ』
『うん! わかったよ! ミチルちゃん、ありがとう!』
ミチルがたしなめると、マルコは元気に答えた。
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