王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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57. 悪役令息 vs 公爵 ②

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 リシャール様の宣言を聞いた公爵は私の顔をまじまじと見る。
 そしてな首を横に降るとまた鼻で笑った。

「本当にどうしてしまったんだ、リシャール。こんな何の取り柄もなさそうな小娘にいったい何が出来ると言うんだ!」
「別にあなたにフルールのすごい所を分かってもらおうとは思いません。勿体ない」

 リシャール様はそう吐き捨てた。

「勿体ない……?  なっ……んだと!?」

 バチバチの火花を散らす二人を見ながら私は思った。

(……私のすごい所って、なに?)

 私は考えた。
 ジメ男に宣言した現在進行中で伸ばしまくっているのびのびしている長所以外は……元気なこと?  それくらいしか取り柄がないと思うのだけど?
 後でリシャール様に聞いてみることにしましょう。
 そう思いながら二人の様子を見守ることにした。

(リシャール様のことだから、公爵を蹴落とす為の準備はしてあると思うのよ)

 最終的にどう決着をつけるつもりなのかと思った時、リシャール様がお兄様に声をかけた。

「アンベール殿。すまないが部屋に戻ってあれを……」
「あ、いいえ。こうなるだろうと思って、ここに来る前に部屋に寄って持って来ています」
「はは!  ありがとう。さすがだな」

 リシャール様が感心したように笑う。
 お兄様はリシャール様にどういたしまして、とお礼を言いながら紙の束を渡した。

(あれは?)

 リシャール様はお兄様から受け取ったその紙の束の中身を確認し終えると公爵に視線を戻す。

「───さて、これ以上不毛な言い合いをし続けても無駄な時間にしかならないので終わりにしましょう」
「なに?  終わりにするだと!?  まだ、なんの話もついておらん。なぜ、公爵の座を退けと言われなくてはならんのだ!  納得がいかん!」
「……そんなの決まっている。あなたが公爵家当主に相応しくないからですよ」

 公爵はその言葉にカチンと来たのかますます憤慨した。

「リシャール!  何を持ってお前はそんなことを言───」
「────今、僕が手にしているこちらの紙の束は、あなたが公爵として相応しくないということを記した報告書です」
「……は?」

 公爵は眉をひそめる。
 一方のリシャール様は落ち着いた様子のまま公爵の顔をじっと見つめている。

「は、ははは!  何を言っている?  公爵として相応しくない?  そんなのはお前の言いがかりだろう?  いったい何が記されていると言うんだ!」
「……あなたが公爵家で暴力三昧だったという記録と証言ですが?」

 リシャール様がこれまでで一番冷たい声でそう告げた。

(し、痺れる!)

 やっぱりリシャール様はかっこいい。
 私の胸のキュンが止まらない。
 ほら!  だって私だけじゃないのよ?
 リシャール様への思いを最大限に拗らせたジメ男も言葉を失って見惚れているわ。

(私には聞こえる……)

 ──兄上、かっこいい……さすが兄上……
 そんなジメ男の言葉が!

(分かる、分かるわ!  リシャール様、とってもかっこいいわよね?)

 私がうんうんと頷いて同意していると、ジメ男と目が合った。

「!」

 あなたの気持ち……とってもよく分かるわ。
 そんな思いを込めてにこっと微笑んだら、ジメ男は顔を真っ赤になった。
 そして慌てて私から目を逸らしてしまう。

(えーー?)

 私は呆れる。
 リシャール様に見惚れていたことを私に見られたことくらいでそんなに照れるなんて。
 そんな様子でリシャール様とちゃんと会話して謝罪が出来るの?

(もしかしてお説教が足りなかった?)

 必要なら後でもう一度詰め寄ろうかと本気で考えた。


「ぼ、暴力行為の記録に……証言、だと?」
「あなたから公爵の座を奪うと決めてから、アンベール殿の協力を得てずっと調べさせてもらいました」
「な……に?」
「誰も自分には逆らわないだろうと思って油断していましたか?  甘かったですね」

 リシャール様は不敵な笑みを浮かべる。

「最初はほんの二、三人が話してくれればいい、そう思っていましたが」
「……ま、さか」   
  
 聞き返す公爵の声が震えている。

「僕が思っていた以上に多くの人が証言してくれましてね?  出るわ出るわたくさんの証拠に証言。有難かったです」

 リシャール様はそう言いながら報告書の束を公爵の前にチラつかせる。
 それを見た公爵の顔は怒りで真っ赤に染っていく。

(きっと公爵家から逃げ出したり職を追われたりした使用人たちをあたったのね)

 彼らならもう公爵に忠誠を誓う必要が無い。
 それならばと口も軽くなるはず。

「リシャール……お前……お前という奴は……な、なんてことを!!」
「集まった証言をまとめていて愕然としました……僕が思っていた以上に好き勝手していたようですね?」
「っっ!」

 リシャール様が報告書を捲りながら読み上げる。

「とあるメイドは、あなたに花瓶を投げつけられて顔を縫う怪我を負ったとか……へえ、金を握らせて黙らせたんですか」
「!」
「それから執事見習いには煙草を押し付けて──……」
「や、やめろぉぉぉーー」
「!」

 公爵はリシャール様から報告書の束を強引にひったくる。

「ふは、ははは!  はははは!  油断しておったな?  馬鹿な奴め」
「……」
「本当にお前は昔から隙だらけだな!  こんなもの今ここで破り捨ててしまえばその証拠とやらは無かったことになる!  残念だったなリシャール!」

 そう言って公爵は奪い取った報告書をビリビリに破き始めた。
 室内には、破かれた紙の破片がヒラヒラと舞っている。
 私はそのいくつかの破片を拾って手に取った。

「……」

(ビリビリ……)

「はっはっは!  リシャールよ、どうやらショックで声も出せないようだな。情けない奴め」
「……」

 報告書を奪い取られてビリビリに破かれてしまったリシャール様は顔を下に向けて身体を震わせていた。
 そんなリシャール様の様子を見た公爵はまるで勝ち誇ったように笑う。

「これで分かっただろう?  やはりお前なんかにはまだまだ公爵家の当主など無理なのだ!  諦めて大人しくこっちの言うことを素直に受け入──」
「──れる必要はどこにもありませんわね?」

 困ったことにリシャール様が口を聞けないようなので、私が間に入って公爵の言葉を否定する。

「は?  小娘……今、なんと言った?」
「えっと、リシャール様は、諦めて公爵様の言い分を素直に受け入れる必要なんてどこにもありません!  と言いましたけど?」

 言われた通りのそのまんま答えたのに公爵が私を睨みつけてくる。

「そういうことではない!  なぜ、そんな断言が出来るのかと聞いているんだ!」
「え?  だって……公爵様がそんなことをしても全てはもう遅い……なんですもの」
「……は?」

 意味が分からないと目を丸くする公爵。

「……ですわよね?  リシャール様」

(もう!  いつまでいるんですの!)

 私は身体を震わせて下を向いたままのリシャール様にそう声をかけた。
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