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夜半の声 (LINK:primeira desejo39)

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 保護者である母にとって、未成年女性の把握できない行動が心配事になるのであれば、保護者に準ずる者が掌握していれば心配事は払拭される。

 私は未だ十代の学生の身分ではあるが、父兄という言葉があるくらいだ。姉もまた保護者足り得るはず。免許もある。近々成人年齢が引き下げられるという話もあるし、実質成人であると言い切っても差し支えないと思う。

 対母で言えば、そんな小理屈を捏ね繰り回すまでもなく、私に任せれば安心と思っているようで、「お願いね」とあっさりがんちゃん案件を手放した。


 母にとってはリスクなく処理されれば問題の無い細務であり雑務に過ぎないのだ。
 だがわたしにとってがんちゃん案件は本務であり責務である。
 役割分担という意味でも私が対応した方が良いに決まっている。

 がんこにとって望ましい結果となるための仕上げは、私にとっても良い結果をもたらす一挙両得の業だ。仕損じるわけにはいかない。
 
「任せて、挨拶も私が行ってくるよ」
 
 これで、母はこの件に関するすべてを手放し、解放された。
 先ほどの鬼気迫る表情はとうに消え失せている。母がこの件でがんちゃんを煩わせることは無くなっただろう。


 一方がんこの方はと言うと、複雑な想いを抱えたようだった。

 その日の夜中。

 隣のがんこの部屋から、微かに唸るような声が漏れ聞こえてきた。

 うなされてるのかな? と思いがんこの部屋側の壁に耳を寄せる。


「うー......うぇぇ......」

 間違いない。
 がんこ、泣いてる。

 一般的な戸建ての居室を仕切る壁は、防音機能を備えてはいないが、それほど薄いわけではない。
 啜り泣く声や声を押し殺して泣いていても、隣の部屋までは届かない。
 音はくぐもっているから、布団をかぶっているかもしれないが、がんこは声を出して泣いていた。

 今日の母とのやりとりが直接の原因だとしたら、悲しみ、ではないだろう。

 不安は少しあるかもしれない。
 保護者としての動きが私に委ねられたことをまだがんこは知らない。母が挨拶に来ることが嫌で仕方ないなら、その懸念が払拭されていないのだから、不安に思うのはわかる。

 ただ、身体に及ぶ危険に対しての不安などであれば、恐怖で泣くことはあるだろうが、心理的に嫌なことの場合、それそのものが声を上げて泣くほどの要因になるだろうか。
 小さい要因が積み重なっていって、ある日許容量を超え、決壊したように泣くことはあるかもしれない。この場合、精神状態がかなり危うい段階にある可能性がある。

 同じ属性の負荷を足し続けた場合に起こり得ることで、私の持ち得てる情報ではがんこがそのような状況にあるとは考えにくい。
 思い通りにできない悔しさなどが原因というのが一番考えやすいが、ひとの精神、内面なんて理屈ではなく、見切ることなどできるものではない。
 注視する必要がある。

 案件を進めがてら、がんこには直接探りの手を入れなくては。
 杞憂ならそれで良い。
 手遅れになどはさせるわけにはいかない。それができるのは、今は私しかいないのだから。


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