51 / 356
51. 残すは公爵家!
しおりを挟む(えーー?)
「フルール!」
お兄様は必死の形相で私の両肩をガシッと掴んで軽く揺さぶる。
「お、お兄様!?」
「アンベール殿?」
そんなお兄様の様子にリシャール様もポカンとしている。
早まるな、とはどういうこと?
お兄様はクッと悔しそうな顔をしながら私に言う。
「何でフルールは毎度毎度、そうやって自ら大出血しに行くんだ!」
「大出血? そ、そう言われましても……」
(圧……圧がすごいわ、お兄様……!)
「いいか? フルール……そのお願いはまだフルールには早い!」
「ま、まだ早い? そ、それなら、い、いつならいいいいんです?」
揺さぶられているから? 上手く喋れない。
「……いつ、か。そうだな……」
考え込んだお兄様はチラッとリシャール様の顔を見た。
リシャール様は何の話か分からず首を傾げている。
「───結婚するまではダメだ!」
「結婚!?」
「そうだ! 結婚してからなら……きっと大丈夫、だろう。多分」
「ええ……?」
きっと、とか多分とか。
本当に大丈夫?
私は考え込む。
でも、お兄様がここまでいうんですもの。仕方がないわね。
お兄様はきちんと私のことを考えて言ってくれているのだから。
納得した私は笑顔で頷いた。
「分かりましたわ! お兄様。結婚までお願いは我慢します!」
「フルール……」
「大丈夫ですわ。リシャール様との結婚が楽しみになるだけですから!」
私がそう口にすると、リシャール様が頬を赤く染めていく。
「リシャール様? 顔が……」
「わ、分かっている! しかし、け、結婚……フルールとの結婚を想像したら……」
「……」
そうして顔をどんどん真っ赤にして照れるリシャール様が可愛くて胸がキュンとした。
かっこよかったり可愛かったり。
私の大好きな人はいつも色んな面を見せてくれる人。
(そうだわ!)
そこで私はハッと思い出した。
せっかくだから、リシャール様がいつか元気になったら披露するつもりでいたのに延び延びになっていた“子守唄”も結婚してから披露しようかしら?
(リシャール様、どんな顔をするかしら? 楽しみ!)
私はもう一度リシャール様の顔を見る。
すると私たちの目が合ったのでニコッと微笑んだら、リシャール様は照れながらも優しく微笑み返してくれた。
(早く、その日が来ますように!)
心からそう願った。
しかし、そのためには諸々の問題を片付けなくてはいけない。
「それで、リシャール様は公爵家にはいつ殴り込みに行かれるつもりなのですか?」
「え? 殴、リ込み……」
「フルール!?」
馬車に乗り込んだあと、私は気になっていたことを訊ねた。
お兄様がギョッとした顔で私を見てくる。
「シナシナになった王女殿下から情報を引き出せたとはいえ、今日のことでリシャール様が無事に生きていて、そして我が家にいることは知られてしまいましたわ」
「ああ……うん。そうだね」
リシャール様も頷く。
リシャール様に散々脅された王女殿下は、私への慰謝料の支払いに頷いただけでなく、最後は観念してリシャール様の弟と共謀して、あの追放劇のあとにリシャール様を売る気だったと白状した。
(男好きなマダムにリシャール様を売ろうとするだなんて何を考えているの!)
リシャール様の美貌は国宝なのよ?
そのマダムが噂だけでリシャール様を気に入っていたなら、実物に会えばもっともっと気に入られちゃうじゃない!!
(阻止出来て良かったわ……)
それに、あの時の暴行で、万が一生命でも落としていたら───
自分たちがパーティーから帰ろうとしていなかったらと思うとゾッとする。
(許せないわ! もう!)
なので、当然王女殿下には慰謝料だけでなく、それ相応の処罰を受けるように訴えていく。
そのためにも公爵家は片付けないと!
「殿下から情報も手に入れましたし。なので、リシャール様はてっきり即殴り込みに行くつもりなのでは? と思いましたが」
「フルール! 言いたいことは分かるが、さすがに殴り込みなんて言い方はないだろう! 淑女はどうしたんだ!」
「淑女……」
お兄様に淑女の仮面が剥がれていると指摘されてしまった。
(確かに! 淑女は殴り込みなんて言葉は使わないわね?)
確かに最近は気が緩んで淑女の仮面が剥がれまくっていた自覚はあるわ。
私は軽く咳払いをして背筋を正す。
そして淑女スマイルでリシャール様に訊ねる。
「では、リシャール様。あなたのお父上だった方と弟さんの息の根を止めるのは、いつ頃を予定しており───」
「──フルール!! 何でそうなるんだーー! もっと酷いことになっているじゃないか!」
「……あ!」
言い直したのに結局、怒られてしまった。
淑女になるのは難しい。
「……くくッ」
リシャール様はお腹を抱えて笑いながら言った。
「本当にフルールは……極端だな……ははっ!」
「──ほ、他に適格な言葉が思い浮かばなかったのです」
「いや、いいよ。フルールらしくて僕は好きだ」
「え?」
私が聞き返すとリシャール様は甘く微笑む。
「……大好きだ」
「リシャール……様」
ここでそういう言葉をサラッと言えるリシャール様は…………ずるい人だと思う。
私はそっと赤くなった自分の頬を両手で押さえた。
「何で殴り込みとか息の根を止めるとか物騒なことを言っていたのに、急に甘々な雰囲気になるんだよ……」
私の隣でお兄様はそう嘆いていた。
「……それで、いつにするかなんだけど」
リシャール様が語り出す。
「アンベール殿を通じて公爵家を辞めた使用人の何人かと連絡を取っていたんだけど、弟だけでなく、公爵もかなり憔悴しているらしいんだ」
「そんなにですか?」
リシャール様は少し寂しそうに笑う。
「あの人にとって公爵家は誇りのようなものだから、世間に冷たい目で見られることに耐えられなかったんだろう」
「……」
「だから、もういいかなと判断した。明日には公爵家に向かおうと思う」
「!」
私はゴクリと唾を飲む。
「……リシャール様、私も行きたいです」
「え?」
「絶対に邪魔はしません! お兄様に護衛もしてもらいます! ですから……」
何でもう俺が護衛役に決まっているんだよーー!!
と、お兄様が喚いているけれど、聞かなかったことにしてリシャール様に頼み込む。
「フルール、でも、どうして?」
戸惑うリシャール様に向かって私は胸を張って言う。
「それは、もちろん……! リシャール様をぞんざいに扱った公爵家の皆さんにお説教する為ですわ!!」
676
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。
椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」
ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。
ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。
今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって?
これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。
さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら?
――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました
ほーみ
恋愛
その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。
「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」
そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。
「……は?」
まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる