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第44話 君への想い ① (コンラッド視点)

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「───クラリッサ!?」
「コンラッド様……」

  珍しいな。クラリッサの方から抱きついて来るなんて。
  自分からはこれでもかと言うくらいベタベタ抱きついている気もするが……

  私は嬉しくてギュッとその柔らかい身体を抱きしめ返した。



「あの、コンラッド様、わたくし……」
「?」

  しばらくギュッと抱きしめていると、クラリッサがそっと顔を上げて私の目をじっと見て来て何かを言いかける。
  ───どうしたのだろうか? 
  クラリッサの頬は赤く染まっていて、なんなら目元も潤んでいる。
  (これは多分、兄からの手紙のせいだと思うが)

  …………めちゃくちゃ可愛い。
  そんな顔で君に惚れている男を見るなんて……本当にこの子は。

  (無防備すぎだろう!)

「クラリッサ……」
「……あ」

  そんな無防備だから、こうしてすぐ男に襲われるんだぞ!
  私はクラリッサの顎に手をかけて上を向かせると、そっとその柔らかい唇を自分の唇で塞いだ。

「……んっ」

  クラリッサの甘い声が聞こえてくる。でも、ちょっと苦しいのだろうか?  
  そう思うけれど……この声を聞くとますます止められない。

  クラリッサにこうして、キスをするのは何度目だろうか。
  ──婚約者という関係ではあるものの、自分が一方的に片思いしている相手にこんなことをして許されるのだろうか?  そんな気持ちもあるにはあるが、クラリッサを前にすると我慢出来なくなるんだ。
 
  (それに、嫌がられていないのは分かる……)

  だからこそ、期待したくなる。
  私に特別な思いを抱いてくれているはずだ、と。

  (キスした後の照れた顔もめちゃくちゃ可愛いんだ……)

  クラリッサのこの顔を知っているのは自分だけ……そう思うと思わず顔がニヤけてしまいそうになる。
  我ながらとんでもない独占欲だなと思うが……こればっかりは無理だ!
  だって、クラリッサは可愛いから!

「……」
「……ふぁ!?  コ……」

  (声も可愛いな……)

  そんな照れた顔のクラリッサの顔がもっと見たくて、私は更にがっついた。





  何度もキスを繰り返していたら、突然、クラリッサの力が抜けたのが分かった。

「クラリッサ……?」
「……」

  声をかけてみるけれど、返事がない。
  これは……がっつきすぎたかもしれない。
  そっと身体を離して確かめると、すやすや寝息が聞こえる。

「え?  寝てる……?」

  この状況で!?
  そう思わなくもなかったが、よく考えればクラリッサはとても疲れているはずだ。
  毎日の勉強に加えて、パーティーの準備をしながら報告書も探して……今日まであまり気の休まる時は無かったに違いない。

  (自分のことより他人のことばかり心配していたな……)

  サマンサが失くした報告書が見つかり誰かに中身を読まれたり、パーティーで暴露されたりしていたら一番傷を負うのは自分だったのに。
  失くしたサマンサが、暴露してしまう人が、皆に知られたら私の立場が……全部人のことばかり。

  私はクラリッサを起こさないように抱き上げてそっとベッドに運びながら声をかける。

「……なぁ、クラリッサ。君は我儘で傲慢で身勝手な王女だったと自分で言うけれど」
「……」
「牢屋で反省したから心を入れ替えたとも言ってるけれど───」

  多分、君の本質はもともとこうだったのだと私は思うよ?

  (きっとクラリッサはそんなことはない!  と否定するのだろうけど)

  私は眠っているクラリッサの髪の毛を手に取ると、そっとそこにキスを落とす。

「───私との出会いのきっかけとなった、クラリッサが元宰相にワインをかけたあの出来事だって、君は“自分のパーティーで騒ぎを起こしたのが許せなかっただけ”そう言っていたけれど、本当は最初に絡まれた令嬢のことだってすごく心配していたんだろう?」

  だって、あの時の私は……クラリッサがあの男に絡まれていた令嬢のことを心配そうな表情で気にかけていた所をチラッとだが確かに見たんだ。  
 
「──君はね?  昔から優しい子なんだよ、クラリッサ」

  私はそう言ってそっとクラリッサの頬を撫でた。

「……それにしても、自分の部屋のベッドで最愛の女性がスヤスヤ寝ているとか…………ダメだ。頭を冷やさねば!」

  私は目を覚ませと言わんばかりに自分の頬をベチッと叩く。
  これ以上、このまま部屋で二人っきりでいたら我慢出来る自信は……無い!


────


「疲れたのだろう。今、クラリッサは眠っている。ドレスが窮屈だと思うから苦しまないように少し緩めてやってくれ」
「はい」
「ああ、それから。くれぐれも起こしたりしないように」
「承知しました」

  侍女にクラリッサのことを頼んで私は部屋を出る。
  そして、自分の執務室に入ると、机の引き出しから手紙の束を取り出す。

「……クラリッサへの手紙の量も大概だと思ったが、私に向けても多すぎだろう……」

  これは全部、クラリッサの家族が送って来たもの。
  クラリッサへの手紙は代表して王太子……元王太子になるのか?  が書いていたようだが、私宛に送ってくるものは個人バラバラだ。

「こんなに気にかけられるなら最初から……」

  そう言いたいが全部、今更だ。

  帰国後にトゥライトル侯爵から届いた手紙によると、帰国前にクラリッサが牢屋で受けていた仕打ちと家族を恨んではいない、というクラリッサの気持ちを影で聞いていた彼らは大きなショックを受けてその場に泣き崩れていたという。
  何も知らなそうな彼らに真実を聞かせてやろうと思って、あの場に連れて来たのは自分だが想像以上にダメージを負ったらしい。

「まあ、この立聞きがあったから王は退位することを受け入れたらしいからな……」

  虚偽の報告をされていたこと、元宰相に色々といいようにされていたこと──

  (そもそもおかしいと思ったんだ……)

  クラリッサのことを調べて彼女が牢屋に入れられていたことを知った。
  そして、釈放されてからも「反省していない」と言われて家族からの冷害は続くどころか酷くなったという。
  いくら、殺人未遂という罪でも王女にするとは思えない酷い仕打ちを受けて出て来たはずのクラリッサになぜ?  しかも反省していないなどと言う?
  不思議に思った。

  そこからの私は必死だった。
  とにかくクラリッサを国から、家族から離さなければ……と。
  
「……」

  私は両手で自分の顔を覆う。

  思い出すだけでも恥ずかしい。

  私は恋い焦がれたクラリッサを前にとにかく必死だった。
  少しでも好感を持ってもらいたくて、手紙はめちゃくちゃ丁寧な字を心がけた。
  クラリッサの好きな物を聞いたあとはすぐにそれを手配した。
  きっと、ずっと笑えていないだろうクラリッサに笑顔を取り戻して欲しくて。

「……クラリッサのことを信じられずにたくさん傷付けたお前たちが、クラリッサの笑顔をまた間近で見られるなどと思うなよ。あの笑顔は私の物だ!」
  
  私は手紙に向かってそう宣言した。


❋❋❋


  そうして、波乱の予感しかなかったパーティーも無事に終わり、今度は結婚式に向けての準備が着々と進む中……
  母上が私を呼び出した。



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