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 結局、アステラに押し切られたサブリナは、王城に住む事になってしまった。
 アステラに案内された部屋で、この部屋を使え、と言われたサブリナだが、王太子妃として過ごした部屋より豪華で、腰が引けてしまう。

「サブリナ様、陛下よりサブリナ様のお世話を命じられました、侍女長のムーアと申します。ご不便やご命令等ありましたら、何なりとお申し下さいませ」

 1人取り残されたサブリナが、ただ座って待っていると、侍女長と自己紹介したムーアや、他数人の侍女がサブリナに挨拶をしに来た。

「あの、わたくしもう少し質素なお部屋で構わないのですが、本当にこのお部屋で宜しいのかしら?」
「はい。此方で間違いございません」
「そ、そうですか」
「今日はお疲れでございましょう?湯殿のご用意もしております。お手伝い致しますわ」
「……………助かりますわ、1週間近く国境越えで、湯殿に浸かれなかったので」

 山道を只管登り下りしてきたのだ。
 入浴もせず、身体を拭いたぐらいしか出来なかったので有り難く感じるサブリナは、入浴を手伝って貰い、汗を流した。

「お夕食迄、暫くお待ち下さい」
「ありがとう」

 侍女達は退室したが、通常はあり得ない事だった。
 慣れない場所でサブリナが気を遣うだろう、と言う事なのだろうか、と思われる。
 入浴後、動きやすいナイトドレスを用意されていて、サイズは違うのに、緩やかなドレスなので、動きやすい事も楽に過ごせた。

 ---書物がいっぱいね、このお部屋

 客間らしくない部屋なのが疑問ではあるし、使用感のある調度品ばかりなので、急誂えの部屋なのかもしれない。
 書物には所々、達筆な文字が端折り書きされていて、勉強熱心な人が使っていたと思われた物ばかりだ。それでも、この端折り書きはサブリナも勉強になるぐらい、要点を付き、覚えやすい。

 ---視点が面白いわ……何方の書物かしら。もっと読みたい………

 主にファルメル国の事ばかりだが、これだけで全部が理解出来るのではないか、とぐらい書き込まれていて、読み耽りたくてサブリナは座って読む事に夢中になっていた。
 時間を忘れ、何冊も手元に置き、読んでいるとお腹が空腹を知らせる。

「っ!」

 芳しい香りが近付いて来たのを、身体が欲した様だ。
 部屋の外でガヤガヤと人が集っている気配を感じると、扉が叩かれて声が聞こえた。

『サブリナ様、お食事をお持ち致しましたわ』
「お願いします」

 ムーアの声と共に、出来たての料理が運ばれて来る。

「美味しそうですわね」
「はい、サブリナ様をお迎え出来たので、陛下はしっかりもてなせ、と料理人達に伝えておりましたから」
「…………それにしても、豪華過ぎませんか?わたくしだけの分ですの?それとも他に何方かとご一緒するとか?」
「はい、サブリナ様のお好みを確認しておりませんでしたので」
「…………わたくし、今後は質素で良いですわ。こんなに食べれませんし、スープとサラダ、パン、メインのお料理ぐらいで充分だ、とお伝え下さい。豪華な盛り付けも必要ありませんわ。好き嫌いもございませんし、今日食べれた分ぐらいの量で、大丈夫だとお伝え下さい」

 幾つものメインとも言える料理が並べられ、サブリナは流石に食べ切れはしない。レイノルズの妃で居た時でさえ、質素な食事で充分だった。
 1人で食べていて、美味しいのに味気無いつまらない食事時間を5年続けていたのだ。それに慣れてしまっている。
 両親と久々に家族水入らずで囲む食卓は楽しかった旅路は、また夢の様に思える。
 それを思い出すと、サブリナは物思いに耽ってしまうので、直ぐ様掻き消したが、この豪華さは虚しさを煽るだけだった。

「畏まりました。その様に伝えて参ります」
「…………温かい内に、コレとコレ………あと此方も下げて貰えるかしら。嫌いではないのよ?でも手を付けてしまえば、後は捨ててしまうでしょう?それならば、食べれる内に皆様で分けるか、食事がまだな方様に回せられないしら。今度、また作って下さい、と付け添えて料理人へ謝罪を伝えて」

 捨てる羽目になるなら、食べられる内に他に回して欲しい、とサブリナは伝える。食べ物を粗末にしたくなかったのだ。

「畏まりました。では、此等は下げさせて頂きます」

 下げて貰っても量は多かったが、サブリナは何とか食べ終えた。

 ---身体動かさないと、この量は太ってしまうわ、きっと………

「ごちそうさまでした。美味しく戴きましたけど、もう少し減らして貰っても良いので」
「そんな量で宜しいのですか?」
「これでも、食べすぎましたわ」
「少食なのですねぇ」
「…………あまり、運動してこなかったからでしょうか………そんなに量は食べれる体質ではない様ですわ」
「では、その様に料理人には伝えておきます」
「お願いします」

 食べ終えると、サブリナは身体を少しでも動かそうと、椅子から立ち上がり、背伸びをしたり、身体を捻ったりして、消費を心掛けていた。

 ---ふぅ………少しは、消化出来たかしら………読み掛けた書物も読みたいもの、後は時間に頼みましょ

 侍女達も下がったままなので、満腹で飲み物も特に今要らず、用事も特に無い、と思ったサブリナは、行儀が悪いが寝台で寝転がって、続きを読み始めた。

「夜の至福の時って、やっぱりコレよね」
「へぇ~…………サブリナはそんな事もするのだな」
「っ!」

 突然、今日聞き慣れた声がし、サブリナは飛び起きた。
 すると、扉に凭れたアステラが腕を組み、面白そうにサブリナを見ていた。
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