時間泥棒

虹乃ノラン

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第五章

短針マシュマロと消えた写真(7)

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 昨日僕たちがマシュマロを追いかけて時間の狭間に入り込んだとき、お店にはお爺さんしかいなかった。黒野時計堂には他にもブッチっていう猫が住んでいたってこと?
「ブッチはね、とても面倒見のいいお兄ちゃんで、ボクもクロも、ブッチのことが大好きなんだ。ボクたち双子は、生まれたときからお父さんもお母さんもいなくてさ、ずっとふたりきりで生きてきたから、ブッチと会ったときは本当のお兄ちゃんができたみたいで、ボクたちとっても嬉しかったんだよ!」
 マシュマロのひげがピンと張っている。昔を思い出すのか、その目をキラキラとさせながら少し興奮しているように見えた。
「クロは、ボク以上にブッチにべったりでね。ボクたちの仕事は、時計の中で《時間》を正確に刻むことなんだけど、あんまりにもブッチが大好きなクロは、いつもブッチにくっついてフラフラしちゃうから、黒野おじいさんやブッチに怒られてばかりだったよ」
 マシュマロは時計の《短針》、つまり一番大きな時間を示す役割だとお爺さんは説明した。スカーフェイスは《長針》で、《分》の役割をしてたってことだろ? じゃあもうひとりのブッチの役割って……。
「なるほどね。ブッチを追いかけちゃったら、スカーフェイスの時間は狂っちゃうよね」
 そんなミチルの発言に、さっぱりわかっていないはずのジョージが「なるほどッ!」と相づちをうって、紅葉につっこまれている。
残る役割はひとつしかない。――《秒針》だ。確かに、《分》で動かなきゃならないスカーフェイスが、秒の役割のブッチにべったりくっついてしまったら、正しい時間なんて到底刻めない。だからお爺さんもブッチも、スカーフェイスを叱ったんだろう。
「それでもクロは嬉しそうだったよ。もともとすごくさびしがり屋で、いつも一緒にいるボクがほんのちょっといなくなっただけで、心配して探しにくるくらいだったからね」
「でも、そのブッチっていう猫がいなくなっちゃったからって、どうしてスカーフェイスは、こんないたずらをするのかしら?」
 紅葉がそう聞くと、隣でしばらく考え込んでいたミチルが口を開いた。
「ねえマシュマロ、ブッチは一体どこへ行ったの?」
「それはボクにもわからないよ。でも黒野おじいさんは言ったんだ。いつかおまえたち三匹が、力を合わせて時間の管理人としてやって行くためには、今は別々で暮らす必要があるって」マシュマロの尻尾とひげがまたぐったりした。「でも! クロは本当はこんなことするやつじゃないんだ。だからみんな、クロを止めるためにも力を貸してほしいよ」 
 マシュマロが、強い視線でじっと見上げる。
「まかせろ! 俺たちがクレイジーに決めてやるからさ!」
「そうね! とにかくまず、スカーフェイスを探さなきゃ話にならないわ」
「じゃあ行こうか!」
 みんなは口々に「うん!」と言い合った。こうして一緒にお昼をすませた僕たちは、まずこのライオン公園から捜索を開始することにした。
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