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しおりを挟むファルメル国に居るサブリナは、毎日アステラの息子、ガーヴィンに会いに来ていた。
始めこそ、人見知りするガーヴィンだったが、サブリナに懐き始めている。
「ガーヴィン様、ペンはこの様に持つと上手に書けますわ」
「……………あい!」
「はい、お上手です」
吃音がある様で、余計に会話をしたがらないのだと、ガーヴィンを世話する侍女から聞いたサブリナ。
それを、戒められる側室も居たそうで、余計に人見知りが増したのだという。
「可愛いらしい方ですわ」
「はい、ガーヴィン様は可愛い方です。それなのに側室でも、平民の娘達なので、差別に対しては思う所があると思うのですが、一度良い思いをしてしまうと、自分が偉い人になった、と勘違いされる方が多い様です」
吃音の事で、ガーヴィンをよく思ってない側室達に、侍女は愚痴を溢す。
「…………アステラ陛下は、貴族の令嬢を側室にしなかった理由を、地位に固執する事を懸念されてましたが、平民の方でもそう思うのですね」
「寵愛を戴いたら、女ならそう思うのだと思いますよ」
「わたくしには分からない考えですわ」
「サブリナ様は、産まれながらにして大貴族のご令嬢ですし、教育が行き届いていたからではないでしょうか」
「そうでしょうか………あ!ガーヴィン様!紙からはみ出してますわ!…………あらあら、机に落書きしてしまいましたわね……」
「ご………ごめ……なさい」
「消えると思いますから大丈夫ですよ、次からは汚さないで書けると良いですね」
「は、はい」
まだ文字の読み書きを習い始めたばかりで、楽しいのか夢中になると、紙からはみ出して書いているのが、サブリナには今だけの事だと思っているので、注意する事はなく見守っている。
落書きをしていたガーヴィンは怒られたと思って謝ったが、サブリナはガーヴィンの頭を撫でて謝る必要のなかった事を伝えようとした。
注意すればいいだけであって、幼い時は誰しもやる事だからだ、と。故意ではしていなかったのもサブリナは見ている。
「やってるな」
「!」
ガーヴィンの部屋を覗きに来たアステラ。
アステラの声が聞こえると、いち早くガーヴィンは手を止めてしまう。
母親が居ないガーヴィンの頼り所は、やはりアステラなのだろう。
「ち、ち………ち上!」
「落ち着いて話せ、ガーヴィン。大丈夫だ、ゆっくり話せばいい」
「は、はい」
「少し、サブリナを借りて行くぞ?いいか?ガーヴィン」
「ま………だ一緒に居たい……」
「終わったら帰すよ」
「わ、分かりました」
「良い子だ…………サブリナ、少しいいか?」
アステラはガーヴィンに会いに来たのではなかった様で、サブリナをガーヴィンから離したがった。
「はい、わたくしは構いませんが」
「…………執務室で話そう」
「深刻なお話なのですね」
「まぁね」
真剣な顔のアステラだった。
サブリナに関する事に違いなく、サブリナはガーヴィンに謝罪し、アステラに付いて執務室に行くと、腰掛ける様に促された。
「オルレアン国に偵察に行かせた部下が、今のオルレアンの状況を知らせて来た。俺はザッと目を通しただけだが、其方も見たいんじゃないか、とな…………見るか?」
「宜しいのなら、拝見させて下さいませ」
「宜しいも何も、俺が調べさせているのは、サブリナの事に関するだけの事だ。離縁出来たかどうか、調べないと結婚出来ないだろ?重婚にする気か?」
「……………そもそも、結婚の制度がオルレアン国とファルメル国では違うのではないですか」
「あぁ、違う。だが、信仰する神は一緒だからな、結婚も離縁も誓約がある。国王だからといって、守らねばならないものは守らないとな」
信仰する神が一緒でも、ファルメル国の方が結婚に寛大で、側室を迎え入れるファルメル国と側室を迎える事に嫌悪するオルレアン国とは違う。
サブリナがその事を知ったのは、翌日の事だった。
誓約はあるが、ファルメル国は王族に限り、側室は持つ事が可能で、国王は側室とは婚姻関係にはなってはいない。
言い方を変えれば、妻を1人持ち、恋人を認知している、というだけだ。基本的には一夫一妻制の国。重婚は許されてはいない。
後継者は多い方が良い、という考えがあるらしい、王族の法律なのだそうだ。側室の子が後継者になる事もあるファルメル国だが、その子供は国王と王妃に養子縁組され、継承されるのだ。後継者になれなかった子は、王城から追い出され、政治には関わらないという誓約を結ばせるか、粛清されるのだと、聞かされたサブリナ。
アステラの兄弟姉妹はどうであったのかは聞いてはいないし、聞いて嫌な気分になるのなら聞かなくても良いと思っている。
そもそも、粛清をする様な王族の継承問題がサブリナの記憶でオルレアン国は聞かなかった。
それは王子が何代も1人しか産まれず、姉か妹が産まれる家庭だった事も関係している。だから、後継者争いが起こりにくいと言っていい。
「ほら、報告書だ」
「拝見します」
手渡された書類には、ミューゼがクロレンス領地に蟄居させられたとある。
実家のフロム侯爵家ではなく、嫁ぎ先のクロレンス侯爵家。
未亡人のままで、クロレンス侯爵家の籍から戻さなかった事が、幸と出たと見るかは、ミューゼの考える所だろう。
サブリナが、クロレンス侯爵の存命中のミューゼはよく知らなかった事だが、その夫も随分と女遊びが激しかったと、噂では聞いていて、その彼の手管でミューゼは閨事に嵌り、レイノルズを魅了させた事に繋がっている。
ミューゼにはフロム侯爵家の令嬢として、投獄ぐらいを望んではいたのだが、籍を抜いていなかった事が、投獄を免れたのなら、ミューゼはフロム侯爵家には戻る可能性は無いと見える。
そして、クロレンス領地は僻地。簡単に都と行き来はし辛い場所にある。
レイノルズが執務室から出られない状況も書いてあるので、レイノルズがミューゼに会いに行く事も出来なくなる。
それで、レイノルズがまた別の恋人を作る事も考えれる事だが、今度は国王はレイノルズを自由にはしないと見えた。
「…………いい気味ですわ……」
「それだけじゃないんだろ?」
「はい、勿論です」
報告書は何枚もあり、まだ1枚目だ。
先にアステラはザッと見たと言うが、サブリナの目線から何処を読んでいるのか分かっている様だった。
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