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第五章
短針マシュマロと消えた写真(2)
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その夜、夕食の席でお父さんはテーブルに着くなり興奮して言った。
「今日さ、お父さん、イエローバスが路肩の街路樹にぶつかるところを見たぞ!」
授業中に見たバスの事故のことだ!「それ、僕も教室の窓から見えたよ!」
「本当か? そうか、確かに千斗の学校からも見える位置かもしれないな? お父さんちょうど仕事で近くのビルにいてね。仕事の打ち合わせをしてたら突然ものすごい音がしたんで見てみたら、バスが街路樹に衝突して止まってたんだ」
「それでケガ人は?」
「ぶつかったときの音はすごかったけど、大きなケガ人は出なかったようだよ」
「そう、それはよかったわね」
お母さんが、安心した声を出す。
「ねえ、お父さん、なにが原因でバスは事故を起こしたんだと思う?」
「近くを歩いてた人によると、運転手さんが居眠りしてたように見えたってことだよ」
お父さんの話だけじゃ、この事故にスカーフェイスが関わっているかどうかはわからない。大きな被害は出ていないとわかっても、今日は他にもサイレンを聞いている。
「まあとにかく、おまえも道路を歩くときは気をつけろよ? だれか知ってる人が乗ってるんじゃないかって、さすがにお父さんもヒヤッとしたからなあ」
町に一つサイレンが鳴ると、一体何人の人が怪我をしたり怖い思いをするんだろうか。それにこうやって大事な家族を心配させることにもなる。
「ねえ、明日お弁当作ってくれない? 友だちと公園で一緒に食べる約束をしたんだ」
「うーん、急ねぇ。大した物作れないわよ?」
「うん、ありあわせでいいから。突然でごめんね。ごちそうさま!」
お母さんにそう伝えると、僕は自分の部屋へ戻った。スカーフェイスを捕まえて、この町に鳴るサイレンを一つでも取りのぞくことができるなら……。そんなことを考えると、これからやろうとしてることはとても重要なことなんだと改めて気づく。
先生が選んだDグループのメンバーと、公園に現れた白猫のマシュマロ。導かれるように迷い込んだ黒野時計堂で僕らを待っていたお爺さん。時間泥棒のスカーフェイス。
夜になってもずっと考えこんでいた。リビングでもお風呂でも、布団の中でもずっとだ。いつもならダラダラとテレビを見たり、次に出るマンガの発売日を考えたりして暇を持て余している。でも今日は昼間のことを考えるだけで、あっという間に時間がすぎていった。
一日はいつだって同じ二十四時間のはずなのに、いつもより濃くて短かった気がする。
どうしてこんなに違って感じるんだろう……。
一番身近にあって、一番説明のつかない時間ってもののことを、僕は夢の中まで持ち込んで考え続けた……。
「今日さ、お父さん、イエローバスが路肩の街路樹にぶつかるところを見たぞ!」
授業中に見たバスの事故のことだ!「それ、僕も教室の窓から見えたよ!」
「本当か? そうか、確かに千斗の学校からも見える位置かもしれないな? お父さんちょうど仕事で近くのビルにいてね。仕事の打ち合わせをしてたら突然ものすごい音がしたんで見てみたら、バスが街路樹に衝突して止まってたんだ」
「それでケガ人は?」
「ぶつかったときの音はすごかったけど、大きなケガ人は出なかったようだよ」
「そう、それはよかったわね」
お母さんが、安心した声を出す。
「ねえ、お父さん、なにが原因でバスは事故を起こしたんだと思う?」
「近くを歩いてた人によると、運転手さんが居眠りしてたように見えたってことだよ」
お父さんの話だけじゃ、この事故にスカーフェイスが関わっているかどうかはわからない。大きな被害は出ていないとわかっても、今日は他にもサイレンを聞いている。
「まあとにかく、おまえも道路を歩くときは気をつけろよ? だれか知ってる人が乗ってるんじゃないかって、さすがにお父さんもヒヤッとしたからなあ」
町に一つサイレンが鳴ると、一体何人の人が怪我をしたり怖い思いをするんだろうか。それにこうやって大事な家族を心配させることにもなる。
「ねえ、明日お弁当作ってくれない? 友だちと公園で一緒に食べる約束をしたんだ」
「うーん、急ねぇ。大した物作れないわよ?」
「うん、ありあわせでいいから。突然でごめんね。ごちそうさま!」
お母さんにそう伝えると、僕は自分の部屋へ戻った。スカーフェイスを捕まえて、この町に鳴るサイレンを一つでも取りのぞくことができるなら……。そんなことを考えると、これからやろうとしてることはとても重要なことなんだと改めて気づく。
先生が選んだDグループのメンバーと、公園に現れた白猫のマシュマロ。導かれるように迷い込んだ黒野時計堂で僕らを待っていたお爺さん。時間泥棒のスカーフェイス。
夜になってもずっと考えこんでいた。リビングでもお風呂でも、布団の中でもずっとだ。いつもならダラダラとテレビを見たり、次に出るマンガの発売日を考えたりして暇を持て余している。でも今日は昼間のことを考えるだけで、あっという間に時間がすぎていった。
一日はいつだって同じ二十四時間のはずなのに、いつもより濃くて短かった気がする。
どうしてこんなに違って感じるんだろう……。
一番身近にあって、一番説明のつかない時間ってもののことを、僕は夢の中まで持ち込んで考え続けた……。
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