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第九十三話 エピローグ②

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「でも出産に備えて程々に運動しとけって言われたのになー」

 程々にというから、ちょっとばかり魔物討伐(物理)しておこうと思ったのに。

 妊娠中は魔力が暴発する可能性があるらしく、魔法禁止令が出てるため、最近は専ら近所の村や街で加護を授けるばかり。そのせいか、身体が鈍ってしまっている。
 とはいえ他にやることもないし、どうしたものか。

「暇すぎてつまらないよねー?」

 お腹にいる我が子に尋ねると、ぐいーっと中からお腹を蹴られる。私の言葉ちゃんと聞いて理解してるの、凄い! と生まれてもないのに親バカになりながらも、仕方ないので王城に戻ることにした。

「ヴィルは疲れて帰ってくるだろうから、料理作って待っておこうかな。あとお風呂も沸かしておかないと。グルーには特別にブラッシングしてあげて……それから」

 そんなものメイドに頼めばいいじゃないか、とヴィルに言われることを想像しつつも、これくらいなら尽くすうちに入らないし、メイドの手を煩わせるのもなぁと考えながら歩いていると不意に見覚えのある顔が目に入る。

 あれは、えっと……

「シオン! あぁ、よかった! やっと見つけた!」
「え、何でここにいるの?」

 そこにいたのはかつての彼氏。ヴィルとの冒険の前に彼方へ転移させた元カレがそこにいた。

「聞いてくれよ、シオン! あのあと命からがら戻ってきたというのに彼女、浮気してたんだよ! 信じられるか!? お腹の子もオレの子じゃなかったんだ!」
「へーそうだったの。浮気したあんたも人のこと言えないけどね」
「酷いと思わないか!? だから、シオンとやり直そうと思ってずっと探してたんだ」
「いや、私もう結婚したし」
「は!? 嘘だろ!? シオンなんかが結婚できるわけがないだろ」
「いや、普通に失礼すぎるし。てか、このお腹。どう見ても赤ちゃんいるのわかるでしょ」

 どーんと張り出したお腹を突き出す。すると、元カレはあわあわとしたあと「あぁ! そういうことか!」と言い出した。

「オレの子か! そうだろう!?」
「はい?」
「隠さなくてもいいぜ。そうか、オレが彼女のとこに行ったから一人で産もうとしてたのか。悪かったな」
「いや、違うから」
「ずっと結婚したがってたもんな。でももう大丈夫だ! オレがパパとしてシオンと一緒になる」
「だから話聞いてってば」

 思い込みでどんどんとあらぬ方向に話が進んでいく。しかも腕を掴まれて、逃げるに逃げられなかった。

「もう安心しろ。オレがついてる」
「いやいやいやいや。もうとっくに別れたでしょ。そもそも貴方の子じゃないってば!」
「ま、まさかシオン。浮気してたのか!?」
「だから何でそうなるの! 別れてからどんだけ経ってると思ってるの!? というか、先にそっちが浮気したくせに、言いがかりつけるのやめて!」
「オレだけが好きだって言ってたのは嘘だったのか!?」

 あーダメだ。話が通じない。

 あまりに話が通じなさすぎて、魔物と話している気分になる。いや、ここまでだと魔物のほうがまだ話が通じる気がする。

 もう一回転移させる? でも、魔法使っちゃダメって言われてるし。いっそ拘束の魔道具で拘束したいけど、さすがに聖女で王子の妻が一般市民を無意味に拘束したら世間的にイメージ良くないよね。

 魔法もダメ。物理もダメ。

 ヴィルと結婚できて妊娠して嬉しい反面、今までに比べて行動が制限されてしまって歯痒い。今までだったらどうにかできたことでも、身分や体調のせいで思うように行動できなくて、自分の無力さに打ちのめされる。
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