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婚約者だからという理由だけで、守られるには事が大きすぎる
しおりを挟む「……何っっで……そんな事をしたのですか?」
私は耐えきれず、そう口にした。
どうして殿下は、自らの評判を落としてまで……そんな事をしたの?
「分からない?」
「分かりません……」
私の返事に殿下は小さく笑う。
「簡単な事だよ。キャロラインを守りたかった。それだけだよ。例え流れているその噂を信じている人がいなくても、噂というものはどう変わっていくか分からない。だからどうにかして消したかった」
「ですから! 何故、そこまでして私を……!」
婚約者だからという理由だけで、守られるには事が大きすぎる。
それにこれはただの醜聞では無い。
王太子の醜聞なのだ。事と次第によっては王太子という地位だって追われる事になったかもしれないのに。
「本当に分かっていないんだね……そんな事をする理由なんてたった1つだよ、キャロライン」
「?」
「キャロラインの事が好きだから。確かに君は僕の婚約者だけど、婚約者だからって理由じゃない。僕は一人の女の子として、君にずっと恋をしていたんだよ」
殿下の言葉に、私は目を見開いたまま驚き、そして固まった。
──恋? 殿下が私に?? 今、私を好きだと言った?
「え? ……いつから、です、か?」
ようやく口から出た言葉はそんな質問だった。
「ん? いつからって。何を言っているの。そんなの初めて会った時からだよ」
「初めて……」
「そう。あの日、顔合わせした時から。一目で可愛いと思ったんだ。それからずっとずっと好きだった。……まあ、何でかは分からないけど、キャロライン自身には僕のこの気持ちは全く伝わっていなかったみたいだけどね」
そう言いながら、殿下は寂しげな笑みを浮かべる。
そんな殿下の様子に、チクリと私の胸が痛んだ。
殿下の想いが、私に伝わらなかった理由。それはーー……
──私が、知ろうとしなかったからだ。
自分は悪役令嬢で、殿下はヒーローでいつか本当のヒロインと恋に落ちるはずだという思い込みのせいで、殿下のくれる言葉の意味も仕草も表情も何一つ。それらに込められた想いを何一つ私は知ろうとしなかったから。
ポタリ
私の頬を涙が伝う。
自分でも無意識のうちに私の瞳からは涙が溢れていた。
「あ! ……私、その……!」
涙を流しながらアタフタする私を見て殿下が何故か笑った。その微笑みは今まで見た事が無いくらいとても嬉しそうだった。
そして、一言呟いた。
「あぁ、良かった……やっと、伝わったみたいだ」
そのまま、殿下は私に歩み寄り立ち上がらせた後、とてもとても優しく抱きしめてくれた。
まるで、とても大切な宝物に触れるかのように。
その事が嬉しくて、私はまた涙を流す。
殿下はそんな涙を優しく拭ってくれた。
「キャロライン……僕は君を諦めなくてもいいのだろうか……?」
殿下はポツリと私の耳元でそう小さく呟いた。
「僕は君に捨てられてもおかしくない事をした。それに君は昔から僕から離れたがっていたわけだし……」
そう口にした後、殿下は更に、
「けれど、許されるなら……君がまだこんな僕を見限らないでいてくれるなら、僕は君の傍にいたい。君に……キャロラインにずっと僕の傍にいて欲しい……」
その言葉はもはや懇願に近かった。
殿下の心からの願いに私の胸がまた痛んだ。
「許すとか……許さないではありません……私も傍にいたいです……殿下の……いえ、シュナイダー様のお傍に」
私は涙を流しながらそう答える。
だって、どう考えても私達は完全にお互い様だ。
私は殿下の気持ちも考えず、ひたすら悪役令嬢だからと言って突っ走っては、知らず知らずのうちにたくさん彼を傷付けてきたし、殿下は私を守るためと言いつつも、やっぱり何だかんだで私に辛い気持ちを与えていた。
だから、これは許すとか許さないじゃない。
ならば、私は今から……これからシュナイダー様との新しい関係を始めたい。
ヒーローと悪役令嬢ではなく、
ただのシュナイダー様とキャロラインとして。
私がそんな自分の気持ちを伝えると、殿下は一瞬驚いた顔を見せた後、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
──それは、私の1番大好きな殿下の笑顔だった。
そんな感じで、うっとりと自分達の世界に浸っていた私には、
「……何なのよ、これぇぇぇ……!!」
と唸りながら、どこかに連行されて行くメリダ様の声はもう全く気にならなかった。
ちなみに、後にこの出来事は『一途な王太子の告白 ~私、実は溺愛されてました!!~』という題名で、私達がモデルの恋愛小説として一世を風靡してしまうのだけど、それはまた別の話。
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