王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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 私の宣言にお兄様は驚愕した。

「なっ、なんだって!?  顔……だけじゃないだと!?」
「お兄様、驚きすぎですわ」
「うっ……」

 私はじとっとした目でお兄様を睨む。
 睨まれたお兄様はバツの悪そうな顔ですまない、と笑った。

「あんまりにもフルールが顔、顔ばかり言っていたから少し心配していたが、大丈夫そうだな」
「……」

 だって、リシャール様は婚約者と家族に裏切られただけでなく、更に誰かに狙われているかもしれないのよ?
 そんな彼の全部を守りたいと思ったんだもの。

「とにかく、お兄様!  リシャール様は絶対に外には出さないでね?」
「分かっているとも。あの暴行の話はタイミング的にもきな臭い」
「……それだけじゃないわ!」

 王女殿下や公爵家……あの辺も油断出来ない!

「ああ。要らないと捨てて追放したくせに後からやっぱり戻って来い……とか言い出しそうな人たちばかりだから……だろ?」
「そうよ!」

(さすがお兄様!)

 本当にその通り。
 さっき私が想像した王女殿下の姿、とってもリアルだったもの。
 何があってもリシャール様は絶対に返さないわ! 


 私は手に持っていた紙に再度視線を戻す。

「でも、これは本当に凄いわ。さすがリシャール様!  資料を見ただけでこんなにたくさんの問題点を見抜いて挙げられるなんて」
「どうもありがとう───昔からそういう特訓はたくさんさせられて来たんだ」

(なるほど、特訓だったのね?)

 私はうんうんと頷く。

「そして改善案までこんなにたくさん!」
「……そこまでをセットにして勉強させられるんだ。改善案の数もたくさん求められる」

(セットで?  確かに問題提起するだけでは足りないわ)

「そう。大変なのね……私には無理だわ。出来る気がしない」
「───いいや?  フルールの想像力はかなり豊かで独特だから、むしろ新しい視点が発見出来て面白いんじゃないかな?」
「そうかしら?  そう言われるのは嬉し───……ん?」

 ちょっと今……お兄様と話していたつもりだったけど、何か……変だった、わ。
 そう思って前を見るとお兄様が「フルール……」と私の名前を呼びながらお腹を抱えて笑っている。

「……」

 そういえば、今の声……前からではなく後ろから聞こえた気がする。
 まさか!  と思った私は勢いよく後ろを振り返る。
 すると、そこには……

「フルール、姿が見えないと思っていたらこっちに来ていたんだ?  本当にアンベール殿……お兄さんが大好きなんだね」

 国宝級の顔の持ち主がそう言ってにこにこ笑っていた。

「リシャール様!?  あなたは部屋にいたのでは?  ……なぜここに!?」
「え?  今日はアンベール殿の仕事を手伝う予定だったけど?」
「そうだった、のですね……」

(もう!  びっくりしたわ)

 かなり間抜けな会話をしちゃったじゃないの。

「えっと──どこから話を聞いていました?」
「フルールが僕の書いたそれを褒め始めてくれたところ」
「……ッ!」
  
 改めて言われると恥ずかしくなってくる。
 ここは…………一旦引くわよ!!

「そういうことなら仕事の邪魔をするわけにはいかないので、私は部屋に戻りますね!」

 私は笑顔でそのまま退散しようと扉に向かおうとした。

「────待ってくれ!」
「え?」

 だけど、逃げようとした私の腕をリシャール様が掴む。
 そしてそのまま私の身体ごと自分の方へと引き寄せた。
  
「~~~ッ!?」

 私はリシャール様の胸に思いっきり飛び込んでしまう。

(──!  リシャール様って思っていたよりも筋肉質ーー!!)

 胸板の厚さにキュンと胸が高鳴った。
 そんな突然の触れ合いにドキドキしていたら、リシャール様は私の耳元に口を寄せると囁いた。

「……真面目な話。フルール……君の着眼点は、きっと僕には想像つかないような面白い発見があると思うんだ」
「…………え?」
「だから今度、時間がある時に一緒にシャンボン伯爵領の改善策案を考えてみないか?」
「!」

 まさかそんなことを言われるとは思っておらず、慌てて顔を上げる。
 そうしたら、リシャール様とばっちり目が合った。

「……フルール、どうしたの?  そんなきょとんとした可愛い顔で僕の顔を見つめて来て…………照れてしまうよ」

 リシャール様がほんのり頬を赤く染めて照れ始めた。

「一緒に考える?  私も仲間に入っていいんですの?」
「?  そんなの当たり前だろう?  ───アンベール殿も構わないだろう?」

 リシャール様はお兄様に対して呼びかけた。
 話を振られたお兄様も「構わない」と当然のように答えていた。

(私もいても……いいんだ?  邪魔だとは言わない……)

 何だか擽ったい気持ちが生まれる。

「フルール?」

 リシャール様が不思議そうに私を見つめる。

「……実はベルトラン様に言われたことがあるのです」
「ベルトランに?」
「ムッ!  何の話だ?  聞いてないぞ?  フルール!」

 ベルトラン様の名前を出したら、リシャール様の声は突然険しくなり、お兄様もムッとした表情になった。

「ベルトラン様は私に言いました。結婚しても、私のように教養の無い女はいても邪魔だから仕事のことには一切口を出さないでくれ……と」
「なっ!」
「はぁ?」

 リシャール様とお兄様の怒りの声が重なる。

「フルール!  ベルトランの奴にそんなことを言われていたのか!」

 お兄様の眉間の皺が大変なことに!
 これは相当お怒りのご様子。

「なんて馬鹿な発言をしているんだ……」

 そして、こちらリシャール様も同様に眉間に深い皺を刻んで怒り始めた。
 でも、そのまま二人は私を励まそうとしてくれる。

「フルール!  あんな奴の言うことなんて気にしなくていい」
「アンベール殿の言う通りだ、フルール。だからそんな悲しい顔をしないで欲し……」
「──ええ、もちろん分かっていますわ。全く気にしておりません」

 私は顔を上げてにっこり微笑む。

「え?  ……フ、フルール……?」
「え、笑顔……?」

 何故か私の顔を見て驚いている二人に向けて言う。

「ですので私。すごく腹が立ちまして。ならばそっちがその気なら、受けてたってやろうじゃないの!  と決めたのです」
「そっちがその気なら……」
「……受けて立つ?」

 私は大きく頷く。

「もしも、ベルトラン様が何か私に頼りたいことが起きたとしても、絶対に助けてなんかやりませんわ……と心に固く誓ってメラメラ闘志を燃やしていましたわ」
「落ち込むどころか…………闘志を」
「……燃やしていた」
「そのことをたった今思い出しましたわ!」

 私が満面の笑みでそう話したら、リシャール様とお兄様が顔を見合せて吹き出した。

(はい?)

 なぜ、二人が吹き出したのか理解出来なかったので、目の前の笑っているリシャール様に聞いてみた。

「……何かおかしかったですか?」
「いや…………くくっ……もう、全てがフルールだった」
「……?  私は私ですよ?」
「うん───」

 そう答えるとリシャール様の笑みがますます深くなる。
 国宝級のその美しい笑顔に見惚れていたら、突然リシャール様が私の身体をそっと抱きしめた。

(え!?)

「───フルール。僕は君が好きだよ」
「!?」
「フルールのことを知る度、一緒にいる度にどんどん好きになっていく……」

 突然の愛の告白にびっくりして離れようとしたのに、今度はがっちり抱きしめられていて離れられなかった。

「リ、リシャール様!?  落ち着いて下さいませ?  この距離は……よ、よろしくありませんわ!」
「───大丈夫。ここはアンベール殿の部屋。こうしている姿を見ているのはフルールの“お兄様”だけだから」
「そ、そういう問題では……!」
「…………分かっているよ。でも、もう少しだけ。フルールの温もりを感じたい」
「!」

 ギュッ……
 リシャール様が力を緩めて私の身体を包むように優しく抱きしめる。
 そっと顔を上げると目が合った。
  
「!」

(そんな愛おしそうな目で……そんな風に懇願されたら……ダメとは言えないわ)

 私もおずおずと手を伸ばして、そっとリシャール様の背中に腕を回す。

(……あたたかい)

「え?  フ、フルール!?」
「……」

 リシャール様の顔がどんどん真っ赤になっていく。
 初めて感じるリシャール様の身体の温もりは、とても優しくて……とにかくあたたかかった。



 そんなあたたかくて幸せな気持ちになれた、翌日。
 ついにモリエール伯爵家───ベルトラン様から我が家に手紙が届いた。

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