王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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13. まるでプロポーズ

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 ────これからも、ずっと僕のそばにいてくれないか?

(え?)

 そ、そばに?  ずっと?  え?
 誰が誰のそばに?  
 いてくれ?

「フルール……」
「!!」

 リシャール様に熱っぽい目で見つめられて更に強く手をギュッと握られた。
 そんなリシャール様の頬はほんのり赤くなっている。

(な、なんて目をするの)

 国宝級の美貌の顔にこんなに見つめられてしまったらドキドキが止まらない。
 私は心を落ち着かせるため深呼吸を何度か繰り返した。
 そして、言われた言葉の意味を一生懸命考える。

 ずっとそばにいてくれ、だなんて!
 こんなの、愛の告白……まるでプロポーズみたいじゃないの。
 そんなはず──……

(あ、もしかしたら……)

「──リシャール様!」

 私は顔を上げて真剣な顔で真っ直ぐリシャール様をじっと見つめ返した。
 そして、リシャール様も真剣な顔で真っ直ぐ私を見つめ返してくれる。
 しっかり目が合った所で私は口を開いた。

「息を吸って下さい!」
「……え?」
「いいから、息を吸って下さいませ!」
「え?  え?」

 リシャール様は何で?  と戸惑った顔をしたけれど私はそのまま強引に押し通す。

「わ、分かった……」

 リシャール様は頷くとスゥーと息を吸った。

「次は吐いて下さい」
「!」

 ハー……
 息を吐き出すリシャール様。

「ではもう一度!  息を吸って吐いて下さい」
「え!?  もう一度?」

 驚きながらも律儀に従ってくれたリシャール様。
 深呼吸が終わると再びじっと見つめられた。

「えっと、聞いてもいいだろうか?  フルール。今のは……」
「もちろん、深呼吸ですわ」
「……」

 私が当然のように答えるとリシャール様は困った顔で、まるで助けを求めるかのようにチラッとお兄様の方を見た。
 するとリシャール様と目が合ったお兄様は無言で首を横に振る。
 それを見たリシャール様は、「そうか、仕方ない……」と呟くと再び私に視線を戻す。

「……深呼吸で間違いなかったんだな。では、フルール。なぜ僕に深呼吸を?」
「それは、リシャール様には一旦、心を落ち着かせてもらいたかったのです」
「へ?  心を?」

 リシャール様が目を大きく見開いた。
 私は少し恥ずかしかったけれど正直に言うことにする。

「はい。だって私……今のリシャール様の言葉がまるでプロポーズのような言葉に聞こえてしまいましたの」

(自意識過剰にも程があるわよね……恥ずかしい)

 でも、そう言っているようにしか聞こえなかった。

「ですから。もしかして、リシャール様はお疲れで頭が混乱してしまっていて、発する言葉を間違えたのではないか、と思いましたの!」
「なるほど、それで僕を落ち着かせるために深呼吸をさせたのか」
「そうですわ」

 私が頷いたのを見たリシャール様は、再びチラッとお兄様に視線を向ける。
 すると、お兄様は今度は無言のまま頷いた。
 それを見たリシャール様は、「なるほど。奥が深いな……」と呟くと私に視線を戻した。

「では、フルール。僕は今、深呼吸したおかげで心も落ち着いた」
「それは良かったです」

 私が微笑み返すと、リシャール様も微笑んだ。
 それはまさに国宝級の笑顔。

「だからもう一度言う、フルール。これからもずっと僕のそばにいてくれないか?  僕は君とこの先もずっと一緒にいたいんだ!」
「!?」

(…………あ、あれ?)

 全く変わらないどころか、さらに率直な言葉が付け加えられてしまい私は目を丸くした。
 そして内心で大きく叫ぶ。
 国宝級の笑顔を持った美男子が、爆弾発言をして来たわーーーー!

「リ、リシャール……様?  何を言っているので、すか?」

 動揺して声がひっくり返った。
 リシャール様はそんな動揺した私を見てクスリと笑う。  

「フルールでも動揺ってするんだな?」
「……っ」

 私が言葉を詰まらせるとリシャール様は嬉しそうに笑う。

「これからの僕は、好きに生きると言っただろう?  だから、これは自由になった僕の初めての望みなんだ」
「自由になったリシャール様の……初めての望み?」
「そう。君と……フルールとこの先もずっと一緒にいたい、という望みだ」
「……」

 自由、望む……初めて、リシャール様が……
 えええ?
 私は大きく後ろに仰け反った。
 でも、リシャール様は握った手を離してくれなかった。

「リシャール様!  な、なんてことをあなたの初めての望みにしているんですの!?」
「え?  何かおかしかったかな?」

 リシャール様は本気で不思議そうに首を傾げている。
 その姿に私の方が動揺してしまった。

「も、もっと何か他にあるでしょう!?  美味しいものをお腹いっぱい食べたいとか、王女殿下とベルトラン様の元に殴り込みに行って慰謝料たっぷり奪い取りたいとか、追放してきた公爵家をいっそのこと社会的に抹殺してしまいたいとか、暴行してきた犯人見つけ出してボッコボコにしてやる!  とか……ですわ!」

 私がそう口にしたら、リシャール様がポカンとした顔になった。
 そしてすぐにククッと笑い出す。

(わ、笑われた!?)

 そこへお兄様も笑いを堪えながら訊ねてきた。

「───なぁ、フルール……まさかとは思うが今のは“お前のしたいこと”じゃないのか?」
「そ、そんなことはありませんわ!  あくまでも例えですから、お兄様の考え過ぎです!」

 私が反論するとお兄様がじとっとした目で見つめて来た。

「な、なんですの?」
「フルールよ。なら聞こう…………美味しいものは?」
「もちろん、お腹いっぱい食べたいですわ!」

 私は即答する。
 当然よ!

「慰謝料は?」
「当然、がっぽり頂きますわ!!」
「……リシャール様を追放した公爵家のことをどう思う?」
「なにか弱みを握って社会的に抹殺してやりたいですわ!」
「…………リシャール様を暴行した犯人を見つけたら?」
「もちろん、ボッコボコにして………………あ!」

 私は慌てて口を押さえる。
 でも、どうやら遅かったみたいでそれを見たリシャール様とお兄様が盛大に吹き出した。

 そして、一通り笑い終えたリシャール様は笑いすぎたのか目に涙を浮かべながら言った。

「……そういう所」
「え?」
「君のそういう所に僕は惹かれている」

 そのあまりにも直球の言葉に私の頬が熱を持つ。

「フルールとモリエール伯爵令息との婚約破棄が成立したら、改めて正式に申し込むよ」
「!」
「どうか、それまで僕のことを前向きに考えて欲しいんだ」

(リシャール様……)

「でも、公爵家を追放された僕は身分も何も持っていない。だから今のままでは君とは釣り合えないことは分かっている……それでもこの先をフルールと共にいたいと思っている」
「……っ!」

 その言葉はもうプロポーズにしか聞こえない。

 何も持っていない?
 いいえ、顔よ……!  
 他の誰でもない。
 あなたは、その直視するには眩し過ぎるほどの素敵な顔をお持ちよ!?

 そう言いたいのに動揺して上手く声が出てくれず、私は口をパクパクするだけ。
 心臓もバックンバックン鳴っていて今すぐ飛び出してしまいそう。

(何これ……こ、こんな風になるのは初めて……)

 ベルトラン様は私の見た目?  に一目惚れしたと言って求婚してくれた。
 けれど、可愛いとは口にしてくれていても、どこが好きとか具体的に言ってくれたことは無かったわ。
 だから、彼と一緒に過ごしていてこんなにドキドキした覚えはない。
 と言うか、あっても記憶から全部吹き飛んだわ。

(リシャール様とはこんなにドキドキするのに)

「……フルール」

 私が何も言えずにいると、リシャール様はにこっと笑った。

「?」
「そうだ……子守唄」
「!」
「今夜は僕のために歌ってくれるんだろう?」

 リシャール様が綻んだ顔で、さらに私にグイグイ迫って来た。

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