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 レイシェスがインバルシュタット国の首都に到着して半月程。
 借家を借り、働きながら金銭を貯め、ルビリア公国へ帰る為に過ごしていたある日、街がざわ付き、一気に歓迎ムードになっていった。
 エレズ曰く、戦には出ては来なかったという、インバルシュタット国の王、ムラガ。蛮族とも言われ各地を襲い領土を広げた後、レイシェスの国ルビリア公国を襲わせたという。
 もう60代の初老の割りに精力的で、正妃を持たず30人程の側室を持ち、子供も50人は居ると、レイシェスは知った。
 それが戦から凱旋したとインバルシュタット国の新聞には書いてあった。しかも、戦利品としてルビリア公国に奪われた物品を奪い返して来た、と。
 勿論、ルビリア公国の公女、レイシェスやエレズ達側近からすれば、ガセネタではあるのだが、インバルシュタット国民はそれを信じて疑わない。

「国王ムラガ様!お帰りになられたぞ!」
「無敗の英雄ムラガ様!」

 ---居なかったのよね、国王は
 ---はい、戦の指揮を取っていたのは、王太子の第7王子、リンデンでした
 ---第1から第6王子は?
 ---噂ですが、リンデンは切れ者と呼び声高く、兄達を粛清したとか………

 建物の物陰で、男装したレイシェスとエレズ、そしてもう1人の護衛騎士のモルガンが、凱旋帰国した一行を見ていた。

「おい、聞いたか?戦利品の中に、ルビリアの魔女を連れ帰ったらしいぞ」
「ルビリアの魔女って、公妃か!」
「「「!」」」

 何故、ルビリア公国の公妃、レイシェスの母マージが魔女なのか、物陰で人混みの中で話す民衆に耳を傾けた3人。

「処刑しなかったのか?あっちで………災い起きやしないか?」
「知らねぇよ………ムラガ様が連れ帰ったって聞いたが」

 ---お母様!
 ---落ち着いて下さい!姫様!
 ---だって……生きているなら助けないと!

 この民衆と、兵士達の凱旋に立ち向かえる程、3人では何も出来やしないだろう。
 そんなやり取りをレイシェス達がしていると、大きな一際豪華な荷車に、屈強そうな男と首輪に猿ぐつわ、手錠は背中に回され、足に重しを付けられた女が乗っていた。
 首輪には鎖が繋がり、男の手に持たされている。

 ---…………あ……
 ---っ!…………駄目です!

 レイシェス達には見慣れた女。
 身に纏うドレスはもうボロボロになりすす汚れ、髪は乱れて頬も痩せこけてはいるが、ルビリア公国の公妃、マージ。レイシェスの母だった。
 慌ててその荷車を追うしか出来ず、レイシェスはエレズの静止を振り切って駆け出して行く。

「っ!」

 だが、人混みで動き辛く直ぐにエレズにより、引き止められた。

 ---駄目です!姫様!
 ---お母様を………助けたいっ!
 ---貴女迄捕まってしまいます!

「…………ロイズ」
「はい、殿下」
「…………彼処の物陰に居る3人、監視しろ」
「…………それで如何なさるおつもりで?」
報告………分かるな?今は調べるだけでいい」
「…………では、直ぐに……」

 荷車の前で、騎乗していた男が、レイシェス達を見つける。眼光鋭くレイシェスを睨む様に見てはいたが、直ぐに視線を前に戻した。

「っ!…………モルガン!」
「っ!…………何処だ……」
「…………殺気が消えた………とにかく隠れるぞ」
「あぁ」
「如何したの?」
「いいから………行くぞ、

 エレズとモルガンが自分達に視線を感じ、レイシェスを匿う様に、荷車が進む方へと歩いて行く。と呼んだのはレイシェスをと呼べないからだ。
 荷車を追って行くと、広場に出て止まっていた。多くの民衆への挨拶でもするのだろうか分からない。

「これより、公開処刑を行う!」
「魔女に制裁を!」
「独裁者!」

 斬首台が広場に見える。

 ---い、嫌………お母様っ!止めて………
 ---姫様!駄目ですから!モルガン!姫様を家に連れて帰れ!
 
 エレズはレイシェスを留ませる事に必死だ。だから気が付いていなかった。

 ---エレズ、囲まれてるぞ俺達
 ---何!…………っ!いつの間に……クソッ!

 しかし、レイシェス達を襲ってくる感じでもない。

「ルビリア公国、公妃マージ!美しい女とは聞いていたが、実に美しい………其方を殺すのはちと惜しいな………」
「…………陛下……戯れはお止し下さい」
「煩い奴だ………王太子!お前は口を慎め!」

 斬首台の前に泊まった荷車の上で、マージの首輪の鎖を引っ張るムラガが見える。斬首台に乗せるでもなく、ただマージの顎を掴み、舌なめずりをしていたのだ。

「公妃、其方………儂の側室にしてやろう」
「…………」

 勿論、マージからすれば、祖国を滅ぼし、民を殺させたこのインバルシュタット国が憎い存在。そして、根源はムラガだ。無い力を振り絞り、顎を持たれる手を振り払おうと、顔を背けた。

「なかなか気が強い………まぁ、いい………其方には娘が居る筈………見つかっては居らぬから、探して娘を側室にしてやろう」
「!」
「どうせ儂に歯向かう奴は死ぬがな………其方は見せしめ………捕虜にしたルビリア公国の民達を従順に奴隷に仕立てねばならぬからな」
「止めろ~!公妃様を解放しろ!」
「公妃様!お逃げ下さい!」
「姫様は絶対に逃げ切りますから!」
「煩い!奴隷共!」

 鉄格子の檻に入れられたルビリア公国の民達迄、連れて来られているようで、レイシェスは涙を堪えている。

 ---泣いてはなりません!素性を隠さねば!
 ---っ!

「騒がせておけ………公妃、最後に言いたい事が有るなら申してみよ………猿ぐつわを外せ」
「陛下、お戯れが過ぎます」
「お前は黙れ!リンデン!」
「っ!」

 兵士にマージの猿ぐつわを外され、マージはムラガを睨み付けた。
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