王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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33. 全ては悪い方向に

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「ベルトラン?  これはいったいどういうことか説明してくださる?」
「え?」

 早急にという命令で慌てて会いに行ったシルヴェーヌ様は、冷たい目で僕を見ると一通の手紙と数枚の紙をテーブルの上に並べる。
 その瞳の冷たさに背筋が凍りそうになった。

(……こ、こんなに冷たい目で見られるのは初めてだ!)

「こ、これは?」
「……今朝、わたくしの元に届いた手紙と同封されていた紙よ」
「手紙、ですか?」

 ドクンッ……
 なんだか嫌な予感がする。

「ねぇ、ベルトラン。確かに教師たちに言われて、しばらく様子を見るということであなたの試験は延期になってしまったわ」
「は……はい」 
「もしかして、あなたそれを内心喜んでいたのではなくて?」
「なっ!」

 確かに今のままでは試験の結果は散々なものになると思う。
 だから、試験の延期に関しては喜ぶべきか悲しむべきか複雑な気持ちを抱いていたのは事実。
 だが、シルヴェーヌ様はどうしてそんな解釈になるんだ!?

「わたくしは前に、あなたの元婚約者は未だにベルトランに未練タラタラなのね、と言ったけれど」
「え?」
「本当に未練タラタラだったのはあなたの方だったのね?  ベルトラン」

(なんだって!?)

 まさか、と思いテーブルの上に並べられた手紙を手に取る。
 この手紙の差出人は──

「……フルール!」
「そうでしてよ、この手紙はあなたの元婚約者シャンボン伯爵家から届いた手紙。こちらが慰謝料を払う意思はないと返したからでしょうね。再度届きましたのよ?」
「……」

 おそるおそる目を通すと、連日、自分がフルール宛てに送り続けていた手紙に関することまでもが綴られていた。

「───この話を信じて貰えないと困るので、証拠としてベルトラン様から送られた手紙を何通か同封させていただきます、だと!?」

(フルール、君はなんてことを!)

 僕は勢いよく手紙から顔を上げる。
 冷ややかな目で僕を見続けるシルヴェーヌ様がテーブルの上に並んでいる紙を指さした。

「……これが、伯爵令嬢から同封されていた手紙でしてよ?」
「……っ!」
「きっと、ベルトランへの未練タラタラな伯爵令嬢が嘘をついていてわたくしを揺さぶるつもりなのだわ?  そう思って中を読んでみたの」
「……な、中を、読んだ」

 僕の背中には冷たい汗が流れ、顔は血の気が引いてどんどん真っ青になっていく。

(なんて言い訳しようかなぁ、と後回しにしていてすっかり……話すこと忘れていた……)

「そうしたら、不思議なことに……この手紙、とってもとってもとってもあなたの字に似ていますのよ、ベルトラン」
「そ、そう……ですかね?」 

 僕が目を泳がせると、シルヴェーヌ様は一番上の紙を手に取る。

「これには……“そんなことを言わないでくれ!  どうしても会いたい!  会って話がしたい!“ですって…………会いたいの連呼……なんて情熱的なのかしら?」
「……!」

 それは、フルールから「無理です」と返事が来た時にすぐに送り返したやつ……

「そして次はこちらね」

 そう言ってペラッと捲って次の紙を僕に見せてくる。

「う……」

 思わず悲鳴を上げそうになった。

「こちらはもっと凄いの。───会いたい、君に会えなくて悲しい、心にポッカリ穴が開いたような気分だ、僕の大切な君にどうしても話しておきたいことがある、返事を待っている───まあ、すごい!  大切とまで書いてあるわ?」
「~~~~!」

 フルールを全力で落としにかかった時のだ。
 とにかく口説いて口説いて口説きまくれ!  と言う父上に乗せられて書いたやつ……

「それでね?  わたくし……まずはこの手紙の筆跡鑑定を行ったの」
「ひっ……せき」
「ベルトランの字を調べるのはとっても簡単。だって、これまで提出した課題があるものね?」

 うっ……と声を詰まらせる。

(最悪だ……サンプルが多すぎて言い訳がきかない……)

「そうしたら間違いなく本人が書いたものでしょう!  ですって」
「……」

 思った通りの展開でなんの言い訳も出来ずに固まる。

「それから、これはその後、たまたま小耳に挟んだのだけど、数日前にシャンボン伯爵家の前で暴れて喚いている男性がいたんですって」
「…………え」
「それも……令嬢に会いたい、顔が見たい、会わせろ……と野蛮に叫んでいたとか」
「───!」
「わたくしが聞いたその男性の特徴が、とってもとってもとってもベルトランに似ているのだけど……偶然かしら?」

 今になってあの日の行動を浅慮だったと後悔する。
 すぐに中に入れてもらえなかったことに腹が立ち、暴れさえすれば屋敷の中に入れてもらえる!  そう思った。
 だが……
 結果は、フルールの顔は確かに見れたが、軽くあしらわれ、大声を出したことで周囲に目撃されるという失態を重ねただけだった……

「そして、極めつけはあなた最近、シャンボン伯爵令嬢のことを色々な人に聞き回っているそうじゃないの」
「なっ……」
「それも……異性関係のことをしつこく聞き回っているとか」

(どうしてバレているんだーーーー)

「それって、やっぱり元婚約者の伯爵令嬢に未練があって、新しい異性の影がないか調べている……ということなのでしょう?」
「ち、違っ……」

 どうしよう?  どうすればいい?
 全てが裏目に出たあげく悪い方向に綺麗な話が出来あがってしまっているじゃないか!

 フルールへの手紙も屋敷に会いに行ったのもフルールのことを調べているのも、全て全て慰謝料請求を穏便に済ませたいからだったはずなのに、こうして聞くと元婚約者に未練タラタラな男の取った行動にしか聞こえなくなっている!

(どうしてだ?  どうしてこうなった!?)

 ここで説明するのは簡単だ。
 だが、この状態では何を言っても言い訳にしか聞こえないのではないか?
 なぜ、どれもこれも先に説明しておかなかったのか……
 そうすれば、こんなことにはならなかったのに。

「それからね……ベルトラン、お父様がまたお怒りなの」
「え?」
「お父様だけじゃないわ。他の人も……わたくしたちの“真実の愛”は本物なのか?  って疑い始めているわ。そしてリシャールを追放したのは間違っていたんじゃないかって話も……」

 それはまずい。非常にまずい。
 ますます捜索の手が広がるんじゃないのか!?
 もし……リシャール・モンタニエが見つかってしまったら……

「ねぇ、ベルトラン?  あなたはわたくしの運命の人で、わたくしたちは真実の愛で結ばれているのよね?  あの日誓った永遠の愛はどこに行ってしまったの?」
「シルヴェーヌ様……」
「それとも、真実の愛なんて本当はなくて……あなたはわたくしを弄んだだけ、なのかしら……?」

 パリンッ
 ───“真実の愛”が壊れ始める音が聞こえた気がした。


❈❈❈


 一方、その日の夜のフルール───

「……待て!  フルール!  さすがにそれ以上のおかわりは止めておけ!」
「どうしてお兄様?  だって何だか今日は一日中食欲がムクムクと湧いてくるんですもの」

 不思議なのだけど。
 いつもは五杯で苦しくなるお腹が今日はもっと!  と言っている気がするのよ。

(これは遂に王女殿下に暴露の手紙を送ったことで、気分が高揚しているのかも)

 私は、ベルトラン様の捨て身のような形振り構わずの押しかけ行動と、二人の仲が危ういという話を聞いた結果から、王女殿下はベルトラン様の行動について把握していないと判断した。

(手紙はたくさんあるから残りは裁判にも回せるし……)

 送った手紙は今日の朝には殿下の元に届いているはずよ!
 王女殿下の反応が気になって、今日はずっと興奮状態なのだと思う。

「リシャール様からも何か言ってやって下さい!  これ以上はフルールが太……いえ、丸くなるかもしれません!」
「え?  フルールが?」

 なんと!  お兄様が小狡い手を使って来たわ!
 これはリシャール様を味方に付けようという作戦ね!?
 でも、お兄様!  ふふん。その考えは甘いわ!!

「うーん……でも、丸くなったフルールも可愛いだろうなぁ」
「!?」

 ほらね!  思った通り、リシャール様はやっぱり私の味方!

「なっ!  何をリシャール様まで呑気なことを……!  このままではフルールがコロコロになるんですよ!?」

 リシャール様の発言にお兄様がショックを受けている。

(コロコロ……)

「──はっ!  そうしたらお兄様、いっそのこと私はコロールに改……」
「フルール!  改名さえすれば、おかわりが許されるわけじゃない!」
「あら……」

 荒ぶったお兄様に怒られたので、おかわりとコロールへの改名は断念した。
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